桐野夏生(きりの なつお)とは、日本の小説家。女性。
概要
1951年生まれ、石川県金沢市出身。成蹊大学法学部卒。
1984年、『愛のゆくえ』で第2回サンリオロマンス賞佳作を受賞しロマンス小説でデビュー。男性名と間違われると言われて1988年に「桐野夏子」に改名、さらに1989年からは銀色夏生とややこしいと言われ「野原野枝実」と改名しMOE文庫スイートハート、コバルト文庫で少女小説を13冊ほど書いたり、レディースコミックの原作をしたりしていた。ちなみにMOE文庫スイートハートでは最も冊数を出した作家(11冊)である。以上、本人曰く「屈辱の歴史」。屈辱というのはあくまで改名の件を指してのことらしい。なお、原作を担当した森園みるくのレディースコミックは1996年まで出ていた。
1993年、『顔に降りかかる雨』で第39回江戸川乱歩賞を受賞。公式のプロフィールではこれがデビュー作ということになっている。女性作家による女性主人公のハードボイルドとして話題を呼んだ。
1997年に発表した『OUT』で「このミステリーがすごい!」1位を獲得、翌年の第51回日本推理作家協会賞を受賞、直木賞候補にもなり本格的にブレイク(のちにアメリカで翻訳され、史上初めて日本人作家の作品としてエドガー賞最終候補に)。1999年、『柔らかな頬』で第121回直木賞を受賞。
以降、2003年『グロテスク』で第31回泉鏡花文学賞、2004年『残虐記』で第17回柴田錬三郎賞、2005年『魂萌え!』で第5回婦人公論文芸賞、2008年『東京島』で第44回谷崎潤一郎賞、2009年『女神記』で第19回紫式部文学賞、2010年『ナニカアル』で第17回島清恋愛文学賞と第62回読売文学賞を、2023年『燕は戻ってこない』で第57回吉川英治文学賞を受賞している。2015年には紫綬褒章を受章。
作風
その作風は、『残虐記』で柴田錬三郎賞を受賞した際の選考委員・津本陽の選評の、
『残虐記』は人間の疎外、悪意、弱者の嫉妬、強者の弱者への蔑視などがからみあって緊迫した状況をつくりだしてゆき、それが破局、犯罪へつながってゆくという、人の濃厚な動物性の面に視線をむけてゆくという、これまでの作品とおなじ内容である。
というのがおそらく一番的確に言い表している。出世作の『OUT』や、(公式の)デビュー作から続くシリーズの主人公を徹底的にダークサイドに落としてそれまでのファンを愕然とさせた問題作『ダーク』、代表作『グロテスク』など、小説の構造やプロットを破壊してでも徹底的に人間の暗黒面や獣性を描き、理に落ちないその作風は、のちにブームになったイヤミスの先駆ともいえる。その作風ゆえ、エンターテインメントなのか純文学なのかよくわからないところにおり、先述の通りエンターテインメント系の文学賞と純文学系の文学賞を両方、しかも多数獲っている。
東電OL事件を元にした『グロテスク』、新潟少女監禁事件を元にした『残虐記』、アナタハンの女王事件を元にした『東京島』など、現実の事件を下敷きにした作品も多い。『ナニカアル』では林芙美子、『デンジャラス』では谷崎潤一郎など、実在の文豪を題材にした作品もいくつか。
『顔に降りかかる雨』について著作で批判した書評家とガチでバトルしたこともある(エッセイ集『白蛇教異端審問』参照)戦う作家。
作品リスト
小説(『顔に降りかかる雨』以降)
☆は村野ミロシリーズ。
- 顔に降りかかる雨 (1993年、講談社→1996年、講談社文庫→2017年、講談社文庫[新装版]) ☆
- 天使に見捨てられた夜 (1994年、講談社→1997年、講談社文庫→2017年、講談社文庫[新装版]) ☆
- ファイアボール・ブルース 逃亡 (1995年、集英社)
→ ファイアボール・ブルース (1998年、文春文庫、改題)
- 水の眠り 灰の夢 (1995年、文藝春秋→1998年、文春文庫→2016年、文春文庫[新装版]) ☆
- OUT (1997年、講談社→2000年、講談社文庫[上下巻]→2014年、双葉文庫[上下巻])
- 錆びる心 (1997年、文藝春秋→2000年、文春文庫)
- ジオラマ (1998年、新潮社→2001年、新潮文庫)
- 柔らかな頬 (1999年、講談社→2004年、文春文庫[上下巻])
- ローズガーデン (2000年、講談社→2003年、講談社文庫→2017年、講談社文庫[新装版]) ☆
- 光源 (2000年、文藝春秋→2003年、文春文庫)
- 玉蘭 (2001年、朝日新聞出版→2004年、朝日文庫→2005年、文春文庫→2021年、文春文庫[新装版])
- ファイアボール・ブルース2 (2001年、文春文庫)
