折原一(おりはら いち)とは、日本の推理小説家。叙述トリック作家として知られる。
概要
1951年埼玉県生まれ。筆名は読みまで含めて本名。ワセダミステリクラブ出身で、北村薫は同クラブの先輩である。デビュー前には本名のアナグラム「針尾一良(はりお いちら)」名義でライターをしており、1986年には『東西ミステリーベスト100』の作品解説を北村とともに匿名で手掛けたりしていた。北村薫の作家デビューも、折原のデビューに触発されたからだとか。
1985年、クラブの先輩だった相川司との共作ペンネームである「川原つなお」名義でオール讀物推理小説新人賞に投稿した「おせっかいな密室」が最終候補に残る。1988年、同作を含む短編連作『五つの棺』で東京創元社から折原一としてデビュー。同年、江戸川乱歩賞に『倒錯のロンド』を投稿、元々は「乱歩賞を受賞すること」まで作品内のトリックの一部にする趣向だったが、最終候補まで残ったものの、選考委員のうち高く評価したのは海渡英祐だけだったようであえなく落選。しかし翌年、講談社に拾われて刊行され、現在ではその年の乱歩賞受賞作(坂本光一『白色の残像』)よりずっと高く評価されており、2021年には元々の趣向を復活させた「完成版」が出ている。
以降、叙述トリックやメタ趣向などを駆使した凝り凝りのミステリーを多数発表して人気を集める。1995年、『沈黙の教室』で第48回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。1997年には『冤罪者』でなぜか直木賞候補になった。
妻はホラー作家の新津きよみで、合作もしている。また「山月記」でおなじみ中島敦は伯父にあたる。
作風
折原一作品と言えば叙述トリックである。これはネタバレではない。
叙述トリックの項で解説されている通り、叙述トリックというものはその性質上、「叙述トリックが仕掛けられていること」自体が重大ネタバレとなってしまうため、通常は叙述トリック作品を紹介するときはそのことを伏せるのがマナーである。しかし、折原作品に限っては大半の作品が叙述トリックものである(そうでないものもある)ため、ただ叙述トリックであると言ってもネタバレにならないという希有な作家である。
折原ファンは当然叙述トリックがあるものとして折原作品を読み、作者も読者が叙述トリックを疑ってかかることを前提に、それでもなお読者を驚かせようと仕掛けを凝らしている。新本格以前はマイナーな手法であった叙述トリックが、現在では一般的な手法になったのは、折原一の功績がわりと大きい(と本項作成者は思う)。
作中に、登場人物の書く作中作、新聞記事、雑誌記事、インタビューなどを大量に盛りこんでメタな仕掛けを施した作品が多いことも特徴。そのため、本の前からでも後ろからでも読める『倒錯の帰結』『黒い森』、箱入り2分冊だった『遭難者』、別名義の覆面作家として刊行した『チェーンレター』など、本の体裁そのものがやたら凝った作りになっている作品もある。
また、実際に起きた事件をモデルにした作品が多いことも特徴。『冤罪者』で直木賞候補になったのは、冤罪テーマの社会派ミステリと勘違いされたからであろうか……。
ファンの間で衆目の一致する代表作は『倒錯のロンド』『異人たちの館』『沈黙の教室』『冤罪者』『誘拐者』あたりだろう。最初に読むなら『倒錯のロンド』がオススメ。なお作者の自選ベスト5は『異人たちの館』『冤罪者』『誘拐者』『暗闇の教室』『グランドマンション』らしい。
文庫化・再文庫化に際して改題された作品が非常に多く、複数の出版社から文庫が出ている作品も多く、ついでにタイトルが似ていて紛らわしい作品も多いので、書店や古書店で購入する際はダブりに注意。
作品リスト(刊行順)
赤太字は2024年1月現在新品で入手可能なもの。★は黒星警部シリーズ。
- 五つの棺 (1988年、東京創元社) ★
→ 七つの棺 密室殺人が多すぎる (1992年、創元推理文庫[増補・改題]→2013年、創元推理文庫[新装版])
- 倒錯の死角 201号室の女 (1988年、東京創元社→1994年、創元推理文庫→1999年、講談社文庫)
- 鬼が来たりてホラを吹く 鬼面村殺人事件 (1989年、カッパ・ノベルス) ★
→ 鬼面村の殺人 (1993年、光文社文庫[改題]→2018年、光文社文庫[新装版])
- 白鳥は虚空に叫ぶ 特急「白鳥」60秒の死角 (1989年、カッパ・ノベルス)
→ 「白鳥」の殺人 (1994年、光文社文庫)
- 倒錯のロンド (1989年、講談社→1992年、講談社文庫)
→ 倒錯のロンド 完成版 (2021年、講談社文庫)
- 螺旋館の殺人 『盗作のロンド』 (1990年、講談社ノベルス)
→ 螺旋館の殺人 (1993年、講談社文庫[改題])
→ 螺旋館の奇想 (2005年、文春文庫[再改題])
- 猿島館の殺人 モンキー・パズル (1990年、カッパ・ノベルス→1995年、光文社文庫[改題]→2018年、光文社文庫[新装版]) ★
- 灰色の仮面 (1990年、講談社→1992年、講談社ノベルス[改訂版]→1995年、講談社文庫[改訂版]→1998年、徳間文庫[オリジナル版])
