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「人道的侵略」産業とシリア(6)

■目次:
(1) はじめに
(2) 「アラブの春」という嘘(1)
(3) サルバドル・オプション――NATO側諸国からシリアへの「死の部隊」移設作戦
(4) 「戦争賛成左翼」への道――ジルベール・アシュカルとその植民地主義的利用者たち
(5) シリア近況メモ(2012年11月14日)


(6) シリアの「化学兵器」とオバマの帝国主義的二枚舌

 前回の更新から、またもやブログが長期休眠状態に入ってしまっていたが、最悪の場合、来週にも米国がシリアへの空爆を始めかねない情勢のため、急遽連載を再開する。

 8月31日に行われた演説(▼120)で、オバマは「アサド政権が化学兵器(サリンガス)を使用した」ことを理由として、シリアへの「限定的」空爆に踏み切る立場を示した。シリアに海軍基地を持ち、ミサイル防衛システムを提供しているロシアが、攻撃が行われた場合にシリアを支持する姿勢を鮮明にしている(▼121)こともあり、米国の(直接的)軍事攻撃はさすがにリスクが高すぎて実現しない(威嚇に終わる)のではないかという見方もあるが、ロシアはロシアで、2014年のソチオリンピックの開催に備えてコーカサス独立派(結果的にはコーカサス系住民)への弾圧に勤しんでいる最中であり(▼122)、予断を許さない状況であることに変わりはない。

 そこで、「アサド政権が化学兵器(サリンガス)を使用した」という米国の主張をめぐって、オバマの帝国主義的二枚(あるいは三枚以上の)舌が語ってくれない、いくつかの事実を簡単に確認しておこう。


<国際法に関して>

 オバマの演説はそもそも国際法違反である。


<化学兵器の利用をめぐる歴史的経緯>

 米国は自国内および国外で化学兵器をふんだんに利用し、また化学兵器の利用を他国へ熱心に奨励してきた国である。米軍は、ニューヨーク市を含む全米の居住地域で、継続的に化学兵器・生物兵器の実験を行い(▼123)、南北朝鮮、ベトナム、ラオスなどの国々を、ナパーム弾や枯葉剤、サリンガスといった様々な化学兵器の標的にしてきた(▼124)。エジプトやイスラエル、イラク、ヨルダン、レバノン、サウジアラビア、ユーゴスラビア、南ベトナム、南アフリカ(アパルトヘイト政権)などの米国の歴代同盟政権は、米軍による化学兵器実践講座の優秀な生徒であった(▼125)。


<シリアでの化学兵器の利用をめぐる経緯>

(1)2012年12月9日:米政府高官および複数の米上級外交官が、欧米諸国がスポンサーとなって、シリア「反乱軍」に化学兵器を用いた攻撃訓練を施していると証言(CNNによる報道)(▼126)。

(2)2013年1月29日:英国の『デイリー・メール』紙(英国の保守的タブロイド紙)が、「シリアへの化学兵器攻撃を開始し、アサド政権に責任をなすりつける計画を米国がサポート」という記事(▼127)をリーク。

(3)2013年3月19日~:シリア「反乱軍」が3月19日にアレッポで化学兵器を使った疑いがあるとして、シリア政府が国連に調査を要請(▼128)。

(4)2013年5月5日:国連シリア調査団が、化学兵器を所有し、市民に向けて使用しているのは、アサド政権ではなく「反乱軍」であると報告(▼129)。

(5)2013年6月14日:アルカーイダ系列グループでシリア「反乱軍」に参加する「アンヌスラ戦線」(Al-Nusra Front)のメンバーをトルコ警察が逮捕。2キログラムを超えるサリンガスを含む武器を押収(▼130)。

(6)2013年8月13日~:米国がドック型輸送揚陸艦「サン・アントニオ」および複数のミサイル駆逐艦を東地中海に展開(判明している範囲でも、「ラメージ」が8月13日に、リビア侵略でも使用された「スタウト」が8月18日に、それぞれ米国のノーフォーク海軍基地を出発している)(▼131)。

(7)2013年8月21日~:米国が、8月21日にアサド政権がダマスカス郊外のゴウタ(Ghouta)で化学兵器(サリンガス)を使用したと主張(▼120)。シリア政府は、化学兵器を使用したのは「反乱軍」であると抗議。

(8)2013年8月25日:ジョン・ケリー米国務長官が、シリアでの化学兵器使用に関する国連調査を中止するよう潘基文・国連事務総長に要求(するが失敗)(▼132)。

(9)2013年8月31日:オバマによるシリア攻撃演説。


<メモ>

 時系列に並べてみると、なかなか見所が多いが、とりわけ(7)~(9)よりも(6)が先行していること、すなわち、シリア攻撃の決定的な理由であるとオバマが主張する「アサド政権による化学兵器の使用」より一週間以上も前から、米国がシリア沖の東地中海および紅海、ペルシア湾へ海軍を展開し、シリアへの空爆準備を進めていたことは注目に値するだろう。ちなみに、オバマはシリアへの地上侵攻には否定的である(ように装っている)が、「サン・アントニオ」は米国最新の強襲揚陸艦で、トマホークミサイルによる攻撃に加えて、(単艦での)地上軍の展開も可能である。

 ところで、化学兵器の使用をめぐる今回の国連シリア調査団の報告は、9月中旬になされる見込みだが、調査団の権限は「化学兵器が使われたかどうか」を調査することに限定され、信じがたいことに「だれが使ったか」を調査することではないという(▼120)。これは、米国が前回(上記(4))の「失敗」を踏まえて国連に圧力をかけた結果と言ってよいと思うが、ケリーはそうした調査にさえ中止の圧力をかけているのだから、米政府が入手したという「証拠」がいったいどれだけお粗末なのか、逆に興味深くなってくるほどである。


<米政府の「証拠」に関して>

 というわけで、米政府が入手した「証拠」なるものをざっと紹介してみる。

・ジョン・ケリー米国務長官は、アサド政権がサリンガスを使用した証拠として、「サリンの特徴に陽性反応を示した毛髪と血液のサンプルを入手した」と述べている(▼133)。当たり前のことだが、「サリンの特徴」と「サリン」は同じものではなく、典型的な有機リン系農薬も「サリンの特徴に陽性反応を示」すため(▼134)、検査結果自体がすこぶる胡散臭い。仮に検査結果が正しい場合も、なぜこれが「アサド政権がサリンを使用した」証拠と言えるのか、そもそも謎である。

・(その謎を解くかもしれない)米政府のもう一つの証拠が、モサドの報告書である。モサドは「正体不明のシリア政府軍将校の通話をいくつか盗聴して、シリア軍がサリンのような神経ガスを用いた化学兵器攻撃を行ったらしい」ことを突き止めたと主張している(▼135)・・・。


<背景>

 なぜこの時期にオバマがシリアへの直接軍事攻撃を言い出したのかについてだが、一つには最近のシリア情勢で政府軍の優勢が続き、(パトロンであるNATO側諸国の思惑ほどには)「反乱軍」がシリアを破壊できずにいることが挙げられると思う。さらに、(以前にもまして)「反乱軍」の芳しくない行為が次々に明らかになってきたことも無視できない。ネットで検索すればうんざりするほど出てくるが、例えば「反乱軍」が政府軍兵士を殺害して、遺体の臓器を見せしめに食べていた(▼136)、などといった報道は、「洗練」された帝国主義を旨とする欧米諸国にとっては、あまり見栄えがよいものではないだろう。


<結論>

 「アサド政権が化学兵器を使用した」証拠は存在しない。逆にシリアでの一連の「化学兵器攻撃」は、NATO側諸国および「反乱軍」の関与が濃厚である。



▼120 CNN, オバマ大統領、対シリア軍事行動の意向 議会に承認求める, 2013年9月1日, http://www.cnn.co.jp/usa/35036636.html, http://www.cnn.co.jp/usa/35036636-2.html

▼121 9月5・6日に開催された「G20」首脳会議に限っても、米国のシリア攻撃に対しては、中国、インド、インドネシア、ブラジル、ロシア、イタリア、南アフリカ、アルゼンチンの8カ国が抗議をしている(明確な賛意を示したのは、フランス、トルコ、英国、カナダ、サウジアラビアの5カ国)。

The Voice of Russia, プーチン大統領、G20を総括して, 2013年9月6日, http://japanese.ruvr.ru/2013_09_06/120942796/

▼122 毎日新聞, ロシア:ソチ五輪狙いテロ予告 イスラム勢力司令官が声明, 2013年7月4日, http://mainichi.jp/select/news/20130704ddm007030168000c.html

▼123 ウィリアム・ブルム著『アメリカの国家犯罪全書』(作品社、2003年)からごく一部を引用する。

 「米軍は、一九四九年から六九年まで、全米で人々が住んでいる二三九の地域にさまざまな有機体を放ち、空中での拡散パターン、天候の影響、適用量、有機体の最適配置などを測定する実験を行なった。一九六九年以降は、居住地域での実験は中断されたことになっているが、それが確かかどうか知るすべはない。〔中略〕
 以下に、一九四九年から六九年まで行なわれていた実験の例をいくつか挙げてみよう。」(p.198)

ミネアポリス
 一九五三年。ミネアポリスの四つの地域に「硫化亜鉛カドミウム」が六一回放たれた。これにより、住宅地域の人々や学校にいた子どもたちが、多数、硫化亜鉛カドミウムにさらされた。
 〔中略〕硫化亜鉛カドミウムにさらされると、肺の損傷や急性腎臓炎、脂肪肝などの症状が引き起こされるという。」(p.199)

ワシントンDC周辺
 一九五三年。七五フィート〔約二三メートル〕上空から「硫化亜鉛カドミウム」と「ヒゲノカズラ」〔シダの一種〕の胞子がスプレーで放出された。放出範囲は、メリーランド州のモノカシー川渓谷から、ワシントンDCから三〇マイル〔約五〇キロメートル〕のバージニア州リースバーグにまで及んだ。
 一九六九年、軍はメリーランド州ケンブリッジ近くで、一一五回にわたり硫化亜鉛カドミウムの屋外実験を行なった。」(p.200)

ニューヨーク市
 一九六六年六月六~一〇日。米軍の報告によると、このときの実験は「生物兵器による秘密攻撃に対するニューヨーク市地下鉄乗客の脆弱性に関する研究」と名付けられていた。何兆という「枯草菌」がラッシュアワーの地下鉄に放たれた。ばら撒くのには、菌を詰めた電球が使われた。電球を歩道から地下鉄の換気口に投げ込む。電球は粉々に砕け通行の邪魔にはならない。また、駅構内の路床に投げ込まれたこともあった。〔中略〕地下鉄が通るとバクテリアは拡散した。二台の地下鉄が通る間に、バクテリアは、一五番街から五八番街まで広まった。実験台にされた市民のどれだけがのちに病気になったかはわからない。米軍は、それについてはまったく興味はなかったのである。」(pp.201-201)

シカゴ
 一九六〇年代。米軍により、同様の実験がシカゴの地下鉄でも行なわれた。」(p.202)

対人直接実験
 アメリカ政府は、歴史上最大級の規模で、医学的に危険ないしは非倫理的な実験をアメリカ市民に対して行なっている。第二次世界大戦以来、何十年にもわたって、米国政府は、文字通り何百万人もの一般市民および軍人を被験者として利用してきた。目的は、次のような物質の人体に対する影響を調べるためである。
 (a) 神経ガスを含む諸種の化学物質や生物教材。
 (b) 放射性物質。プルトニウムを注射された人も多い。
 (c) 精神作用を及ぼすLSDなどの幻覚性物質やさまざまな混合薬。
 実験台としては、政治的に発言力のない人々が選ばれた。軍兵士や良心的兵役拒否者、囚人、黒人、貧困層、精神薄弱者、老人、若者、精神障害者などである。
 「『これはちょっとした混合薬で、使うと気分がよくなる』。ヘレン・ハッチソンは、一九四六年七月、バンダービルト大学病院出産前診療所で診察を受けた際に、医師が言ったこの言葉を回顧している。気分はまったくよくならなかった。『薬』には放射能を帯びた鉄が含まれていたのである。彼女は、二年間にわたってさまざまな実験薬を投与された八二九人の一人だった。ハッチソンと当時お腹の中にいた娘は、一生にわたって奇妙な病気に冒されることになった。ある時から彼女の頭髪は抜け落ちはじめ、悪性貧血に悩まされたのである。日光に過剰反応を起こした。成人となった彼女の娘は、免疫不全と皮膚癌にかかっている」。」(pp.203-204)

▼124 同じく『アメリカの国家犯罪全書』より一部抜粋。

南北朝鮮
 米国は朝鮮に大量のナパーム弾を投下している。一九五二年には一日平均七万ガロン〔約二六万五〇〇〇リットル〕であった。
 さらに、米軍が一九六七年から一九六九年にかけて、南北朝鮮国境非武装地帯の南側二万三六〇七エーカー〔約九五五三万平方メートル〕に枯葉剤を散布したことが、一九八〇年に初めて明らかにされた。植物を一掃し、北朝鮮からの侵入を防ぐためだという。」(p.186)

ベトナム
 一九六〇年代前半から約一〇年にわたって、米国は南ベトナムの三〇〇万エーカー〔約一二一億五〇〇〇万平方メートル〕以上に除草剤を散布した(ラオスとカンボジアでも除草剤を使った)。除草剤、なかでも特に大量に使用された枯葉剤によって、ベトナムの国土は五〇〇ポンド〔約二二七キログラム〕ものダイオキシンで汚染された。ダイオキシンは世界で最も毒性が高い物質の一つであり〔中略〕ニューヨークの住民を全滅するためには、約一〇〇グラムを水道に混ぜれば充分であると考えられている。
 二〇〇万人ものベトナム人がこうした毒物の被害を受けている(アメリカ兵も何千人もが被害を受けている)。枯葉剤にまみれた地域では出生異常の発現率が異常に高く、文書報告はないが、ベトナム政府は五〇万人近い子どもたちの出生異常がさまざまな化学物質により引き起こされていると推定している。こうした健康への被害について、米国は、ベトナムの人々にも政府にも、まったく賠償金を支払っていない。
 米軍はさらに、CSガスやDMガス、CNガスといった催涙ガス類も用いた。〔中略〕米国は、ほかにも、ベトナムで、ナパーム弾やナフタリン火炎放射器を用いている。」(pp.186-187)

