私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

バシャール・アル=アサドの声

2024-12-18 21:44:09 | æ—¥è¨˜

 シリアの前大統領バシャール・アル=アサドの声明(statement)が出ました。こうした場合にこうした地位の人物が発する声明としては些か異様な響きがあるように、私には感じられます。それで、「声明」ではなく、「声」としました。強かな政治家の父親が死に、それを継いだ兄もまた病死したため、英国で歯科医としての研鑽を積んでいたバシャール・アル=アサドは突然祖国シリアに帰って大統領になりました。私はその頃から、この人物の発言を無数に聞いてきました。
 以下に訳出した声明は、個人的なブログとして発表されたもののようです。The Cradleというウェブサイトから転載されたものです。内容については、次回のブログ記事で論じます。


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「テロがシリア全土に広がり、最終的に2024年12月7日土曜日の夜にダマスカスに到達すると、大統領の運命とその居場所についての疑問が生じた。これは、国際テロをシリア解放革命として見かけを作り替えることを目的とした、真実とはかけ離れた誤った情報や言説が氾濫する中で起こった。
国家の歴史において真実が優先されるべき重要な局面で、こうした歪曲に対処することが不可欠だが、残念ながら、安全上の理由による完全な通信遮断など、当時の状況により、この声明の発表は遅れた。これは、起こった出来事の詳細な説明に代わるものではない。詳細はそれができるようになる機会が訪れた時に提供されるであろう。
第一に、私のシリアからの出発は計画されたものではなく、一部の人が主張しているように、戦闘の最後の数時間に起こったものでもなかった。それどころか、私はダマスカスに残り、2024年12月8日日曜日の早朝まで任務を遂行した。テロ勢力がダマスカスに侵入したため、戦闘作戦を監督するためにロシアの同盟国と連携してラタキアに移動しました。その朝フメイミム空軍基地に到着すると、わが軍がすべての戦線から完全に撤退し、最後の軍陣地が崩壊したことが明らかになった。この地域の現場状況が悪化の一途をたどり、ロシア軍基地自体も無人機による攻撃の激化にさらされた。基地を離れる有効な手段がないため、モスクワ政府は基地司令部に対し、12月8日(日)の夜にロシアへの即時避難を手配するよう要請した。これはダマスカス陥落の翌日、最後の軍事陣地が崩壊し、その結果として残っていたすべての国家機関が麻痺したことを受けて起こった。
これらの出来事が起こっている間、私はいかなる時点でも辞任や避難を考えたことはなく、またいかなる個人や政党からもそのような提案はなかった。唯一の行動方針は、テロリストの猛攻撃と戦い続けることだった。
戦争の初日から、国家の救済を私利私欲と交換したり、数々の申し出や誘惑と引き換えに国民を危険にさらすことを拒否した人物は、最も危険で熾烈な戦場でテロリストからわずか数メートルのところにいる最前線で軍の将校や兵士とともに立っていた人物と同一人物であることを、私は改めて断言する。戦争の最も暗い時期に、14年間の戦争中、爆撃や首都へのテロリストの侵攻の度重なる脅威の下でテロと対峙しながら、国民とともに家族とともに立ち去らずに留まった人物と同一人物だ。さらに、パレスチナとレバノンでの抵抗を放棄したことも、味方してくれた同盟者を裏切ったこともなかった人物が、国民を見捨てたり、所属する軍や国家を裏切ったりする人物と同一人物であるはずがない。
私は個人的な利益のために地位を求めたことは一度もない。常に、シリア国民の信念に支えられ、そのビジョンを信じる国家プロジェクトの管理者であると自負してきた。これまで、私は、シリア国民が国家を守り、その機関を守り、最後の瞬間まで自らの選択を貫く意志と能力を持っていると、揺るぎない信念を抱いてきた。
国家がテロの手に落ち、意義ある貢献をする能力が失われた時、いかなる地位も目的を失い、その地位は無意味なものとなる。しかし、これは、いかなる立場や状況にも揺るがないシリアとその国民への私の深い帰属意識を弱めるものではない。それは、シリアが再び自由で独立した国になるという希望に満ちた帰属意識である。」

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藤永茂(2024年12月18日)

『天網恢恢疎にして漏らさず』への追加

2024-12-15 21:34:03 | æ—¥è¨˜

このサイトを開けると、The Islamic House of Wisdom(IHW)という、米国にあるイスラム宗教団体の諸記事を見ることができます。その「おすすめ」のトップに

