偽ニュース: 情報空間における最新兵器
2017年1月16日
Tony Cartalucci
New Eastern Outlook
世界経済や地政学を変える技術と革新の力は、過小評価されていることが多く、振り返ってみると、かやの外に置かれさえしている。
しかし、イギリス帝国に制海権を与えてから、産業革命に至るまで、技術的進歩は、帝国が入念に作り上げた重商主義世界体制を、結局は破壊し、解体させた。技術の進展は、文字通り、世界権力の中心と、それを巡って構築される帝国の興亡を支配するのだ。
破壊的な情報技術
情報技術(IT)の出現により、国民の多くに情報を広めるため、かつては莫大な資本と、相当な人数の作業部隊が必要だったものが、今や、事実上、何の経費もかけずに、たった一人でできる。
今や、伝えたいことの効果と、それが社会に与える影響を決定するのは、もはや自分で自由に使える資金の額ではなく、発想と言葉の力だ。
ITが競争条件を公平にしたのだ。アメリカ合州国とヨーロッパは、様々な形のあらゆるメディアによる情報の流れを何十年も独占してきた。第二次世界大戦中、連合諸国は、枢軸諸国連中の、洗練度の劣る、へたなプロパガンダ活動を易々と出し抜いた。第二次世界大戦から冷戦の期間、アメリカとイギリスの支配層は、自国民に対し競争相手のない影響力を持っていたのみならず、ボイス・オブアメリカとBBCを通して、影響力を外国にも投影することができた。
ラジオ放送局、テレビ・スタジオ開局、あるいは新聞制作用の印刷機の費用は、マスコミを立ち上げる資力を持った連中が作り上げた“合意”に同意しないような圧倒的大多数の人々にとって、巨大過ぎて手がでなかった。
ところが現代では、ITによって、かつては欧米プロパガンダの標的だった国々が、自国内で、政治的、経済的安定性をしっかり守ることにを可能にしたのみならず、そうした国々が欧米の視聴者に対し、彼ら側の言説を送りだせるようになった。
しかも独立した活動家、ジャーナリストや専門家たちは、今や、政治・経済支配層が世界中に広めている“主流”言説に反対して、何百万人もの聴衆に向かって書き、話すことができる。
この効果は至る所で明らかだ。
既に“代替メディア”は、巨大農業企業や巨大医薬品企業の様々な権益から、ウクライナから、シリアに至る、あらゆる場所での地政学的紛争を巡る狙いに至るまで、でっちあげられた“合意”を相当程度、粉砕した。
再一元化と、支配の回復
自立したニュースや、批評や活動家のネットワークが、主にブログ、ウェブやビデオ・チャンネルという形で、インターネットで繁栄している。ところが特権階級はメディア・プラットフォームを再一元化することで、言説や情報に対する支配を回復するのに大規模投資をした。
これは、特にソーシャル・メディア、特にフェィスブックで行われている。フェィスブックは約18億人のユーザーを誇っている。事実上、携帯機器を使って道行く人々全員、フェィスブックを利用して、友人と連絡したり、ニュースや情報を読んだりしている。フェィスブックの人気は、オンライン・ユーザーの行動の大半を一元管理していることにあり、情報を巡る支配の回復は、ここから始まるのだ。
フェィスブックは、この支配方式を展開するため、様々な口実を駆使している。2014年には、ユーザー・ニュース・フィードで、下記の理由で投稿を表示する方法を変更すると主張した。
人々に、あらゆるコンテンツを表示するのではなく、ニュース・フィードは、各人に対し、各人にとって最も関係の深いフェィスブック・コンテンツを表示するよう設計されています。フェィスブックにログ・オンした際に、人々が見るかも知れない1,500+の記事のうち、ニュース・フィードは、約300を表示します。どの記事を表示させるかを選ぶため、各人に関する何千もの要素を見て、ニュース・フィードが、見る可能性のある記事に順位をつけます(より重要なものから、さほど重要でないものへと)。
ところが、一体何に最も関心があるかを決めるのは、ユーザーではなく、フェィスブックが作ったアルゴリズムなのだ。実際、変更というのは、フェィスブックを通して、多数の人々に情報を広めている人々が、突然、送れる範囲が極端に狭まったことに気がつくということなのだ。特定ユーザーをフォローすると意識的に決めた人々に情報を送り届けるには、投稿を“広める”ため、フェィスブックに金を払うことが必要になる。
要するに、大衆への流布に必要な資本という、IT出現によって解体された障害が、ソーシャル・メディアに対するフェィスブック独占によって再導入されたというわけだ。