ラオス
 一九七〇年九月、ラオスで「追い風作戦」を遂行していた米軍は、ある村のキャンプを攻撃する際、村への侵入を容易にするために噴射式サリン神経ガス(「CBU-15」あるいは「GB」と言われているもの)を使用した。この侵攻の目的は、そこにいると思われた脱走アメリカ兵たちを殺害するというものだった。作戦は一〇〇名の兵士と文民を殺すことに成功した。そのうち少なくとも二名がアメリカ兵だった。攻撃開始前のサリン・ガスで殺された人がどのくらいで、攻撃自体で殺された人がどのくらいかはわかっていない。」(pp.187-188)

▼125 同上

エジプト
 米軍が、外国の専門家に、化学兵器・生物兵器について永年にわたり指導してきたことが、一九六九年に明らかにされた。エジプトやイスラエル、イラク、ヨルダン、レバノン、サウジアラビア、ユーゴスラビア、南ベトナムなど、合計三六カ国の五五〇名がアラバマ州のフォート・マクレランにある米軍化学学校のコースを受講していた。一九六七年、エジプトの専門家がイエメンに対してアメリカから得た毒ガス攻撃の新たなノウハウを適用したと言われている。エジプト軍がイエメン上空から毒ガス筒を投下したことを、国際赤十字が確認したのである。その後、米国国防情報局もこれを認めた。およそ一五〇人の村人たちが、これにより喉を詰まらせ、咳き込み、血を吐いて死亡した。」(p.207)

南アフリカ
 一九九八年、「真実と和解委員会」でなされた証言によると、米国は、南アフリカのアパルトヘイト政権に、黒人住民への化学兵器と生物兵器の利用を奨めたという。一九八一年に開始されて以来、このプロジェクトを率いてきた南アフリカの将軍ウーター・バッソン博士は、米軍のウィリアム・アーガーソン少将との会談に関するメモに基づき、次のように証言した。
「彼〔アーガーソン少将〕は、化学兵器が最も理想的な戦略兵器であると考えている。生きている人間だけを殺し、インフラと設備は影響を受けないからだ。アフリカの温暖な気候は化学兵器による攻撃に適している。毒の拡散が促され、標的となる人間の発汗作用と活発な血液循環によって吸収も促進されるからである」。
 南アフリカにおける化学兵器・生物兵器計画は、米国の計画を真似た多くのプロジェクトによって進められた。黒人兵士を薬物の実験台に使ったり、「自然死」に見えるような心臓発作を引き起こす毒物を開発したり、病原菌を飲料水に混入したり、南アフリカ内および近隣諸国で反対派を殺害したり麻痺させるためにさまざまな毒ガスを用いたり、などである。」(p.208)

▼126 Elise Labott, Sources: U.S. helping underwrite Syrian rebel training on securing chemical weapons, CNN, 9 December 2012, http://security.blogs.cnn.com/2012/12/09/sources-defense-contractors-training-syrian-rebels-in-chemical-weapons/

▼127 Louise Boyle, U.S. 'backed plan to launch chemical weapon attack on Syria and blame it on Assad's regime', Daily Mail, 29 January 2013, http://web.archive.org/web/20130130091742/http://www.dailymail.co.uk/news/article-2270219/U-S-planned-launch-chemical-weapon-attack-Syria-blame-Assad.html

▼128 AFP, 国連のシリア化学兵器調査団、常任理事国の科学者を排除, 2013年3月27日, http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2936022/10506022

▼129 Reuters, U.N. has testimony that Syrian rebels used sarin gas: investigator, 5 May 2013, http://articles.chicagotribune.com/2013-05-05/news/sns-rt-us-syria-crisis-unbre94409z-20130505_1_chemical-weapons-sarin-syria

▼130 Michel Chossudovsky, Israeli Intelligence News: Syria Rebels Possess Chemical Weapons, US-NATO Delivering Heavy Weapons to the Terrorists, Global Research, 22 June 2013, http://www.globalresearch.ca/israeli-intelligence-news-acknowledges-that-syria-rebels-possess-chemical-weapons-us-nato-delivering-heavy-weapons-to-the-terrorists/5340033

▼131 Michel Chossudovsky, US and Allied Warships off the Syrian Coastline: Naval Deployment Was Decided "Before" the August 21 Chemical Weapons Attack, Global Research, 2 September 2013, http://www.globalresearch.ca/massive-naval-deployment-us-and-allied-warships-deployed-to-syrian-coastline-before-the-august-21-chemical-weapons-attack/5347766

▼132 Gareth Porter, In Rush to Strike Syria, U.S. Tried to Derail U.N. Probe, IPS, 27 August 2013, http://www.ipsnews.net/2013/08/in-rush-to-strike-syria-u-s-tried-to-derail-u-n-probe/

▼133 Michael Doyle, Kerry says it was sarin gas in Syria; Congress questions US stake, McClatchy, 1 September 2013, http://www.mcclatchydc.com/2013/09/01/201005/kerry-says-it-was-sarin-gas-in.html#.UisMc39t9Ig

▼134 Global Research News, Fake Media Reports on the Use of Sarin. Evidence Is Inconclusive, Global Research, 2 September 2013, http://www.globalresearch.ca/fake-media-reports-on-the-use-of-sarin-evidence-is-inconclusive/5347621

▼135 Rodrigue Tremblay, Syria: Another Illegal War of Aggression based on Manipulation and Fake Intelligence, Global Research, 4 September 2013, http://www.globalresearch.ca/syria-another-illegal-war-of-aggression-based-on-manipulation-and-fake-intelligence/5348017

▼136 Ruth Sherlock, Syrian rebel defends eating dead soldier's organs as revenge, Telegraph, 14 May 2013, http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/middleeast/syria/10057420/Syrian-rebel-defends-eating-dead-soldiers-organs-as-revenge.html

「人道的侵略」産業とシリア(5)

■目次:
(1) はじめに
(2) 「アラブの春」という嘘(1)
(3) サルバドル・オプション――NATO側諸国からシリアへの「死の部隊」移設作戦
(4) 「戦争賛成左翼」への道――ジルベール・アシュカルとその植民地主義的利用者たち
(5) シリア近況メモ(2012年11月14日)


(5) シリア近況メモ(2012年11月14日)

 記事の更新が恐ろしく滞っているうちに、ついにトルコ正規軍によるシリアへの越境攻撃が始まってしまった。10月3日、トルコ南東部・シリア国境付近のアクチャカレで、シリア側から飛来した(とされる)砲弾によって5人が死亡する事件が起こると、トルコ政府は即刻アサド政権を非難し、国境地帯のシリア側に10キロメートルの「緩衝帯」を設けるために、シリアへの砲撃と空爆を公然と開始したのである(▼79)(▼80)。さらに、この砲撃を奇貨として、トルコはシリア国境に位置する南部キリス県へのパトリオットの配備を近くNATOに要請する予定で、配備が実現すれば、シリア第二の都市アレッポが射程内に入ることになる(▼81)。

 例によって、この砲撃がシリア軍によるものであるとの証拠(を示すメディア)は皆無で(▼82)、10月3日付の「ニューヨーク・タイムズ」記事(▼83)も、「トルコに直撃した砲弾を撃ったのが、政府軍であったのか、アサド政権を転覆すべく戦っている反乱軍であったのかは不明であるが、トルコ政府は砲撃がシリア政府軍によるものであると信じている――とトルコ専門家は語る」などと、なかなか面映い報道をしていた。ちなみに、「第2ドイツテレビ」(ZDF)は、トルコ国旗とシリア反体制派の旗(フランス植民地時代に用いられた旗の一つ)がたなびく――シリア国旗はまったく見当たらない――現地映像(▼84)を公開して、砲撃が「自由シリア軍」(FSA)によるものであると断じている。なお、問題の迫撃砲弾はシリア反乱軍が愛用しているタイプのものであるという(▼85)。

 すでに述べたように、イスラエルの同盟国であるトルコは、以前から「自由シリア軍」(FSA)の主要な拠点であり、トルコの情報機関工作員や特殊部隊もシリアに多数潜入して(シリア軍に拘束されたりして)いる(▼57)。けれども、それらはあくまで「公然の秘密」であったわけで、正規軍がシリアに侵攻するという事態は、従来とはまったく別の意味を持っている。それは、トルコを加盟国とするNATOが、事実上いつでも「集団自衛権の発動」という名目でシリアを直接軍事攻撃できるということに他ならない。10月10日のブリュッセル会議におけるラスムッセンNATO事務総長の発言――「明らかにトルコはNATOの結束を信用し得る」――が、それを端的に語っている(▼86)。

 トルコ軍のシリア侵攻と連動して、NATO側諸国の挑発はますます過激化している。オバマは議会への通告なしに(▼87)、150人規模の特殊部隊をシリア国境付近のヨルダン領に配備して、シリアへの直接軍事攻撃の可能性を公言しているし(▼88)、同規模の英軍も(フランス軍も?)ヨルダンの米軍に合流している(▼89)。米国はトルコおよびイラクにも軍隊を(再)配備しており(▼90)(▼91)、さらに10月下旬から約3週間にわたってイスラエルとの過去最大規模の軍事演習を実施している(▼92)。

 トルコ軍の砲撃と空爆によってシリア側にはすでに多数の死者が出ているが(▼79)(▼80)、シリアはいまや北のトルコだけでなく、南のヨルダンおよびイスラエル、東のイラクによって、ほぼ完全に包囲された形になるわけだ(西は地中海)。トルコ国内には実に24ものNATOの軍事基地があり、10月31日付のトルコ紙「ヒュッリイェト」(▼93)は、欧州駐屯米軍司令部(EUCOM)の代表団20人が、シリアへの軍事攻撃を見据えて、国内のNATO空軍基地を2日間視察したことを報じている。「自由シリア軍」(FSA)が、10月26日から予定されていた一時停戦を無視して、当日早朝から各地で一斉にテロ攻撃を仕掛けてきたのも、こうした文脈においてである(▼94)。オバマ政権は、表沙汰になっている分だけでも、1億7500万ドルもの巨額の資金を、その大半はシリア人ですらないシリア「反体制派」に注ぎ込んでいるという(▼95)。


 ところで、今日のシリア情勢は、1957年に画策された米英「秘密文書」のシナリオの、かなり見事な実演であると言えるだろう。当時、アイゼンハワー大統領とマクミラン首相は、「中東の石油に対する欧米諸国のアクセスを妨げている」シリアの体制転覆を図るために、以下のような「秘密文書」を交わしているのである(▼96)。

(1)シリアの反体制派に軍事支援を施し、「自由シリア協議会」(FSC)を設立する。

(2)CIAおよびSIS〔英情報局秘密情報部。MI6の前身〕が秘密裏に介入・煽動して、シリア各地で蜂起・破壊活動・襲撃事件を起こす。さらに、大統領を含むシリア政府・軍部の要人を暗殺して、シリアを不安定化させる。

(3)国境地帯での紛争を捏造し、シリア隣国で強度の武装活動を行い、その責任をシリア政府になすりつけることで、親欧米の隣国諸国(トルコ、イラク、ヨルダン)をシリアに侵攻させる口実とする。

 ・・・と、まあこんな具合である。当時この陰謀は、周辺アラブ諸国が米英の笛に合わせて踊り出さなかったために挫折したのだが、今日では若干のアップデートを経てほぼ原案通り実行されつつあるように見える。

(1)’「自由シリア協議会」(FSC)は(おそらくよりモダンな)「シリア国民評議会」(SNC)へと名義変更を遂げ、さらに「シリア国民連合」へと発展的解消(?)を遂げようとしている。

(2)’シリアでは7月中旬に限っても、ダーウドゥ・ラージハ国防相、アシフ・シャウカトゥ副国防相、ハッサン・トゥールクマーニー将軍(副大統領補佐)らが計画的なテロ攻撃で暗殺されている(▼97)。オーストラリアのボブ・カー外相は、率直にもアサド大統領の暗殺を奨励する台詞――「〔アサド大統領の〕暗殺はシリアの平和運動の必須条件であると思われる」――を口走っている(▼98)。

(3)’前出のトルコ国境地帯での砲撃事件に加えて、最近のレバノン・ベイルートでの爆破事件が示唆的である。10月19日、ベイルートのキリスト教地区で爆破事件が起こり、少なくとも8名が死亡、約80名が負傷した。レバノンでは親欧米の政治家やメディア――例えば「レバノン・ナウ」(▼99)――がこぞってアサド政権の関与を騒ぎ立てているが、例によって何の証拠もなく、むしろ「自由シリア軍」(FSA)のシリア国内キリスト教地区におけるテロ攻撃との類似性が指摘されている(▼100)。10月21日にもベイルートのキリスト教地区で同様の爆破事件が続き、13名が殺害された(▼101)。


 さらに、今日のシリア情勢には当時存在しなかった発明品――「人道的介入」/「保護する責任」――と、それに伴うNATO側諸国リベラル・左派の途方もない頽廃が加わっている。ドイツ「緑の党」創設メンバーの一人で、当時のドイツ外相であったヨシュカ・フィッシャーが、「アウシュヴィッツと闘う」ための戦争という奇怪な論理によって、ナチスドイツの被害民族であるセルビア人に対するNATOの空爆を正当化してから10年あまりで(▼102)、「人道的介入」という名の帝国主義的侵略は、NATO側諸国リベラル・左派のメインストリームになってしまった感がある。

