西側はエネルギー危機の責任転嫁を、プーチンと制裁措置に反対する指導者たちに向けている
<記事原文 寺島先生推薦>
Putin first, populists next – who else will Western leaders blame for an energy crisis caused by NATO's geopolitical ambitions?
Western officials gear up to label as ‘extremism’ any protest against their self-destructive policies
(最初はプーチンで、次はポピュリスト[大衆迎合主義者])。NATOの地政学的野望のせいで引き起こされたエネルギー危機を、西側各国の指導者たちは他に誰のせいにするのだろうか?
西側諸国の当局は、自己破滅させる政策に反対するものはすべて「過激派」と決めつけるのに躍起だ。)
出典:RT 2022年8月17日
筆者:レイチェル・マースデン(Rachel Marsden)
Rachel Marsden is a columnist, political strategist, and host of independently produced talk-shows in French and English.
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年9月10日
燃料価格の高騰に対する抗議運動で発煙筒を炊くトラック運転手たち。スペインのマドリードにて © AP / Manu Fernandez
ウクライナ紛争が開始されたとき、西側諸国の政府はロシア当局に対して連帯して戦うと宣言し、ロシアから輸出される化石燃料から、よりグリーンなエネルギーへの移行を加速させると誓っていた。この考えはクレムリン当局から利益を奪うことで、その結果ロシアのウクライナでの軍事作戦の資金を枯渇させようとする狙いがあった。それで西側諸国政府は、自国への安価なエネルギー供給源を完全な焦土作戦にかけたのだ。つまりそれは、欧州最大の国ロシアからの天然ガスのことだ。その天然ガスの輸入に制裁措置を課したのだ。
「言うは易し、行うは難し」ということわざの正しさがはっきりわかるまで、そう時間はかからなかった。すぐに、西側諸国の政府は国民に「自分の任を果たす」よう公に要求し始めた。具体的には、日々の娯楽を抑え、生活の質を落とすことだ。一例をあげれば、シャワーにかける時間を短くすることなどだ。そうすることがまるで、代表的な産業界が既にエネルギーの供給不足や生産不足に警告を発している状況の改善に繋がるかのような要求だ。
次に西側諸国の政府が行ったのは、以前は非グリーンエネルギーだから廃絶すべきだと決めたエネルギーへの回帰を見せたことだ。 フランスが核燃料に固執していることをドイツが非難していたのはつい数ヶ月前のことだった。しかし今ドイツ当局は、フランス当局と足並みを揃えて、核燃料をエネルギー源に戻す方向に舵を取る可能性も見せている。さらにドイツは石炭工場の再稼働にも着手している。
当初西側諸国は、少なくともノルウェーの水力発電に依拠できるのでは、との見通しを持っていた。しかし今年は乾燥した猛暑の夏を迎えたせいでそれも危うくなっている。ノルウェー当局が水力発電の輸出の削減を検討しているからだ。英国からの液化天然ガスも輸入できなくなる可能性が出てきた。供給元である米国やカタール原産の天然ガスの成分内に、毒物や、さらには放射能物質までもが検出されたからだ。
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US-Russia trade continues to plunge – Census Bureau
この先到来する真の問題の気配が既にはっきり見えている。冬季における暖房利用の急増によるエネルギーの困窮は、今の状況を大きく越えるものになるだろう。英国の調査会社コーンウォール・インサイト社は、英国での計画停電の実施や、エネルギーが枯渇する危険性を警告している。一般的な家庭のエネルギー支出は、年4千ポンド(4860米ドル)の水準に達しており、さらに高騰すると見られている。イングランド銀行はインフレにより不景気が起こることを警告しており、ドイツではインフレは、1990年の東西ドイツ統合後の最高水準に達している。スペインやイタリアなどの国々では、公共施設や商業施設における冷暖房使用に制限をかけている。 EUが発した全ての加盟国でエネルギー使用を15%抑える措置が発効されたばかりだが、このことも各国の納税者に対して国が果たすべき業務を削減していることの現れだ。 フランスのガブリエス町では、そのことを地域の水泳プールを閉鎖した言い訳に使っていた。今年の夏は記録的猛暑に苛まれている中でのことだ。その際同町当局は、小学校内の食堂での高価なオーガニック食の維持と、プール開設のどちらを取るかという議論を持ち出していた。
