恩田陸(おんだ りく)とは、日本の小説家である。わりとよく間違われるが女性。
概要
1964年生まれ、宮城県出身。父が転勤族だったため幼少期は各地を転々としており、高校時代は茨城県に住んでいた。高校を舞台にした『六番目の小夜子』や『夜のピクニック』ではこの時の体験が色濃く反映されている。
1992年、第3回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作の『六番目の小夜子』でデビュー。デビュー当初は兼業作家だったため寡作だったが、デビュー7年目に専業作家となってからは一気に執筆量が増え、いくつもの連載を掛け持ちし、コンスタントに新刊を刊行する人気作家の地位を長年に渡って続けている。
「ノスタルジアの魔術師」と呼ばれ、ファンタジー、ミステリー、ホラー、SF、青春小説など幅広いジャンルの作品を執筆している。少年少女を主人公にしたミステリアスな学園もの・青春ものや、一癖も二癖もある登場人物たちが旅先やいわくありげな屋敷などの舞台で互いの腹の内を探り合うような心理サスペンスが比較的多い。相当な読書家でもあり、過去の名作へのオマージュとなっている作品も多数。オマージュの対象は小説に限らず、たとえば『六番目の小夜子』はNHKの少年ドラマシリーズと吉田秋生『吉祥天女』のオマージュだし、『チョコレートコスモス』は美内すずえ『ガラスの仮面』のオマージュである。
非常に魅力的なイマジネーションを提示する反面、物語が尻すぼみになったり、伏線を放り出して結末があらぬところへ着地してしまうことが多々ある。きっちりまとまっている作品ももちろんあるが、そういう作品はむしろファンからは「恩田陸にしては珍しくちゃんとオチがついている」とか言われる。
作品のほとんどは単品で独立している。シリーズものは、『光の帝国』『蒲公英草紙』『エンド・ゲーム』の常野物語シリーズと、『三月は深き紅の淵を』を中心としてゆるやかに繋がり合う通称「三月シリーズ(水野理瀬シリーズ)」(ほかに『麦の海に沈む果実』『黒と茶の幻想』『黄昏の百合の骨』『薔薇のなかの蛇』)、『MAZE』『クレオパトラの夢』『ブラック・ベルベット』の神原恵弥シリーズがあり、また『月の裏側』と『不連続の世界』のように主人公が共通する作品もあるが、どれもそれぞれ話は独立しているのでどこから読んでも基本的には問題ない。短編では他の長編に登場した人物が再登場したり、他の長編の外伝・番外編だったりすることがわりと多いので、短編集はある程度他の長編を読んでからの方が楽しめるだろう。
いくつもの連載を掛け持ちしているのは前述の通りだが、掛け持ちしすぎて連載1回あたりの分量が少なくなり、結果として超長期連載になることもしばしばある。たとえば連載開始から完結まで、『ブラック・ベルベット』は7年、『蜜蜂と遠雷』は8年、『ドミノin上海』は11年、『薔薇のなかの蛇』は13年、『愚かな薔薇』は14年、『鈍色幻視行』は15年かかった。2023年現在も10年以上連載してまだ終わっていない作品がいくつかある。さらに連載終了から単行本化まで時間がかかることも多く、執筆開始順と刊行順が全く一致しない作家である。
文学賞はデビューから長らく、候補にこそなるものの受賞の機会に恵まれなかったが、2006年に『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞、第2回本屋大賞をダブル受賞。その後『ユージニア』で日本推理作家協会賞、『中庭の出来事』で山本周五郎賞を受賞した。直木賞は『ユージニア』(第133回)、『蒲公英草紙 常野物語』(第134回)、『きのうの世界』(第140回)、『夢違』(第146回)、『夜の底は柔らかな幻』(第149回)と5回落選が続いたが、6回目の『蜜蜂と遠雷』(第156回)でようやく受賞し、吉川新人賞・山周賞・直木賞の三冠を達成(船戸与一・宮部みゆきに次いで史上3人目)。さらに同作で2度目の本屋大賞に輝く。本屋大賞の2度受賞、同一作品での直木賞との2冠はいずれも史上初。