 欧州議会「緑の党グループ」の現共同代表ダニエル・コーン=ベンディット(ダニエル・コーン=バンディ)は、「人道的介入」を初期から唱道していた代表的な左派であるし、リビアへの空爆を事実上決定づけた2011年3月の「国連安保理決議1973」に棄権票を投じたドイツ政府の「弱腰」を激しく攻撃したのも、フィッシャーを筆頭とする、社会民主党および「緑の党」の面々だった。ドイツ「緑の党」現共同代表のクラウディア・ロスも、テレビ討論に出演して、アサド政権との交渉を擁護するあらゆる意見をことごとく黙らせる快進撃を見せているようだから、2013年の選挙で社会民主・緑連合がもし政権に就けば、ドイツは間違いなく保守・右派連立の現政権よりも第三世界への軍事介入を強めるだろうと思われる(▼103)。同様に、「人道的介入」が問われる局面において、いわゆる「進歩的」な「独立メディア」が保守的な企業メディアよりも遥かにひどいプロパガンダを垂れ流している例も事欠かない(▼104)。

 ちなみに、アサド大統領を暗殺したくて堪らない政治家の一人がフランス前大統領サルコジであったことはすでに報じられているが(▼98)、サルコジ後任の「社会主義者大統領」フランソワ・オランドも、シリアへの「自由区域」(=NATO側諸国による空爆拠点。「飛行禁止空域」、「管理区域」、「緩衝地帯」、「保護地域(聖域)」、「人道的回廊」・・・の同義語)の設置を主張し、国連の対応を「衝撃的な無為無策」であるとののしり(▼105)、シリアへの直接軍事介入もありうると発言するなど(▼103)、サルコジとの違いはよくわからない。

 フランスはかつてシリアを植民地支配していた時代にも、マダガスカルやモロッコ、セネガルなどのフランス帝国の植民地兵士と、アルメニアやチェルケスの傭兵らを利用して、シリア各地の独立運動を徹底的に弾圧し、熾烈な空爆と砲撃を加えて無差別殺戮を行ってきた。そのフランスが今日、NATOの傭兵によるテロリズムと、あわよくばNATOによる空爆を通じて、シリアの自決権を再び粉砕しようとしていることは、旧「宗主国」が旧植民地国に対して歴史的にいかに一貫して侵略的であり続けているかを物語っている。

 トルコでは自国軍によるシリア侵攻が始まった翌日の10月4日に、イスタンブールで数万人規模の反戦デモが行われるなど、民衆による反戦運動が高まっているが(▼79)、日本を含む旧「宗主国」(侵略国)はそれぞれの流儀に応じてトルコ政府にゴーサインを送っている(▼106)。リビアを空爆・侵略して数万人を殺戮したNATO擁するEUが今年のノーベル平和賞を受賞したことも、こうした帝国主義的流儀の予定調和なのだろう。


 ところで、今さらではあるが、シリア「反体制派」がテロリストの巣窟であることは、ついにマスメディアも請け負うところとなっている。BBCと「ニューヨーク・タイムズ」は、政府から削除を命じられた動画ニュース(▼107)で、「自由シリア軍」(FSA)が300キロの爆弾を積んだトラックを捕虜に運転させ、アレッポの検問所で遠隔起爆して、捕虜を無自覚の「自爆テロリスト」に仕立て上げようとして失敗する一部始終――起爆装置が作動せず落胆するFSA兵士の表情まで――を暴露しているし、「ワシントン・ポスト」は11月1日付の記事(▼108)で、シリア反乱軍が非武装・無抵抗の民間人を拷問・殺害し、自らの戦争犯罪を得意気に撮影してYouTubeにアップしたことを、批判的に報じていた(▼109)。さらにトルコ紙「ユルト」(Yurt)の報道によれば、FSAはシリアの民間人と政府軍兵士を誘拐・殺害して臓器の密売に勤しんでおり、遺体の引き渡し代を遺族に要求することさえあるという(▼110)。

 さすがに外聞が悪すぎるためか、オバマ政権は最近になってシリア「反体制派」の首のすげ替えによる「チェンジ」を図ることにしたようだ。ヒラリー・クリントン米国務長官いわく――どの口が言えるのかわからないが――「20~30年、あるいは40年もの間シリアにいもしない」人々はシリアの代表に相応しくないので、「我々は『シリア国民評議会』(SNC)をもはや反体制派の明白なリーダーとは見なせないことに決めた」(▼111)そうである。

 この計画は、反体制派でごく最近までシリアにいた(現在はシリアにいない)、米国の新たな代理人たるネオリベ富豪の名にちなんで「リヤード・セイフ・プラン」と命名され、さらに「サルバドル・オプション」の立役者であるロバート・S・フォードが「反体制派」のリストラおよびリクルートに再び采配を振り(▼112)、その結果(米大統領選挙後の)11月11日に「シリア国民連合」がカタール・ドーハの豪奢なホテルに納品されたのであった(セイフは「シリア国民連合」の共同副代表に納まった)。試みに「シリア国民連合」の「綱領」の一節を読み上げてみよう――「〔アサド〕政権とのいかなる対話および交渉にも応じない」(▼113)――以上。

 オランドはこの「シリア国民連合」をいち早く「シリア国民を代表する唯一の組織」として承認し、「フランスだけでなくシリア国民連合を承認する全ての国の政府が・・・同連合への武器供与を検討すべきだ」と息巻いている(▼114)。もっとも、「シリア国民評議会」(SNC)についても、米国を始めNATO側諸国が完全に用済みとするはずはなく(▼115)、「反体制派」の一翼として――すなわち汚れ役として――どこまでも利用していくつもりだろう。


【追記1】 「シリア国民連合」が発足した11月11日から、イスラエル軍がシリア領への砲撃を続けていることも、予断を許さない局面である。イスラエル軍は、この一連の攻撃を、ゴラン高原――イスラエル占領下のシリア領――に飛来した(とされる)砲弾への「報復」であるとしている(ただしイスラエル側に死傷者はいない)が、イスラエル軍は同時にガザへの大規模な空爆・砲撃を展開して、パレスチナ人を多数死傷させている(▼116)。イスラエルのパレスチナ、シリアへの攻撃が米大統領選挙後に加速していることは明らかであり、オバマ自身も勝利を祝して再選後まもなくイエメンを爆撃する(▼117)など、帝国主義者ぶりに磨きをかけている。


【追記2】 前ICC(国際刑事裁判所)主任検察官のルイス・モレノオカンポ(アルゼンチンの弁護士)は、11月9日、CBC(カナダ放送協会)のインタビュー(▼118)に応じて、ICCはNATOの軍事力の行使――シリアへの直接侵攻または空爆――を通じてアサド大統領を逮捕・起訴するべきであると主張した(▼119)。(NATO首脳ではなく)アサド大統領の訴追というのは、日本のリベラル・左派がいかにも好みそうな「落としどころ」であり、帝国主義的侵略におけるNATOとICCとの癒着――ユーゴスラヴィア、アフガニスタン、イラク、ルワンダ、ソマリア、リビア、パレスチナ・・・における「彼ら」の訴追と「我々」の免責――が全面化している現在、極めて警戒すべき悪質な言説であると思う。



▼79 Chris Marsden, Mass protest against threatened Turkey-Syria war, World Socialist Web Site, 6 October 2012, http://www.globalresearch.ca/mass-protest-against-threatened-turkey-syria-war/5307482

▼80 Continuous Turkish artillery barrage cuts out 10-km buffer strip inside Syria, DEBKAfile, 4 October 2012, http://www.debka.com/article/22404/Continuous-Turkish-artillery-barrage-cuts-out-10-km-buffer-strip-inside-Syria

 リンク切れになってしまったが、本文は以下から読むことができる。

 FreeRepublic.com, http://www.freerepublic.com/focus/f-news/2940235/posts

▼81 NATOにミサイル配備要請へ トルコ、シリアへ圧力, 日本経済新聞, 2012年11月8日, http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM08032_Y2A101C1EB1000/

▼82 Michel Chossudovsky, Turkey Already Waging War on Syria, Global Research TV, 8 October 2012, http://tv.globalresearch.ca/2012/10/turkey-already-waging-war-syria

▼83 Turkey Strikes Back After Syrian Shelling Kills 5 Civilians, New York Times, 3 October 2012, http://www.nytimes.com/2012/10/04/world/middleeast/syria.html?pagewanted=2&_r=3&smid=tw-share&

▼84 heute in europa, ZDF, 4 October 2012, http://www.zdf.de/ZDFmediathek/beitrag/video/1745802/heute-in-europa-vom-04102012

 件の旗が登場するのは動画の01:11-01:13にかけてである。なお、英語での説明は以下から読むことができる。

 Syria FSA Terrorists Behind "False Flag" Attack against Turkey, Global Research, 5 October 2012, http://www.globalresearch.ca/syria-fsa-terrorists-behind-false-flag-attack-against-turkey/5307301

▼85 Tony Cartalucci, Turkey Attempts to Trigger a NATO-led War against Syria, Land Destroyer Report, 3 October 2012, http://landdestroyer.blogspot.jp/2012/10/turkey-attempts-to-trigger-war-vs-syria.html

▼86 Chris Marsden, Turkey leads US-sponsored Military Encirclement of Syria, World Socialist Web Site, 18 October 2012, http://www.wsws.org/articles/2012/oct2012/syri-o18.shtml

▼87 America Close to War with Syria: Obama Deployed US Troops to Jordan "Without Notifying Congress", Global Research, 13 October 2012, http://www.globalresearch.ca/america-close-to-war-with-syria-obama-deployed-us-troops-to-jordan-without-notifying-congress/5308151

▼88 Bill Van Auken, In Preparation for Wider War, Pentagon deploys Task Force in Jordan, World Socialist Web Site, 11 October 2012, http://www.wsws.org/articles/2012/oct2012/task-o11.shtml

▼89 British Troops Join US Forces on the Jordan-Syria Border, Global Research, 14 October 2012, http://www.globalresearch.ca/british-troops-joined-us-forces-on-the-jordan-syria-border/5308154

▼90 Dempsey: US sent troops to Turkey many times to assist in anti-terror efforts, Trend News Agency, 26 October 2012, http://en.trend.az/regions/met/turkey/2080993.html

 正確な数は不明だが、欧州駐屯米軍(EUCOM)司令官のマーク・ハートリング中将が最近「比較的少数」の米軍をトルコに配備したことを認めている。

▼91 Jack Kenny, U.S. Troops Deployed in Iraq Again, The New American, 27 September 2012,
http://www.thenewamerican.com/usnews/foreign-policy/item/13000-us-troops-deployed-in-iraq-again

▼92 US, Israel carry out largest joint military exercise as violence flares on Gaza border, Fox News, 24 October 2012, http://www.foxnews.com/us/2012/10/24/us-israel-carry-out-largest-joint-military-exercise-as-violence-flares-on-gaza/

▼93 Operasyonel mekanizmada ilk adım [The first step through the operational mechanism], Hurriyet, 31 October 2012, http://www.hurriyet.com.tr/gundem/21820659.asp
 
英語での説明は以下から読むことができる。

 Cem Ertür, NATO airbase in Turkey to assume a central role in a possible war on Syria, Global Research, 3 November 2012, http://www.globalresearch.ca/nato-airbase-in-turkey-to-assume-a-central-role-in-a-possible-war-on-syria/5310474

▼94 Syria: US-NATO Sponsored Rebels break the Cease Fire, Global Research, 26 October 2012, http://www.globalresearch.ca/syria-us-nato-sponsored-rebels-break-the-cease-fire/5309787

 停戦を先に破棄した(というより端から守らなかった)のが「自由シリア軍」(FSA)の側であったことは、いくら強調しておいてもよいだろう。

▼95 Shamus Cooke, Western Powers Double Down on Syria's Destruction, Global Research, 1 October 2012, Global Research, October 01, 2012, http://www.globalresearch.ca/western-powers-double-down-on-syrias-destruction/5306684

▼96 Ben Fenton, Macmillan backed Syria assassination plot: Documents show White House and No 10 conspired over oil-fuelled invasion plan, The Guardian, 27 September 2003, http://www.guardian.co.uk/politics/2003/sep/27/uk.syria1

▼97 シリアの首都で爆弾攻撃、国防相ら死亡 アサド政権に打撃, AFP, 2012年07月19日, http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2890360/9264449

▼98 Michel Chossudovsky, Syria: Is the West Contemplating the Assassination of President Bashar Al Assad?, Global Research, 9 October 2012, Global Research, http://www.globalresearch.ca/syria-is-the-west-contemplating-the-assassination-of-president-bashar-al-assad/5307664

▼99 Enough!, NOW Lebanon, 20 October 2012, http://www.nowlebanon.com/NewsArticleDetails.aspx?ID=448572

▼100 Michel Chossudovsky, The War on Lebanon and the Battle for Oil, Global Research, 21 October 2012, http://www.globalresearch.ca/the-war-on-lebanon-and-the-battle-for-oil/2824

▼101 Niall Green, Lebanon bombings linked to war in Syria, Global Research, 22 October 2012, http://www.globalresearch.ca/lebanon-bombings-linked-to-war-in-syria/5309122

▼102 北沢洋子, ドイツの軍国主義, 世界の底流, 2009年8月2日, http://www.jca.apc.org/~kitazawa/undercurrent/2009/militarism_germany.htm

▼103 Benjamin Schett, Europe's Pro-War Leftists: Selling "Humanitarian Intervention", Global Research, 21 September 2012, http://www.globalresearch.ca/europes-pro-war-leftists-selling-humanitarian-intervention/5305583

▼104 例えば、「デモクラシー・ナウ!」はハンギョレ以上にアルジャジーラとズブズブで、シリアに関してもNATO側諸国の侵略を煽る犯罪的プロパガンダを続けている。「デモクラシー・ナウ!ジャパン」代表の中野真紀子は、アルジャジーラを「アラブ世界に福音をもたらした放送局」と絶賛し、NATOのリビア空爆によって数万人のリビア民衆が殺戮された後も、その評価を訂正していない。

