■ セリエA開幕選手会のストライキのため、開幕が延期されていたがセリエAが2週間遅れで開幕。昨シーズン2位で、UEFA CLにも出場するインテルはアウェーでパレルモと対戦した。CLは、リール、CSKAモスクワ、トラブゾンスポルと同じグループに入っている。
ジェノアを率いた経験を持つガスペリーニ氏を新監督に迎えたインテルは「3-4-3」。GKジュリオ・セザル。DFルシオ、サムエル、サネッティ。MFスタンコヴィッチ、カンビアッソ、ジョナタン、長友。FWサラテ、ミリート、フォルラン。肩を負傷していたMF長友も何とか開幕に間に合ってスタメン出場。「3-4-3」の左ウイングバックを任された。
インテルはMFマイコンが欠場。MFスナイデル、FWパッツィーニ、DFラノッキアといった選手がベンチスタート。FWエトーに代わって攻撃の軸になることが期待されているウルグアイ代表のFWフォルランは左のウイングで起用された。
■ インテルは逆転負け序盤は、ホームのパレルモが強烈な勢いで仕掛けてくる。劣勢となったインテルだったが、前半33分にDFルシオの攻撃参加からCKを獲得すると、ゴール前に上げたボールが流れたところをMFスタンコビッチがミドルシュート。これをゴール前でポジションを取っていたFWミリートがうまくコースを変えてゴールイン。インテルが先制して、1対0とリードして前半を折り返す。
先制を許したパレルモは、後半3分にMFバレットの浮き球のパスからFWミッコリがDFラインの裏に飛び出すと、巧みなボールコントロールからGKとの1対1の状況を作り、GKの動きを見て冷静に決めて1対1の同点に追いつく。追いつかれたインテルは、その直後にCKを獲得すると、ゴール前でDFサムエルが倒されてPKを獲得。FWミリートがを決めて、2対1とリードを奪う。
再びリードを奪われたパレルモは、後半9分に鮮やかなパスワークから、右サイドの裏に抜け出したFWミッコリのアシストでFWアベル・エルナンデスが決めて2対2の同点に追いつく。MF長友は後半17分で交代し、代わってナイジェリア人のMFオビが投入される。
終盤になると、両チームとも疲れが出てきてイージーミスが多くなるが、後半41分にホームのパレルモに逆転ゴールが生まれる。ゴールやや左寄りの絶好の位置でFKを獲得すると、FWミッコリが右足で強烈なフリーキックを決めて3対2と逆転に成功する。イタリア代表のFWミッコリは2ゴール1アシストの活躍。
さらに、その2分後にも途中出場のFWピニーラがミドルシュートを決めて4対2とリードを広げる。インテルはロスタイムに、FWスナイデルのパスからFWフォルランが決めて1点差に迫るが、追いつくことはできず。結局、試合は4対3で終了し、ホームのパレルモが白星スタートとなった。
■ 「3-4-3」のシステム①試合は、セリエAの試合では珍しい「打ち合い」となった。試合開始から15分くらいまでのパレルモの勢いは凄まじく、インテルは全くリズムをつかめなかった。右ウイングで起用されたFWサラテのパフォーマンスが低くて、攻守ともにブレーキになったことが響いたが、それでも、前半33分にセットプレーから先制。これで試合の主導権を握るかと思ったが、最後まで落ち着かない試合となった。
今シーズンのインテルでもっとも注目されているのが、「ガスペリーニ新監督の3-4-3が機能するか?」という点であるが、攻撃に関しては可能性を感じさせた。昨シーズンまでのインテルは、FWエトーやMFスナイデルといったワールドクラスのタレントの「個に頼るサッカー」で、フットボールとしての魅力には欠けていたが、この試合では、選手たちの距離間もよくて、スムーズにパスが回る時間帯もあった。
選手起用も「攻撃的」である。それは、右CBにルシオ、左CBにサネッティを置いていることからも分かるが、最終ラインの選手も積極的に攻撃に参加していくスタイルを採用している。攻撃参加が得意なDFルシオは、その能力が生きそうなサッカースタイルとなっている。
■ 「3-4-3」のシステム②問題は守備である。「3-4-3」の宿命といえるが、両ストッパーの裏のスペースが「がら空き」で、中盤の4人も中央にポジションを取るわけではないので、相手のボランチにプレッシャーをかけることができない。そのため、パレルモは、気持ちよくサッカーが出来ていた。