Imam Elahi's response to Netanyahu's message to the Iranian People

という、この在米イスラム宗教団体の主導者Imam Elahiの激烈なネタニヤフ批判(非難)の講演があります。是非、この人の語るところを聞いてください。

藤永茂(2024年12月15日)

天網恢恢疎にして漏らさず

2024-12-15 20:24:33 | æ—¥è¨˜
The Unz Review・An Alternative Media Selection というウェブサイトがあります。12月9日付で、シリアを論じた記事が出ました。主な点は、今後、トルコのエルドアン大統領がどう出るかという事ですが、私はその書き出しのところに注目しました。


Turkish Opportunism and Multipolarity In Syria
ERIC STRIKER • DECEMBER 9, 2024

私は次に引用し訳出する文章の内容を補填すればシリアという国で何が起こっていたかを良く理解できると考えます。

(原文)
The fall of Bashar al-Assad’s government in Syria marks a turning point. Prior to the start of the 2011 civil war, Syrians were among the most highly educated people in the Arab world. Syria’s flourishing middle-class, high quality universities, and advanced pharmaceutical industry allowed them to punch above their weight class in influencing the Middle East. As a middle power, Assad’s Ba’athist social-nationalist government sought to retain good ties with all players, including the United States at one point, though its commitment to combating Zionist expansionism ultimately led to its targeting for destruction by the very United States it had sought to keep good terms with.
With Iran and Russia behind it, Syrian forces emerged victorious over Zionist backed Islamist forces in 2018, but this victory was incomplete and led to a period of stagnation in the country. Syria has been unable to recover from the brain drain wrought by the exodus of educated professionals — teachers, physicians, engineers, etc — to Europe and Turkey. The strict sanctions regiment imposed on Syria by the United States and other Zionist powers has made it difficult for the state to participate in global commerce, leading to economic isolation and stagnation. A culture of corruption and cynicism has flourished under the weakened and demoralized Assad, seen everywhere from organized crime groups recruiting the country’s unemployed chemists to become the region’s top producer of crystal meth and Captagon, to the sad display of Syrian Arab Army forces unable to move tanks and airplanes to confront rebels due to their commanders having stolen and sold all the fuel.

(日本語訳)
シリアにおけるバシャール・アル・アサド政権の崩壊は転換点を示している。 2011年に内戦が始まる前は、シリアはアラブ世界で最も教育水準の高い人々の国の一つであった。シリアの繁栄する中産階級は、質の高い大学と先進的な製薬産業のおかげで、シリアを、ボクシングに例えれば、その重量階級を超えて中東にパンチを与えることが出来る国にした。ミドル級の国として、アサド政権のバース党社会国家主義政府は、一時は米国を含むすべての関係国との良好な関係を維持しようとした。しかし、シオニストの拡張主義と闘うという政府の一貫した方針は、最終的には、まさに、アサドのシリアが良好な関係を保とうとしていた当の米国による破壊の標的となる結果をもたらした。
イランとロシアの後押しを得て、シリア軍は2018年にシオニスト支援のイスラム主義軍に勝利を収めたが、この勝利は不完全で、国内を停滞期間に導いた。シリアは、教育を受けた専門家(教師、医師、エンジニアなど)のヨーロッパやトルコへの流出による頭脳流出から立ち直ることが今日まで出来なかった。米国および他のシオニスト勢力がシリアに課した厳しい制裁によって、同国が国際貿易に参加することが困難になり、経済的孤立と停滞につながってしまった。弱体化して意気消沈したアサド政権下では汚職とシニシズム(犬儒主義)の文化が栄えるようになり、組織犯罪集団は国内の失業中の化学者を集めて結晶覚醒剤とキャプタゴンの地域最大の生産者に成り上がり、シリア・アラブ軍といえば、司令官たちが全てのガソリン燃料を盗んで売却したので、反体制派に立ち向かうための戦車も航空機も動かせないという悲惨に陥ってしまったのだ。

<ここからは私の考えによる、上掲の記事への、訂正と補填です>

(1)シリアの擾乱は内戦ではありません。
(2)上に、「米国および他のシオニスト勢力がシリアに課した厳しい制裁によって、同国が国際貿易に参加することが困難になり、経済的孤立と停滞につながってしまった。」とあります。私たちは「シーザー・シリア市民保護法(略称シーザー法)」なるものを十分理解しなければなりません。シリアという国は、その住民に対して、外から課せられた残忍な経済制裁によって、絞殺されたのです。サダム・フセインのイラクでは、米国主導の経済制裁で50万人のイラクの子供達が死にました。米国国務長官になったオールブライトは「それだけの値打ちがあった」という歴史的大失言をしました。これについては、私の2010年年末のブログ記事「マドレーヌ・オールブライトの言葉」を読んでください。