- 死の変奏曲 (1990年、徳間書店)
→ 黒衣の女 (1995年、徳間文庫[改題]→1998年、講談社文庫)
- 丹波家殺人事件 (1991年、日本経済新聞社→1994年、講談社文庫) ★
→ 丹波家の殺人 (2004年、光文社文庫[改題]→2018年、光文社文庫[新装版])
- 覆面作家 (1991年、立風書房→1996年、講談社文庫→2013年、光文社文庫)
- 仮面劇 Masque (1992年、講談社→1995年、講談社文庫)
→ 毒殺者 (2014年、文春文庫[改題])
- 奥能登殺人旅行 (1992年、カッパ・ノベルス)
→ 蜃気楼の殺人 (1996年、光文社文庫[改題]→2005年、講談社文庫)
- 異人たちの館 (1993年、新潮社→1996年、新潮文庫→2002年、講談社文庫→2016年、文春文庫)
- 水底の殺意 (1993年、講談社)
→ 水の殺人者 (1996年、講談社文庫[改題])
- 天井裏の散歩者 幸福荘殺人日記 (1993年、角川文庫→2011年、講談社文庫)
- 沈黙の教室 (1994年、早川書房→1997年、ハヤカワ文庫JA→2009年、双葉文庫)
- 望湖荘の殺人 サプライズ・パーティー (1994年、カッパ・ノベルス→1997年、光文社文庫)
- 誘拐者 (1995年、東京創元社→2002年、文春文庫)
- 幸福荘の秘密 新・天井裏の散歩者 (1995年、角川書店→1997年、角川文庫)
→ 天井裏の奇術師 幸福荘殺人日記2 (2011年、講談社文庫[改題])
- ファンレター (1996年、講談社→1999年、講談社文庫)
→ 愛読者 ファンレター (2007年、文春文庫[改題])
- 漂流者 (1996年、角川書店)
→ セーラ号の謎 -漂流者- (1999年、角川文庫[改題])
→ 漂流者 (2011年、文春文庫[再改題])
- 二重生活 (1996年、双葉社→2000年、講談社文庫→2016年、光文社文庫) ※新津きよみとの合作
- 101号室の女 (1997年、講談社→2000年、講談社文庫)
- 遭難者 (1997年、実業之日本社[箱入り2分冊]→2000年、角川文庫[箱入り2分冊]→2014年、文春文庫[合本])
- 冤罪者 (1997年、文藝春秋→2000年、文春文庫)
- 黄色館の秘密 (1998年、光文社文庫→2018年、光文社文庫[新装版]) ★
- 失踪者 (1998年、文藝春秋→2001年、文春文庫)
- 暗闇の教室 (1999年、早川書房)
→ 暗闇の教室 1 百物語の夜 / 2 悪夢、ふたたび(2001年、ハヤカワ文庫JA[2分冊])
- 耳すます部屋 (2000年、講談社→2003年、講談社文庫)
- 倒錯の帰結 (2000年、講談社→2003年、講談社ノベルス→2004年、講談社文庫)
- チェーンレター (2001年、角川書店[青沼静也名義]→2004年、角川ホラー文庫)
→ 棒の手紙 (2020年、光文社文庫[改題])
- 沈黙者 (2001年、文藝春秋→2004年、文春文庫)
- 樹海伝説 騙しの森へ (2002年、祥伝社文庫)
- 倒錯のオブジェ 天井男の奇想 (2002年、文藝春秋→2006年、文春文庫)
- 模倣密室 (2003年、光文社→2006年、光文社文庫→2019年、光文社文庫[新装版]) ★
- 被告A (2003年、早川書房→2006年、ハヤカワ文庫JA)
- 鬼頭家の惨劇 忌まわしき森へ (2003年、祥伝社文庫)
- 偽りの館 叔母殺人事件 (2004年、講談社)
→ 叔母殺人事件 (2007年、講談社文庫[改題])
- 黙の部屋 (2005年、文藝春秋→2008年、文春文庫)
- グッドバイ 叔父殺人事件 (2005年、原書房→2008年、講談社文庫)
- 行方不明者 (2006年、文藝春秋→2009年、文春文庫)
- タイムカプセル (2007年、理論社→2012年、講談社文庫)
- 疑惑 (2007年、文藝春秋)
→ 放火魔 (2010年、文春文庫[改題])
- 黒い森 生存者/殺人者 (2007年、祥伝社→2010年、祥伝社文庫)
- クラスルーム (2008年、理論社→2013年、講談社文庫)
- 逃亡者 (2009年、文藝春秋→2012年、文春文庫)
- 赤い森 (2010年、祥伝社→2013年、祥伝社文庫)
- 追悼者 (2010年、文藝春秋→2013年、文春文庫)
- 帝王、死すべし (2011年、講談社→2014年、講談社文庫)
- 潜伏者 (2012年、文藝春秋→2015年、文春文庫)
- グランドマンション (2013年、光文社→2015年、光文社文庫)
- 侵入者 自称小説家 (2014年、文藝春秋→2017年、文春文庫)
- 死仮面 (2016年、文藝春秋→2019年、文春文庫)
- 双生児 (2017年、早川書房→2022年、ハヤカワ文庫JA)
- ポストカプセル (2018年、光文社→2021年、光文社文庫)
- 傍聴者 (2020年、文藝春秋→2023年、文春文庫)
- グッドナイト (2022年、光文社)
関連動画
関連リンク
関連項目