MGMが北米でMinamataを「葬ろうとしている」と非難する著名カメラマンのステファン・デュポン
リチャード・フィリップス
2021年9月24日
wsws.org
監督、プロデューサー、アーティストのアンドリュー・レヴィタスによる最新映画Minamataはオーストラリア、ニュージーランド、イギリス、アイルランド、ロシアや、最近数ヶ月いくつかのヨーロッパ映画祭で成功裏に上映した後、今週日本で公開された。
レヴィタスの115分の映画は、数十年にわたるチッソ株式会社による日本の水俣地域の産業公害と、写真エッセイスト、W・ユージーン・スミスと妻のアイリーン・美緒子・スミスによる、1971年から1973年までの、この犯罪をあばく戦いの正式な機微なドラマ化だ。撮影はブノワ・ドゥローム、音楽は坂本龍一で、映画プロデューサーの一人、ジョニー・デップは、主にイギリス人と日本人キャストの素晴らしい演技に支援されて、スミスとして真に迫っている。
Minamataの美波とジョニー・デップ[写真:ラリー・D・ホリックス]
これまでのところ何万という人々がMinamataを見て、評価は圧倒的に肯定的だったが、MGMは北米では、この映画を、まだ公開していない。
7月、MGMが「映画関係者[デップ]の個人的問題が否定的影響を及ぼしかねない可能性を懸念し」「映画を葬る」と決めていたことを明らかにする公開書簡をアンドリュー・レヴィタスが公表した。マードック・メディアや、他の場所で悪意ある#MeTooの主張の対象となった人気俳優は、最近彼を「ボイコットした」とハリウッド・スタジオを非難した。
AP通信によれば、9月22日、スペイン、サンセバスチャン国際映画祭での記者会見で、デップは「キャンセル・カルチャー」を非難し「本質的に大気汚染にも等しいものに基づく即断」と表現した。フェスティバルで高名なドノスティア賞を受賞したこの俳優は、状況が「誰も安全ではないと私が保障できるほど制御不能になっています。誰かが何か言うのをいとわないかぎり、皆さんの誰でも。」と警告した
MGMは、人口ほぼ6億人のアメリカ、カナダ、メキシコを含む北米、中米とカリブ海の大半でのMinamata配給権を所有している。映画会社による、この検閲的行動に、ソーシャル・メディア・キャンペーンや請願やMGM所属事務所への何百という反対の手紙がきている。ユージーン・スミス(1918-1978)に鼓舞されたフォトジャーナリストやドキュメンタリーカメラマンたちも、MGMの行動に関して率直な意見を述べている。
下記は、MGMが北米でMinamataを公開しそこねているのを、あからさまに非難するオーストラリア人カメラマンで映画製作者ステファン・デュポンのインタビューだ。
デュポンの作品は、ニューヨーカー、アパチャー、ニューズウィーク、タイム、GQ、エスクワイア、ジオ、フィガロ、リベラシオン、サンデー・タイムス、インデペンデント、ガーディアン、ニューヨーク・タイムズ・マガジン、スターン、オーストラリアのファイナンシャル・タイムズ紙、バニティー・フェアに掲載され、パリ、ロンドン、ニューヨークや他の大都市で展示会が開催されている。現在彼はオーストラリアの最近の森林火災や気候変動の長期的衝撃で「Are We Dead Yet」展示会をキャンベラで開催している。
ステファン・デュポン
デュポンは30年間、戦争カメラマンで、2001年のアメリカ率いる侵略、侵略中以前に、1990年代、アフガニスタンから報じていた。2005年、カンダハル外でアメリカ海兵隊員に同行し、タリバン兵士の遺体を燃やす部隊の写真を撮影し発表した。この戦争犯罪のおぞましい写真は、アフガニスタン内でも、国際的にも、アメリカ率いる進行中の占領に対する大衆の怒りに拍車をかけた。
デュポンの印象的な写真は、ここで列記するには余りに多い多数の国際賞を受けている。だが彼にとって最も大切な賞は、2007年のユージン・スミス賞だ。
ゴンバド村の負傷したアフガンの子供、2005年[著作権ステファン・デュポン]
我々はMinamataの印象と、彼の仕事に対するスミスの影響力を論じて会話を始めた。