「シーザー法」については、青山弘之氏による2020年6月6日日付の詳しい解説があります。


この記事とともに、青山氏の次の記事もお読みください:


(3)イラクが亡ばされ、リビアが亡され、今度は、シリアが亡されました。2005年の愛知万博、「愛・地球博」を憶えていますか?その「リビア館」を見ましたか?カダフィのリビヤは、色々の意味で、見事な国でした。

今の私の脳裏には、「神も仏もあるものか」という情けなくも凶暴な声もありますが、一方では「天網恢恢疎にして漏らさず」という言葉や、人間の傲慢(ヒューブリス)に対するギリシャ女神ネメニスの神罰への想いも浮かびます。

藤永茂(2024年12月15日)

シリア哀悼

2024-12-11 12:47:59 | æ—¥è¨˜
 バッシャール・アル=アサドが懸命に維持しようとしたシリアという国に対する哀悼の気持ちを胸に抱く人間は、勿論、私だけではないことが、日を追って明らかになりつつああります。私のブログは微々たる存在ですから、個人名を挙げても御迷惑をおかけすることにはならないと思いますので、個人名を挙げさせていただきます。これまで、青山弘之氏から実にたくさんの事実を学んできました。感謝しています。また、トルコ・シリア大地震(2023年2月6日)の際に、シリアに対する支援を阻もうとした米国の意向に逆らって、支援行動を実行したジャイカの中にもアサドのシリアの実態を知っていた人々がいたに違いありません。

 惜しくも崩壊してしまったシリアについて、最近のいくつかの発言を紹介します。


このVanessa Beeleyという女性ジャーナリストの報道と発言もこれまで長い間フォローしています。


この記事の中に極めて注目すべき動画があり、その中の発言者シリア在住のジャーナリストKevork Almassianは、この数年月の間に急に成長を遂げたニュース解説番組Syrian Analysisの主宰者です。ご存知なかった方々は次のサイトをあけてみて下さい。


ここには100を超える過去の報道動画が挙げられています。興味を持った動画をクリックしてアルマシアン氏の言うことを聞いて見てください。
一部の報道によると、イスラエル空軍は崩壊後のシリアの各所を数百回にわたって爆撃しているようです。その表向きの言い訳がなんであれ、何でもないで普通の人間たちが多数殺されているのは明白です。

藤永茂(2024年12月11日)

われ、ただ一人、シリアのアサド氏に信愛の言葉を送る

2024-12-09 20:06:03 | æ—¥è¨˜
 シリアはアサド大統領の独裁的失政によって崩壊したのではありません。アサド氏は冷血の独裁者ではありませんでした。あなたや私のような普通の一人の人間です。私は、マスメディアで、今、頻りに発言している大多数の人々より長い間、シリアという国とバッシャール・アル=アサドという人を見守ってきた人間です。過去に、このブログで、シリアについて数知れない程の記事をアップしてきました。以下に転載する1年半ほど前の2023年3月9日の記事は、その一例です。オリジナルは次のサイトにあります:
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/d/20230309

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「イドリブのショッピングモール」

 「百聞は一見に如かず」という言葉があります。イドリブはシリア北西部の、反政府テロ勢力の支配地、米欧とトルコの手先としてシリアのアサド政権打倒を目指すテロ組織HTS(Hayat Tahrir ai-Sham)とその頭目モハメッド・アルジュラニ(Mohammed Al-Julani)が掌握しています。
 これから紹介する記事の多くはシリア政府寄りのサイトからで、プロパガンダ戦争の真っ只中、どの程度信じて良いのか判断に迷いますが、その中に出てくるアルジュラニ経営の豪華なイドリブのショッピングモールの三枚の写真は、イドリブで、そしてシリアで何が進行しているか(What’s going on)を何よりも明らかに示していると私は考えます。迷いはありません。まさに「百聞は一見に如かず」:
https://syria360.wordpress.com/2023/02/26/idlib-earthquake-aid-hijacked-by-terrorists/


 



