■ <1-1-4-3>杉山茂樹氏の<4-2-3-1>という本を読んでいて、「やっぱり、この人は違うなあ。」と感心したのが、フォーメーションに関するくだりである。「サッカーは、野球よりも自由な部分は大きい。」という趣旨の話に関連させて、野球のフォーメーションを<1-1-4-3>と表したことである。
サッカーの試合だけでなく、野球の試合もこれまで、散々、見てきたが、野球のフォーメーション(?)を「1-1-4-3」と表現する人は見たことがなかったので、目からうろこだった。(ここで、最初の「1」がピッチャー、次の「1」がキャッチャー、「4」が内野手、「3」が外野手である。)
確かに、野球は「1-1-4-3」で、それ以外にはなりようがない。広島や楽天の監督をつとめたブラウン監督は、絶体絶命のサヨナラのピンチのときは外野手を内野に持って行って、「内野5人」という奇策を行ったことがあるが、これは、例外中の例外である。そう考えると、やはりサッカーの自由度は大きい。試合中に勝手にポジションを変えるのも自由である。
※ 「内野5人」のときは、外野手登録の選手が内野を守ることになる。2009年の西武-広島の延長戦で、左翼の小窪をセカンドとピッチャーの間に位置させる奇策を用いて、まんまと成功させた。(内野を守っていた小窪がゴロをさばいて7-2-3の併殺を完成させているが、どの位置に守っていても、あくまでも小窪のポジションはレフトであり、7(=レフト)-2(=キャッチャー)-3(=ファースト)のゲッツーとなる。
■ 2対0の危険さ杉山氏の最新のコラムも興味深いかった。いわく、
『実況アナウンサーは、2-0のスコアになると「実はサッカーでは、2-0というスコアは~」と、お約束のようにぶつ。「リードされている側が1点返せば、リードされている側はお尻に火がついた状態になる。試合はどうなるか分かりません」と、緊迫感を煽る。しかし、2-0のチームが1点を返され、パニックに陥り逆転を許した試合を、僕はもう何年も見ていない。古いノートを探らない限り、特定することはできない。』というものである。確かに、「2対0」というスコアになったとき、かなりの確率で、解説者やアナウンサーは、「2対0は、一番、危険なスコアです。」と言う。杉山氏の言うとおりで、同じ2対0であっても、ビハインドのチームが逆転できそうな「0対2」と、ノーチャンスの「0対2」がある。決まりごとのように「2対0は危険なスコアです。」というのは、あまりよろしくはないだろう。 (
【杉山茂樹コラム】2-0は本当に危険なのか)
■ 0対2からの逆転劇①とはいっても、0対2からの逆転劇というものが、「もう何年も見ていない。」というほど珍しいものでもない。(「パニック」の程度をどう考えるかにもよるが。)
2対0からの逆転劇というと、まず、思い出されるのは、先日のアジアユースの準々決勝の韓国戦である。布監督に率いられたチームは、FW指宿の2ゴールで前半早々に2点を奪ったが、韓国のパワープレーに屈して、2対3の逆転負けを食らった。世界大会の切符を逃したという事実のほかに、圧倒された試合内容もショッキングでサッカーファンにとっては、忘れたくても忘れられない試合の1つである。2対0から1点を返された後の日本チームのパニックぶりは異常なものであった。
日本代表の関連で言うと、今年のはじめに行われたアジアカップ予選のイエメン戦もそうである。このときは、0対2の状況から3対2と逆転に成功し、勝利をおさめている。実質、B代表というメンバー構成であったが、FC東京のFW平山相太がデビュー戦でハットトリックという離れ業を見せた試合として強く印象に残っている。
近年のJリーグで言うと、2008年のJ1の最終節も同じである。勝つしかないジェフ千葉は0対2とリードされた後半29分から猛反撃を見せる。この11分間で実に4ゴールを奪って4対2の逆転勝ち。「奇跡の残留劇」として、今も語り継がれている。結果、東京Vが降格し、磐田が入れ替え戦に回ることになった。この試合はFC東京がパニックになったというよりは、1点差に追い上げことで、千葉の勢いがMAXまで高まった例といえるだろう。
■ 0対2からの逆転劇②また、2009年のJ2の最終節では、勝てばJ1昇格が決まる湘南ベルマーレがアウェーで水戸ホーリーホックと対戦した。プレッシャーのためか動きの悪い湘南イレブンは、早々に2点ビハインドとなったが、FW阿部吉朗の2ゴールの活躍もあって、見事に2点ビハインドを跳ね返して3対2で勝利を飾った。昇格が決定した後、MF坂本が流した涙も印象的で、湘南サポーターにとっては忘れられない試合の1つである。
この年の湘南はドラマチックな試合が多かったが、28節のアビスパ福岡戦は、逆に2対0から2対3と逆転負けを喫している。「お茶事件」があった試合とも言われているが、首位の湘南はホームで後半38分まで2対0とリードをしていたが、残り7分で3点を入れて逆転負けを食らった。この敗戦をきっかけに、湘南は4連敗を喫することになる。2点リードを逆転されて敗れると尾を引いてしまう典型的な例といえる。
