■ J2の第31節J2の第31節。5勝14敗11分けで勝ち点「26」の大分トリニータ(22位)がホームの大分銀行ドームでロアッソ熊本と対戦した。熊本は9勝12敗9分けで勝ち点「36」。15位に位置する。ホームの大分はまさかの残留争いに巻き込まれているが、雷雨のため延期となった27節の試合で最下位だったFC岐阜が1対0で群馬を下したためFC岐阜が21位に浮上。大分は最下位に転落した。21位のFC岐阜と22位の大分の差は「3」。
ホームの大分は「4-2-2-2」。GK上福元。DF西弘則、ダニエル、鈴木義、若狭。MF松本昌、兵働、松本怜、為田。FW三平、伊佐。キャプテンのDFダニエルが4試合ぶりのスタメン。大卒ルーキーのDF鈴木義とCBコンビを組むことになった。元日本代表のFW高松、背番号「10」を背負う新外国人のFWエヴァンドロらがベンチから出番を待つ。五輪世代の1人でエースのMF為田は21試合で4ゴールを挙げている。
対するアウェイの熊本は「4-2-2-2」。GKシュミット・ダニエル。DF養父、クォン・ハンジン、鈴木翔、黒木晃。MF園田、高柳、中山雄、嶋田慎。FW巻、齊藤和。1対1の引き分けに終わった30節の札幌戦(H)は出場停止だったFW齊藤和がスタメン復帰。29試合で11ゴール6アシストを記録しているが共にJ2で4位。見事な成績を残している。最近は1トップでの出場が多かったが、この日はFW巻との2トップとなった。
■ 劇的な形で勝利したロアッソ熊本試合の前半はホームの大分ペースで進んでいく。左SHのMF為田を中心に攻め込んでいく。前半25分にはFW伊佐のポストプレーを起点にMF為田がエリア内に侵入。熊本の右SBのDF養父に倒されたかと思われたが荒木主審はノーファールの判定。さらに前半38分にはFW三平、前半39分には右SBのDF西弘則が決定機を迎えるが決められず。前半はホームの大分が圧倒的に押し込んだが0対0で折り返す。
後半も同様に大分が優勢となる。劣勢の展開になった熊本は耐える時間が続いたが、何度か訪れた決定機をキーパーのGKシュミット・ダニエルが防いでゴールを許さない。ほとんどチャンスを作れなかった熊本は後半25分にFW巻とMF中山雄を下げて、新加入のMF清武功と大卒ルーキーのFW田中達を投入。この2人を投入した後は前線の動きが活発になって可能性が感じられる攻撃をいくつか見せるようになる。
すると後半46分にセットプレーの流れから右サイドでボールを受けた19歳のMF嶋田慎が得意の左足でストレート系の鋭いボールをゴール前に供給するとフリーになっていた途中出場のFW田中達が左足でうまく合わせて土壇場でアウェイの熊本が先制ゴールを奪う。FW田中達は嬉しいJリーグ初ゴールとなった。結局、シュートわずか3本の熊本が1対0で勝利。大分は最下位脱出ならず。リーグ戦は4連敗となった。
■ 苦しい状況が続く大分トリニータ大分にとっては痛すぎる敗戦となった。30節はC大阪戦、31節は熊本戦とホーム2連戦だったが、やや調子を上げてきたC大阪に勝つのはなかなか大変である。ただ、隣県の熊本が相手であれば勝てる可能性は十分にある。vs 熊本は相性が極めて悪くて通算で0勝3敗6分けと全く勝てていないが、そういうことは関係ないほどの状況に追い込まれている。「MUST WIN」の試合だったので、ダメージは大きい。
ただ、内容自体はかなり良かった。30節のC大阪戦(H)はCKから3失点。セットプレーの守備の対応のまずさが目立ったが、攻撃においてもあまりいい形を作れなかった。状態の良くない大分銀行ドームの芝の問題も大きく関係して内容的には乏しい試合だったが、この日は見違えるような動きを見せた。MF為田やDFダニエルを中心にして選手たちは気持ちの入ったプレーを見せたが、結果にはつながらなかった。
J2は残り11試合となったが、「まだまだ結構な試合数が残っている。」とも言える。横浜FCや京都や水戸や栃木SCやFC岐阜あたりは射程圏内に入っているが、「勝たないと降格ゾーンを脱出できない。」というシチュエーションで迎える次の試合は相当なプレッシャーとなる。すでに大分の選手たちは大きな重荷を背負ってプレーしているが、22位のままである限り、今後はさらに大きなプレッシャーがかかってくる。
次節はアウェイでFC岐阜と対戦するが、言うまでもなく、両チームのこれからを左右する大一番となる。引き分けではダメ。勝たないといけない試合になったが、こういう試合ではエースが頑張るしかない。MF為田がどれくらいの活躍ができるか?が注目ポイントになる。幸いにしてコンディション自体は良さそう。この日は何度も左サイドからチャンスを作った。エースの働きを見せてチームを救うことが期待される。