『六番目の小夜子』『ネバーランド』『光の帝国』がドラマ化、『木曜組曲』『夜のピクニック』『蜜蜂と遠雷』が映画化されている。また『夢違』はドラマ『悪夢ちゃん』の原案として使われた。
小説の他にもエッセイがいくつかあり、絵本もある。旅行好きだが大の飛行機嫌いで、旅行記エッセイではたびたび飛行機に乗る羽目になって悲鳴をあげている。また一時期は演劇に傾倒していたため、演劇を題材にした小説の『中庭の出来事』『チョコレートコスモス』などだけでなく、劇団キャラメルボックスに提供した戯曲『猫と針』もある。
著作リスト
マークつきは記事のある作品。
小説
- 六番目の小夜子 (1992年、新潮文庫ファンタジー・ノベルシリーズ→1998年、新潮社→2001年、新潮文庫)
- 球形の季節 (1994年、新潮社→1999年、新潮文庫)
- 不安な童話 (1994年、ノン・ノベル→1999年、祥伝社文庫→2002年、新潮文庫)
- 三月は深き紅の淵を (1997年、講談社→2001年、講談社文庫)
- 光の帝国 常野物語 (1997年、集英社→2000年、集英社文庫)
- 象と耳鳴り (1999年、祥伝社→2003年、祥伝社文庫)
- 木曜組曲 (1999年、徳間書店→2002年、徳間文庫→2019年、徳間文庫[新装版])
- 月の裏側 (2000年、幻冬舎→2002年、幻冬舎文庫)
- ネバーランド (2000年、集英社→2003年、集英社文庫)
- 麦の海に沈む果実 (2000年、講談社→2004年、講談社文庫)
- 上と外 (2000年-2001年、幻冬舎文庫[全6巻]→2003年、幻冬舎→2007年、幻冬舎文庫[上下巻])
- puzzle (2000年、祥伝社文庫)
- ライオンハート (2000年、新潮社→2004年、新潮文庫)
- MAZE (2001年、双葉社→2003年、双葉文庫→2015年、双葉文庫[新装版])
- ドミノ (2001年、角川書店→2004年、角川文庫)
- 黒と茶の幻想 (2001年、講談社→2006年、講談社文庫[上下巻])
- 図書室の海 (2002年、新潮社→2005年、新潮文庫)
- 劫尽童女 (2002年、光文社→2005年、光文社文庫)
- ロミオとロミオは永遠に (2002年、ハヤカワSFシリーズJコレクション→2006年、ハヤカワ文庫JA[上下巻])
- ねじの回転 (2002年、集英社→2005年、集英社文庫[上下巻])
- 蛇行する川のほとり (2002-2003年、中央公論新社[新書版全3巻]→2004年、中央公論新社[単行本]→2007年、中公文庫)
- まひるの月を追いかけて (2003年、文藝春秋→2007年、文春文庫)
- クレオパトラの夢 (2003年、双葉社→2006年、双葉文庫→2015年、双葉文庫[新装版])
- 黄昏の百合の骨 (2004年、講談社→2007年、講談社文庫)
- 禁じられた楽園 (2004年、徳間書店→2007年、徳間文庫→2020年、徳間文庫[新装版])
- Q&A (2004年、幻冬舎→2007年、幻冬舎文庫)
- 夜のピクニック (2004年、新潮社→2006年、新潮文庫)
- 夏の名残りの薔薇 (2004年、文藝春秋→2008年、文春文庫)
- ユージニア (2005年、角川書店→2008年、角川文庫)
- 蒲公英草紙 常野物語 (2005年、集英社→2008年、集英社文庫)
- ネクロポリス (2005年、朝日新聞社[上下巻]→2009年、朝日文庫[上下巻])
- エンドゲーム 常野物語 (2005年、集英社→2009年、集英社文庫)
- チョコレートコスモス (2006年、毎日新聞社→2011年、角川文庫)
- 中庭の出来事 (2006年、新潮社→2009年、新潮文庫)
- 朝日のようにさわやかに (2007年、新潮社→2010年、新潮文庫)
- 木洩れ日に泳ぐ魚 (2007年、中央公論新社→2010年、文春文庫)
- いのちのパレード (2007年、実業之日本社→2010年、実業之日本社文庫→2023年、実業之日本社文庫[新装版])
- 不連続の世界 (2008年、幻冬舎→2011年、幻冬舎文庫)