 他方、その電子メールがウィキリークスに漏洩するような政府高官・大企業家の息がかかった「ストラトフォー」(Stratfor:米情報企業)は、シリア「反体制派」について(正しくも)次のように述べている。

 「〔シリア〕反体制派のより深刻な主張の大半は、ひどく誇張されているか、さもなくば真っ赤な嘘であることがすでに判明している。」

 「〔政府軍がホムスを包囲して、72時間以内に投降しなければ虐殺もやむなしとして、反体制派への転向者を脅したという――NATO側諸国メディアで喧伝された――反体制派の主張をめぐって〕虐殺の兆候は皆無であり・・・反乱軍は外国のリビア軍事侵攻を駆り立てた情勢を模倣すべく、あたかも虐殺が差し迫っているかのごとく演出することに色めき立っている。」

 「〔反体制派がほのめかす数々の「虐殺」はどれもありそうにない。なぜならアサド〕政権はまさにそうしたシナリオ・・・すなわち人道的な根拠に基づく介入を呼び込む恐れのあるシナリオを阻止するために、弾圧を抑制してきている〔からである〕。」

 William Blum, Syria, the story thus far, The Anti-Empire Report, 2 October 2012, http://killinghope.org/bblum6/aer109.html

▼105 Ilya Kharlamov, Syrian crisis: polarization of opinion, Voice of Russia, 27 Sep 2012, http://english.ruvr.ru/2012_09_27/Syrian-crisis-polarization-of-opinion/

▼106 日本政府は、トルコ軍によるシリア攻撃の後に発表した外務大臣談話において、「我が国は・・・引き続きトルコを含む国際社会と連携して,シリア政府への圧力を含め,外交努力を重ねる考えです」と述べている。

 シリア領内からトルコ領内への砲撃事件について, 外務省, 2012年10月4日, http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/24/dgk_1004.html

 オバマはシリア情勢をめぐってトルコのエルドアン首相と8月に電話会談を行った際、野球の大型バットを握り締めていた。この写真は(当たり前だが)トルコで大不評を被った。オバマの「ゴーサイン」は、しばしば嘘でしかない、その語り口ほど洗練されてはいなかったようである。

 President Obama speaks softly and carries a big baseball bat, Guardian, 6 August 2012, http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2012/aug/06/obama-baseball-bat-turkey

▼107 BBC Scrubs Video Of US Backed Syria Rebels Committing War Crimes, BBC NEWS, 23 August 2012, http://www.youtube.com/watch?v=A61RchMq9-c

▼108 Babak Dehghanpisheh, Syrian rebels execute unarmed government soldiers; dozens killed in fighting, Washington Post, 1 November 2012, http://www.washingtonpost.com/world/middle_east/syrian-rebels-reportedly-execute-unarmed-government-soldiers-more-than-two-dozen-others-killed-in-fighting/2012/11/01/460df3fa-2438-11e2-9313-3c7f59038d93_story.html

▼109 正確に言えば、「ワシントン・ポスト」は被害者を「非武装の政府軍兵士」としているが、撮影者は遺体に向けて「シャビーハ、アサドの犬」と罵っており(前掲「ワシントン・ポスト」記事に登場する二番目の動画の0:28-0:30)、被害者が政府軍兵士でないことを自ら明らかにしている。「シャビーハ」とは「アサド政権支持の民兵」を意味する言葉である(ということになっている)が、実際にはリビアの「黒人傭兵」と同様に、反乱軍が非武装・私服の民間人を殺戮し、かつそれを正当化するために被害者に負わせる便利なレッテルになっている。

 Tony Cartalucci, US-Backed Terrorists Mass Murder Unarmed Civilians in Syria, Land Destroyer Report, 2 November 2012, http://landdestroyer.blogspot.jp/2012/11/us-backed-terrorists-mass-murder.html

 この件については日本でも控えめに報道されている。

 シリア反体制派が要所制圧、政府軍兵士を「処刑」か, AFP, 2012年11月2日, http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2910376/9767193

▼110 Syrian Terrorists Involved in Illegal Human Organ Trade, Global Research, 16 October 2012, http://www.globalresearch.ca/syrian-terrorists-involved-in-illegal-human-organ-trade/5308534

▼111 Neil MacFarquhar and Michael R. Gordon, As Fighting Rages, Clinton Seeks New Syrian Opposition, The New York Times, 31 October 2012, http://www.nytimes.com/2012/11/01/world/middleeast/syrian-air-raids-increase-as-battle-for-strategic-areas-intensifies-rebels-say.html?_r=0

▼112 Stephen Gowans, Will Damascus Survive Washington's Latest Attempt to Impose a Puppet Government on Syria?, gowans.wordpress.com, 2 November 2012, http://gowans.wordpress.com/2012/11/02/will-damascus-survive-washingtons-latest-attempt-to-impose-a-puppet-government-on-syria/

▼113 Bill Van Auken, After the US Election, Syria War Threats Mount, World Socialist Web Site, 13 November 2012, http://www.wsws.org/articles/2012/nov2012/pers-n13.shtml

▼114 フランス、シリア国民連合を承認 武器供与の検討も, 2012年11月14日, AFP, http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2911851/9832648?ctm_campaign=txt_topics

▼115 国民評議会が議員倍増 シリア国内勢力を編入, MSN産経ニュース, 2012年11月6日, http://sankei.jp.msn.com/world/news/121106/mds12110614400002-n1.htm

▼116 Stephen Lendman, Israel Shells Syria and Gaza, Global Research, 13 November 2012, http://www.globalresearch.ca/israel-shells-syria-and-gaza/5311614

▼117 John Glaser, Obama Bombs Yemen Hours After Winning Reelection, Antiwar Blog,
7 November 2012, http://antiwar.com/blog/2012/11/07/obama-bombs-yemen-hours-after-winning-reelection/

▼118 Defiant Assad, CBC, 9 November 2012, http://www.cbc.ca/player/News/Politics/ID/2302716024/

▼119 Ken Stone, Waging an Illegal US-NATO Led War on Syria with the Endorsement of "International Criminal Law", Global Research, , 13 November 2012, http://www.globalresearch.ca/waging-an-illegal-us-nato-led-war-on-syria-with-the-endorsement-of-international-criminal-law/5311556

「人道的侵略」産業とシリア(4)

■目次:
(1) はじめに
(2) 「アラブの春」という嘘(1)
(3) サルバドル・オプション――NATO側諸国からシリアへの「死の部隊」移設作戦
(4) 「戦争賛成左翼」への道――ジルベール・アシュカルとその植民地主義的利用者たち


(4) 「戦争賛成左翼」への道――ジルベール・アシュカルとその植民地主義的利用者たち

【3/12 追記】 原稿執筆時には確認が間に合わなかったが、ジョン・マケインは3月5日の上院での演説で米国主導によるシリア空爆の必要性を叫び出していた。マケインはシリアの人権状況に関するヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の「警鐘」を受けて、「FSAなどの反体制派に対する軍事支援は依然として必要だが、この期に及んでは、軍事支援だけで〔シリア政府による〕虐殺を止め、無辜の市民を救うことはできない」と述べ、「目的を果たすための唯一現実的な方策は、外国軍による爆撃を実施することである」として、すでにリビア式「爆撃による体制変革」を煽動するに至っている。

 単純に考えれば、マケインが立場を変えたのは、3月に入ってシリア軍がホムスを奪還する(しつつある)など、NATOをスポンサーとする反体制派が比較的劣勢に置かれているからだろう。ZNetのコメントが示唆していたように、マケインはまさに(シリアの)「市民を守る」という名目で「爆撃による体制変革」を唱えているのである。マケインはホムスをベンガジに喩えているが、「戦争賛成左翼」がマケインとまったく同じ演説をどこかの「市民集会」で行っているとしても、特に不思議はないと思える。

 McCain calls for US-led airstrikes on Assad forces, msnbc.com
 http://worldnews.msnbc.msn.com/_news/2012/03/05/10584409-mccain-calls-for-us-led-airstrikes-on-assad-forces


 前回から時間が経ってしまったので、まずはこの間のフォローから。2月26日、シリアで新憲法案の是非を問う国民投票が実施され、投票率57%のうち89%の支持を得て承認された。新憲法案は、社会的連帯と
社会正義・自由・平等(ジェンダー・出身・言語・宗教・信条による差別の禁止)および個人の尊厳の保障に社会の基礎を置き、言論の自由とメディアの独立性、女性の政治的・経済的・社会的・文化的参加を保障し、新党の創設(うち7党は承認済み)、地方分権化・三権分立の促進、大統領選挙・国会議員選挙などに関する規定を定めている(▼56)。(シリアでこれまでに達成されてきた社会的連帯と社会正義・自由・平等および個人の尊厳の保障については後述する。)

 2月18日付のイスラエル紙『ハアレツ』(▼57)は、シリアで最近拘束された40人(!)ものトルコ情報機関工作員の証言として、彼らがモサドから訓練を受け、「シリアの治安を破壊すべく爆弾攻撃の実行」を指示されていたこと、さらにモサドが「自由シリア軍」(FSA)の兵士に直接訓練を施していることを伝えている。カダフィの虐殺を満面の笑みで祝福したヒラリー・クリントン米国務長官("We came, we saw, he died, hahaha")に至っては、2月26日のBBCのインタビュー(▼58)で、アルカーイダなどの米国認定「テロ組織一覧表」の登録団体が(米国とともに)シリアの反体制派を支援している旨を堂々と認めている(▼59)。

 シリア国民投票の57%の投票率と、約9割の賛成率は、NATO側諸国をスポンサーとする反体制派の執拗なテロ攻撃と選挙妨害の最中にあって――例えば、2月9日から28日までの間に、シリアでは18の病院と48の保健所、129台もの救急車が襲撃され(▼60)、2月10日には第二の都市アレッポで治安機関を狙った2件の自動車爆弾テロが起こり、少なくとも28人が死亡、235人が負傷した(▼61)。さらに18日にはアレッポの市議会議員が射殺され、翌19日にはイドリブの検察官と判事が運転手と共に殺害されている(▼62)――とりわけ大多数のシリア国民がアサド政権を支持している事実を端的に証明するものだろう。

 国民投票が公正に実施され、アサド政権に対するシリア国民の支持を改めて決定的に突きつけられる事態を予期していた(日本を含む)NATO側諸国は、国民投票に先立つ2月24日、チュニジアの首都チュニスで自称「シリアの友人」会合を開催し(シリアの現実の友好国である朝鮮民主主義人民共和国やレバノン、中国、ロシアは不参加・ボイコット)、「シリア国民評議会」(SNC)が「平和的な民主化を求めるシリア人の代表」であるという植民地主義的な設定(フィクション)を再宣言している。

 もっとも、この「会合」でシリア反体制派は欧米諸国から強力な軍事支援を受けていることを得々と語っているし(▼63)、(米軍高官も認めているように)米国はシリア領空を多数の無人攻撃機で侵犯しているし(▼62)、すでにNATO側諸国の特殊部隊はシリア領内に展開している(▼64)――実際にその後、「自由シリア軍」(FSA)の主要な拠点の一つで、3月1日にシリア政府軍が支配権を回復したホムス県のバーバー・アムルー(Baba Amr)では、約100人(!)もの外国籍(フランスを始めとする欧米諸国とカタール、トルコ、アフガニスタンなど)の情報機関工作員・戦闘員が拘束され、ロケット弾や通信機器を含むイスラエル・欧米製の武器が大量に押収されている(▼65)(▼66)。無論これらはいずれも国際法違反であり、NATO側諸国が今さら何を取り繕おうとしているのかも不明なほどである。

 さらに「会合」の行方次第ではNATO(米国・英国・フランス・イタリア・トルコ)がすぐにでもシリア攻撃を開始するとの報道もなされていた(▼67)。別途述べるが、この「会合」が「中東革命」後のチュニジアで行われたことに象徴されるように、「人道的介入」を肯定しながら(少なくとも有効に否定することなく)「アラブの春」を愛でているNATO側諸国のリベラル・左派は、結局は帝国主義と反動勢力による中東革命の簒奪・回収の加担者になっていると言える。


 さて、こうした状況でNATO側諸国のリベラル・左派の頽落ぶりを示す言説には事欠かないが、その中で最も社会的(悪)影響力に満ちた発言の一つが、「英国左翼を代表する」タリク・アリ(Tariq Ali)の「アサドにも空爆にもNO」(▼68)というものだろう。NATOのリビア侵略の際にも、この類の言説(「カダフィにも空爆にもNO」)(▼69)は、あたかも自分たちに(自国のリビア侵略を阻止する国民としての義務と同列あるいはそれ以上に)リビア人の自決権を踏みにじる当然の権利があるかのような、NATO側諸国民の帝国主義的・植民地主義的慢心を培養し(「カダフィはNO」)、その結果としてリビア人の自決権を致命的に侵害するNATOの帝国主義的侵略を容認しやすくする(「カダフィを倒す空爆は結局OK」)社会的効果を生んできた。

 タリク・アリの発言とその批判は、「blog.conflictive.info」の日本語訳記事「シリアに関するタリク・アリのマニュファクチャリングコンセント」(▼70)に詳しいので、未読の方はお読みいただきたい。アリは「バッシャール〔・アサド大統領〕は『退陣させられるべきだ』と述べながら、爆撃なき体制変革を呼びかける西洋の偽左翼の一員となっている」。「言い換えれば、アリは体制変革策動については完全に支持しており、しかしそれが『非暴力的な圧力』によってなされることを望んでいるのである」。こうした主張は、日本で言えば、朝鮮学校の無償化排除(「西側の軍事介入」)に反対しながら、日本国家・日本社会による朝鮮学校への弾圧・干渉――「反日」教育の放棄や総連との関係断絶など――(「体制変革策動」)を支持・容認するリベラル・左派の立ち位置として、比喩的に理解できるかもしれない。