■ 大卒ルーキーのFW田中達也が決勝弾一方の熊本は劣勢の展開になった。シュートはわずか3本だけ。決定機もほぼ無かった。結局、後半46分のFW田中達の決勝ゴールのシーンが最大にして唯一の決定機だったと言えるが、途中出場のFW田中達が大仕事をした。九州産業大時代の下級生の頃から特別指定選手として熊本でプレーしているので全くそういう感じはしないが、一応、身分的には大卒ルーキー。嬉しいJリーグ初ゴールが貴重な決勝弾となった。
長らく浦和で活躍して現在は新潟でプレーする元日本代表のFW田中達也と同姓同名ということで話題になったが、プレースタイルも本家とよく似ている。積極的にドリブルで仕掛けるプレーをウリにしており、全盛期のFW田中達と比べるとスピードがある。熊本は昨オフにドリブラーのMF澤田とMF仲間が揃って抜けたこともあって今シーズンはドリブラー不足のところがある。FW田中達にかかる期待も大きい。
FW田中達の決勝ゴールをアシストしたMF嶋田慎のプレーも光った。右サイドでボールを持って普通に浮き球のクロスを上げるかと思われたが、選択したのはストレート系の鋭い弾道のクロス。(もしかしたら、「クロス」と表現するよりも「パス」と表現したほうが適切かもしれない。)ドンピシャでFW田中達の足元に飛んで行った。このボールが入ってきたら大分の最終ラインの選手はどうすることもできない。
7月の月間最優秀ゴールに選ばれた26節の千葉戦(A)のミドルシュートもストレート系のキックだったが、「ストレート系のキック」に関しては他の選手が真似のできないレベル。スピードも、コースも、ほぼ自由自在に蹴ることが出来るので、大きな武器になっている。ストレート系のキックは普通のキックと比べると難易度は高いが、相手のタイミングをずらすこともできるし、クリアしたり、セーブするのも難しくなる。
チームと同様にMF嶋田慎も今シーズンの序盤戦は苦しんだ。ユース卒で2年目なので責任のあるポジションを与えるのは酷な部分もあるが、小野監督は相当な期待をかけている。なかなかいいプレーができなくてもほとんどの試合でスタメンで使い続けた。「周囲の我慢」が必要な時期は長かったが、ここに来てようやくゴールやアシストで貢献できるようになってきた。左足のキックだけで違いを生み出すことができる。
■ 日本人の若手キーパーの中では随一のポテンシャル決勝ゴールのFW田中達、決勝アシストのMF嶋田慎のみならず、最終ラインで奮闘したDFクォン・ハンジンやDF鈴木翔も勝利の立役者と言えるが、最大のヒーローは何といっても守護神のGKシュミット・ダニエルである。この試合は90分を通してほぼ大分ペースが続いたが、GKシュミット・ダニエルが4・5回は決定機を防いだ。特に後半にMF兵働のコース隅を突いたシュートを防いだプレーは圧巻だった。
シーズン途中にJ1の仙台から育成型期限付き移籍で熊本に加入。17節の長崎戦(H)からスタメンフル出場が続いているが、彼がスタメン出場した試合は15試合で8勝4敗3分け。それまでは2勝8敗6分けと低迷していたので「シュミット効果」は明らか。15試合でわずか10失点なので1試合平均は0.67失点。GKシュミット・ダニエルの加入が無ければ、今頃、熊本はJ2の残留争いの中心になっていただろう。
父親がアメリカ人で母親が日本人のハーフとなるが、極めてスケールの大きな選手である。196センチ/93キロと破格のサイズを誇るが、身体的な能力も高い。ハイボールの処理も安定していて、キックの精度も高くて、DFラインの裏に出てくるパスの処理も無難にこなす。1992年2月3日生まれで23歳。キーパーにとっても何よりも重要となる「経験値」が不足しているのは間違いないが、相当な逸材である。
幼少期の頃から仙台で暮らしていたというが、「3年以内に日本代表に選ばれることが目標」という話である。日本国籍を有しているので日本代表に選出される可能性を持っているが、ここまでサイズがあるキーパーは日本にはほとんどいない。サイズだけでも魅力的であるが、魅力はサイズだけにとどまらない。「3年以内」どころか、早いうちに日本代表に抜擢されてもおかしくないほどの逸材と言えるだろう。
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