通常は、「3バック」であっても、守備に回ったときは、サイドの選手(MFジョナタン or MF長友)のどちらかが最終ラインに吸収されて「4バック」と同じ形になるが、インテルでは、右のMFジョナタンも、左のMF長友も高い位置をキープするため、4バックのような布陣になることもなく、後ろの3人だけで守ろうとしている。
それで守りきれるのであれば問題ないが、DFサネッティも、DFサムエルも、DFルシオも、絶対的なスピードがあるわけではないので、相手に振り回されるシーンが目立っていて、たくさんチャンスを作られた。
■ 「3-4-3」に挑戦する長友佑都①怪我から戻ってきたMF長友は、左ウイングバックで先発出場。久々の公式戦ということで、スタミナ面で不安があったのか、後半17分で交代となったが、2失点目のシーンでFWミッコリをマークしきれなかった点を除くと、攻撃でも守備でも「そこそこ」と表現できる内容で、いい意味でも、悪い意味でも、目立つシーンは、ほどんどなかった。
MF長友は、インテルでは2年目となる。昨シーズンの終盤にサイドバックでレギュラーポジションを確保し、サイドバックとしてイタリアでも高い評価を受けたが、ということで、今シーズンは、サイドバックのポジションが無くなったので、ウイングバックのポジションでプレーすることになるが、困難な挑戦になりそうだ。
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長友佑都はイタリアでどんな評価をされているのか?それは、彼の資質の問題というよりも、チーム全体の問題によるところが大きいが、左右のウイングバックに求められている役割がはっきりせず、(攻撃では自由度が高いのでゴールに絡むシーンは増えそうだが、)守備のとき、どこを守ればいいのか?という点が、曖昧なままである。ボランチ、ウイング、センターバックとの連携が確立されるまでは、チームの失点は増えそうで、MF長友も苦労するだろう。
■ 「3-4-3」に挑戦する長友佑都②「レギュラーを確保できるか?」という点も注目されるが、個人的には、ガスペリーニ監督が「3-4-3」で、こういうサッカーを継続するのであれば、(右サイドでの起用になるか、左サイドでの起用になるかは分からないが、)レギュラーポジションは確保できるのではないかと思う。
試合を重ねていって、各ポジションごとの役割分担が明確になったときのことを考えると、もっとも重要であり、かつ、負担がかかりそうなのがウイングバックのポジションである。特に、守備の場面では、このポジションの選手がストッパーの裏のスペースと、相手のボランチの両方をケアすることになると思われるが、そうなると、相当な「運動量」と「守備力」と「判断力」が求められる。
そして、ここの部分での比較になったとき、MFオビやMFジョナタンといったライバルの選手たちと比較して、MF長友が劣ることは考えにくい。「突破力」や「クロスの精度」といった攻撃的な部分を比較されると苦しいところもあるが、今のインテルのメンバーで「3-4-3」を機能させるためには、このポジションまで攻撃力優先で「攻撃的な選手」を配置すると、チームは回らなくなる。したがって、「4-2-3-1」、「4-3-2-1」、「4-3-3」といったノーマルな4バックのときよりも、MF長友は重宝されるのでは?と考えられる。
■ ガスペリーニ監督の解任の可能性も・・・とにかく、インテルは「3-4-3」に慣れていくまで時間が必要で、守備に関しては不安いっぱいである。
「プロビンチャ」のクラブであれば、不安定ながらも魅力的なサッカーができれば、サポーターの支持が得られると思うが、何といっても「インテル」なので、こういったイケイケのサッカーをどこまで認められるか?「結果が出ずに、早い時期にガスペリーニ監督が解任される。」という事態に陥ることも、十分に考えられる。
ただ、ガスペリーニ監督の考えは非常に面白いと思う。普通の監督であれは、DFサネッティを左のストッパーで起用しようとは思わないだろうし、常識では考えられないようなことをしてくるので、予想のつかない面白さはある。そして、これだけのタレントがいるので、もし、ガスペリーニ監督の理想とするサッカーが完成に近づいたら、どんなサッカーになるのだろうか?というワクワク感もある。実現させるのは、相当に難しいと思うが・・・。
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