西側のロシアと中国への物言い―危険なまでに単細胞
The West's Dangerously Simple-Minded Narrative About Russia and China
西側のロシアと中国への物言い―危険なまでに単純な思考
筆者:ジェフリー・サックス(JEFFREY D. SACHS)
出典:Commondreams
2022年8月23日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年9月28日
2022年2月4日、北京で行われた会談でポーズをとるロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席(写真:時事通信フォト)。(Photo: Alexei Druzhinin/Sputnik/AFP via Getty Images)
中国とロシアに対する過度な恐怖は、事実操作を通して、西側諸国の国民に売り込まれている。
核の破局に世界が瀕しているのは、西側の政治指導者たちが、激化する世界紛争の原因について率直な意見を述べていないことが少なからず原因となっている。西側は高貴であり、ロシアと中国は邪悪であるという西側の執拗な物言いは、単純な思考で、極めて危険である。 それは世論を操作しようとするものであり、非常に現実的で差し迫った外交に対処するためのものではない。
ヨーロッパは、NATOの非拡大とミンスク第2協定の実施が、このひどいウクライナ戦争を回避することができたという事実を反省すべきだ。
NATOの非拡大とミンスク第2協定の実施があれば、ウクライナでのこのひどい戦争は避けられたはずだ。
西側の物言いの本質は、米国の国家安全保障戦略に組み込まれている。米国の核となる考え方は、中国とロシアは「米国の安全と繁栄を侵食しようとする」不倶戴天の敵であるというものである。米国によれば、中国とロシアは「経済の自由度と公平性を低下させ、軍備を増強し、情報やデータを支配して自国社会を抑圧し、影響力を拡大しようと決意している」のである。
皮肉なことに、1980年以降、アメリカは少なくとも15回、海外で戦争をしている(アフガニスタン、イラク、リビア、パナマ、セルビア、シリア、イエメンなど)。一方、中国は0回。ロシアは旧ソ連邦の国境を越えて1回(シリア)だけである。アメリカは85カ国に軍事基地を持ち、中国は3カ国、ロシアは旧ソ連諸国以外では1カ国(シリア)しか持っていない。
ジョー・バイデン大統領はこの物言いをさらに前に進め、現代における最大の課題は独裁国家であるこの2国との競争であると宣言した。中国とロシアは「国力を増強、世界に影響力を輸出・拡大、そして今日の課題に対処するより効率的な方法として、自分たちの抑圧的な政策と諸策を正当化している。」 米国の安全保障戦略は、米国大統領のだれ一人構築したことはない。大幅な自律的活動を許された、秘密の壁の向こうで活動している、米国の安全保障機構が構築したものなのである。
中国とロシアに対する過剰なまでの恐怖は、事実操作を通して西側諸国の国民に売り込まれている。一世代前のジョージ・W・ブッシュ・ジュニアは、アメリカの最大の脅威はイスラム原理主義だという考えを国民に売り込んだ。しかし、アフガニスタンやシリアなどでアメリカの戦争を戦う聖戦士を生み出し、資金を供給し、配備したのがサウジアラビアや他の国々と協力しているCIAだということには触れないままである。
あるいは、1980年のソ連のアフガニスタン侵攻。これは西側メディアによって、いわれのない背信行為と描かれた。 しかし数年後、私たちはソ連の侵攻の前に、実はCIAがソ連の侵攻を誘発するために行った作戦があったことを知ったのである。シリアに関しても同じような誤報があった。 欧米の報道機関は、2015年に始まったシリアのバッシャール・アル・アサド(Bashar al-Assad)へのプーチンの軍事支援に対する非難で満ちているが、米国が2011年からアル・アサド打倒を支援し、ロシアが到着する何年も前にアサド打倒のための大規模作戦(ティンバー・シカモア)にCIAが資金提供していたことには触れていない。
また最近では、ナンシー・ペロシ米下院議長が中国の警告にもかかわらず無謀にも台湾に飛んだとき、G7の外相はペロシの挑発を批判しなかったが、G7の閣僚は揃ってペロシの訪台に対する中国の「過剰反応」を厳しく批判した。
