天藤真(てんどう しん)とは、日本の推理小説家である。
概要
1915年東京都生まれ。1962年、推理小説誌「宝石」の宝石賞に短編「親友記」が佳作入選(翌年「鷹と鳶」で同賞を受賞)。同年、第8回江戸川乱歩賞に応募した長編『陽気な容疑者たち』が最終選考に残り、落選したものの大下宇陀児の推薦を受け、翌1963年東都書房から刊行されデビューを果たす。[1]
デビュー直後に第2長編『死の内幕』を刊行したあと、60年代は長編の注文が全く来なかったらしく短編のみの発表が続いたが、71年に第3長編『鈍い球音』を刊行後は1~2年に1作ペースで長編を刊行し、1978年の第8長編『大誘拐』で日本推理作家協会賞を受賞。これを機に埋もれていた過去作が文庫化され短編集が編まれるなどしていたが、1983年、肺がんのため67歳で没した。
ユーモアとウィットに富んだ軽やかな作風と、突拍子もないシチュエーションの魅力、そして弱者に対する温かい眼差しで愛されたミステリ作家。現役の作家でいえば、宮部みゆきの初期作品(特に『我らが隣人の犯罪』あたり)の雰囲気を思い浮かべてもらえれば非常に近いものがある。
代表作の『大誘拐』は、国内ミステリーのオールタイムベスト企画で上位常連、1位に輝いたこともある名作中の名作。今読んでも全く色褪せない誘拐ミステリーの金字塔である。岡本喜八監督による1991年の映画版も名作として名高く、2018年には「大誘拐2018」のタイトルでドラマ化された。他、車椅子の少年が安楽椅子探偵を務める連作『遠きに目ありて』も代表作として長く読み継がれている。
作品のほぼ全ては創元推理文庫の《天藤真推理小説全集》全17巻に収められている……のだが、現在は『遠きに目ありて』(1巻)、『鈍い球音』(4巻)、『大誘拐』(9巻)の3冊しか新品で手に入らない。[2]この全集自体、何度か刊行が中断して企画が消滅しかけたぐらいには売れなかったようで、古書店でも結構根気よく探さないと見つからないかもしれない。また角川文庫から出ていた短編集と、創元推理文庫の全集の短編集は収録作が異なり、角川文庫の短編集では全短編(62作)のうち半分(32作)しか読めない。集めるときは創元推理文庫の方がいいだろう。短編を試し読みするなら、2021年に光文社文庫から出た『逢う時は死人』でどうぞ。
大谷羊太郎、草野唯雄と3人の共同ペンネーム「鷹見緋沙子」名義では、長編『わが師はサタン』と短編「覆面レクイエム」を発表した。どちらも現在は創元推理文庫の全集11巻『わが師はサタン』に収められている。また長編化の作業途中で絶筆となった中編「日曜日は殺しの日」は草野唯雄が書き継いで長編として刊行された。全集には天藤真の単独作のみを収録する方針から中編版のみが16巻『背が高くて東大出』に収録されており、長編版はノベルスのみで文庫化すらされていない。また鷹見緋沙子名義では草野唯雄との合作短編「代理母」もあるが、こちらも全集未収録。
作品リスト
天藤真推理小説全集
- 遠きに目ありて (1992年、創元推理文庫) ※短編連作
収録作:多すぎる証人 / 宙を飛ぶ死 / 出口のない街 / 見えない白い手 / 完全な不在
- 陽気な容疑者たち (1995年、創元推理文庫)
- 死の内幕 (1995年、創元推理文庫)
- 鈍い球音 (1995年、創元推理文庫)
- 皆殺しパーティ (1997年、創元推理文庫)
- 殺しへの招待 (1997年、創元推理文庫)
- 炎の背景 (2000年、創元推理文庫)
- 死角に消えた殺人者 (2000年、創元推理文庫)
- 大誘拐 (2000年、創元推理文庫)
- 善人たちの夜 (1996年、創元推理文庫)
- わが師はサタン (2000年、創元推理文庫)
収録作:わが師はサタン(長編) / 覆面レクイエム(短編)
- 親友記 (2001年、創元推理文庫) ※短編集
収録作:親友記 / 塔の家の三人の女 / なんとなんと / 犯罪講師 / 鷹と鳶
夫婦悪日 / 穴物語 / 声は死と共に / 誓いの週末
- 星を拾う男たち (2001年、創元推理文庫) ※短編集
収録作:天然色アリバイ / 共謀者 / 目撃者 / 誘拐者 / 白い火のゆくえ / 極楽案内
星を拾う男たち / 日本KKK始末 / 密告者 / 重ねて四つ/ 三匹の虻
- われら殺人者 (2001年、創元推理文庫) ※短編集
