■ Jリーグが開幕15年目が開幕。FC東京の原博美監督の復帰戦は、ホーム・味の素スタジアムでのサンフレッチェ広島戦。開幕戦はJ1昇格後は負け知らずのFC東京だが、サンフレッチェに対しては、5年間勝ちがない、いわゆる苦手チーム。昨シーズンも、2連敗を喫している。楽な相手ではない。
春らしい天候の中、「ハラトーキョー復活」の姿を目撃しようと、たくさんの人が味の素スタジアムに足を運んだ。最寄の飛田給駅から味の素スタジアムに続く1キロほどの空間は、まさしく「サッカーがある幸せ」を感じさせる絶好のスポットである。これから始まる戦いへの期待感を膨らませたFC東京のサポーターが、足早にスタジアムへ向かう。この雰囲気は、何度体験しても素晴らしい。
■ 2対4の敗戦試合は、立ち上がりはFC東京が激しいプレスから、シュートチャンスをつかむ。しかしながら、一瞬の隙を突いた佐藤寿人の先制ゴールが、前半13分に決まると、広島が立て続けに3得点をマークし、前半27分の段階で、3対0とリードした。
FC東京は、前半29分に、高卒ルーキーのDF吉本に代えて、藤山を投入し守備の建て直しを図ると、後半5分には、ルーカスのミドルシュートで1点を返す。反撃開始かと思われたが、その直後に、佐藤寿人のループシュートの跳ね返りをウェズレイが押し込んで4対1。再び広島が3点をリードとした。
その後、FC東京はセットプレーからルーカスのヘディングシュートで1点を返すものの、反撃はここまで。4対2で広島が勝利した。
■ 吉本クンの開幕戦FC東京はCBとして高卒ルーキーの吉本を起用したが、この策が結果的には、裏目に出た。大観衆で埋まったJ開幕戦で、しかも、相手が佐藤寿人&ウェズレイというJ最高の2トップで、さらにCBでパートナーを組む徳永も、プロではサイドバックの経験がほとんどで、CBはプロでは初体験というシチュエーションは、あまりにも酷だった。
佐藤寿人への対応ミスから、2点目のゴールを許した直後には、FC東京のサポーターから「よしもと・よしもと・よしもと」という声援が送られたが、誰の目にも、ミスマッチなのは明らかだった。
佐藤寿人の2点目のゴールが決まったのが、前半18分。ボクはこの時点で、「吉本を交代させるかな?」と思った。ただ、吉本の将来を考えると、それは出来ないということも理解していた。ピカピカのルーキーを、悪いイメージだけを残したまま、前半20分で交代させることは、いくら冷徹な監督でも難しいだろう。
ただし、この試合に勝つことだけを優先させるなら、2失点目のすぐあとに、吉本を交代させたほうがよかった。結果的には、前半27分に広島の3点目が決まって、勝敗の行方はほぼ決まってしまった。
高卒ルーキーとしては、つらすぎるデビュー戦となってしまったが、彼は、このあとの数年間のFC東京の守備陣を支える存在になりうる選手である。今後、どれほどの成長を見せるかわからないが、この日の悔しい経験を必ず、生かして欲しい。将来、吉本が日本を代表するCBになったとしたら、この日の敗北は決して無駄ではなかったということの証明となる。今後に期待しよう。
■ 代役CB藤山の奮闘その吉本に代わって前半29分にピッチに入ったのが、ベテランの藤山竜仁。その藤山のプレーは、あまりにも素晴らしかった。10点満点で採点するなら、「8.5」。飛び出しの能力に優れた佐藤寿人に裏のスペースを使われることを恐れた吉本が、DFラインの後ろを警戒するあまり、前へのアタックができずに、自在にトップで起点を作られたのとは対照的に、鋭い読みと鋭い出足で、再三再四、くさびのボールをインターセプトして見せて、広島の攻撃の起点となるポイントを封じて見せた。
さらに、守備だけではなく、ボールを奪ったあとの正確なフィードで攻撃の第一歩として効果的なプレーを見せた。攻撃の時には、サイドバックが高い位置を取るため2バック状態になっていたFC東京の危険なDFラインを1人で支える圧巻のパフォーマンスだった。
3点リードを許したFC東京が守備に人数を割くことなく、反撃体制に入れたのは、藤山の奮闘があったればこそ。もし、明日のスポーツ新聞の記事で、「藤山の奮闘振り」について書かれた記事と比べて、「平山開幕戦不発」という見出しの記事の方がスペースを割かれていたとしたら、日本のスポーツマスコミはおしまいである。
■ 不安いっぱいの守備陣さて、戦前から不安視されていた茂庭&ジャーンの穴だが、確かに大きかった。コンディションが万全ではない今野と福西の活動量が十分ではなく、右サイドバック(伊野波)と左サイドバック(金沢)が攻撃参加した裏のスペースをいいように使われてしまったのが痛かった。前線からのプレスはしっかりとかかっているのだが、中途半端な攻撃で終わって相手のカウンターを受けるときの準備が、あまりにもなされていなかった。
吉本に代わって藤山が入ったことで落ち着きを取り戻したが、左右のサイドバックが頻繁にオーバーラップする攻撃サッカーを掲げるのであっても、最低限のリスクマネージメントはしておきたい。
■ 潜在能力を感じさせたFC東京の攻撃陣守備面では不安いっぱいのスタートとなったが、攻撃陣は可能性を感じさせた。試合は2対4で敗れたものの、周りの観衆の感想は、シュートシーンが多く、大半が、「負けたけど面白い試合だった。」というものだった。攻撃サッカーを掲げる「ハラ・トーキョー」としては面目躍如の形となった。
