ISDSの終焉 ISDSを葬り去る新NAFTA( USMCA )協定
朗報である。
米国とカナダ(カナダとメキシコ)の間のISDSに関する要点は2点である。
新NAFTAが発効した後、ISDSが許容されるのは、旧NAFTA失効時(新協定発効時)にすでになされていた投資に限られる(付属書14-C・6(a))。
(こうした投資を「レガシーインベストメント(遺留投資?)」と呼んでいる)。
レガシーインベストメントに関する提訴は、旧協定失効後3年以内に限られる(付属書14-C・3)。
米国とメキシコの間だけは、ISDSが残るが、それこそ「大幅に縮小される」。
米国とメキシコのISDSについては、付属書の14-Dに規定されている。
この内容はやや複雑になるので、この間、ISDS問題に取り組んできた、パブリックシティズンの要約を紹介しておこう(AFTINET2018年10月4日)。
ISDSの適用対象を政府による直接収用に限定している。
このことは、環境法や保健法の改正や政策の変更を原因として補償を求めて提訴することができないことを意味する。
外国人投資家は、ISDS提訴をする前にメキシコ国内裁判所の手続きを尽くさなければならない。
これまで米国投資家によるISDS提訴は、メキシコの法律や政策の変更を理由とするものが大半であったことから、米国とメキシコのISDSの件数は大幅に制限される。
ISDS条項が、外国投資家が相手国の環境規制などに介入するとして問題とされるようになったのは、まさにNAFTAで米国とカナダという先進国同士の間で初めてのISDS条項が導入されたためであった。
米国企業がカナダやメキシコの環境規制を次々と訴え、勝訴したり、政府措置が違法であることを前提とした勝利的和解をしたことから、世界に大きな衝撃を与えた。
それまでせいぜい没収や国有化に対して機能するに過ぎないと考えられていたISDSが、外国投資家にとって相手国の政策に介入し、これを萎縮させるのに有力な道具に変質したのだ。
今では、刑事捜査や民事裁判に介入したり、民営水道の公営化や健康保険の公営化、新薬の不承認、脱原発政策、禁煙政策、果ては最低賃金の引き上げに伴う紛争についてまでISDS提訴の対象となっている。
世界の秩序を紊乱したISDSが、問題が顕在化してからおよそ20年で、その震源となった北米から消える。
歓迎すべきことだ。
問題は、今後、世界3000を超える投資協定等に盛り込まれ、ハイエナ弁護士どもの食い扶持となっているISDS条項を、どう退治していくのかというステージに移るべきだろう。
米国大統領がヒラリーだったら、と考える。
このような進展はあり得なかったろう。
ISDSの息の根を止めることは、トランプ政権の歴史的使命となった。
なお、現在、公表されている新NAFTA協定は、法的精査を経る前の案文である。
(TPPは法的精査が終わるまで文案は絶対に秘匿されていた。その異常さを改めて思う)
今後、通商弁護士の精査を経ることになっている。
不安要素があるとすれば、彼らが、ハイエナの仲間だろうと考えられることだ。
トランプ攻撃に乗じた、猛烈な巻き返しがあるかもしれない。
このことだけが不安要素だ。
TPP11には、カナダが新NAFTA協定で葬り去ることにしたISD条項が入っている。
そしてカナダはオーストラリアとの間では二国間でISDを行使しない(又はISDを極めて限定する)合意をしていると聞く。
カナダとニュージーランドとの間でも同様の二国間合意があるか、仮になければ今後同様の合意を結ぶように動くはずだ。
TPP11を主導してきた日本は、将来的に米国の参加を働きかけていくと一貫して主張してきた。
米国が葬り去ることにしたISD条項を残したままでは、米国の参加は望めないはずだ。TPP11主導国としてISDS条項の改正を10カ国に働きかけるべき責任がある。
日本国固有の利益を考えても、カナダとの間でISD条項を残すのは、得策とは思えない。
不意打ちのように米国企業から環境規制を次々と訴えられたカナダの企業は、態勢を整えるや次々と米国政府を訴えた。双方の件数が各15件ほどになるまでカナダ企業も互角の件数、米国政府を訴えていたのだ。
その後、カナダ企業は米国政府を提訴することを控えるようになり、提訴件数は一挙に開いたが、これは米国政府が敗訴したら、ISD自体が成り立たなくなる(米国世論が沸騰してISDの存続を許さなくなる)ことに気づいたからだろう。
つまり、米国政府を相手にする限り、外国企業は負けるというのがISDの基本ルールだと気づいたのである。
しかし、NAFTAを通じて、カナダには日本と比べものにならない、ISDの経験の蓄積がある。
日本の新参のハイエナ弁護士では到底かなわないはずである。
せめてカナダとの二国間では、ISDの凍結を合意することが国益にかなう。
とにかくも歴史的出来事が起きた。
世界のために祝おう。
付記
世界ではISDS条項は勢いを失っていく。
しかし、日米FTAにはISDS条項が入ることは必至である。
その根拠を「日米FTAとISDS条項」で述べたので、参照して頂けると幸いである。
また、いまだに触れられることのほとんどない新たな日米FTAの本質的問題については「日米FTAの毒薬条項 米国が迫る究極の二者択一」をお読み頂ければ幸いである。
一昨年2016年10月に衆議院にISDS条項に関する野党側の参考人として出席したとき、与党側の参考人は、日弁連内で人権派の重鎮として名高い弁護士であった。
本気なのかどうか、彼は、投資紛争をISDSで裁定することが、国家間の戦争を防止し、平和に寄与するとして、ISDSを擁護した。
投資紛争が戦争(というより欧米諸国の一方的な武力行使)を招いて国際問題になったのは19世紀から20世紀初頭の植民地主義の時代のことである。
国際紛争を武力によって解決することが適法とされていた時代の話である。
知っているのかどうか、人権派の重鎮弁護士は、「ISDSが戦争を防ぐ」と、傍聴者が唖然とするような主張をして、ISDSを擁護したのであった。
理屈から言えば、新NAFTAはISDSを葬ろうとしているのだから、北米大陸では戦争の危険が高まったことになる。
彼は、平和と反戦のために新NAFTAに体を張って反対するのだろうか。
いや、彼は、きっと新NAFTAでISDSが葬られることなど絶対におくびにも出さないに違いない。
何だかなあ、日弁連って下半身は完全に経済界や保守政権とつながりながら、頭だけ対向しているような振りをしてるように見えてならないんだよなぁ。
訂正 10月11日
米国とメキシコのISDSの内容の要約は、「オーストラリア・フェア・トレード・アンド・インベストメント・ネットワーク(AFRTINET)」によるものであったので、訂正する。引用記事は、オーストラリアの市民団体によるものである。
なお、リンク先のページでもリンクされているが、パブリックシティズンの分析をリンクしておく。
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