■ 三浦俊也監督が退任ヴァンフォーレ甲府の三浦俊也監督がシーズン途中で退任することになった。「辞任」と報道しているところも、「解任」と報道しているところもあって、はっきりしないが、とにかく、シーズンの半ばで「退任」することになった。
今シーズン、甲府は、2007年以来となるJ1の舞台にチャレンジしているが、ここまで4勝11敗5分けで勝ち点「17」。得点「21」はワースト3位、失点数「39」はワースト2位と攻守ともに物足りない数字で、残留圏内の15位の大宮アルディージャとの勝ち点差も「6」と広がっていて、J2降格の危機にある。
2010年にJ1昇格を決めた後、当時の内田監督との契約を更新せず三浦監督を選択し「なりふり構わずに残留を目指す。」という姿勢を打ち出してきたが、結果には結びつかなかった。
■ 失われた甲府らしさJ1は「定員:18」とイスの数が決まっているので、J2から上がってきたクラブが、そのままでJ1に残留するのは簡単なことではない。特に、甲府のような規模の小さいクラブがJ1に残留しようとすると、試行錯誤が必要である。したがって、内田監督を退任させた判断が誤りだったとは言えないが、後任が三浦監督で本当によかったのかについては、改めて考えてみる必要がある。
今シーズンの甲府のサッカーで、残念に感じたの、「躍動感」が全く感じられなかったことである。「なりふり構わずに残留する。」というのが「クラブの考え方」だったので大きな矛盾はないが、甲府というクラブがもっていた「希少価値」のようなものが失われつつあったことは寂しく感じられた。
甲府というと、やはり、前回、J1で戦った2006年・2007年シーズンのことが思い出される。当時は大木武監督だったが、大木監督は、『結果より大切なものがあるわけです。それは、いつも言うようにヴァンフォーレをみたらもう一度見たいと思ったり、ああサッカーっていいスポーツなんだなと思ったりしてくれることがやっぱり大きいと思うんですよ。』と語っていたが、他には見られないサッカーで旋風を巻き起こした。
「現実離れ」することもあるので、必ずしも、監督生活の中で、結果を残し続けてきた人ではないが、当時のサッカーは、甲府のサポーターではない人が見ても面白いと感じるもので、「勝敗だけではない何か」を感じさせるものだった。さすがに、2007年の終盤に「J2降格」が迫ってくるとドツボにハマってバランスが崩れていったが、「スモールクラブの生きる道」を存分に示してJ1を去っていった。
その後、甲府は、2008年、2009年に安間監督、2010年は内田監督がチームを率いて、2010年に悲願のJ1昇格を果たすことになる。その戦術も、年々「現実的なもの」になっていって、「パスサッカー」とは言えなくなってきていたが、「ひたむきさ」や「がむしゃらさ」といったものは、このチームのカラーとして残っていて、一体感を感じさせる小瀬競技場と相まって、Jリーグの中では、独特な存在感を示していた。それだけに、結果を見ても、結果以外を見ても、今回の三浦監督の挑戦は「中途半端なもの」に感じられた。
■ ヴァンフォーレ甲府の未来ある意味では、大木監督と三浦監督のサッカーは対極に位置する。どちらの監督も「勝利」を目指して戦っていることに違いはないが、アプローチの仕方は全く異なるものである。どちらがいいとか、どちらが悪いと、結論付けられるものではないが、サポーターや選手に受け入れられやすいのは「前者のサッカー」であり、この時代にヴァンフォーレ甲府のサポーターになった人は多い。(もちろん、大木監督時代のサッカーを美化しすぎるのも好ましいとは言えないが・・・。)
クラブがどこを目指して歩んでいくのか、どこにプライオリティーを置くのか、どういうサッカーを志すのか。設定するのはフロントの大きな仕事であるが、サポーターの意向も無視できないものであり、ビジョンは、フロントとサポーターが作り上げていくものでもある。
バルセロナのような最上級のクラブの場合、勝利も、娯楽も、両方を追求することができるが、他の大多数のクラブは、どこかでバランスを取る必要がある。「勝利」を追及する姿勢は大事であるが、一方で、「サッカーの持つ面白さ」をピッチ上で表現できないようだと、サポーターに支持されなくなる。「提供できるのが勝利だけ」では、すぐに飽きがきてしまうのである。これは、古今東西変わらない。
今シーズンの甲府のサッカーは面白いものではなかった。プレーしている選手から「面白くないかもしれないが・・・。」という声が聞こえてきたほどなので、実際に見ているサポーターも苦痛に感じることが多かったと思うが、後から振り返ったとき、「ああいった経験もクラブが発展していく上で、全く無駄なものではなかった。」と感じるケースもある。
ヴァンフォーレ甲府というクラブは、そんなに歴史のあるプロサッカークラブではないが、短期間の間に「勝利以外のも追求した時代」、「勝利だけを目指して結果を残せなかった時代」の二つを経験した。どちらも大切なものであることが学んだが、しかし、両取りできるほどクラブの規模は大きくないことも分かってきた。そんな中で、これから「甲府」というクラブがどういう道を進んでいくのか。ちょっと興味のあるところである。
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