- きのうの世界 (2008年、講談社→2011年、講談社文庫[上下巻])
- ブラザー・サン シスター・ムーン (2009年、河出書房新社→2012年、河出文庫)
- 訪問者 (2009年、祥伝社→2012年、祥伝社文庫)
- 六月の夜と昼のあわいに (2009年、朝日新聞社→2012年、朝日文庫)
- 私の家では何も起こらない (2010年、メディアファクトリー→2013年、MF文庫ダ・ヴィンチ→2016年、角川文庫)
- 夢違 (2011年、角川書店→2014年、角川文庫)
- 私と踊って (2012年、新潮社→2015年、新潮文庫)
- 夜の底は柔らかな幻 (2013年、文藝春秋[上下巻]→2015年、文春文庫[上下巻])
- 雪月花黙示録 (2013年、角川書店→2016年、角川文庫)
- EPITAPH東京 (2015年、朝日新聞出版→2018年、朝日文庫)
- ブラック・ベルベット (2015年、双葉社→2018年、双葉文庫)
- 消滅 VANISHING POINT (2015年、中央公論新社→2019年、幻冬舎文庫[上下巻])
- タマゴマジック (2016年、河北新報出版センター)
- 蜜蜂と遠雷 (2016年、幻冬舎→2019年、幻冬舎文庫[上下巻])
- 七月に流れる花 (2016年、講談社ミステリーランド→2018年、講談社タイガ→2020年、講談社文庫[54と合本])
- 八月は冷たい城 (2016年、講談社ミステリーランド→2018年、講談社タイガ→2020年、講談社文庫[53と合本])
- 失われた地図 (2017年、KADOKAWA→2019年、角川文庫)
- 終りなき夜に生れつく (2017年、文藝春秋→2020年、文春文庫)
- 錆びた太陽 (2017年、朝日新聞出版→2019年、朝日文庫)
- 祝祭と予感 (2019年、幻冬舎→2022年、幻冬舎文庫)
- 歩道橋シネマ (2019年、新潮社→2022年、新潮文庫)
- ドミノin上海 (2020年、KADOKAWA→2023年、角川文庫)
- スキマワラシ (2020年、集英社→2023年、集英社文庫)
- 灰の劇場 (2021年、河出書房新社→2024年、河出文庫)
- 薔薇のなかの蛇 (2021年、講談社→2023年、講談社文庫)
- 愚かな薔薇 (2021年、徳間書店→2024年、徳間文庫[上下巻])
- なんとかしなくちゃ。 青雲編 1970-1993 (2022年、文藝春秋)
- 鈍色幻視行 (2023年、集英社)
- 夜果つるところ (2023年、集英社)
- 夜明けの花園 (2024年、講談社)
- spring (2024年、筑摩書房)
エッセイ・旅行記・その他
- 酩酊混乱紀行 「恐怖の報酬」日記 (2005年、講談社→2008年、講談社文庫) - 旅行記
- 小説以外 (2005年、新潮社→2008年、新潮文庫) - エッセイ集
- 読書会 (2007年、徳間書店→2010年、徳間文庫)
→ SF読書会 (2021年、徳間文庫[改題新装版]) - 山田正紀との対談集
- 猫と針 (2008年、新潮社→2011年、新潮文庫) - 戯曲
- メガロマニア あるいは「覆された宝石」への旅 (2009年、日本放送出版協会) - 旅行記
→ メガロマニア (2012年、角川文庫[改題])
- 土曜日は灰色の馬 (2010年、晶文社→2020年、ちくま文庫) - エッセイ集
- 隅の風景 (2011年、新潮社→2013年、新潮文庫) - 旅行記
- かがみのなか (2014年、岩崎書店) - 絵本
- おともだち できた? (2017年、講談社) - 絵本
- 日曜日は青い蜥蜴 (2020年、筑摩書房) - エッセイ集
- 文藝別冊 恩田陸 白の劇場 (2021年、河出書房新社) - ムック
- 横浜の名建築をめぐる旅 (2021年、エクスナレッジ) - 菅野裕子との共著、写真集
- 月曜日は水玉の犬 (2022年、筑摩書房) - エッセイ集
作品が多すぎてどれから読めばいいか解らない方へ
編集者の独断と偏見によるリストアップです。異論反論追加どうぞ。
関連動画
関連項目