フォーメーションは、<4-2-1-3>。右に石川、真ん中に平山、左にルーカスを配置する3トップで、梶山がトップ下に入ったが、ゲームを作る左のルーカスと、縦に突破する石川という左右のバランスも良かった。
初出場となったMF福西は、やはり巧い。相手DFに囲まれたとしても、慌てることなく味方につなぐことができるし、フリーの選手がいれば的確な判断で最善の状況で使ってあげることができる。怪我(捻挫)の影響もあって、運動量は多くなくて、ゴール前でシュートシーンに絡むことはなかったが、存在感は抜群だった。思った以上に、FC東京になじめている印象を受けた。福西の加入は、間違いなく、大きい。
■ 再考が必要な中盤の構成攻撃陣はそれぞれが持ち味を発揮したが、ただ1人、良くなかったのが、トップ下の梶山のプレー。広島の先制点につながったシーンは、梶山のロストボールから。FWのルーカスと平山が前線でしっかりとボールをキープして起点になれるできる選手なので、トップ下の梶山にボールが渡る回数自体が少ないし、また、その必要性も感じない。なかなかボールに触れない梶山はボランチのポジションまで下がってきてボールを受けようとするが、ダブルボランチとの縦の連携もいまひとつで、ほとんど持ち味を発揮できないまま、前半でピッチを去った。
個人的な印象では、石川・平山・ルーカスという3トップであれば、トップ下はシャドーストライカータイプの選手のほうが、スムーズに事が運ぶのではないだろうか?現状だと、福西と梶山のポジションを入れ替えたほうがうまくいきそうだが・・・。
■ 調子の上がっている平山だが・・・3トップの中央を任された平山相太。プレーは非常によかったが、やはり、明確な結果が欲しい。この試合では、2度の決定的なチャンスを含む、5本のシュートを放ったが、結局、ノーゴールに終わった。チャンスを呼び込んでいること自体は評価できるし、その中には、彼にしか出来ないようなダイナミックな飛び込みからのヘディングシュートもあり、見ごたえは十分だった。シュートシーンだけではなく、しっかりとボールを受けて起点となるプレーもできており、調子はよさそうではある。
普通の選手であればこれで問題はないが、平山は、やはりエースストライカーなのだから、得点という結果をしっかりと残していって欲しい。ヘラクレス時代を見れば分かるように、もともと、かなりの決定力を持った選手である。しかしながら、どうも、ここ最近は、決定的なシーンで枠を外すケースが目立つ。あと一歩、精進を期待したい。FC東京が上位に食い込むことができるかどうかは、平山の出来にかかっているといっても過言ではないし、また、それだけの重い責任を負わせるだけの価値がある選手である。
■ 理想的な試合運びを見せた広島広島は、立ち上がりこそ攻め込まれたが、その時間帯をしのぐと、一気の攻勢で試合を決めてしまった。FC東京が攻撃的に出てくることを見越したプランが見事にはまった。
特筆すべきは、ウェズレイと佐藤寿人の2トップ。ともに2得点を挙げたが、それだけではなく、前線の起点となる動きとスペースメーキングが見事だった。この2人はボールを受けるときに必ずムービングしているので、彼らが動いたあとのスペースが空いている可能性が高く、この空間を前を向いた状態の柏木や森崎浩に使わせることで、チームの攻撃をスムーズに好転させた。
昨年に引き続いて、佐藤寿人は味スタで2ゴール。彼は、危険極まりないストライカーである。裏に飛び出すうまさは群を抜いている。しっかりとした得点パターンを持っているので、その形が作れさえすればゴールの可能性は一気に高まる。
■ フィードの正確さ広島の特徴のひとつは、DFラインの人選。戸田・盛田・森崎和の3人は、いずれも本職のCBではない。彼らを抜擢している理由は、CBが攻撃の第一歩だからである。
この試合でも、フィードの精度は高かった。FC東京のDFラインからのボールに比べると、単純なクリアボールだけを見ても、きわどいスペースに供給されていくので、チャンスにつながりやすい。守備能力の低下というデメリットを補うだけのメリットが、現状では見られる。
■ ペトロビッチ流のサッカーシュトルム・グラーツ時代にオシム監督の指導を間近で見てきたペトロビッチ監督のサッカーからは、オシムサッカーの香りが漂う。特に、攻守の切り替えの速さとチャンスと見たときの全体の押し上げの早さには、目を見張るものがある。
確かに、広島のサッカーは、「華やかなサッカー」ではない。華麗なヒールキックやスルーパスが頻発するものではないので素人受けするものではないかもしれないが、攻守ともに動きの質が高く、見ごたえのあるサッカーといえる。また、トップにボールが入りさえすると高確率でシュートシーンに結びつくので、ゴール前のシーンも多くエキサイティングである。守備的なチームだという印象は、ペトロビッチ監督になって、薄まってきている。
■ 引かれたときにどうするか?広島のサッカーは、FC東京のように馬鹿正直に戦ってくるチームに対しては、非常に強さを発揮するだろう。問題は、相手に引かれたときに、どう崩していくか。これは、上位に進出できるか否かの分岐点である。
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