 アリは「圧倒的多数のシリア民衆は、アサド一族に消えてもらいたいと思っている」という帝国主義お得意のフィクションを肯定し、すでに大々的に実行されている爆撃なき「西側の軍事介入」をまるで批判していないため、すでに半ば「政治的自殺行為」を遂げているようにも思えるが、この爆撃なき「西側の軍事介入」をあからさまに賞賛してしまっているのが、前回紹介したジルベール・アシュカルである。

 ジルベール・アシュカルは、レバノン出身の国際政治学者で、1983年にフランスに移住し、現在は「ロンドン大学東洋アフリカ学院」の教授を務めている。日本でも『野蛮の衝突――なぜ21世紀は、戦争とテロリズムの時代になったのか?』(作品社、2004年)、『中東の永続的動乱――イスラム原理主義、パレスチナ民族自決、湾岸・イラク戦争』(柘植書房新社、2008年)といった訳書が出版されているが、アシュカルがシリア反体制派に引き抜かれたのは、もちろんNATOのリビア侵略を正当化する直近の言説による。

 リビアをめぐるアシュカルの発言(▼71)は、以下の(1)・(2)に集約されるように、凄まじく見苦しいものだが、アシュカルがレバノン内戦を経験したアラブ人「反戦活動家」である(英語版Wikipediaの説明による)ことが、「戦争賛成左翼」のひしめくNATO側諸国内においてアシュカルの(利用)価値を格段に高めているのだと思われる。日本でも『マガジン9条』などが嬉々としてNATOのリビア侵略を容認するリビア人留学生を担ぎ出していたが、タリク・アリがパキスタン出身であることも同様に極めて植民地主義的意味を持つことを指摘しておく。


<リビアをめぐるアシュカルの発言要旨>

(1)リビアの反乱勢力は「民主主義と人権への熱望」に燃えた「非常に広範な連合」であり、反乱勢力が掲げるリビアの「三色旗」も「イタリアからの独立を勝ち取った後に採用されたリビア国家の旗」であって決して王制のシンボルではない。(→正しくは、リビアの反乱勢力はリビア国民のごく一部にすぎないNATOの下請けレイシスト集団であり、反乱勢力が掲げるリビアの「三色旗」も植民地支配に屈服していたイドリス王朝の旗以外の何物でもない。)

(2)NATOのリビア攻撃が「石油への欲望」によるものであり、イスラエルのガザ攻撃の際にはパレスチナ人の虐殺を容認するようなダブルスタンダードに基づいていたとしても、NATOが結果的にリビア市民を「保護する責任」を果たした以上、NATOのリビア攻撃は「人道的介入」として正当化される。(→実際にはNATO側諸国の空爆と地上軍の侵攻によって数万人のリビア市民が殺害された。)(▼72)


 前回述べたように、アシュカルは、昨年10月のスウェーデンでの会議で、ブルハーン・ガルユーン「シリア国民評議会」(SNC)代表らシリア反体制派とそのパトロンを相手に、リビアの「教訓」を踏まえてアサド政権を転覆する戦略を説く「招待講演」なるものを行っている(▼55)。講演の内容(とその後の補足)を読む限り、アシュカルのいうリビアの「教訓」とは:

(1)NATOの空爆と地上軍の侵攻により、あたかもカダフィが国家主権の擁護者で、反乱勢力が欧米帝国主義の下請人であるかのような表象が、リビア社会の一部に広まってしまったこと

(2)欧米諸国がリビア反乱勢力の「自決権」を踏みにじり、大規模な――単独でカダフィ政権を粉砕するだけの――武器供与を渋ってきたために、反乱勢力は独力でリビアを「解放」することができず、外国の直接的な軍事介入に依存せざるを得なかったリビアが混迷を深めて「破綻国家」になってしまったこと

(だけ)であるようだ。(1)は単なる「表象」ではなく、そのまま事実であるし、(2)に至っては、リビア人の「自決権」をカダフィ政権の転覆というNATO側諸国の帝国主義的プランの実行延長線上においてのみ「尊重」してみせるような噴飯物の論理であり(国際法違反は歯牙にもかけていない)、しかも事実に反している(今日のリビアの混迷は、リビアの「解放」における不手際からではなく、リビアの再植民地化によって起こっている)のだが、とりあえず先に進む。アシュカルは、シリア反体制派に向けて、この「教訓」を踏まえてNATOへの空爆要請を控えるよう(上から目線で)諭している。

 アシュカルの「講義」によれば、シリア反体制派が採るべき戦略は:

(A)非暴力デモによる大衆運動
(B)反体制派の軍事的拡大
(C)アサド政権の軍事的打倒

を効果的に連携させることである。より具体的に言えば、シリア反体制派は「リビアとエジプトの間」の戦略、すなわち:

―エジプトに倣って、(A)「国際社会」にアピールすべく「非暴力デモ」を続けつつ、(B)軍の一部を反体制派に引き入れながら、

―リビアに倣って、(B)外国からの軍事支援を受けて(ただし、アシュカルの言葉を借りれば、シリアは人口密度が高いため、リビアでのようにNATOが「比較的限られた市民の人命コストで空爆を効果的に実施する」ことはできないそうだが)、最終的には(C)アサド政権を軍事的に転覆する

という戦略を採用すべきというものだ。エジプトがどうこう言ってはいるが、結局はアサド政権の軍事的打倒が「不可避」であるというのがアシュカルの結論になっている。

 これをNATO側諸国から見れば、シリアに対しては、アサド政権の転覆を掲げる反体制派の「自決権」を尊重するためにも、直接的な軍事侵攻というコストの高い手段ではなく、反体制派に対する「間接的な」軍事介入(大掛かりな武器・資金の供与)を続けるべきであるということになる。まさにNATO側諸国の諜報機関が採用している戦略そのものであり、アシュカルの論理では、「サルバドル・オプション」でさえ、リビアから派兵された軍隊が「自由シリア軍」(FSA)に編入されたように、指揮権が(名目的に)シリア人にありさえすれば正当化されるのではないかと思われる。

 アシュカルさらにはアリの、シリアにおける「爆撃なき体制変革策動」を支持する主張は、自国の軍事コストの増大を厭う欧米保守・右派の間ではむしろ一般的なものですらある。代表的な例を挙げれば、米国では共和党の重鎮ジョン・マケインが、「虐殺に直面している人々は自らを守る力を手にすべきである」と述べ、米国はシリアに直接軍隊を派兵する代わりに、シリア反体制派に対して第三世界諸国を経由した(要は植民地兵士的な傭兵のリクルートを含む)武器供与・軍事支援を行うべきであると熱弁している(▼62)(▼67)。

 マケインの主張はアシュカルの主張(の結論部分)にも重なるものだが、「戦争賛成左翼」の論理破綻と腐臭を伴わない分(もちろん別の腐臭はするが)、一般的にはアシュカルの主張よりもよほど受け容れやすいのではないかと思われる。なお、米大統領選共和党候補のロン・ポールは、アサド政権の転覆を目的としたシリアへの介入そのものに否定的で、アシュカルはもちろんアリよりも遥かにまともな発言をしているようである(▼73)。オバマやサルコジにしても、シリアへの空爆は現時点では大統領選挙対策のオプションとして(どちらにも対応できるように)考えられていると思う。

 シリアをめぐるアシュカルの言説は、ZNetあたりでは手ひどく叩かれて、最近では相手にもされていないようだが(▼74)、逆に言えば、だからこそアシュカルが鉄砲玉的な役割を兼ねて(ZNetで批判されているように)「有象無象の『革命的』評議会の軍事アドバイザー」として、「人道的侵略」産業の(左派)市場を開拓する余地が生まれているのだとも言える。笑えるところかどうかは微妙だが、アシュカルがNATOのリビア侵略を熱心に擁護し、シリアに対する空爆なき軍事介入を提唱し出した時期は、勤務先での「研究専念期間」(Research Leave:いわゆるサバティカル)にぴったり重なっている(▼75)。アシュカルは就職活動をしているのか・・・?

 ちなみに、最近のアシュカルは、リビアを始め第三世界に対する帝国主義の影響力(罪)を不当にも軽減しようとする論陣を張っているようである(▼76)。こうしたアシュカルの言説を日本で最も積極的に翻訳・紹介し、したがって日本で最もアシュカルを利用して(結果的に)帝国主義の免罪に励んでいるのが、いわゆる「第四インター」である(現在は国際組織の正式な「日本支部」ではないが)。「第四インター」の機関誌「かけはし」の編集部は、「(記事はあくまでアシュカルの意見であって、インターの見解は)アシュカルの立場とは異なっている」という、佐藤優を起用するリベラル・左派メディアのような責任逃れをしているが(▼77)、こんな言い訳が通用するなら、そもそも編集業務自体が必要なく、2ちゃんねるさえあれば事足りるのではないか。

 今回取り上げたアシュカルのシリア反体制派への「招待講演」記事は、「かけはし」もさすがにまずいと思ったのか紹介していないが、「緑の党」(▼78)にも象徴されるように、リベラル・左派が雪崩を打って「戦争賛成左翼」(もどき)と化している状況は、日本も大して変わらないように思う。


▼56 More than 14 million Syrians participate in constitutional referendum, Global Research, 20 February 2012, http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=29437

▼57 Zvi Bar'el and DPA, Report: U.S. drones flying over Syria to monitor crackdown, Haaretz, 18 February 2012, http://www.haaretz.com/news/middle-east/report-u-s-drones-flying-over-syria-to-monitor-crackdown-1.413348

▼58 Clinton: Syria risking civil war, BBC, 26 February 2012, http://www.bbc.co.uk/news/world-middle-east-17170775

▼59 Michel Chossudovsky and Finian Cunningham, Syria: Clinton Admits US On Same Side As Al Qaeda To Destabilise Assad Government, Global Research, 27 February 2012, http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=29524

▼60 Syria storms out of U.N. rights meeting, demands countries stop ‘inciting sectarianism’, Alarabiya.net English, 28 February 2012, http://english.alarabiya.net/articles/2012/02/28/197550.html

▼61 和田浩明, シリア:北部アレッポで自爆テロ 28人が死亡, 毎日新聞, 2012年2月11日, http://mainichi.jp/select/world/europe/news/20120212k0000m040020000c.html

▼62 Alex Lantier, US sends drones over Syria as fighting spreads, World Socialist Web Site, 20 February 2012, http://www.wsws.org/articles/2012/feb2012/syri-f20.shtml

▼63 Syria rebels get arms from abroad -opposition source, Reuters, 24 February 2012, http://af.reuters.com/article/tunisiaNews/idAFL5E8DO4PO20120224

▼64 Michel Chossudovsky, BREAKING: Foreign Troops on the Ground Inside Syria in Violation of International Law, Global Research, 8 February 2012, http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=29150

▼65 Syrian security forces arrest foreign Intelligence and Special Forces Operating within Rebel ranks, Global Research, 4 March 4 2012, http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=29608

▼66 Maria Finoshina, More Foreign Arms in Syria Spell More Bloodshed, Global Research TV, 5 March 2012, http://tv.globalresearch.ca/2012/03/more-foreign-arms-syria-spell-more-bloodshed

▼67 Reports: U.S., NATO Allies Preparing For Ground Assault In Syria, Global Research, 24 February 2012, http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=29472

▼68 Tariq Ali, ‘Assad must go to save Syria from intervention’, RT, 5 February 2012, http://rt.com/news/syria-assad-ali-resign-361/

▼69 ブログ「博愛手帖」より抜粋する。

(注3):ところで彼らのスローガンの中には「カダフィでも空爆でもなく」などと訴えているものがあるようであるが、これは相当に偽善的である。「カダフィを支持するリビア人にも、そうでないリビア人にも平和を」とでも言うのならまだ分かるが。まず、このような表現には、カダフィ氏がどこまでの犯罪行為を行ったのかどうか、反乱側がどこまで「民主派」としての内容を有しているかどうかについての、自分たちの社会に属する報道機関の提供している情報のあり方への根本的な追求が含まれていない。さらに、西欧の人間はリビアにおいてカダフィ政権が存続してきたことよりも、自身の政府が主催もしくは協力している空爆作戦にこそ多大な責任を負っているのだから、まずは「空爆を止めよ」と言うべきである。これが真っ先に出てこないのは、空爆を止めればカダフィ政権を止められないし「民主派」が虐殺されることになるという、英・仏・米政府の繰り返している前提=公式見解を半ば認めているようなものである。

〔中略〕この「AでもなくBでもなく」というセリフは、40年ほど前の「新左翼」がしばしば口にした「モスクワでもワシントンでもなく」というスローガンを想起させる。しかしこうした人々は、両体制に等しく敵意を抱いていたというよりは、自身が属しそのあり方に責任をより強く有する「ワシントン」的世界より、「モスクワ」的世界に対する憎悪ばかりを次第に強めていったのではなかろうか。実際彼らの多くは、1980年代末に「モスクワ」の支配圏が崩れたのち、「ワシントン」の展開する軍事行為(ユーゴスラヴィア、アフガニスタン、イラク……)に対し、時には堂々と、時には「是々非々で」「留保付きで」、いずれにせよ結局は支持する人間となった。いつの間にかスローガンは「許せないのはモスクワだけ」に代わっていたわけである。

「中東革命」は誰のものか、または匪賊対革命ごっこ(その5)
http://hakuainotebook.blog38.fc2.com/blog-entry-45.html

▼70 「シリアに関するタリク・アリのマニュファクチャリングコンセント」, blog.conflictive.info, 2012年2月17日, http://blog.conflictive.info/?eid=139124

「シリア国民評議会」(SNC)を公的に支持している「イランの〔反政府運動である〕グリーン・ムーブメント」について簡単に補足しておく。

「グリーン・ムーブメント」は、2009年のイラン大統領選挙運動の際に、ミール・ホセイン・ムーサヴィ元首相らが始めた反政府運動で、イランの新興財閥とアリ・アクバル・ハシェミ・ラフサンジャニ元大統領による財政支援に加えて、ワシントンおよび欧米左派政党の政治的支援を受けながら、テヘランなどの大都市富裕層が参加している。

