■ アウェーゲームオシム監督就任後、初めて、ヨーロッパへの遠征を行っている日本代表は、アウェーの地でオーストリアと対戦。2008年に自国開催のEURO2008を控えているオーストリアにとっては、その大切な準備期間であり、下手な試合は出来ない。
アジアカップ後、初めて海外組を召集した日本代表だが、ここ10年で、ヨーロッパのアウェー戦で勝利をしたのは、20002年のポーランド戦と2004年のチェコ戦のみ。ヨーロッパのアウェー戦は、簡単なものではないというのは、データが如実に物語る。W杯出場8回を誇るオーストリアは、当然、格上といえるチームである。
■ 俊輔&稲本がスタメン日本は、<4-4-2>。GK川口、DF加地・闘莉王・中澤・駒野。MF稲本・鈴木・俊輔・遠藤。FW矢野・田中。代表で中心的存在のMF阿部が腰痛で代表を辞退し、フランクフルトのMF稲本がボランチに入った。
対するオーストリアは、1トップ気味の布陣である。
■ 試合の流れを決めた立ち上がりの10分立ち上がりのオーストリアは、ホームということもあって、積極的に前からプレスをかけて、主導権を握ろうとした。この段階では、「自分たちの方が、実力的に上」だという自信があったのだろう。「守」から「攻」への切り替えも早く、高い位置でボールを奪って、人数をかけて攻め込もうとする意図が感じられた。
しかしながら、このオーストリアのプランはうまくいかなかった。日本代表は、オーストリアのプレッシャーにも、まったくあわてることなく、落ち着いてボールを回して、ゴール前に迫って、オーストリアの勢いをしっかりと受け止めた。オーストリアの選手の立場に立つと、この時点で、「日本代表は簡単な相手ではない。」という警戒の意識が働いたということは、容易に想像できる。
それ以後のオーストリアは、「高い位置からプレスにいっても、簡単にはボールは奪えないし、安易にボールを奪いにいくとかわされてピンチになる。」という心理がチーム全体に渡って、リトリートして、守るスタイルにならざる得なかった。開始10分が、この試合の流れを左右したといっても、過言ではない。
その後の日本は、MFの遠藤のFKからFW田中のシュートがクロスバーにはじかれる決定的なチャンスや、稲本のパスを受けたMF中村がフリーでシュートを放つなど、チャンスの質と量でオーストリアを圧倒し、試合を優位に進めた。
■ 憲剛と松井の効果日本は、後半26分に、FW田中に代えてMF松井、MF稲本に代えてMF中村憲剛を投入。後半10分あたりから、MF稲本のスタミナが切れかかって、中盤の守備のバランスがやや崩れかけていたが、MF中村憲剛を入れることで中盤の活力を取り戻し、ボール回しが、いっそうスムーズになった。
2トップの一角のFW田中が下がったことで、実質、1トップの布陣に変更し、MF松井は、所属のルマンと同じ左ウイング的なポジションでプレーし、得意のドリブルから、チャンスを作った。
結局、試合はスコアレスの末、PK戦で敗れたが、攻守ともに、内容的には申し分なく、オシムジャパンのベストゲームの1つに数えられるような試合であった。
■ ダブルボランチの組み合わせ前半の日本代表は、稲本&鈴木という人に強いタイプのボランチを並べて戦って、後半の途中からは、稲本に代えて、中村憲剛を起用。ゲームメーカータイプの選手を投入し、試合の流れを作った。
振り返ってみると、この試合では、どちらの組み合わせも、持ち味を発揮した。稲本のスタミナが切れるまでは、ダブルボランチが効果的にボールに絡んでオーストリアに攻撃のチャンスを与えず、点の欲しい時間帯になると、より攻撃力のある憲剛を投入し、リズムを変えて、試合を支配した。
ダブルボランチにどんなタイプの選手を起用するかについては、現代サッカーでは、もっとも各チームの嗜好が表れるポイントであるが、攻撃的な選手を並べたからといって、チーム全体が攻撃的になるわけではないし、逆に、守備的な選手を並べたからといって、チーム全体が守備的なサッカーになるわけではない。
したがって、なによりも、バランスが大切になるが、そういう意味では、鈴木&稲本という組み合わせも、鈴木&憲剛という組み合わせも、ともに機能したのは、大きな収穫となった。
今後は、相手との力関係や、試合展開によって、そのときにふさわしいものを選択していけばいいだろう。。
■ ボランチで初スタメンの稲本久しぶりに、代表でボランチとしてプレーした稲本は、後半の途中からやや息切れをしたものの、全体的には、良かった。体のキレも良好で、相手と1対1になったときのコンタクトの強さは、日本の中では、やはり群を抜いており、ミドルパスも正確で、チャンスを拡大した。