- ダーク (2002年、講談社→2006年、講談社文庫[上下巻]) ☆
- リアルワールド (2003年、集英社→2006年、集英社文庫)
- グロテスク (2003年、文藝春秋→2006年、文春文庫[上下巻])
- 残虐記 (2004年、新潮社→2007年、新潮文庫)
- I'm sorry, mama (2004年、集英社→2007年、集英社文庫)
- 魂萌え! (2005年、毎日新聞社→2006年、新潮文庫[上下巻])
- 冒険の国 (2005年、新潮文庫)
- アンボス・ムンドス (2005年、文藝春秋→2008年、文春文庫)
- メタボラ (2007年、朝日新聞出版→2010年、朝日文庫[上下巻]→2011年、文春文庫→2023年、文春文庫[新装版])
- 東京島 (2008年、新潮社→2010年、新潮文庫)
- 女神記 (2008年、角川書店→2011年、角川文庫)
- IN (2009年、集英社→2012年、集英社文庫)
- ナニカアル (2010年、新潮社→2012年、新潮文庫)
- 優しいおとな (2010年、中央公論新社→2013年、中公文庫)
- ポリティコン (2011年、文藝春秋→2014年、文春文庫[上下巻])
- 緑の毒 (2011年、角川書店→2014年、角川文庫)
- ハピネス (2013年、光文社→2016年、光文社文庫)
- だから荒野 (2013年、毎日新聞社→2016年、文春文庫)
- 夜また夜の深い夜 (2014年、幻冬舎→2017年、幻冬舎文庫)
- 奴隷小説 (2015年、文藝春秋→2017年、文春文庫)
- 抱く女 (2015年、新潮社→2018年、新潮文庫)
- バラカ (2016年、集英社→2019年、集英社文庫[上下巻])
- 猿の見る夢 (2016年、講談社→2019年、講談社文庫)
- 夜の谷を行く (2017年、文藝春秋→2020年、文春文庫)
- デンジャラス (2017年、中央公論新社→2020年、中公文庫)
- 路上のX (2018年、朝日新聞出版→2021年、朝日文庫)
- ロンリネス (2018年、光文社→2021年、光文社文庫)
- とめどなく囁く (2019年、幻冬舎→2022年、幻冬舎文庫[上下巻])
- 日没 (2020年、岩波書店→2023年、岩波現代文庫)
- インドラネット (2021年、KADOKAWA)
- 砂に埋もれる犬 (2021年、朝日新聞出版)
- 燕は戻ってこない (2022年、集英社→2024年、集英社文庫)
- 真珠とダイヤモンド (2023年、毎日新聞出版[上下巻])
- もっと悪い妻 (2023年、文藝春秋)
エッセイ・その他
ロマンス小説・少女小説
- ロマンス傑作集4 愛のゆくえ (1984年、サンリオニューロマンス)
- 熱い水のような砂 (1986年、サンリオニューロマンス)
- 真昼のレイン (1986年、サンリオニューロマンス)
- 夏への扉 (1988年、レディース文庫) ※桐野夏子名義
- 夢の中のあなた (1989年、レディース文庫) ※桐野夏子名義
- 小麦色のメモリー(想い出) (1989年、MOE文庫スイートハート) ※以下、すべて野原野枝実名義
- 恋したら危機(クライシス)! (1989年、MOE文庫スイートハート)
→ ルームメイト薫くん1 恋したら危機(クライシス)! (1993年、Kノベルズ[改題])
- あいつがフィアンセだ! (1989年、MOE文庫スイートハート)
- 恋の偏差値しあわせ未満? (1989年、MOE文庫スイートハート)
- トパーズ色のBAND伝説 (1989年、MOE文庫スイートハート)
- 恋したら危機(クライシス)!パート2 (1989年、MOE文庫スイートハート)
→ ルームメイト薫くん2 修学旅行で危機(クライシス)! (1993年、Kノベルズ[改題])
- 媚薬 (1990年、MOE文庫スイートハート)
- 恋したら危機(クライシス)!パート3 (1990年、MOE文庫スイートハート)
→ ルームメイト薫くん3 嫉妬したら危機(クライシス)! (1993年、Kノベルズ[改題])
- プールサイド・ファンタジー 急がないと夏が…… (1990年、MOE文庫スイートハート)
- セントメリークラブ物語1 セントメリーのお茶会にどうぞ (1990年、MOE文庫スイートハート)
- セントメリークラブ物語2 銀の指輪は冷たく輝く (1991年、MOE文庫スイートハート)
- ガベージハウス、ただいま五人 (1991年、コバルト文庫)
- 涙のミルフィーユボーイ (1992年、コバルト文庫)
関連項目