さて、こんなことになっているのは誰のせいなのだろうか?答えは明白だ。西側諸国の政府が自分で自国のエネルギー源を切断しているのだ。その目的は、ウクライナを衛星国家にするという地政学的なものだ。
それなのに西側諸国の政府はその責めを直接ロシアに押し付けているのだ。それが西側諸国の言い分であり、そのことに躍起になっているのだ。英国のデイリー・メール紙は、グラフを示して、プーチンが天然ガスの供給を止めていると報じた。 「プーチンが、天然ガスの輸出を渋っているせいでヨーロッパは不況に陥り、供給難のまま冬をむかえることになる」という見出しを米国のCNBC紙が出した 。米国のジョー・バイデン大統領はこの状況を「プーチンが食料とガスにかけた税金だ」と決めつけた。しかし実際のところは、こんな状況を招いたのは西側諸国の政府自身だ。政府が自国民にそんな税金をかけたのだ。しかもその目的は「ウクライナのため」だ。
ただし問題なのは、そんな話を真に受ける国民がどんどん少数になっているという点だ。米国の調査会社のラスムッセン社が最近行った米国のでの世論調査の結果によると、今の経済危機の原因がプーチンのせいだと考えているのは回答者の11%で、バイデン自身の政策に原因があると考えているのは回答者の52%だった。
そして今、新しいスケープゴートが用意され始めている兆候が見える。そのスケープゴートとは、ポピュリストだ。「ポピュリストや過激派が、反政府勢力に自分たちの嗜好の影響を及ぼしている様子が見て取れます」とドイツ内務省のブリッタ・ベイラージ・ハーマン(Britta Beylage-Haarmann)報道官がドイツ・ヴェレ紙に答えている。さらに「ドイツ国内の過激派活動家たちや過激派団体の勢力が増長する可能性があります。止めるためには、それを許さない社会における危機管理が必要です」とも述べた。
これは由々しき事態だ。というのも西側諸国の政府が各国のやりすぎの政策に反対する一般の人々と、「過激派」との線引きを、自分たちにとって都合のいい解釈で行っているからだ。一般の人々はただ、親ウクライナに傾き過ぎている政策のせいでエネルギーの供給が困窮していることを訴えているだけなのに。逆に政府の政策の方がますます過激化しているのに。西側諸国の政府には、一致団結して自分たちの計画に反対の声を上げる人々を批判し、一般の人々からの反論をロシアの息がかかったものだとして片付けてきた過去がある。そして今西側諸国の政府は、社会や経済や産業界に害を与える誤った政策に固執したせいで生じた困窮に苦しむ中、自分たちに対する反論は不当であると主張することに躍起になっている。
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Germany discloses stance on emergency use of Russian gas pipeline
フランス政府は、フランスの野党党首が国会で、停電になる可能性について発言したことを無視しただけではなく、攻撃をも加えた。そしてその理由は、その女性党首が「ポピュリストだから」というだけだった。「ヨーロッパが停電になることが危惧されます。その主な理由はロシアからの天然ガス輸入が止まるからです。こんな制裁措置に意味はありません。こんなことをしても、ヨーロッパを苦しめることにしかなっていませんし、フランス国民もそれに巻き込まれてしまっています」とフランス国民連合党のマリーヌ・ル・ペン党首は語った。さらに「間違った見方を大量に注入されているので、それを実感できていないのです。実際に起こっていることは、我が国の政府が大袈裟に言っていることとは逆で、ロシア経済は崩壊しているわけでは全くありません。破産する瀬戸際に立たされているわけではありません」とも語った。フランスのエネルギー転換省アニエス・パニエ・ルナシェ長官はル・ペンの発言は、「非常に危険で」あり、「無責任だ」と語り、一般的なフランス国民の考えとも近い、ル・ペン党首が示したもっともな懸念を、とんでもないものであるかのように決めつけていた。
西側陣営におけるポピュリストと呼ばれる指導者には、メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領や、ハンガリーのヴィクトル・オルバーン首相や、セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領などがいるが、彼らはロシアに対する制裁には反対の意志を明示している。その制裁は、西側諸国の国民たちにとって本質的には害であることを理解してのことだ。
市民の利益のために声を上げる勇気を見せたこれらの指導者たちが、ポピュリストであるという理由だけで、彼らが示している懸念が無視されたり、阻害されるというのは間違っている。というのもこれらの指導者たちの懸念は、大多数の市民たちの声にならない思いから出たものだからだ。 西側諸国の支配者層は懸案中の課題の責任転嫁に躍起になっている。その責任は完全に身から出た錆であるのに。その責めをプーチンや自国民に押し付けようとしているのだ。
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