2002年6月4日から、ちょうど10年が経ちました。月日の経つのは早いものです。せっかくなので、日韓W杯の初戦のベルギー戦のDVDを見直してみました。アミューズメントソフト販売会社から発売された「ノーカット完全収録版」のDVDです。
このDVDは、数年前にベルギー戦とロシア戦とチュニジア戦の3本をまとめて、購入しましたが、買っただけで、一度も見ていなかったので、90分を通して試合を観るのは、久しぶりのことです。税抜きで2,800円でした。
対戦相手のベルギーというと、プロドームであったり、シーフォであったり、世界的な選手を擁して、80年代から90年代にヨーロッパでも、力を発揮した国です。2002年のW杯には、プロドームも、シーフォも参加していませんが、2回目のW杯出場となる日本よりも、はるかに格上のチームと言えます。
試合が始まりました。前半は退屈な45分でした。ベルギーは、サイドでプレーすることの多い長身のベルヘイエンをフォワードで起用して、ロングボールが中心のサッカーとなりました。対する日本も、なかなか中盤が作れず、右ストッパーの松田直樹が前線にロングボールを蹴るシーンが目立ちました。
トルシエジャパンは、ほとんどの試合で「3-4-1-2」を採用しましたが、左上がりの3バックで、右WBの市川大祐(or 明神智和)が右SBのようなプレーをして、左ストッパーの中田浩二が左SBのようなプレーをすることが多かったです。したがって、3バックと4バックの中間のようなシステムでした。
6月9日のロシア戦で、稲本潤一の決勝ゴールをお膳立てしたのが、左サイドをオーバーラップした中田浩二で、彼の攻撃参加は大きな武器となっていましたが、残念ながら、ベルギー戦では中田浩二が攻撃に参加するシーンは全くなくて、サイドから崩すシーンは、ほとんど見られませんでした。
静かな前半の45分間とは打って変わって、後半の45分間は、ジェットコースターのような展開になりました。後半12分に鮮やかなオーバーヘッドシュートを決めたヴィルモッツは、「孫にまで語り継ぎたい試合」と言ったそうですが、確かに、エキサイティングな試合となりました。そして、素晴らしい先制ゴールでした。
もしかしたら、試合のレベルは高くなかったかもしれません。他国の人から見ると、凡戦だったかもしれません。「低俗なポルノ」と言われても、仕方が無い試合だったのかもしれません。ただ、当事者にとっては、本当に、息の詰まるような45分となりました。
ヴィルモッツの先制のシュートがネットに吸い込まれてから、鈴木隆行の同点ゴールが決まるまでは、わずか2分しかありませんが、この2分間のことは、よく覚えています。その間に、いろいろなことを考えました。多分、そういう人は、たくさんいると思います。
「やっぱりダメなのか・・・。」という雰囲気になりかけたときに生まれたつま先でのゴールは、多くの人に勇気と希望を与えました。だから、多くの人の記憶に残っているのでしょう。「歴史を変えたゴール」と表現しても、オーバーではないと思います。
1対1の追いついた日本は、後半19分に左WBの小野伸二に代えて、三都主アレサンドロを投入します。日本に帰化したばかりの切り札を投入したトルシエ監督の積極采配が実ったのは、後半22分のことでした。
逆転ゴールを決めたのは、ボランチの稲本潤一です。1点目の鈴木隆行のゴールも、中田浩二がボールを奪ってからゴールが決まるまで10秒もかかっていないと思いますが、2点目の稲本潤一のゴールも、同様に、10秒もかかっていないと思います。
「流れの中の約75%のゴールは、相手ボールを奪ってから15秒以内のものである。」と山本昌邦さんは言いましたが、そのとおり、相手ボールを奪ってから、短い時間で二つのゴールが決まりました。
それにしても、2点目の稲本潤一のゴールはスーパーでした。ボランチのポジションで、あそこまで推進力の選手は、なかなかいないでしょう。暑さの影響もあったのか、ベルギーの選手は完全にバテていて、稲本潤一のドリブルに付いていくことができませんでした。
稲本潤一が、当時、所属していたのはアーセナルでしたが、ここでは、ほとんど試合に出場することは出来ませんでした。ただ、ボランチとしてのポテンシャルの高さは、誰もが認めるところです。個人的には、ここ20年の日本人選手では、ダントツの才能を持ったボランチだと思います。