■ 0対2からの逆転劇③このあたりの試合は、サッカーファンであれば、覚えている人も多いはずであるが、他に個人的に印象に残っているのは、2008年終盤のヴァンフォーレ甲府とセレッソ大阪の試合である。勝たないと昇格の可能性がなくなる甲府と、勝ち続けて昇格の可能性を広げたいC大阪の試合は、文字通り「死闘」となった。ホームの甲府が前半に2対0とリードを奪うが、後半にC大阪が猛反撃。C大阪のMF香川真司が2ゴールを挙げる活躍を見せて、C大阪が見事に3対2で逆転勝利。昇格の望みをつなぐことになった。
もう一つ、印象的なのは2009年のファジアーノ岡山と東京ヴェルディの試合。試合は早々に東京Vが2点リードを奪って楽勝かと思われたが、ホームの大声援に後押しされた岡山がMF保坂のゴールで3対2で逆転勝利をおさめた。この試合は「1万人チャレンジDAY!」という企画を行っていたが、それにふさわしいドラマチックな勝利となった。
つい最近、見た試合で言うと、J2の最終節のカターレ富山と愛媛FCの試合もそうである。前半に愛媛FCがセットプレーから2ゴールを挙げたが、ホームの富山がFW石田の活躍で3対2と逆転まで持っていった。結局、愛媛が試合終了間際にFW福田のゴールで3対3に追いついてドローだったが、ホームの富山が意地を見せた。なお、今シーズン、異常に逆転負けの多かった富山は、2点リードを逆転された試合が8節の徳島戦と33節の東京Vの2試合あった。
※ ここまで挙げた例は、全てここ2年ほどの試合であるが、それ以外にも、2点差の逆転劇があった試合は日本国内に限定しても少なくはない。今シーズンのJ1に限ってみても、10節の京都と清水戦、14節の磐田と鹿島戦、16節の川崎Fと仙台戦も、同じように0対2から3対2(or 4対2)への逆転劇があった。
■ セーフティーリードは?プロ野球の場合のセーフティーリードは、個人的には、
・(イニングに関係なく)8点リード
・最終回で4点リード
でないか?と思う。例えば、5対1でリードをしているホームチームが9回表に抑えのエースを投入して、5対5の同点に追いつかれたり、逆転されたりすることは、まず考えられない。また、プロ野球の長い歴史の中でも、8点リードを逆転されたケースは数試合程度しかなかったはずである。
では、サッカーの場合はどうだろうか?リードした時間帯にもよるが、2点差であれば、まだ危険な感じはする。実際に追いつかれたり、逆転されたチームは少なくない。ただ、3点差になればセーフティーリードだと思う。サッカーの場合、どんなに心配性の人でも、3点差になった時点で、追いつかれたり、ひっくり返されたりすることを心配する必要はないのでは?と思う。
もちろん、ごくたまに3点差を追いつかれたり、逆転される試合もある。今シーズンでいうと、J2の第10節の横浜FCと甲府の試合がそうである。ホームの横浜FCは前半21分までに3ゴールを奪ったが、甲府が4点を奪って大逆転勝ちした。
また、第30節の鳥栖と横浜FC戦は、逆に前半43分までにホームの鳥栖が3点リードを奪ったが、そこから横浜FCが猛反撃を見せて4ゴールをマーク。4対3とリードを奪ったが、試合終了間際に鳥栖がFW豊田のゴールで追いついて4対4の引き分けに終わった。サッカーの世界では、「4対4の試合は面白い。」と言われるが、3点差を追いつかれた鳥栖も、逆転しながら最後に追いつかれた横浜FCも、これほど無力感に襲われるドローも無かっただろう。
■ まとめ結論としては、当然、2対0のままで終わった試合や、2対0から2対1や3対1になった試合の方が圧倒的に多いものの、2対0から逆転されるケースは、意外に少なくない。もちろん、二つのチームの力関係を考慮すべきではあるが、ここでは、先人の方がおっしゃったことに素直に従って、「2対0は危険なスコア」であり、「セーフティーリードではない。」と考えておいた方が無難ではないかと思う。
結果的に2対1で勝利することになっても、1点差に追い上げられた時に感じるプレッシャーは相当なものであるし、2点リードを追い付かれてドローになったり、2対3で逆転負けを食らったときの喪失感は半端ではない。また、両チームに実力差があったとしても、2対0から2対1に追い上げられると嫌なものであり、むしろ、実力差があればあるほど、2対0とリードしていたチームには「絶対に逃げ切って勝ち点3を取らなければならない。」というプレッシャーがかかる。「2対0」というスコアにまつわるそういった微妙な心理状態は、結構、面白いものである。
使い分ってもいい場合と、使うにふさわしくない試合があって、そこをきちんと考える必要はあるが、誰が言い始めたのか、「2対0は危険なスコアです。」というおなじみのフレーズは、実は、深みのある言葉であるように思える。
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杉山氏のノートにJリーグの試合は
書かれていないだろうからなあ。
彼から言わせれば「レベル低い日本と違って、
欧州のトップリーグでは2点差の逆転は少ない」という事だろう。
とても面白かったです。
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