2016年、フェィスブックは更にねじをきつく閉めるはずだ。今回は“偽ニュース”と戦うという口実で。“偽ニュース”というのは、拡大しつつあり、益々高度化する代替メディアを前に、徐々に弱体化しつつある独占企業連中自身が作り出した用語なのだ。
“偽ニュース”を“ロシア・プロパガンダ”や“白人民族主義者”と結びつけ、ヒステリーがあおられているが、実際は“事実確認”のための措置が導入されつつあり、やがて、“偽ニュース”とされる情報の検閲が、アメリカとヨーロッパの既得権益が推進する言辞、つまり、戦争推進から、巨大企業を推進拡張するあらゆるものに反対するもの全てを標的にすることになる。
次の破壊的技術の時期
どのような戦いにおいても、適応が必要だ。フェィスブックや、ツイッターや、他のソーシャル・メディア・プラットフォームが、いわゆる対“偽ニュース”戦争に加わる中、代替メディアの興隆と、情報空間における力の均衡の維持を狙っている人々は、彼らを弱体化し、克服するための様々な手段同様、既得権益がこの狙いを推進しているのを認識すべきなのだ。
例えば、ロシアには、フェィスブックと競合するVKontakte (VK)があり、ロシアでは非常に人気がある。これは、フェィスブックによるソーシャル・メディアに対する独占を押さえ、ロシアが国内のソーシャル・メディアを支配するのを可能にしている。VKは企業として儲かっている。
同様に、中国にも国内、国民の間で、メディアを支配するのを可能にしている自国の巨大ハイテク企業がある。
これは、情報空間内の国々間で、情報における力の均衡を産み出す。国々の間で、情報の力の均衡を産み出すには、他の代案もある。
仮想通貨が、伝統的な金融機関と、彼らが世界の貨幣制度に対して行使している支配力を破壊しつつあるのと同様、ピアツーピア(P2P)ソーシャル・メディア・プラットフォームは、我々が情報を受け取ったり、受け取れなかったりするよう支配しているフェィスブックなどの独占問題を解決する助けになりうる。
FreeNetなどの代替ツールは、一元管理されていない。ユーザーが無料ソフトを各自のコンピュータにダウンロードすると、そのソフトが、世界中で、FreeNetを利用して、他の人々と接続してくれる。一元的な管理者は存在しない。フェィスブックのように、全ユーザーが接続する単一のハブではなく、P2Pネットワークは、全員がノードとして機能する網のようなものなのだ。
ユーザーは、希望すれば匿名で良く、内容は支配されたり、検閲されたりせず、フェィスブックのニュース・フィード・アルゴリズムのように、情報へのアクセスが抑制されたりすることもない。
情報空間における力の均衡を確立することに献身している進取の気性に富んだ国や個人は、彼ら自身のP2Pソーシャル・メディア・プラットフォームを作り、推進することが可能だ。フェィスブック、VKや中国の一元管理する代替システムのように支配することはできなくとも、そういうものは、外国による支配を弱体化する助けになり、長期的には、何があろうと必然的に進展する技術的な機能分散に、国々が対応するのを支援する。
ソーシャル・メディアに対する支配で、フェィスブック創設者が儲けたような形で金儲けはできまいが、そういうプラットフォームを立ち上げた個人や国家にとって、違った形の利益が得られる。
地政学的に、成功した、広く利用される、破壊的なP2Pソーシャル・ネットワーキング・プラットフォームは、フェィスブックによるソーシャル・メディア支配を弱めたり、完全に打破したりし、参加条件を公平にして、欧米巨大ハイテク企業が、支配するフェィスブック、ツイッターや他の一元管理のプラットフォーム上で、“偽ニュース”と戦うことを狙う“事実確認係”と同等の条件で、個人や国家が、自分たちの言説を大衆に届けるのを可能にする。
P2Pによって、制作者が何十億ドルも儲かることはないが、戦争を回避したり、外国による独占が、国家経済を弱体化させたり、破壊したりするのを防いだり、あるいは、情報空間の支配を回復し、政治的、経済的な競合相手を根絶するという欧米の企みにより妨げられるはずの、社会経済的代案が、根付き、栄えるのを可能にするのに役立つ。
ソーシャル・メディアのようなものを考える際、我々は、地政学や、経済や、国民国家や世界あちこちの地域の興亡に対する甚大な影響とは結びつけないことが多い。だが、2011年、アメリカが画策した“アラブの春”でのフェィスブックの役割が、何らかの実例、あるいは警告として役立つとすれば、情報空間に対する無競争の支配は、国家丸ごとのみならず、地球丸ごとを文字通り破壊できるということだ。
国家や個人の安全保障にとって、あらゆる伝統的な兵器システムと同様、フェィスブックに対する代替物を作り出すことは極めて重要だ。そのような代替物無しに、現代に立ち向かうのは、素手で、無防備で、全く何の準備もなしに戦場に向かうようなものだ。