「グリーン・ムーブメント」の著名な論客の一人で、米国留学経験を持つ学生同盟(Tahkim Vahdat)(元)幹部のアリ・アフシャリは、昨年10月に発表した記事「リビアと人道的介入」で、シリアを始め、国内に「反体制派」が存在する諸国へのNATOの軍事介入の拡大を歓迎し、NATOが戦術をさらに発展させることで「将来的な事例において人道的介入が完成の域に達する」ことへの期待を語っているようである。

同じく「グリーン・ムーブメント」の代表的な論客で、2003年にノーベル平和賞を受賞し、2009年大統領選挙後に亡命したシリン・エバディ弁護士も、イラン国内での「グリーン」の影響力の増大を目論んで、NATO側諸国によるシリアへの「人道的介入」と、イランへの経済「制裁」の延長・強化を煽動する発言を繰り返している。

「グリーン・ムーブメント」は「シリア革命」を支持しないイランの現政権を激しく非難しており、「ダマスカスへの道はテヘランに通じる」(シリアを経てイランを侵略しようとする)NATO側諸国の帝国主義的策謀を「内側」から呼び込む役割を担っていると言える。

Sahand Avedis, Iran’s Green Opposition endorses imperialist intervention in Syria, World Socialist Web Site, 13 January 2012, http://www.wsws.org/articles/2012/jan2012/irsy-j13.shtml

▼71 Gilbert Achcar, Libyan Developments, Znet, 19 March 2011, http://www.zcommunications.org/libyan-developments-by-gilbert-achcar

日本語訳は以下から読むことができる。

リビアで何が起こっているのか―ジルベール・アシュカルとのインタビュー, 虹とモンスーン, 2011年03月28日, http://monsoon.doorblog.jp/archives/51779293.html

▼72 NATO側諸国による地上軍の投入については以下を参照。

SAS 'Smash' squads on the ground in Libya to mark targets for coalition jets, Mail Online, 21 March 2011, http://www.dailymail.co.uk/news/article-1368247/Libya-SAS-smash-squads-ground-mark-targets-coalition-jets.html#ixzz1WLt6lQ1q

NATO admits UK and France may have troops in Libya, RIA Novosti, August 29 2011, http://en.rian.ru/world/20110829/166274046.html

▼73 Ron Paul - Syria, The Political Guide, http://www.thepoliticalguide.com/Profiles/House/Texas/Ron_Paul/views/Syria/

▼74 Gilbert Achcar, Syria: Militarization, Military Intervention and the Absence of Strategy, Gilbert Achcar's ZSpace Page, 20 November 2011, http://www.zcommunications.org/syria-militarization-military-intervention-and-the-absence-of-strategy-by-gilbert-achcar

コメント欄には二人からの反論が寄せられている。Joe Emersberger による最初の反論(「アシュカルがいまだにリビアでの立場に固執しているのは遺憾である」)を受けて投稿された Ozren Vojvodic のコメントが面白かったので、日本語に訳して紹介する。

------コメントここから------

同感。アシュカルの討論記事は目覚しく無内容になってきている。ZNetからアシュカルの「知見」が消えたところで別に問題ないと思う。

アシュカルいわく:
「そして飛行禁止空域の設定により、極めて効果的に反乱軍の支配区域を保護し、人口がまばらな地域で〔カダフィ〕政権軍の展開を抑えることができた。しかもこれらすべてが比較的限られた市民の人命コストで実現できたのである。」

その大半が民間人であると考えざるを得ない推計5万人の死者を出しながらなされたこの発言は、〔米国主導の経済封鎖によってイラクで50万人もの子どもが死亡したことについて問われて〕「それだけの値打ちはあったと思う」と答えた〔1996年当時の米国国連大使マドレーヌ・〕オルブライトの発言をまさに彷彿とさせる。

アシュカルは有象無象の「革命的」評議会の軍事アドバイザーとして連中のPRを統括する役割を喜んで引き受けているように見える。黒人リビア人とアフリカ移民労働者に対するレイシスト的虐殺の数々と大規模な処刑・虐殺に手を染めたリビア反体制派のやり口や、元イスラム戦士とCIAの走狗、カダフィ政権の転向者からなるリビア反体制派の反動ぶりを無視できるとは、実に素晴らしい自己検閲力である。しかもアシュカルは、〔カダフィ政権による〕ベンガジの虐殺が差し迫っていたとする、まるで証拠のない欧米諸国のプロパガンダに加えて、カダフィ政権が平和的なデモ参加者に対して空爆を行っていたとする、さらに酷いプロパガンダをオウムのようにさえずっている。この二つの主張(を含むプロパガンダ)の情報源は、「リビア人権連盟」――NEDをスポンサーとする組織――であるようだ。ウィリアム・ブルムを参照:
http://www.zcommunications.org/it-doesnt-matter-to-them-if-its-untrue-by-william-blum

〔中略〕

それでもアシュカルはリビアのシナリオをシリアに対して提唱しないことで――たとえそれが戦略的な意味合いにすぎないのだとしても――多少は懺悔をしているつもりなのかもしれない。けれども、それ〔アシュカルの反対〕が〔シリアにおける〕飛行禁止空域の設定にのみ向けられており、〔シリアの〕「市民を守る」という名目が立ちさえするのであれば、アシュカルは特に現在の戦略的立場にはこだわらないのではないか。

なぜアシュカルが社会学者で反戦活動家であるのかは――Wikipediaのサイトにはそう書かれているのだが――かなりの謎である。

------コメントここまで------

▼75 Professor Gilbert Achcar, School of Oriental and African Studies, University of London, http://www.soas.ac.uk/staff/staff30529.php

▼76 直近の発言としては、「インターナショナル・ビューポイント」2012年1月号に掲載された「ジルベール・アシュカルとのインタビュー」など。日本語訳から抜粋する。

 リビアでの西側の介入は、地上軍によらない、本質的には遠くからの介入でした。この進行中の過程で米国が持ち得た影響力は、極めて限定的なものです。実際のところ、誰もこの国の情勢をコントロールすることができません。リビアでは、暫定国民評議会、ならびにこの国の再建を請け負う国民評議会の企図――きわめておずおずした、副次的なもの――への抗議の拡大など、米国のお気に召さない事態が展開しています。

「ジルベール・アシュカルとのインタビュー(上)」
http://www.jrcl.net/frame12.0227e.html

私たちがリビアで見たものは、疑問の余地なく最も古典的な形態での民衆蜂起であり、人民戦争とも言えるほどのものでした。あらゆる職業の市民が、政権に対する闘争に身を投じる戦士に変身しました。

 NATOの介入が反乱の民衆的性格の終焉を意味し、反乱者はNATOのかいらいに姿を変えてしまったと信じた人びとは、重大な誤りをおかしたのです。その上、こうした人びとのほとんどは、リビア革命に反対しカダフィ政権への支持を正当化しようと求めたのです。私たちは国際左翼の中で、あらゆる種類の、そして筆舌に尽くしがたいほどの混乱を見てきました。カダフィの打倒後にNATOがリビア情勢を支配してきたと信じることは、大きな幻想を抱くことです。米国はイラクに大規模な軍隊を配備してもイラク支配に成功しませんでした。だとするならば、地上軍を置かなくてもかれらがリビアを支配できるなどと誰が信じられるでしょうか。

〔中略〕

 いずれにせよ当面のところ、民衆決起という事実、そして武力による政権の打倒という事実によって、そして帝国主義の紛争介入にもかかわらず、リビアはこの地域のすべての国の中で、現在までのところ最も根本的な変革を経験した国なのです。

「ジルベール・アシュカルとのインタビュー(下)」
http://www.jrcl.net/frame12.0305f.html

▼77 例えば、以下の記事では、編集部の次の前置きに続いて、「ルワンダにおけるジェノサイドを阻止するために国際的介入がなされるべきだった」(→正しくは、ルワンダの「ジェノサイド」は米国を始めとする「国際的介入」によって遂行された)、「左翼ははっきりと『それがいかなる環境の下であったとしても西側諸国の軍事介入に反対する』という絶対的『原則』を宣言しないようにすべきである。こうした『絶対的原則』は政治的立場ではなく宗教的タブーである」とするアシュカルの主張が掲載されている。

 「以下の文章は、リビア情勢の急展開の中で本紙四月四日号に掲載されたジルベール・アシュカルのインタビュー記事をめぐって左派陣営の中で展開されている論議についてのアシュカルによる回答である。この主張はカダフィ独裁体制の評価から、いわゆる『人道的介入』に対して左翼の側がどのような態度をとるべきかをめぐって、真剣に論議すべき内容を含んでいる。アシュカルへのインタビューとともに掲載された第四インターの声明は、アシュカルとは違った立場をとっている、本紙三月二八日号に掲載された『多国籍軍のリビア軍事介入反対』を訴える(K)署名の短文も、アシュカルの立場とは異なっている。本紙では引き続き、関係する諸文書を掲載していきたい(『かけはし』編集部)」

ジルベール・アシュカル, 討論:リビア、抵抗、飛行禁止区域, かけはし2011.4.25号, http://www.jrcl.net/frame110425f.html

▼78 水島朝穂, 見過ごせない軍事介入――リビア攻撃とドイツ(1), 平和憲法のメッセージ, 2011年3月28日, http://www.asaho.com/jpn/bkno/2011/0328.html

【グローバルグリーンズ声明】「カダフィの辞任とリビアにおける血塗られた弾圧の即時中止を求める」, 緑の党・日本『みどりの未来』公式サイト, 2011年02月23日, http://site.greens.gr.jp/article/43649585.html

「人道的侵略」産業とシリア(3)

■目次:
(1) はじめに
(2) 「アラブの春」という嘘(1)
(3) サルバドル・オプション――NATO側諸国からシリアへの「死の部隊」移設作戦
(4) 「戦争賛成左翼」への道――ジルベール・アシュカルとその植民地主義的利用者たち


(3) サルバドル・オプション――NATO側諸国からシリアへの「死の部隊」移設作戦

 アサド政権の転覆を掲げるシリア反体制派のスポンサーを務めているのは、例のごとく米国を始めとするNATO側諸国の面々である(▼17)。イスラエルの軍事情報サイトDEBKAは2011年8月14日付の記事でその一端を披露してくれている(翻訳・強調は引用者による)。

 「ブリュッセルのNATO本部およびトルコ軍最高司令部は、それぞれシリアに対する軍事行動計画――反体制派を弾圧するアサド政権の最前線に展開する戦車・ヘリコプターと交戦させるべく反乱軍を武装支援する計画――の第一歩を踏み出している。NATOの戦略は、リビアの空爆モデルを再現するよりも、むしろシリア政府の装甲軍を粉砕するために、反体制派に大量の対戦車および対空ロケット・迫撃砲・重機関銃を供給する方式を採用しようというものである。」(▼37)

 まるで他人事のような言い草だが、もちろん当のイスラエル諜報機関も、アサド政権を転覆するために、この「方式」を採用している。2011年5月10日付の「アイリッシュ・タイムズ」記事(▼38)は、アサド大統領肖像画の撤去を拒否したダルアーの若者を見せしめに殺害したテロリスト集団に対して(も)、イスラエルが密かに支援している旨を報じている。イスラエル与党リクードの国会議員アヨーブ・カラ(Ayoob Kara)は、「シリア国民評議会」(SNC)との親密ぶりをさらけ出し、イラン攻撃の一環としてシリアへの介入を公然と扇動している(▼39)。

 元MI6職員で現在ベイルートのNGOを運営するEU上級顧問のアリステア・クルーク(Alastair Crooke)によれば、イスラエルに敵対的な(パレスチナのハマースとレバノンのヒズボッラーを支援する)現アサド政権を転覆するべく米国に訓練と資金提供を施されたシリア人亡命者集団は、現地の有力者を買収して人々を「反政府デモ」に動員させ、真偽の疑わしい「虐殺ストーリー」を欧米メディアに売り込むためにNGOを手なずけ、暴力を過激化してNATOの介入を正当化するためにテロリストと提携しているという(▼40)。クルークは(ここで)語っていないが、もちろんMI6と英国特殊部隊(SAS/SBS)も、CIAとシリアの(旧)侵略国であるフランスの特殊部隊とともに、トルコやリビア、レバノンおよびヨルダン北部で「自由シリア軍」(FSA)に対する訓練と武器供給に日々勤しんでいる。

 これらNATOの傭兵は、アサド政権による報復を逃れるために、隣国からシリアへの越境攻撃を頻繁に行っており、ダルアーの場合には、ヨルダン北部のラムサー(Ramtha)が攻撃拠点として利用されているようである(▼41)。元FBI職員のサイベル・エドモンズ(Sibil Edmonds)によれば、政府自らシリアへの軍事侵攻を示唆しているトルコ(▼37)では、早くも2011年5月からイラク・イラン国境に程近い南東部のハッカーリで米・NATO軍がシリア反乱軍の訓練を実施しており、南部のインジルリク空軍基地からシリアへの武器密輸も行われているという(▼24)。CIAやMI6の工作員がすでにシリアに潜入していることも報じられている(▼42)。

 ちなみに、日本の「自衛隊」との関わりついて述べておくと、シリア反体制派やNATO側諸国が、シリアへの「人道的介入」プロパガンダの中で喧伝している市民の死傷者数には、ゴラン高原に向かう反イスラエル占領デモの最中にイスラエル軍に殺害された人々がしばしば含まれている(▼43)。ゴラン高原には1996年から「自衛隊」がPKO展開しており(1月20日の閣議決定で派兵期間がさらに延長された)(▼44)、日本政府も事態を把握しているはずだが、日本の政府やメディアにはイスラエルを控えめに批判する気さえないようだ(▼45)。

