ヘレン・トーマス、反ユダヤ主義発言で記者クラブ追放
Patrick Martin
2010年6月9日
日曜日の反シオニスト発言後、ホワイト・ハウスのベテラン記者ヘレン・トーマスが追放されたのは、ワシントン当局者連中が、政治的に卑劣で、全く体制順応的な環境であることの実物宣伝例に他ならない。彼女の発言がマスコミで広く報じられた翌日、月曜日、ハースト新聞社は、トーマスの“辞任”を発表した。
5月27日、ユダヤ人による貢献を記念する月間を祝う式典のためホワイト・ハウスを訪問していたラビのデイビッド・ネセノフに質問されて、89歳のベテラン記者トーマスが発言した。イスラエルについてどう考えているかと質問され、トーマスは答えた。"パレスチナからとにかく出て行くよう言ってください。いいですか、あそこの人々は占領されていて、あそこは彼らの土地なのです。あそこはドイツではありません。あそこはポーランドではありません。" それなら、どこに行くべきなのかと聞かれ、彼女は言った。"祖国に帰れます…ポーランドなり。ドイツなり。そしてアメリカに。そして、どこにでも。それまで何世紀もそこに暮らしていた人々をどうして追い出すのでしょう?"
トーマス発言は明白に誤ってはいたが、高齢の記者がちょっと気を許した隙の発言だ。ホワイト・ハウス記者としての何十年もの仕事の上で、アメリカの戦争とイスラエル政策に反対であることで有名な彼女トーマスが反ユダヤ主義者だと言った者など皆無だ。
その結果起きたマスコミの騒ぎは予想通り最低だった。トーマスのユダヤ人はドイツやポーランドに帰れという彼女の発言というより、むしろ、パレスチナ人が何世紀も暮らしてきた土地で、占領の下で苦しんでいるという彼女の発言によってひき起こされたのだ。
イスラエル権力階級やパレスチナ人の追い立てに内在する基本的な不法行為を巡り、トーマスは怒りをあらわした。それゆえに彼女は、事実上、イスラエル国家の正統性に対するいかなる異議申し立てを禁じるのみならず、アメリカ外交政策の略奪的動機に対するいかなる詮索も認めないという、アメリカ主流マスコミの自己検閲規制を破ったのだ。
記者団の古参会員に対するホワイト・ハウス記者団の敵意は、ワシントン・ポストのコラムニスト、ハワード・カーツによるオンライン記事で明らかにされた。“米国政府の中心部では、彼女のイスラエルに対する敵意は、皆が知っていた。彼女は記者職を十年前に辞めているにもかかわらず、記者会見室の最前列席を保ち続けており、同僚記者たちですら、時には、彼女の露骨な偏見にあきれていた。”とカーツは陰険な書き方をしている。
カーツが引用した、2006年のニュー・リパブリック記事で、ジョナサン・チェイトは、トーマスをブッシュに尋ねた奇想天外な質問で“錯乱したようにわめきたてる”と罵倒している。(以下の質問だ)“何故アメリカはイラクで人々を殺害しているのですか? イラクでは男性、女性、そして子供が殺され続けています… 非道なことです。”
CBS記者のマーク・ノーラーは、トーマスに対するマスコミの敵意の理由について、最も明瞭な発言をし、カーツにこう語っている。“彼女は、どんな硬派記者もしないような、隠された意図や彼女のものの見方を反映した質問をしていた。中には不適切だったと感じていた記者もいた。彼女はコラムニストとして、同室していた他の記者全員が、固守する義務があると感じている、通常の客観性という原則に一切束縛されないと考えており、彼女の質問は時として、他の記者達にとって当惑させられるようなものだった。”
彼女がブッシュやオバマ政権の嘘とプロパガンダの実態に対して異議を申し立てた際、彼女の同僚記者達が当惑したのは確実だ。ヘレン・トーマスは自尊心のあるジャーナリストならすべきことをしていたのだ。ホワイト・ハウス記者会見室に居並ぶ、金のために何でもやる連中やサクラ連中には、あえてそんなことをするメンバーなどいまい。
トーマスはアメリカ合州国で最も古いアラブ系アメリカ人のコミュニティーであるデトロイト東部のレバノン人移民家庭に生まれた。彼女は中東におけるイスラエルとアメリカ軍の介入に長らく批判的だった。彼女は、大手通信社、放送局や新聞の社員としては、女性ジャーナリストの草分け、最初の女性ホワイト・ハウス記者で、ホワイト・ハウス記者クラブ会長をつとめた最初の女性でもあった。2000年に長らく勤務していたUPIが極右の「統一教会」に買収された際、抗議としてUPIを辞め、ハーストで働くようになった。
ワシントン界でも、最も憎むべき二人の人物、元ブッシュ政権スポークスマンで、現在スポーツとエンタテインメントの会社で働いているアリ・フレイシャーと、クリントン政権時のホワイト・ハウス側近で、昨年ホンジュラスの臨時軍事政府のため、ワシントンにおけるスポークスマンとして働いたラニー・デイビスが反トーマス・キャンペーンの陣頭指揮を執った。
彼女の辞任が発表された後、右派ブルジョア世論に順応するという彼一流の直感で、オバマ大統領は反トーマス感情のうねりに加わり、イスラエルに関する彼女の発言は“攻撃的で”あり、彼女がハースト社を辞職したのは“正しい判断”だと述べた。
記事原文のurl:www.wsws.org/articles/2010/jun2010/thom-j09.shtml
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記者クラブのお手本ここにあり!
アメリカ・イスラエル、よく似た出自の国は、強い絆で結ばれている。
自国成立の「基本的事実」に、アメリカ・マスコミは決して触れない。
安保条約下の属国状態に、日本・マスコミは決して触れない。
属国マスコミの方針は宗主国マスコミの方針を模倣するだろう。
属国マスコミの品質は宗主国マスコミの品質を超えないだろう。
とは言え、マスコミが言わず・書かないからとて、描かれない事実が存在していないということにはなるまい。
この頃、講読を申し込んでいない新聞が、連日、新聞受けに投入される。
金を払えと恫喝に来たら、ドアは開けないよう家人にきつく言ってある。
もしも裕福であれば沖縄の新聞を購読しているところだ。
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