ステファン・デュポン:映画館で見たMinamataが本当に好きで、非常に強力で、悲しいと思いました。2007年、信じ難い名誉のW・ユージーン・スミス賞を受賞していたので、それは私にとって非常に個人的なものでした。これは私が常に受賞を夢見ていた賞で、アフガニスタンでの私の仕事に対するものでした。
それは私の娘が生まれた時に発表され、審査員の一人デイビッド・フレンドからの電話を今でも覚えています。彼はバニティー・フェアのクリエイティブ・ディレクターで、写真撮影界の重鎮でした。それは信じ難い感じと大きな名誉でした。
ジーン・スミスは、私が彼の作品を見て成長した人で、10代後期、20代初期での他の誰よりも、私をカメラマンになるよう奮い立たせてくれました。私がMinamataを見た際には、私とスミスとのその関係が続いていました。
私は映画化ついて余り批判的になりたくありません」ドキュメンタリーではありませんが、ジョニー・デップは実に良くスミスの性格を捉えていると感じました。動き方、写真への取り組み、暗室作業。私はスミスの性格のそうした暗い、沈鬱な、時々横柄なことを想像できますが、デップは真に迫って、説得力がありました。
私はMinamataと、何が起きたかについて、実に多く学びましたが、結局それがスミスを殺したことは知りませんでした。私はこれら意外な事実の一部に非常に衝撃を受けました。映画は率直な描写でした。
リチャード・フィリップス:あなたはスミスが精神的トラウマのストレスに立ち向かう場面についてお話し頂けますか?
SD:これは実に説得力があり、個人的に請け合えます。彼がそうしたのとほとんど同様に、私は写真を撮影し、経験したことでのPSTD、トラウマに自身対処し、苦闘しました。映画のこの部分では対峙を余儀なくされ、説得力があります。ニューヨークでのスミスの本質をとらえた『ジャズ・ロフト』ドキュメンタリーについても考えました。あれは、彼の混乱した無秩序な暮らし方を大変うまく表現しています。
スミスは彼が見た、誰もが知っているか、知るべき、「入浴する智子と母」の水銀汚染された水俣の少女智子と母親の象徴的場面と、その心理的ブローバックのトラウマに対処していました。ジーン・スミスは、大いにこの仕事と生涯の仕事と、大いに苦闘していました。彼は第二次世界大戦と、更に「ライフ」誌による扱われ方で、大いにPSTDを受けました。これが映画で描かれていて、必ずしも多くの視聴者には理解されないかも知れませんが、カメラマンには分かります。彼は本当に「ライフ誌」が一種の扇情的なタブロイド判新聞風の雑誌になって、彼の姿勢や、彼がしていた種類の仕事を十分真面目に受け取らないことを怒っていたのです。
ニューヨークのロフトでのW.ユージーン・スミス[出典:International Centre for Photography]
とは言え、彼自身の飲酒と薬による自己破壊の問題がありました。彼は明らかに複雑な人物でしたが、自分の状況を他の全員のせいにし始めるほどトラウマが酷いにせよ、彼は自分で治療していたのです。彼は生涯衝撃を抱え込み、そこから脱出する方法は見えませんでした。これまで地球に足を踏み入れた最も重要なドキュメンタリーカメラマンにとって非常に悲しい終わりでした。[“W. Eugene Smith’s Warning to the World”「世界へのW・ユージーン・スミスの警告」を参照]
何世代ものカメラマンにとって、彼の衝撃と影響力は疑いようがないと思いますし、それは今も続いています。若者も年寄りも、実に多くのカメラマンが彼の理念と哲学に触発されています。彼は写真エッセイ、ドキュメンタリーの白黒写真の巨匠でした。非常に多くの偉大な素晴らしいことで、スミスは写真界に貢献しています。
RP:Minamataのある時点で、スミス(デップ)が言います。「[チッソ株式会社による]隠蔽は、それ自体、話題として、同じぐらい重要だ。」ここに、いささか類似点があります。いわゆるジョニー・デップの世評問題ゆえに、MGMが北米で「映画を葬る」と決めた状態にあります。これに対するあなたの答えは何でしょう?