 話を戻すと、NATO側諸国によるシリア反体制派への軍事支援は、大規模な訓練と武器提供、資金援助に留まらず、兵士さらには部隊をも直接供給するものである。ロシアと中国が、シリアに対する国連「制裁」決議と(NATOによる無差別爆撃と地上軍侵攻のフラグとなる)「飛行禁止空域」の設定をめぐって、当初から拒否権を行使していたために、米国を始めとするNATO側諸国は、「サルバドル・オプション」と呼ばれる「死の部隊」の移設作戦を強力に推進してきた(▼15)。

 「サルバドル・オプション」は、レーガン政権時代の中南米で猛威を振るった米国お得意のテロリズムで、このとき隣国ニカラグアの5万人もの市民を虐殺したコントラの支援・統括を主導し、ホンジュラス「死の部隊」を新設・訓練したのが、当時(1981年~1985年)の駐ホンジュラス大使であったジョン・D・ネグロポンテである。ネグロポンテは2004年に駐イラク米大使に任命され、当時の経験とコネクションを利用して、再び反米レジスタンス指導者を暗殺するための「死の部隊」をイラクに創設した(▼46)。

 NATOによるリビア侵略目前の2011年1月下旬にダマスカスに赴任した現・駐シリア米大使ロバート・S・フォードと、オバマに任命されたCIA長官デイヴィッド・ペトレイアスは、共にネグロポンテのイラク時代の盟友――フォードはネグロポンテの在イラク大使館時代のNo.2、ペトレイアスは当時の「イラク多国籍治安移行司令部」司令官――で、ネグロポンテに倣ってシリア版「死の部隊」を配備し、米国務省・NEDおよび各種財団によるシリア反体制派への政治的・経済的支援を強化して、アサド政権に対するクーデターに邁進している。なお、シリアではこのからくりは周知の事実のようであり、フォードやエリック・シュヴァリエ仏大使に卵やトマトを投げつける抗議デモが行われている(▼47)。

 「サルバドル・オプション」の目的は、簡単に言って、
(A)NATOや「アラブ/トルコ軍」による全面的な軍事侵攻を経ずにアサド政権を転覆すること
(B)NATOや「アラブ/トルコ軍」による全面的な軍事侵攻を可能にしてアサド政権を転覆すること
である。いずれにしても、メディアおよび国際人権機関・NGOと連携してアサド政権を攻撃し――例えば、フィリップ・ボロピオンHRW国連担当は、シリアへの国連「制裁」決議をめぐって拒否権を行使しているロシアと中国をスーザン・ライス米国連大使ばりに罵倒している(▼48)――、「人道的介入」の「国際世論」を盛り上げるとともに(シリア政府が正当にも対テロ作戦を実施すれば、それを独裁政権による自国民の殺害として宣伝し、シリア政府が仮にテロを放置しても、その責任をアサド政権に押しつけて同じ宣伝文句を使うことができる)、自決権を掲げるシリアの人々を脅迫するものである(現在の政権が転覆されない限り、治安機関だけでなく一般市民へのテロリズムが継続されるという恫喝だ)。

 米国は長年にわたるコントラ戦争と壮大な選挙操作の末、1990年にニカラグアのサンディニスタ政権を退場させた。シリアに対してもNATO側諸国は(アラブ連盟に代弁させる形で)アサド政権の転覆を前提とした大統領・議会「選挙」の実施を強制しようとしている。

 前述したシリアでの大規模な爆弾テロは、まずアラブ連盟によるシリア「監視団」の到着翌日に起こり、次にスーダンのダビ団長が「何も恐ろしいことは見当たらなかった」としてシリアの治安について肯定的な調査結果を述べた(▼49)後に起こっている。これまた日本では一向に報道されていないようだが、先日リークされた「監視団」の報告書(▼50)は、
(1)「自由シリア軍」(FSA)を含む反政府武装勢力が、民間人と治安当局者、メディア関係者を故意に殺害し(1月11日にホムスでフランス人ジャーナリストを砲撃して死亡させたのもシリア反体制派である)、公共施設や交通機関、パイプラインを爆破し、シリア軍による対テロ作戦の引き金となったテロリズムに従事している事実を認め、
(2)国際メディアがシリアの民間人死傷者数や反政府デモの参加者数を誇大宣伝している(反体制派が喧伝しているシリア政府による弾圧事件は必ずしも存在せず、拘束者のリストも極めて不正確なものである)ことを批判する内容になっている(▼51)。

 「シリア国民評議会」(SNC)や「自由シリア軍」(FSA)のスポンサーを兼ねているサウジアラビアやカタール(▼52)などのGCC諸国が、報告書の作成中に「監視団」から自国の資金と人員を引き揚げ、さらに2月23日まで延長が決定されていた「監視団」の活動を唐突かつ強引に停止させた(▼53)のも、「監視団」がNATO側諸国の思惑と圧力に抗して、シリアへの国連「制裁」決議のお膳立てをする代わりに事実を報告したからであると思われる。NATO側諸国メディアでアサド政権の関与が自明視されているホムスの「虐殺」も、シリアへの国連「制裁」決議の投票日(2月4日)直前に起こっており、「ロシアの声」は、虐殺を行っているのはシリア政府ではなく「自由シリア軍」(FSA)であると報じている(▼54)。

 ところで、なかなか興味深いのは、シリア反体制派をNATO側諸国の傭兵に仕立て上げる、こうした帝国主義・植民地主義の常套手段を(も)、NATO側諸国の「戦争賛成左翼」が積極的に擁護しようとしているらしいことである。その典型例がフランスの「第四インターナショナル」の左派論客ジルベール・アシュカルで(ただし、アシュカルの出身はレバノンで、現在はロンドンに住んでいるが)、アシュカルは「シリア国民評議会」(SNC)の下部組織である「現地調整委員会」(LCC)にスカウトされて、2011年10月にストックホルムで開催されたシリア反体制派の会議で招待講演を行っている(▼55)。

 アシュカルの言説は、シリア反体制派への「間接的な」(すなわち外国軍による全面的な軍事侵攻には至らないレベルの)軍事介入の必要性を説くものであり、それをシリア人の「自決権」なる論理で正当化している点に特徴があると言える。次にアシュカルの主張とその受容構造を見ていくことにしよう。


▼37 Michel Chossudovsky, The Al Qaeda Insurgency in Syria: Recruiting Jihadists to Wage NATO's "Humanitarian Wars", Global Research, 2 September 2011, http://globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=26351

▼38 Michael Jansen, Syrian army closes in on Damascus suburbs, The Irish Times, 10 May 2011, http://www.irishtimes.com/newspaper/world/2011/0510/1224296603334.html

▼39 Mahdi Darius Nazemroaya, The Legal Regime being formed against Syria by the Arab League, SNC, and R2P, Strategic Culture Foundation, 29 November 2011, http://www.strategic-culture.org/news/2011/11/29/the-legal-regime-being-formed-against-syria-by-the-arab-league-snc-and-r2p.html

▼40 Andrew Rettman, Blueprint For NATO Attack On Syria Revealed --Strike on Syria is technically feasible, former French general says, Global Research, 11 August 2011, http://globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=25980

▼41 H. Sabbagh, Canadian Researcher: US Targeting Syria to Change Region's Geo-Political Reality, Global Research, 3 January 2012, http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=28489

▼42 Michel Chossudovsky, SYRIA: British Special Forces, CIA and MI6 Supporting Armed Insurgency. NATO Intervention Contemplated,
Global Research, 7 January 2012, http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=28529

▼43 Aisling Byrne, The NeoCon Propaganda Machine Pushing “Regime Change” in Syria, CounterPunch, 6 January 2012, http://www.counterpunch.org/2012/01/06/the-neocon-propaganda-machine-pushing-%E2%80%9Cregime-change%E2%80%9D-in-syria/

▼44 毎日新聞, ファイル:PKO延長を閣議決定, 2012年1月20日, http://mainichi.jp/select/seiji/news/20120120dde007010069000c.html

▼45 以下のようなイスラエル―シリア反体制派寄りの報道ですら、日本語メディアではほとんど見つけることができない。

ロイター, ゴラン高原デモで23人死亡  イスラエルが発砲とシリア, 2011年6月7日, http://jp.reuters.com/video/2011/06/07/%E3%82%B4%E3%83%A9%E3%83%B3%E9%AB%98%E5%8E%9F%E3%83%87%E3%83%A2%E3%81%A723%E4%BA%BA%E6%AD%BB%E4%BA%A1-%E3%80%80%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%81%8C%E7%99%BA%E7%A0%B2%E3%81%A8%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%82%A2%E5%AD%97%E5%B9%95%E3%83%BB6%E6%97%A5?videoChannel=201&videoId=211608388

▼46 Roland Watson, El Salvador-style "death squads" to be deployed by US against Iraq militants, Global Research, 1 December 2006, (The Times, 10 January 2005), http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=4027

▼47 Michel Chossudovsky, Who is US Ambassador to Syria Robert S. Ford? The Covert Role of the US Embassy in Supporting an Armed Insurrection, Global Research, 30 September 2011, http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=26873

▼48 Joe Lauria and Charles Levinson, ウォール・ストリート・ジャーナル日本版, Russia, China Veto UN Resolution on Syria, 2012年2月5日, http://jp.wsj.com/World/Europe/node_386890/%28language%29/eng-US

▼49 ロイター, 監視団入り後も戦闘やまず、シリア政府は拘束者755人釈放, 2011年 12月29日, http://jp.reuters.com/article/idJPTYE7BS00J20111229

▼50 League of Arab States Observer Mission to Syria, Report of the Head of the League of Arab States Observer Mission to Syria for the period from 24 December 2011 to 18 January 2012, 27 January 2012, http://www.columbia.edu/~hauben/Report_of_Arab_League_Observer_Mission.pdf

▼51 SYRIA. TEXT OF LEAKED ARAB LEAGUE MISSION REPORT Report Reveals Media Lies Regarding Syria, Global Research, 1 February 2012, http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=29025

▼52 Robert Asketill, Saudi Arabia and Qatar offer assistance to Syrian opposition, The London Evening Post, 27 January 2012, http://www.thelondoneveningpost.com/world/saudi-arabia-and-qatar-offer-assistance-to-syrian-opposition/

▼53 ロイター, シリア監視団の一部引き揚げ、連盟は国連安保理に問題提起へ, 2012年1月25日, http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE81K0H120120125?feedType=RSS&feedName=topNews

ロイター, 訂正:アラブ連盟がシリア監視団の活動停止、治安悪化と弾圧継続で, 2012年1月30日, http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE81K12020120130

▼54 The Voice of Russia, シリア ホムスの目撃者が糾弾「反体制派、アル・ジャジーラは虚言」, 2012年2月4日, http://japanese.ruvr.ru/2012/02/04/65342727.html

▼55 Gilbert Achcar, Syria: Militarization, Military Intervention and the Absence of Strategy, 18 November 2011, http://english.al-akhbar.com/content/syria-militarization-military-intervention-and-absence-strategy

「人道的侵略」産業とシリア(2)

■目次:
(1) はじめに
(2) 「アラブの春」という嘘(1)
(3) サルバドル・オプション――NATO側諸国からシリアへの「死の部隊」移設作戦
(4) 「戦争賛成左翼」への道――ジルベール・アシュカルとその植民地主義的利用者たち


(2) 「アラブの春」という嘘(1)

 シリアに対するNATO側諸国の「人道的介入」/「保護する責任」キャンペーンがいっそう犯罪性を増してきている。すでに広く宣伝されているように、カタール王室・サーニー家「首長」のハマドゥ・ビン・ハリーファは、1月15日に放送された米CBSの収録インタビュー番組「60ミニッツ」(▼20)で、シリアでの「虐殺を止めるためには(一定規模の)軍隊が介入すべきである」と述べ、アラブ諸国首脳として初めてシリアへの直接的軍事介入の意思をあらわにした。

 カタールは、1月15日付の産経新聞(▼21)が評しているように、「昨年、北大西洋条約機構(NATO)による対リビア軍事作戦を早くから支持しアラブ連盟を介入容認でまとめ上げたほか、反カダフィ派部隊を資金・物資面で支援した“実績”があ」り、王室メディアであるアルジャジーラのハリウッド方式を駆使したプロパガンダ(▼22)に加えて、1600人の地上部隊を派兵して、NATOのリビア侵略を全面的に支えてきた。

 シリアへの「アラブ軍」の侵攻が公然と取り沙汰される中、潘基文・国連事務総長は、1月18日に「異例の安保理批判」を行い、アサド政権の転覆を求める決議案に反対するロシア・中国を非難し、早期採決を目論むNATO側諸国にエールを送っている(▼23)。トルコがシリアへの「飛行禁止空域」の設定をめぐって米国と討議しているという報道もある(▼24)。リビア侵略にあたってオバマ政権が採用した「黒幕」(Lead From Behind)戦略を、今度はNATOがこぞって推進していると言うべきかもしれない。

 シリアでは昨年末から大規模な爆弾テロが相次いでいる。昨年12月23日には、首都ダマスカス市内で、国家保安庁と情報部を標的とした二件の自動車爆弾テロが発生し、44人が殺害され、166人が負傷した。今年に入って1月6日には、同じくダマスカス市内のハサン・アル=ハキーム小学校およびミーダーン地区警察署付近で、26人が死亡、63人が負傷する(自殺)爆弾テロが起こっている。死傷者の大半は民間人であり、シリア政府はテロを激しく批判しているが、日本を含むNATO側諸国メディアは、「シリア国民評議会」(SNC)を始め反体制派の主張を紹介するという形式(建前)で、一連のテロがアサド政権の自作自演であると示唆するあからさまな「陰謀論」を垂れ流している(▼25)。

 けれども、シリアで最近起こったこれらのテロは、昨年3月以降のいわゆる「反政府デモ」の実態――端的に言って「アラブの春」という嘘――を無視して語ることはできない。NATO側諸国メディアがリビア版「アラブの春」の旗手として売り込んでいたリビアの反体制派が、実際にはNATOのリビア侵略を内側から支え、市民の虐殺と黒人へのジェノサイドを分業した武装レイシスト集団であったように、シリア版「アラブの春」の核心的な勢力もまた、その実体はマシンガンを振り回すNATO側諸国合作のテロリスト集団であり(▼17)、シリアの「反政府デモ」は、そもそもの発端から一般市民および治安当局――いずれもアサド政権の支持基盤――に対するテロリズムに満ち溢れているからである。

