■ ベテランの待望論いつの時代にも、「かつて代表チームで主力として活躍した選手」の代表復帰を求める声というのは出てくる。第一次岡田ジャパンのときは、オフトジャパンのときにキャプテンを務めたDF柱谷哲二(ヴェルディ川崎)の復帰を求める声が多かった。DF柱谷は類稀なリーダーシップを備えていたので、プレー面で貢献できるだけでなく、精神的な支柱になれるのではないかという期待があったが、結局、最後まで呼ばれることはなかった。
今年になって、日本代表の結果が芳しくないこともあって、DF闘莉王(名古屋)、DF中澤(横浜FM)、FW大久保(川崎F)といった南アフリカW杯のときの主力選手の代表復帰を期待する声が高まっており、さらには、2010年の9月に正式に代表引退を表明しているGK楢崎(名古屋)や、南アフリカW杯で一区切りが付いたので「代表復帰の意思はない。」と当時からたびたび報道されてきたMF中村俊(横浜FM)の復帰を求める声も出てきた。
確かに、今シーズンのJリーグは30歳を超えるベテラン選手の活躍が目立っている。FW大久保は自身初の得点王の可能性が高まっており、MF中村俊に至っては、リーグMVPの最有力候補と言われている。また、W杯の経験はないが、昨年のリーグMVPであり、リーグ得点王のFW佐藤寿(広島)の召集を期待する声も多いが、今のところ、ザッケローニ監督は30歳をオーバーする選手をブランクの末に日本代表に復帰させることに関しては、かなり慎重である。
ただ、これまでの3年間で全くそういうケースが無かったわけではない。DF駒野(磐田)とMF中村憲(川崎F)は怪我等の理由もあって2011年1月に行われたアジアカップには召集されなくて、その後も、しばらくの間、日本代表には呼ばれなかったので、「完全に構想外になった。」と思われていたが、Jリーグでのパフォーマンスが評価されて、代表復帰を果たした。ここ最近は外れているが、W杯のアジア最終予選のときは継続的に日本代表に召集されている。
■ ベテランを冷遇しているか?復帰を打診されても承諾する可能性は限りなくゼロに近いMF中村俊やGK楢崎はともかくとして、他の選手については、しばしば、「日本代表に復帰したい。」という意思を示しているので、今後、代表復帰の可能性はゼロとは言えない。日韓W杯のとき、ほとんどトルシエジャパンの枠組みに入っていなかったDF秋田(鹿島)が大サプライズで最終メンバーに召集された例もあるが、「何が起こるか分からない。」というのが、本当のところである。
ただ、ブランクがある選手を代表に呼び戻すのは、大変なことである。同じベテランであっても、MF遠藤(G大阪)のように、継続的に日本代表に召集してきた選手とは全く事情は異なる。「Jリーグで調子が良さそうなので、とりあえず、一度、呼んでみよう。」という軽い気持ちでは召集することはできない。実績のある選手にはきちんとした対応をしなければサポーターの反感を買うので、若手を召集することとは比較にならないほど神経を使うことになる。
Jリーグで活躍しているベテラン選手をあまり日本代表に召集しないので、「ザッケローニ監督はベテランを軽視している。」と言う人もいるが、むしろ、逆である。ベテランに対して全くリスペクトの気持ちが無いのであれば、待望論を唱えている人を落ち着かせるために、一度、日本代表に呼んで、わざと難しいシチュエーションで投入して、「やっぱり無理か・・・。」という空気を作りだすことは難しくなかったと思うが、そういうことはしていない。
若手であれば、とりあえず呼んでみて、ダメだった場合でも、「また頑張って。」と励ますこともできるし、練習をこなすだけであっても財産になると思うが、ベテランになるとそうはいかない。そして、彼らを招集するのであれば、それ相応のシチュエーションを用意しなければならなくて、「ラスト5分だけ。」というような使い方はできない。リスペクトの気持ちが「代表復帰」のハードルを押し上げているところは否めない。
■ 安易な待望論そして、今の日本サッカー界の特殊性も考慮しなければならないだろう。ほとんどのケースで、年齢が高くなればなるほど、たくさんの経験値を蓄えているのが当たり前であるが、日本の場合、中堅世代となる「北京組」から欧州の大きなクラブで活躍する選手が増えているので、MF本田圭、DF長友、DF内田、MF香川などはベテラン選手と同じか、それ以上の経験値を持っていて、ずっとJリーグでプレーしていたら得られなかった体験をしている。
ザッケローニ監督はイタリア出身の監督なので、「欧州の主要リーグやCLやELでしか得られない経験」があることを十二分に理解していると思うので、そういった部分のウエイトはかなり大きいように思う。ザッケローニ監督は口には出していないが、一部の選手を除くと、ずっとJリーグでプレーして来たベテラン選手への評価というのは、我々が思っているほど高くないのではないか?という推測もできる。
ただ、ずっとJリーグでプレーして来たベテランと言えども能力の高い選手はいるので、最近のJリーグの試合で活躍している元日本代表を順番にテストしていったら、フィットする選手が見つかるかもしれない。当然、選手は「一度、試してほしい。」と考えていると思うし、そして、そういう人材を見つけることができれば日本代表のチーム力アップにつながることも考えられるが、そういう作業が簡単ではないことは明らかである。
ダメ元で使い捨てのような起用をベテランに対して行ってもいいのであれば、積極的に実行した可能性もあるが、1試合や2試合のチャンスであっても、テストでうまくいかなかったら、気の短いサポーターやメディアからはバッシングされてしまう。ザッケローニ監督や日本代表チームが批判されるのはもちろんであるが、選手個人に対しても批判の声が集まるのは確実なので、選手のことを考えると軽々しくテストできないことは理解する必要があると思う。
「代表復帰の待望論が出ているような状況」というのは、日本代表で活躍してきたベテラン選手にとっては、気分の悪い話ではないと思う。「待望論が出ているうちが華」とも言えるが、若手であれば、この先、取り返すチャンスがいくらでもある一方で、ベテランになるとそうはいかない。「晩節を汚す。」という結果になりかねないので、個人的には、むしろ、安易に「ベテラン待望論」を唱える人に対してちょっとした違和感を感じる。
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