SD:それは全くつまらないことで、アメリカでの映画公開を止めるために使われるべきではありません。私生活でデップが何をしたとされているかにかかわらず、結婚の崩壊で起きたことに関する申し立てがあるだけで、彼は一人の俳優に過ぎません。ここでの全体像は、映画、その話題と水銀中毒の犠牲者です。MGMはこの境界を越えるべきではありません。お門違いな非難をするなと私は言いたいのです。
MGMの対応は、我々が今暮らしている世界を反映していて、私の考えでは、#MeTooのようものを使って、あらゆる種類の主張を大げさに騒ぎ立てるのです。人々の生活のどんな否定的なことも最大限利用されるのです。
MGMはデップだけでなく、他の俳優、監督、撮影スタッフ、脚本家を含む他の全員を罰しているのです。
たとえ主張が本当だったにせよ、私は意見を変えません。我々がデップについて話をしているのは結婚生活の崩壊で、世界中で多くの人々が経験していますが、唯一の相違は人々は名士でないことです。余りにも批判的な世界での悲しい検閲状態で、そんなことがあってはいけませんが、もし人が何かまずい形で言ったり、したり、失敗したりすると、あらゆる方法でとがめ立てられるのです。 広い視野で物事を見ましょう。
RP:映画は、水俣が決して一回限りのことでなかったことを明らかにし、観客への語られない挑戦で終わります。ハッピー・エンドではありません。
SD:大企業は常にこの類のことを逃げ切り、止められない限り、やり続けるでしょう。この映画が、再び、これを際立って明らかにしたのは重要です。それは観客と共鳴し、彼らにこう言うように強いるのです。「我々は再びこれを起こさせてはならない、我々は立ち上がり、抗議し、我々の意見を聞いてもらえるようにしなければならない」良いことです。
水俣の漁村の写真を撮影するW.ユージーン・スミス1973[出典:石川武志 Copyright 2019]
大企業は、産業破壊や共同体の抹殺を罰せられずに逃げ切っており、アマゾン、パプアニューギニアや、世界中いたる所で、金採掘現場や川の汚染を起こしているのを、我々は阻止する必要がある。それは恥ずべき犯罪だ。またしても、世界を支配しているように思われる、通常連中が犯す残虐行為に責任を負わない1パーセントの権力者連中だ。
写真撮影以上に遙かに大きな大問題を扱っているので、カメラマンだけでなく、全員がMinamataを見るべきだ。それは実に長年続き、その影響が今日も続いている地域全体の水銀中毒を強調する映画だ。全員がこれを認識し、決してこれを忘れず、類似の悲劇が再び起きるのを阻止すべく努力する必要がある。
記事原文のurl:https://www.wsws.org/en/articles/2021/09/25/dupo-s25.html
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何としても与党による憲法破壊阻止。改正とは名ばかり。宗主国のため中国からミサイルを全列島に受けて「弁慶の立ち往生」をするため。
今日の孫崎氏メルマガ題名
焦点は、(1)自公三分の二獲得(310)し、憲法改正へ、(2)自民党が単独過半数(233)、(3)自公が単独過半数を取れるか。自民党自身の支持率低下、野党協力で(1)なし。現状況は(2)。岸田政権支持、発足より緩やかに下降→選挙にどう影響。
デモクラシータイムスを拝聴した。平野氏、怒っておられる。
ブログ『私の闇の奥』最新記事 ユージン・スミスの『入浴する智子と母』で、過分なお言葉とともに、この記事の元記事翻訳 Minamata:いかに日本企業が共同体を汚染し、アメリカ人カメラマンがそれを暴露しようとつとめたかをご紹介いただいた。当ブログ、出来の悪い学生が、先生に日々レポートを提出しているようなものかも知れない。
このチッソによる産業公害、今も解決とはほど遠い。
西日本新聞 2020/4/30 社説
認定基準の厳しさや地域的ひろがりの未解明は大きな問題だ。もちろん差別も。社説の一部引用させていただこう。
最終解決を阻む壁がいくつか挙げられる。過度と言える認定基準の厳しさ、差別を恐れて進む被害の潜在化などに加え、被害者の地域的広がりが解明されていない点も大きい。
こうした国の対応は、東京電力福島第一原発事故被害者対策と直結している。コロナ無策も根底でつながっている。企業側にたって、被害者を踏みにじる姿勢の原点は、もちろん田中正造が戦った古河鉱業足尾鉱毒事件。原発事故のひどい対策の原点が「足尾鉱毒事件」だったことは遅ればせながら、2012年の下記講演で学んだ。
【アースデイ田中正造】9月30日 『国を豊かにするという思想のもと、企業を保護し住民は切り捨てる構図が一貫している』小出裕章講演(東京新聞/毎日新聞/下野新聞)
今年、久しぶりに田中正造の直訴状原本が展示されている。
朝日新聞DIGITAL
そして、つける薬のない、とんでもない新政権。
毎日新聞
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