収録作:夜は三たび死の時を鳴らす / 金瓶梅殺人事件 / 白昼の恐怖 / 幻の呼ぶ声 / 完全なる離婚
恐怖の山荘 / 袋小路 / われら殺人者 / 真説・赤城山 / 崖下の家 / 悪徳の果て
- 雲の中の証人 (2001年、創元推理文庫) ※短編集
収録作:逢う時は死人 / 公平について / 雲の中の証人 / 赤い鴉 / 私が殺した私
あたしと真夏とスパイ / 或る殺人 / 鉄段 / めだかの還る日
- 背が高くて東大出 (2001年、創元推理文庫) ※短編集
収録作:背が高くて東大出 / 父子像 / 背面の悪魔 / 女子高生事件 / 死の色は紅
日曜日は殺しの日 / 三枚の千円札 / 死神はコーナーに待つ / 札吹雪 / 誰が為に鐘は鳴る
- 犯罪は二人で (2001年、創元推理文庫) ※短編集
収録作:運食い野郎 / 推理クラブ殺人事件 / 隠すよりなお顕れる / 絶命詞 / のりうつる / 犯罪は二人で
一人より二人がよい / 闇の金が呼ぶ / 純情な蠍 / 採点委員 / 七人美登利 / 飼われた殺意
全集以外
- 陽気な容疑者たち (1963年、東都書房→1980年、角川文庫)
- 死の内幕 (1963年、宝石社→1981年、角川文庫)
- 鈍い球音 (1971年、青樹社→1980年、角川文庫→1992年、ビッグブックス)
- 皆殺しパーティ (1972年、サンケイノベルス→1980年、角川文庫)
- 殺しへの招待 (1973年、産報ノベルス→1980年、角川文庫)
- わが師はサタン (1975年、立風書房→1980年、徳間文庫) ※鷹見緋沙子名義
- 炎の背景 (1976年、幻影城ノベルス→1981年、角川文庫)
- 死角に消えた殺人者 (1976年、ベストセラーノベルズ→1981年、角川文庫)
- 大誘拐 (1978年、カイガイ出版部→1979年、徳間ノベルス→1980年、角川文庫→1990年、徳間ノベルス[新装版]→1996年、双葉文庫)
- 絶命詞 自選推理小説集 (1979年、双葉社) ※短編集
収録作:金瓶梅殺人事件 / 死の色は紅 / 絶命詞 / 鷹と鳶 / 逢う時は死人
- 善人たちの夜 (1980年、徳間ノベルス)
- 遠きに目ありて (1981年、大和書房) ※短編連作
収録作:多すぎる証人 / 宙を飛ぶ死 / 出口のない街 / 見えない白い手 / 完全な不在
- あたしと真夏とスパイ (1982年、大和書房) ※短編集
収録作:隠すよりなお顕れる / 星を拾う男たち / 背が高くて東大出
あたしと真夏とスパイ / 七人美登利 / 親友記
- 犯罪講師 (1982年、角川文庫) ※短編集
収録作:目撃者 / 犯罪講師 / 日本KKK始末 / 天然色アリバイ / 共謀者
採点委員 / 誘拐者 / 死者はコーナーに待つ
- 雲の中の証人 (1983年、角川文庫) ※短編集
収録作:逢う時は死人 / 悪徳の果て / 或る殺人 / 赤い鴉 / 雲の中の証人 / 公平について
- 完全なる離婚 (1984年、角川文庫) ※短編集
収録作:崖下の家 / 私が殺した私 / 三枚の千円札 / 重ねて四つ / 純情な蠍
密告者 / 背面の悪魔 / 夫婦悪日 / 完全なる離婚 / 鷹と鷲
- 日曜日は殺しの日 (1984年、カドカワノベルズ) ※絶筆を草野唯雄が完成させたもの
- 極楽案内 (1985年、角川文庫) ※短編集
収録作:極楽案内 / 三匹の虻 / 夜は三たび死の時を鳴らす / 袋小路
新説・赤城山 / 金瓶梅殺人事件 / われら殺人者 / 死の色は紅
- 日曜探偵 (1992年、出版芸術社) ※短編集
収録作:日曜日は殺しの日 / 塔の家の三人の女 / 誰が為に鐘は鳴る
- 逢う時は死人 昭和ミステリールネサンス (2021年、光文社文庫) ※傑作選
収録作:親友記 / 逢う時は死人 / 犯罪講師 / 鷹と鳶 / 穴物語 / 共謀者 / 星を拾う男たち / 日本KKK始末
関連項目
脚注
- *ちなみにこのときの乱歩賞は受賞作が戸川昌子『大いなる幻影』と佐賀潜『華やかな死体』、天藤とともに落選した候補作には塔晶夫『虚無への供物』があり、乱歩賞史上最も激戦だった回として知られている。
- *電子書籍では他に2巻『陽気な容疑者たち』、3巻『死の内幕』、6巻『殺しへの招待』、8巻『死角に消えた殺人者』、13巻『星を拾う男たち』、15巻『雲の中の証人』、16巻『背が高くて東大出』が読める。