このようなモダーンで豪華なショッピングモールは、日本のそんじょそこらの中小都市では余りお目にかかれないでしょう。こんなものが、“騒乱の地”にあるのは意外だと思う人が多いのではありますまいか。でも、このショッピングモールの話は後回しにして、まずは、今のシリアの事から話を始めます。
 シリア戦争の真実をあらためて考えて頂くために、私の「高慢と偏見」に満ちた超簡単概略を読んでいただきます。この概略はひどく荒っぽく見えますが、世上に拡がる見解より真実に近いと信じています。以下の論議では、IS,ISIS,ISILは大体同じものだとお考えください。
 シリア戦争は内戦ではありません。国外勢力とシリアの間の争いです。米欧、ロシア、イラン、それにトルコとイスラエルが参加しています。一〇年ほど前シリアに猛然と襲いかかり、ごく最近もシリアを攻撃しているIS(イスラム国)は本質的には米国とトルコの傭兵の役割を担っています。米国は、現在、シリアの北東部でシリア国の面積の3分の1を占める地域を国際法的には全く不法に占領していますが、それは その地域のクルド人軍事勢力をも巧妙に籠絡して傭兵集団にしてしまうことに成功したからです。米国は国外の軍事勢力集団を自己の利益のために冷血に酷使するのが極めて巧みで、今のウクライナ軍もその立派な一例と見ることが出来ます。
 第一次世界大戦中の1918年5月ギリス、フランス、帝政ロシアの間で結ばれた秘密協定「サイクス・ビコ協定」が現在の中東世界の紛争の根源です。クルドの苦難もパレスチナの苦難もここに発します。この政策の推進母体は当時の世界帝国英国であり、現在は米国によって継承されています。
 「アラブの春」の自然発生的要素は僅かなもので大部分は米国権力機構の操作(manipulation)によるものです。発生当時囁かれたCIAやソロスなどによる陰謀論は、今は、“陰謀”ではなく、誰の目にも明白な“顯謀”です。リビアで何が起こったか、シリアで何が起こっているかを凝視すればわかります。
 大問題はすでに言及したISIL(イラク・レバントのイスラム国)です。ISILについては日本の公安調査局(PSIA)の調査をはじめ、膨大な文献があり、私のような者が軽率に口を出す問題ではないのでしょうが、この組織を発生の頃からから見守り続けて来た私にも発言をさせてください。「読書百遍意おのずから現わる」という古い言葉があります。この宗教集団の宗教性については何も申しますまい。私が言いたいことは「この集団はお金を払えば雇える」ということです。このテロ集団は現在ではDaesh,ISIS,ISの名称でも呼ばれています。
 シリア紛争の歴史で「コバニの戦い」「コバニの包囲戦」として知られる、クルド軍とイスラム国(IS)軍との間の重要な戦いがあります。2014年9月のことでした。この激戦の最終的勝者であるクルド人達の中にはこの戦いを「クルドのスターリングラードの戦い」と呼ぶ人もいます。私の見解が世界の諸賢の見解と全く違うのは「コバニの戦い」の勝利が米軍のクルド側への参加援助、ISに対する米空軍の空爆によって得られたのではないとするところにあります。破竹の勢いでシリア北部まで攻め上がり、すでに制圧していたラッカをイスラム国の首都とすることに決めたIS軍は、ラッカの西の、当時シリア最大の都市アレッポの攻略には向かわず、北のトルコ国境に接する小都市アイン・アル=アラブ(コバニ)に進撃したのは何故か?それは、トルコがそれを強く望み、米国も内内それを許容することにしていたからだと私は考えます。コバニのあたりのクルド人達は、トルコのエルドアン大統領が嫌悪し、米国も危険人物とみなすクルドの革命指導者オジャランの強い影響下にありました。ISは事の初めから実質的にトルコの傭兵勢力として行動して来ましたし、米国は、ISを国際テロ組織として認め、それを殲滅する方針を公言しておきながら、裏ではISを結構「傭兵」として使っていたのです。しかし、ISに対してシリア北部のトルコ国境線のすぐ南側に居住するクルド人達が見せた軍事勢力としての優秀性を認識した米国は、この勇猛な軍事勢力も米国の傭兵として採用する事を決心します。クルド人を主体とする軍隊SDF(シリア民主軍)を組織してこの軍事勢力を使ってシリアの北東部の油田地帯と穀倉地帯を占領し、今はシリア国民からエネルギーと食料を奪い、国外に運んで収入を得ています。占領地域の面積はシリア国土のほぼ三分の一に及びます。つまり、この米国の大胆な策略は大成功を収めました。
 次の、もう一つの大成功は、すでにブログ記事『シリアの人々にも救援を』で解説した米国のシリアに対する残酷な制裁(sanctions)です。このため、シリア政府は今回の大地震の後の復興事業を行う力を、地震の以前に奪われてしまっていました。
 イスラム国の“首都”ラッカは2017年の後半にSDFによって占領されましたが、この作戦では米空軍による猛烈な市街爆撃が行われ、又、多数のイスラム国戦闘員とその家族がSDFの捕虜になりました。私が、この「ラッカの戦い」にもかかわらず、米国の傭兵としてのイスラム国戦闘員の実質を読み取ったのはラッカの戦いで捕虜となった人々とSDFとの関係、米国との関係の観察からです。ISIL(ISIS)は米国から金で雇われて、世界中で働いていると私は考えます。最近もシリアの東南部で事件がありました:
https://syria360.wordpress.com/2023/03/05/recent-isis-attacks-in-syrian-desert-carried-out-with-us-support/
https://syria360.wordpress.com/2023/03/05/syria-is-fighting-for-its-life/
 この記事のタイトルのイドリブのショッピングモールの三枚の写真に話を戻します。トルコ南部を震源地とする今回の大地震で、イドリブを含むシリアの北西部も大きな被害を受けました。死者は6千人を超えています。前回のこのブログで「Idleb はオバマ大統領時代からのアサド政権に対するレジームチェンジ政策の遂行を目指す反政府勢力の支配下にあります。ですから、この地域に対しては、米欧は制裁を全く加えず、積極的にその軍事活動、経済活動を支持して来たのです。」と書きましたが、この地域はテロ組織HTS(Hayat Tahrir ai-Sham)とその頭目モハメッド・アルジュラニ(Mohammed Al-Julani)が独裁者として支配していて、The Salvation Government(救済政府)という名称を僭称しています。驚くべきことに、米国は、アサドを大統領と認めず、彼を倒して、アルジュラニをその座に据えようと目論んでいるのです。ベネズエラで、米国はマドゥロを大統領と認めず、グアイドを大統領として認めているのと同じような事です。マドゥロのベネズエラが、米国の制裁(サンクションズ)によって、悲惨な状態に陥ったのも、アサドのシリアの状態と同じです。
 今回のトルコ・シリアス大地震の救援物資はトルコ領内に送られ、それから米欧支配下の地域に運ばれています。そのルートをアルジュラニは掌握していて、物資を搬入するトラックの一台ごとに千ドル(US$)のみかじめ料を巻き上げ、アルジュラニの「救援政府」に近い富裕層に救援物資を渡す際に彼等からもピンはねをする始末です。もともと写真に示された豪華なショッピングモールもアルジュラニが自分の懐に取り込んだ潤沢な資金を使って私的に建設したもので、一般市民は停電続きの配電事情に苦しんでいるのに、写真に見るように常時煌々と照明され、エスカレーターも動いているという状態でした。米国が「札束で頬を張った」この小粒の独裁者アルジュラニは、自分も札束で周囲を腐らせて「救済政府」を運営しているのです。(この大地震でこのショッピングモールがどのような被害を受けたかを私は把握していません。)