Tony Cartalucciは、バンコクに本拠を置く地政学専門家、著者で、特にオンライン誌“New Eastern Outlook”に寄稿している。
記事原文のurl:http://journal-neo.org/2017/01/16/fake-news-the-latest-weapon-in-information-space/
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今日の日刊IWJガイドの冒頭、このFacebookや、Washington Post, Amazonのオーナー連中についての話題。
こういう人々が、庶民の役にたつシステムを構築するはずがない。役にたつかのように見えて、結局、利用、支配される。
以下は、日刊IWJガイドからの引用。
■<はじめに>下位36億人の資産額と上位8人の資産額が同じ!上位の億万長者「サイバー・リバタリアン」の正体!
おはようございます。IWJでテキスト関係の業務に従事している原佑介と申します。
昨日もお伝えしましたが、貧困撲滅に取り組む国際NGO「オックスファム」が今週16日、世界人口のうち所得の低い半分に相当する36億人の資産額と、世界で最も裕福な富豪8人の資産額が同じだとする報告書を発表。そうした格差が「社会を分断する脅威」にまでなっていると警鐘を鳴らしました。
※世界人口の半分36億人分の総資産と同額の富、8人の富豪に集中(AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3114180?act=allドナルド・トランプ氏が米国大統領に選出されたことや、欧州を始めとする極右勢力の台頭など、こうした極端な事象の背景には、過度なグローバリズムがもたらした異常な格差社会への反動があるのではないでしょうか。
米経済誌フォーブスの2016年版世界長者番付で上位6人にランキングされたのは、米マイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツ氏、スペインのアパレル大手インディテックス創業者アマンシオ・オルテガ氏、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏、メキシコの通信王カルロス・スリム氏、米アマゾン・ドットコム創業者ジェフ・ベゾス氏、フェイスブック共同創業者マーク・ザッカーバーグ氏です。
ここで名前が上がっている億万長者の皆さんは、京都大学名誉教授・本山美彦さんが「サイバー・リバタリアン」と呼ぶ面々とまさに重なり合っています。
「リバタリアニズム」とは、「機会の自由」を重視し「再分配」の重要性を否定する「自由至上主義者」のことで、この場合の自由とは、「果てしない富の追求の自由」を指します。
本山さんによれば、世界中で極端な格差が拡大してゆくのは、「際限なく金を稼ぎ、富を所有したいという欲望」を全面肯定する自由主義の原理と、その追求のための「ワシントン・コンセンサス」が存在し、そういう構造の中で、彼らIT長者たちが「サイバー・リバタリアン」としてのし上がっているということです。
本山さんは岩上さんのインタビューの中で、世界の金融の流れを支配する「金融権力」と「サイバー・リバタリアン」が結びつく「Fintech(フィンテック=ファイナンスとテクノロジーの2つを併せた造語)」が支配的な体制になると予測しましたが、この予言はまさに現実のものとなろうとしているようです。
※2016/02/08 「日本を丸々と太らせ、美味しくなった頃に食べるのがアメリカ」~『金融権力 グローバル経済とリスク・ビジネス』著者、本山美彦・京都大学名誉教授インタビュー
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/286495※2016/03/14 岩上安身が京都大学名誉教授・本山美彦氏に直撃インタビュー第2弾! 世界経済を牛耳る「金融権力」と「サイバー・リバタリアン」の正体とは~「トランプつぶし」で米大統領選への介入開始か!?
http://iwj.co.jp/wj/fellow/archives/10640近日中に本山美彦さんインタビューを再配信しますので、ぜひご覧いただきたく思いますが、サポート会員であれば、IWJの独自コンテンツをいつでも好きなタイミングでご利用いただけますので、ぜひこの機会にサポート会員にご登録お願いします!
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