 「アラブの春」と言えば、日本でもリベラル・左派の間でチュニジアやエジプトの「SNS革命」がもてはやされているようだが、シリアをめぐっても、「反政府デモ」が始まる以前の2011年2月初めに、「2011年シリア革命」というFacebookページが(なぜか)英語で作成されていた。「ページ」は2月4日金曜日を「憤怒の日」として設定し、蜂起を呼びかけるもので、即日数万人の「友達」が登録して、アルジャジーラが大々的に宣伝する盛況ぶりだったが、実際に「憤怒の日」が訪れても、オフラインのシリアでは何事も起こらなかった。アルジャジーラは不当にもシリアを「沈黙の王国」呼ばわりしてバッシングしたが、「シリア革命」を望む「友達」のほとんどは、もともとシリア人でも(アラビア語を第一言語とする)アラブ人でもなかったようである。もしかすると、人間ですらなく、大量生産型の「ソーシャルボット」だったのかもしれない(▼26)。

 こうした(Wikipediaでも紹介されている公認の)「挫折」を経て、シリアのバッシャール・アル=アサド政権を悪魔化し、「国際社会」(NATO側諸国)によるシリアへの「人道的(軍事)介入」を意図したメディアキャンペーンが本格的に仕掛けられたのは、3月17・18日にダルアー(Daraa)で始まった「反政府デモ」の直後からだった。3月17日という日付がリビアに対する国連決議1973号の採択日と一致している符号にも着目しておこう。この日、シリア南部のヨルダン国境沿いの街ダルアーで、「反政府デモ隊」と治安部隊が衝突し、多数が死傷するという事件が発生した。

 NATO側諸国メディアは、事件を「市民の平和的な民主化デモに対する独裁政権の一方的な弾圧」という(リビアでおなじみの)構図でもって一斉に報道したが、これは明らかに作為的な誤りである。なぜなら、この最初の「反政府デモ」においてさえ、「デモ隊」よりも治安部隊側に多くの死者が生じており、しかも「デモ隊」はダルアーのバアス党本部と裁判所を焼き討ちにして、(イスラエル占領下のゴラン高原を監視する)情報機関と国立病院を襲撃しているからである(▼27)。ミシェル・チョスドフスキー(Michel Chossudovsky)オタワ大教授(『グローバル・リサーチ』編集者)の記事「シリア:抗議運動の黒幕は誰か?米NATOの『人道的介入』の口実を捏造する」(▼28)から事件の要点を翻訳・引用してみよう。


 「〔訳注:AP通信の〕報道は、欧米であれば間違いなくタブロイド紙の表紙を飾るはずの警官の死について沈黙を決め込んでいる。

 警官の死は実際に何が起こったかを判断する上で重要である。警官側に複数の死者が出たということは、対立する陣営――すなわち警官と『デモ参加者』――との間に銃撃の応酬があったことを意味している。

 警官を攻撃していたのは、建物の屋上にいたスナイパーを含むこれらの『デモ参加者』である。

 (警官の死に言及している)イスラエルとレバノンの報道は、3月17日から18日にかけてダルアーで起こった事件について、より明快な見取り図を与えてくれる。(ダマスカスにとって都合のよい偏向報道などするはずもない)イスラエルの国営報道は、上記の事件を次のように解説している。

 『先週木曜日〔訳注:3月17日〕にダルアーの市街地南部で勃発した一連の暴力的な衝突によって、シリアでは警官7人と少なくとも4人のデモ参加者が殺害された。

 ……〔訳注:翌〕金曜日、警官隊は武装したデモ参加者に向けて発砲し、4人を殺害、約100人を負傷させた。匿名を条件に語ったある目撃者によれば、「警官隊は――催涙弾などは使用せず――即座に実弾を用いてきた」という。

 ……緊迫した情勢をなだめるために、政府は常になく拘束した学生の解放に応じているが、警官7人が殺害され、日曜日に再発した暴動によって、バアス党の本部と裁判所が焼き討ちにされた。(ガブリエル・クイーナン, 「シリア:抗議行動で警察官7人を殺害、建物を放火」, イスラエル国営ニュース, アルツ・シェヴァ, 2011年3月21日, 強調は引用者による)』

 レバノンの報道も、複数のソースを引用して、ダルアーで警官7人が殺害されたことを認めている。警官が殺されたのは『治安部隊とデモ隊との衝突時で……警官はダルアーのデモ参加者を搬送しようとしている際に殺害された』という。

〔中略〕

 ダルアーの事件をめぐる一連の報道によって、次のことが明らかになってくる。

1.これは欧米メディアが主張しているような『平和的なデモ』ではない。『デモ参加者』の一部は銃を携えており、しかもそれを警官に向けて使用していた:『警官隊は武装したデモ参加者に向けて発砲し、4人を殺害した。』

2.(イスラエル・メディアが報じた)当初の死者数では、殺された人数はデモ参加者よりも警官の方が多い:4人のデモ参加者に対して7人の警官が殺されている。これは、統率された武装勢力の数が当初警官隊を上回っていたかもしれないことを示唆するため、極めて重大な意味を持っている。シリア・メディアによれば、さらに屋上にスナイパーがいて、警官隊とデモ隊双方を狙い撃ちにしてきたという。

 当初の一連の報道から明らかなことは、『デモ参加者』の多くは、実際にはデモ参加者ではなく、事前に殺人と放火の実行計画を練っていたテロリストだったということである。イスラエルのニュースタイトルは事件をうまく要約してくれている:『シリア:抗議行動で警察官7人を殺害、建物を放火』」


 シリアで3月以来続いている「反政府デモ」は、後述するように、それ自体がシリア反体制派とNATO側諸国メディアによる捏造の産物であることも珍しくないが、(実在する場合には)テロリズムによって駆動しているとすら言えるだろう。ダルアー近郊のカラク(Karak)村では、反体制派に「反政府デモ」への参加と(自宅に掲げた)アサド大統領の肖像画の撤去を強制され(肖像画撤去の脅迫と言えば、日本社会が朝鮮学校に対して仕掛けている犯罪的行為がすぐに連想されるが)、拒否した若者が翌朝自宅の玄関先で首吊り死体となって発見された(▼29)。

 シリア政府は、昨年12月までに反体制派によって2000人を超える治安部隊兵士が殺害されたとして、死亡した兵士の氏名を明らかにしている(▼30)。まさに一日当たり7人もの兵士が殺されているということになり、仮にこの数字が半分だとしても尋常ではない事態である。新華社通信(Xinhuanet)のアーカイブから、昨年3・4月のダルアーに限定して、NATO側諸国ではほぼ完全に無視されているシリア・アラブ通信(SANA)をソースとする記事をいくつか拾ってみよう。


・武装グループが走行中の救急車を襲撃、2名の医療スタッフと運転手、治安軍兵士1名を殺害(▼31)

・武装グループが治安部隊を襲撃、兵士5名を殺害
・武装グループが軍事検問所を襲撃、兵士2名を殺害
・覆面テロリストが政府施設を放火、その場に居合わせた8名を殺害(▼32)

・シリア軍、住民の要請を受けてダルアーに展開(▼33)

・武装グループが道路を遮断して通行人を狙撃、兵士1名が死亡、救急車の運転手と看護士を含む5名が負傷(▼34)

・武装グループが軍施設を襲撃、兵士4名を殺害、2名を誘拐(▼35)

・武装グループが兵士の住宅地区を襲撃、軍曹1名を殺害、2名が負傷(▼36)


 こうした事態はもちろんダルアーに限ったものではなく、次に述べる「サルバドル・オプション」――シリアへの「死の部隊」移設作戦――を含む、NATO側諸国によるシリア反体制派への強力な軍事支援を背景として、シリア各地を襲っている。さすがにこれを「アラブの春」と呼ぶのは、よほどの帝国主義的センスがなければ無理だろう。


▼20 CBS, Emir of Qatar favors Arab troops in Syria, 13 January 2012, http://www.cbsnews.com/8301-18560_162-57359014/emir-of-qatar-favors-arab-troops-in-syria/?tag=exclsv

▼21 大内清, カタールがシリアへの軍隊派遣に言及、強まる介入論, 産経新聞, 2012年1月15日, http://sankei.jp.msn.com/world/news/120115/mds12011521030005-n1.htm

▼22 例えば、アルジャジーラが2011年8月21日に放映し、NATO側諸国でヘビーローテーションされた反乱軍のトリポリ入場シーンは、「緑の広場」のセットを施したカタール・ドーハのスタジオ「アルジャジーラ」で特撮されたもので(下記サイトの二番目の動画を1:20あたりで止めると、セットの粗が気になってくる)、実際には(西部のガルガーレシュとジャンズールを除く)トリポリの大半は当時カダフィ政権の支配下にあった。8月23日には、NATO側メディアのゲーム的空想世界で繰り返し拘束され続けていたカダフィの子息セイフが、ジャーナリストと共に非武装でトリポリ中心部を訪れている。

Al Jazeera’s fake Green Square, Stop War Crimes!, 22 August 2011, http://stopwarcrimes.wordpress.com/2011/08/22/al-jazeeras-fake-green-square/

しかも、この「ハリウッド的な映画」について暴露されたリビア国民評議会は、臆面もなくそれが「カダフィの支持者を騙すために巧みに作られ運ばれた」ものであると正当化してみせた。

Stcom.net, リビア国民評議会「嘘の勝利報道効果あった」 偽トリポリ緑の広場, http://www.youtube.com/watch?v=imVc38OPNRc

上記動画に寄せられているコメントによると、「日本のTBSテレビは、『解放』を悦ぶトリポリ市民がみんな英語でインタビューに答えている様子を報じている。なお、疑問の投稿は不承認」であるという。

▼23 朝日新聞, 潘事務総長、異例の安保理批判 弾圧続くシリアめぐり, 2012年1月19日, http://www.asahi.com/international/update/0119/TKY201201190572.html

▼24 RT, Friend turned foe: Turkey rounds on Syria in regional power bid, 18 January 2012, http://rt.com/news/turkey-syria-neighbors-policy-077/

▼25 典型的な例として、12月23日付のル・モンド記事「Attentats a Damas : l'opposition accuse le regime, qui accuse Al-Qaida」(ダマスカスでの攻撃:シリア反体制派、アルカーイダを非難するアサド政権を非難)、同日の読売記事「シリアで自爆テロ情報、30人死亡?自作自演?」や、1月7日付のCNN記事「シリア首都で自爆テロ、死傷者数十人 『政権の自演』と反体制派」、1月9日付の赤旗記事「シリア軍の住民弾圧」などを挙げておく。

LeMonde, Attentats a Damas : l'opposition accuse le regime, qui accuse Al-Qaida, 23 December 2011,
http://www.lemonde.fr/proche-orient/article/2011/12/23/attentats-contre-les-services-de-securite-a-damas-selon-la-television-syrienne_1622169_3218.html#ens_id=1481132

読売新聞, シリアで自爆テロ情報、30人死亡?自作自演?, 2011年12月23日, http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20111223-OYT1T00549.htm

CNN, シリア首都で自爆テロ、死傷者数十人 「政権の自演」と反体制派 , 2012年1月7日, http://www.cnn.co.jp/world/30005183.html

小泉大介, しんぶん赤旗, シリア軍の住民弾圧, 2012年1月9日, http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2012-01-09/2012010907_01_1.html

▼26 「ソーシャルボット」は単純なスクリプトで作成できる。

Devin Coldewey, 研究者たちがFacebookに102体のボットを送り込んで250GBのユーザデータを収集, TechCrunch, 2011年11月2日, http://jp.techcrunch.com/archives/20111101researchers-flood-facebook-with-bots-collect-250gb-of-user-data/

▼27 Michel Chossudovsky, Media Disinformation: The Protest Movement in Syria --Western Media Coverage of the Events in Daraa, Global Research, 28 March 2011, http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=24016

▼28 Michel Chossudovsky, SYRIA: Who is Behind The Protest Movement? Fabricating a Pretext for a US-NATO "Humanitarian Intervention", 3 May 2011, http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=24591

▼29 International Christian Concern, Syrian Christians Threatened by Salafi Protestors, 4 May 2011, http://www.persecution.org/2011/05/05/syrian-christians-attacked-threatened-by-anti-government-protestors/

▼30 Julie Levesque, Syrian Death Toll Claim: Thousands Dead, Zero Verifiable Sources, Global Research TV, 23 December 2011, http://tv.globalresearch.ca/2011/12/syrian-death-toll-claim-thousands-dead-zero-verifiable-sources

▼31 Bi Mingxin, Four killed in armed attack against medical team in south Syria, Xinhua, 23 March 2011, http://news.xinhuanet.com/english2010/world/2011-03/23/c_13794626.htm

▼32 yan, Armed groups attack security forces, military in Syria, 24 April 2011, Xinhua, http://news.xinhuanet.com/english2010/world/2011-04/24/c_13842858.htm

▼33 Mu Xuequan, Syrian army deployed in Daraa on residents' demands, Xinhua, 26 April 2011, http://news.xinhuanet.com/english2010/world/2011-04/26/c_13845528.htm

▼34 Mu Xuequan, "Terrorists" snipe at passers-by, cut off roads in Syria's Daraa, Xinhua, 28 April 2011, http://news.xinhuanet.com/english2010/world/2011-04/28/c_13849030.htm

▼35 Wang Yan, Four soldiers killed, two kidnapped in Syria's Daraa town: report, 29 April 2011, http://news.xinhuanet.com/english2010/world/2011-04/29/c_13852344.htm

▼36 Mu Xuequan, "Terrorists" attack residence of Syrian servicemen, Xinhua, 30 April 2011, http://news.xinhuanet.com/english2010/world/2011-04/30/c_13852429.htm

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