2002年・2006年・2010年と3度もW杯に出場しているので、立派なキャリアを歩んでいる選手ですが、素材としては最高級で、「ワールドクラスのボランチになれた。」と、今でも思います。それほど、2000年・2001年あたりの稲本潤一のパフォーマンスは際立っていました。
しかしながら、後半30分にファン・デル・ヘイゲンのゴールで2対2に追いつかれてしまいます。これも、オフサイドトラップの裏を突かれてしまいました。後半26分にキャプテンの森岡隆三が負傷して、宮本恒靖が入っていましたが、またしても、ラインコントロールがうまくいきませんでした。
ベルギーは、トルシエジャパンのことを、きちんと研究していました。「闇雲にラインを上げる傾向にある。」ということも把握していて、ベルギーの2ゴールはともに、オフサイドトラップの裏を突いたゴールでした。日本にとっては、悔やまれる形での失点となりました。
2対2となったジェットコースターのような試合は、終了間際にも見せ場を作ります。まず、先にチャンスを作ったのは、日本でした。ペナルティエリアで稲本潤一がボールをキープして、倒れ込みながら左足でシュートを決めて、勝ち越したかと思われましたが、ファールを取られてノーゴールとなりました。
一方のベルギーにも勝ち越すチャンスがありました。ロスタイムに突入する寸前に途中出場のソンクがペナルティエリア内に侵入して、飛び出して来たGK楢崎に倒されました。明らかにGK楢崎のファールと思えるシーンで、ベルギーにPKが与えられるべきでしたが、なぜか、ベルギーのコーナーキックで試合が再開されました。
この判定は日本にとってラッキーな判定でした。ちなみにこの試合のレフェリーはコスタリカ人のマトゥス氏でしたが、うまく試合を捌くことはできませんでした。もちろん、エクアドル人のバイロン・モレノというレフェリーよりは、ずいぶんとマシでしたが、日本にとっても、ベルギーにとっても、ストレスを感じるレフェリングでした。
ほどなく、試合終了のホイッスルが鳴って、試合は2対2で終了しました。ホイッスルが鳴った瞬間、スタジアムはシーンとなりましたが、フランスW杯で3連敗に終わった日本代表にとっては、記念すべき、初の勝ち点「1」獲得となりました。
ちなみに、この試合は18:00キックオフで、20:30キックオフだったのが、釜山で行われたのが、韓国とポーランドの試合です。この試合は、Jリーグでも活躍した黄善洪と柳想鐵がゴールを決めて、2対0で韓国が勝利して、W杯初勝利を挙げました。
余談ですが、この大会の韓国は、フース・ヒディンク監督の下、洗練されたサッカーを見せました。もし、ベスト16あたりで大会を去ることになっていたら、世界中から称賛されたかもしれません。いいサッカーをしていただけに、「勿体ないな・・・。」と思ってしまいます。
ちょうど10年経って、今、振り返ってみても、ベルギー戦は、特別な試合と言えます。埼玉スタジアムのボルテージは最高潮で、ここまで、盛り上がることは、おそらく、ないだろうと思います。それほど、異常な雰囲気でした。
自国開催のW杯で、「決勝トーナメントに進まないといけない。」というプレッシャーは、尋常ではありませんでした。自分たちで、必要以上にプレッシャーをかけてしまった部分もありますが、「グループリーグで敗退したらすべてが終わる。」という雰囲気もありました。
そんな中で、トルシエジャパンの選手たちは、よく戦ったと思います。初戦のベルギー戦は、パスがつながらずに、自分たちのサッカーをすることはできませんでしたが、プレッシャーに押しつぶされることなくタフに戦いました。
この試合に出場した楢崎正剛、松田直樹、森岡隆三、中田浩二、戸田和幸、稲本潤一、市川大祐、小野伸二、中田英寿、鈴木隆行、柳沢敦、三都主アレサンドロ、森島寛晃、宮本恒靖の14人です。今も現役でプレーしているのは、9人だけとなりましたが、このチームは、精神的にタフな選手が多かったように思います。
何とか、勝ち点「1」を獲得して、一息ついたトルシエジャパンですが、まだまだ、戦いは始まったばかりです。ベルギー戦から5日後の6月9日には、横浜国際総合競技場でロシアと対戦する予定になっていました。セルタで活躍するカルピンとモストボイを擁する強豪チームで「グループHの本命」と言われていました。
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