■ 苦しむユナイテッドマンチェスターUが苦しんでいる。日曜日の夜に行われた25節のフラム戦(H)はボール支配率では75%とマンチェスターUが圧倒したが、後半のロスタイムに同点ゴールを喫して2対2の引き分けに終わった。これでリーグ戦は12勝8敗5分けで勝ち点「41」。首位で勝ち点「56」のチェルシーとの差は「15」となったが、残りは13試合なので「リーグ連覇」は絶望的と言える。
フラム戦は選手起用にも疑問が残った。「モイーズ監督の中ではベスト」と思われるスタメンだったが、最下位のフラムとのホームゲームで、かつ、2日後の12日(水)には2位に位置するアーセナルとのアウェー戦を控えている。主要メンバーを温存して、フラム戦は出場時間が減っている選手を起用する絶好のチャンスに思えたが、今のモイーズ監督にはそこまでの余裕は無いようだ。
世界でもっとも人気あるクラブの1つで、しかも、27年間続いたファーガソン監督からバトンを受けたので、難しいシチュエーションからのスタートだったことは考慮すべきであるが、状況はさらに難しいものとなった。マンチェスターUのような規模の大きなクラブでもCLに出場できないと金銭的なダメージは大きいので、CLの出場権を逃すことは許されないが、今の感じではかなり難しい。
■ 出番に恵まれないMF香川日本代表のMF香川はこれでリーグ戦は4試合連続で出番がなかったが、今は我慢するしかない。しばらくすると、CLの決勝トーナメントがスタートするが、MFマタはチェルシーのときにCLのグループリーグに出場している(マンチェスターUでは)今シーズンのCLには出場できない。MF香川は今年のGLは6試合のうち5試合でスタメン起用されており、CLになるとチャンスを与えられる確率は高くなる。
MF香川というと冬の移籍市場で退団の可能性もあったがチームに残った。実際に他クラブからオファーがあったのか、また、退団する意思があったのかははっきりしないが、CLの決勝トーナメントもある。多くの試合で(最低でも)ベンチ入りメンバーに選ばれているMF香川をこの段階でクラブが積極的に放出しようとする必要性は全くないので、本人が強く移籍を希望しない限り、残留となるのが当たり前である。
ずっとベンチ外が続いていたり、起用されても途中出場ばかりであるならば、強硬な態度に出た可能性もあるが、(出場機会が少ないとは言っても、)リーグ戦は7試合、CLは5試合に先発起用されており、国内のカップもあった。公式戦の数が非常に多いチームなので、スタメン起用された割合はあまり高くないが、スタメンの回数や出場時間については、「試合勘」が問題視されるほどではない。
そして、メキシコ代表のFWエルナンデスなど継続的にスタメン起用されずにいる有力選手は他にもたくさんいる。何だかんだで世界のサッカー界をリードするチームの1つなので、「常時スタメン」とはいかない選手の扱い方というのは慣れているはずである。戦力として計算している選手が試合勘不足に陥らないような術は、当然、持っていると思うので、そのあたりは大丈夫だと考えられる。
■ 記録的なクロスの本数先のフラム戦はほとんどの時間でマンチェスターUがボールを支配して、前述のとおり、支配率は75%だった。フラムが前半19分にMFシドウェルのゴールで先制した後は、ハーフコートゲームのような感じになって、マンチェスターUはサイドからクロスを上げまくったが、あまり効果的ではなかった。イレブンは気持ちの入ったプレーを見せたが、空回りしている選手が多かったように思う。
結局、プレミアリーグの公式スタッツではクロスの本数は74本だった。2013年のJ1でクロスの本数がもっとも多かった磐田が19.59本/1試合で、もっとも少なかった川崎Fが11.47本/1試合。J2では1位の福岡が19.07本/1試合で、22位の北九州は11.31本/1試合だったので、これらと比較すると「1試合でクロスの本数が74本」というのは、普通では考えられない異次元の数字ということが分かる。
もし、モイーズ監督の中に「クロスが攻撃の軸であり、たくさんクロスを上げることができる選手が優秀」という考えがあるのならば、MF香川の立場は苦しい。例えば今年のCLのGLの5試合でMF香川が上げたクロスは7本だけ。成功したのは2本だけなので、たくさんクロスを上げるタイプではない。この点で比較すると、MFアシュリー・ヤングやMFヤヌザイと比べて見劣りするのは否めない。
■ モイーズ監督だけが悪いのか?マンチェスターUは単調な攻撃に終始したが、試合を観ていて感じたのは、「モイーズ監督だけが悪いのか?」という点である。正直なところ、フラムの守備はあまり良くなかった。特にサイドの守備はルーズだったので、サイドハーフやSBの選手は楽にクロスを上げることができた。それが74本という記録的なクロス数につながったが、クロス一辺倒では難しいことは試合を観ていた多くの人が感じたと思う。
となると、監督の指示が「サイド攻撃中心」であったとしても、ピッチ上の誰かが音頭を取って、目先を変えることが必要だったと思うが、そういう雰囲気はなかった。もちろん、MFヤヌザイやMFバレンシアを投入したモイーズ監督に修正の意図は無かったと思うが、これだけの選手がいるチームである。ピッチ上の選手が自分たち主導で何か変化を起こしても良かったのではないかと思う。
なので、モイーズ監督だけでなく、単調なプレーを続けたマンチェスターUのイレブンにもちょっと失望したが、そうは言っても「監督の考え」というのは絶対的なものである。このクラスの選手であっても、ピッチ上にいる選手だけで、試合の中で変化を起こすのは難しいようだ。モイーズ監督というのは、監督という職業の難しさや奥深さを身をもって教えてくれる興味深い指導者である。
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