ウクライナ戦争は、ロシア帝国の再興を目指すプーチンのいわれのない攻撃であるというのが、西側の物言いである。 しかし、本当の歴史は、西側がゴルバチョフ大統領に「NATOは東側には拡大しない」と約束したことに始まり、以下4つの波によるNATO勢力拡大があるのだ:
① 1999年に中欧3カ国を組み込み、
② 2004年に黒海やバルト諸国を含む7カ国を組み込み、
③ 2008年にウクライナとグルジアへの勢力拡大に関与し、
④ 2022年に中国を狙うためにアジア太平洋地域の4カ国をNATOに招き入れた。
また、西側メディアは、①2014年のウクライナの親ロシア派大統領ヴィクトール・ヤヌコヴィッチ(Viktor Yanukovych)政権転覆における米国の役割、②ミンスク第2協定の保証人であるフランスとドイツ政府がウクライナに約束の履行を迫らなかったこと、③戦争に向けたトランプ政権とバイデン政権の間にウクライナに送った米国の膨大な武器、さらには④NATO軍のウクライナへの拡大に関してプーチンとの交渉が米国により拒否されていること、に言及しない。
もちろん、NATOは、それは純粋に防衛的なものであり、プーチンは何も恐れることはないはずだと言う。 言い換えれば、プーチンは、①アフガニスタンとシリアにおけるCIAの作戦、②1999年のNATOによるセルビア爆撃、③2011年のNATOによるモハンマル・カダフィの打倒、④15年にわたるNATOのアフガニスタン占領、⑤プーチン失脚を求めるバイデンの「失言」(もちろん、まったく失言ではない)、⑥ウクライナにおける米国の戦争目的はロシアの弱体化であると述べたロイド・オースティン(Lloyd Austin)米国防長官の発言、などは無視すればいい、ということだ。
これらの核にあるものは、中国とロシアを封じ込め、あるいは打ち負かすために世界中に軍事同盟を増強し、世界の覇権国家であり続けようとするアメリカの企てである。これは危険で、妄想的で、時代遅れの考えである。米国は世界人口のわずか4.2%であり、現在では世界のGDPのわずか16%(国際価格で測定)である。 実際、G7のGDPの合計はBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のそれを下回り、人口はG7が世界のわずか6%であるのに対し、BRICSは41%である。
世界の支配者になる、という空想的自己宣言をしている国はただ一つ、米国である。米国は、そろそろ真の安全保障の源泉を認識すべきなのだ。それは国内の社会的結束と世界との責任ある協力であり、覇権という幻想なんかではない。このようにその外交政策を見直すことで、米国とその同盟国は、中国やロシアとの戦争を回避し、世界を無数の環境、エネルギー、食糧、社会危機に目を向けさせることを可能にするだろう。
とりわけ、崖っぷちの危険にある現在、欧州の指導者たちは欧州安全の真の源泉を追求すべきなのだ。それは米国の覇権ではなく、ウクライナを含むすべての欧州諸国の正当な安全保障上の利益を尊重する欧州の安全保障体制であり、黒海へのNATO拡大に抵抗し続けているロシアもまたその一員なのである。欧州は、NATOの非拡大とミンスク第2協定の実施が、ウクライナにおけるこのひどい戦争を回避していたであろうという事実を反省すべきである。現段階では、軍事的なエスカレーションではなく、外交こそが欧州と世界の安全保障への真の道である。
ジェフリー・D・サックスは、コロンビア大学の教授および持続可能な開発センター所長である。そこの地球研究所所長を2002年から2016年まで務めた。また、国連持続可能な開発ソリューション・ネットワークの会長、国連ブロードバンド開発委員会の委員も務める。これまで3人の国連事務総長の顧問を務め、現在はアントニオ・グテーレス事務総長のもとでSDGs支援者(advocate)を務めている。著書に『新しい外交政策―米国の自国例外主義を越えて(A New Foreign Policy: Beyond American Exceptionalism)』 (2020年)がある。その他の著書は以下の通り。『新しいアメリカ経済の構築―賢く、公正で、続けられる(Building the New American Economy: Smart, Fair, and Sustainable)』(2017年)、潘基文氏との共著『持続可能な発展(The Age of Sustainable Development)』(2015年)などがある。
- 関連記事