アウェーゲームということもあって、ゴール前への飛び出しは自重気味だったが、今後、コンビを組む鈴木啓太との信頼関係が築けていければ、もっと攻撃的にプレー出来るようになるだろうし、チーム全体も、パワーアップすることが出来る。ポジティブな印象を与えた。
■ 光った俊輔の積極性攻撃陣をリードしたのは、やはり、MF中村俊輔。オシムジャパンになってからは、もっともいい内容のプレーを見せた。
アジアカップでなかなかシュートを打てなかったことの反省からか、ミドルレンジからも、積極的にシュートを狙っていって、相手のマークをひきつけて、味方がプレーしやすい状況を作った。俊輔の良さは、課題をすぐに修正できる点であるが、この試合でも、高い修正能力を見せた。
あえて注文をつけると、右サイドバックの加地を使うタイミングが、いまひとつである点である。加地が運動量豊富にサイドを駆け上がって、頻繁に攻撃参加することで、日本代表は攻撃に厚みを加えているが、俊輔クラスの選手であれば、もっと加地をおとりに使って、自ら仕掛けてクロスを上げたり、シュートを放ったりするプレーがあってもいい。俊輔が、もっとセルフィッシュになった方が、相手にとっては、脅威になるだろう。
■ 見直しが必要なサイドバック一方、アジアカップでも問題となったが、サイドバックのクロスの精度には、課題が残った。
右の加地は、フリーでサイドを駆け上がっても、なかなか効果的なクロスが上がらず、簡単に相手DFに跳ね返されるケースが目立ち、左の駒野も、利き足が右なので、どうしても右足に持ち替えてクロスを上げようとするので、スピードに乗った状態でクロスを上げることができずに、幅広い攻撃が出来なかった。
攻守ともに、加地と駒野の貢献度は高いが、チームとしてレベルアップを図るのであれば、再考も必要である。
■ 2トップの評価2トップでは、FW田中達也は及第点。MF遠藤のFKからフリーで放ったシュートが決まっていればまったく違ったものになっただろうが、それでも、いい場面に絡んできたことは、評価できる。
後半にロングフィードから、矢野が競り勝って、田中がシュートを放つシーンがあったが、ああいうプレーは、田中の真骨頂であり、スペースを嗅ぎこんで、1人でドリブルで運べて、シュートにまで持っていけるのは魅力である。
一方のFW矢野も、出来自体は悪くはなかった。だが、味方とかみ合っていないシーンも目立ち、その能力を最大限には生かせなかった。
矢野の持ち味は、「185cmの高さ」もその1つではあるが、サイドに流れて起点になったり、ストライドの大きいドリブルで相手DFを振り切って強引に突破するプレーも得意である。
しかしながら、この試合では、矢野自身が、どんなプレーがしたいのかがなかなか見えず、チームメートも、矢野の意図を感じ取ることが出来ず、スムーズな連携が築けなかった。
能力的には、まったく問題はないのだが、攻撃に関しての自由度が極めて高いオシムジャパンのサッカーの中では、もっと自己主張していかなければ、生き残れないだろう。
その点では、矢野ほどのプレーの幅はないが、明確なストロングポイントがあって、チームメートが特徴をイメージしやすいFW巻のほうが、機能しているのは必然といえるだろう。
■ DF陣はOKザルツブルグの三都主やバーゼルの中田浩二といった選手を招集せず、アジアカップのメンバーを中心に構成をしてきた守備ブロック(DFライン+ボランチ)に関しては、十分に、合格点があげられる。無失点に抑えたことも評価できるが、それ以上に、オーストリアにまったく決定機を作らせなかったことを、評価したい。
オーストリアの攻撃陣が機能しなかったように見えたのは、オーストリアの攻撃陣の問題もあったが、むしろ、日本の守備ブロックがうまく機能していたために、彼らの持ち味を発揮させる状況を作らせなかったという要因の方が大きかっただろう。
オシムジャパンの発足から、ほぼ1年経って、これで、守備に関しては、一区切りがついたといえる。今回、三都主や中田浩二の召集を見送ったのは、この遠征が、既存のグループの最終テストの意味合いが強かったためと想像する。よって、スイス戦のあとの、エジプト戦からは、サイドバックも人選含めて、ベースはそのままに、また、新しい選手が試される可能性は高いと見る。
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