 前々回に説明した米国の「シーザー法」にもとでは、アサド政権下のシリアには救援物資を運び込むことは酷く制限されます。米国はこの大地震災害を考慮して、半年間、この封鎖処置を緩和すると発表しました。しかし、これは“米国の寛大さ”を示すプロパガンダ効果があるだけで、実際の救済効果は全くありません。
 私は、ここで再び、米国の狡猾さと傲慢さを思わずにはいられません。以前、このブログサイトで、Hubris(ヒューブリス)とNemesis(ネメシス)について論じたことがあります:
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/8
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/7685a50bd200f25220d6d771844df24b
「老子」には「天網恢恢疎にして漏らさず」という言葉があります。悪者どもを天網が捕らえて罰を与えてくれる事を私は切に願っています。

藤永茂(2023年3月9日) 
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これで、今、救世主のような顔をして、シリアの首都ダマスマスに乗り込んで威張っているテロ組織HTS(Hayat Tahrir ai-Sham)の頭目モハメッド・アルジュラニ(Mohammed Al-Julani)がどのような人物かわかっていただけるでしょう。
 「どんどん」さんから、シリアについてのコメントと質問をいただきました。それに対する一つのお答えのつもりです。もう一人、絶対に、俎上にあげ、吊し上げにしなければならない真の悪漢(villain)がいます。トルコの大統領エルドアンです。今のマスコミの大騒ぎの中にこの名前が出てこないのは不可解千万としか言えません。

藤永茂(2024年12月9日)