欧州:ガス欠、氷点下の気温、薪の買い占め。この冬はどこまでひどいことになるのだろうか?
<記事原文 寺島先生推薦>
Gas shortages, freezing temperature, firewood hoarding: Just how bad could things get this winter?
Skyrocketing energy prices have prompted some Europeans to stockpile basic forms of heating and buy stoves to keep warm.
(ガス欠、氷点下の気温、薪の買い占め。この冬はどこまでひどいことになるのだろうか?
エネルギー価格の高騰により、ヨーロッパでは基本的な暖房器具を整えたり、薪ストーブを購入する人も出てきている。)
出典:RT
2022年8月20日
著者:アナスタシア・サフロノーバ(Anastasia Safronova) RT編集者
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年9月18日
© Getty Images / vitranc
ヨーロッパでは、天然ガスの価格が今年に入ってから4倍になっている。冬を前にして、エネルギー価格の高騰を予想し、消費者は代替の(古い)暖房手段である薪を選択し始めている。薪ストーブはもちろんのこと、可燃物に対する旺盛な需要が西側各国で確認されている。
半数近くの家庭がガスで暖を取っているドイツでは、人々はより確実なエネルギー源に目を向けつつある。薪販売業者は地元メディアに、「需要に対応するのがやっと」と語っている。また、ドイツでは薪の盗難も増えている。
隣のオランダでは、顧客がこれまでより早く木材を購入するようになった、と薪販売業界の経営者たちが指摘している。ベルギーでは、木材生産者たちが需要の対応に四苦八苦している。価格も上昇している。薪の価格はこの地域全体で上昇している。
関連記事:The price of defeat:The US fled Afghanistan exactly a year ago, but the real consequences are yet to come
デンマークでは、地元のある薪ストーブメーカーがメディアに語ったところによると、COVIDの流行が始まってから自社製品の需要は増加し、2019年には240万クローネだった収益が、今年は1600万クローネ(200万ユーロ)以上に達する見通しだそうだ。とてつもない数字だ。
ロシアの化石燃料を段階的に排除するというEUの決定を支持せず、今年の夏にはモスクワと新たなガス購入に合意したハンガリーでさえ、厳しい冬への備えを進めている。同国は薪の輸出禁止を発表し、伐採の制限を一部緩和した。この件に関して、世界自然保護基金ハンガリーはこの問題への懸念を表明し、こう宣言している:
「このような判断は、わが国では何十年も前例がない。」
実は、エネルギー危機の原因は、ウクライナ紛争だけではない。2021年にはすでに価格の上昇に関する意見が表明されていた。
アテネ経済ビジネス大学の社会経済環境持続性研究所の所長で、欧州環境資源経済学会会長のフィービー・クンドゥーリ(Phoebe Koundouri)教授は、「世界中で大量のLNGが買われたのは、COVIDによるサプライチェーンの中断、非常に寒い冬、非常に暑い夏、そして中国のエネルギー危機が原因です」と述べている。
© Getty Images / Westend61
ウクライナ紛争が起きた時、ロシアに対する制裁措置とそれに対するモスクワの対応で、価格は一気に上昇した。
「この地政学的危機の影響を受けている何百万人もの人々にとって意味のある解決策を見つけるために、欧州はNATO、ロシア、ウクライナの間で交渉役を務め、中国も議論に加える必要があります」と、クンドゥーリ教授は述べた。
「環境にやさしい」薪利用
EUでは、エネルギー源として薪を燃やすことは何も新しいことではない。過去10年間は、EUの環境目標を達成するための最良の方法のひとつとさえ考えられていた。2009年、EUは「再生可能エネルギー指令(Renewable Energy Directive(RED)」の第一版を発表した。この指令は、EU域内で再生可能エネルギーの利用を義務付けるものである。
この指令によると、再生可能エネルギー源とは、「再生可能な非化石エネルギー源(風力、太陽光、地熱、波力、潮力、水力、バイオマス、埋め立て地ガス*、下水処理場ガス、バイオガス)を指す」とされている。バイオマスとは、「農業(植物性、動物性物質を含む)、林業、関連産業からの製品、廃棄物、残渣、および産業廃棄物、都市廃棄物の分解可能な部分」を意味する。
埋め立て地ガス*・・・埋め立てに用いられた廃棄物に含まれる有機物が分解することによって発生するガス(英辞郎)
関連記事:Monsieur general:How France’s Macron is trying to distract from the economic crisis by impersonating a military tough-guy
この文書では、薪を燃やすことが望ましいエネルギー源のひとつであると指摘されており、その後、多くの環境保護論者がこの点について議論している。
活動団体「自然資源防衛協議会」が2019年に発表したデータによると、ヨーロッパ諸国は電力や熱源として木材を燃やすための補助金に年間70億ドル費やしているそうだ。また、2017年の時点で、「評価対象となったEU加盟国全15カ国において、2017年に支払われたバイオマスエネルギー補助金の半分以上がドイツとイギリスであった」ことも判明している。
EUは最大の木質ペレット*市場で、2021年には2310万トン(MMT)を消費し、その記録は今年破られる見込だ。これは、米国農務省海外農務局グローバル農業情報ネットワークが発表した報告書によるものだ。
木質ペレット*・・・丸太、樹皮、枝葉や製材時に発生する端材などを一たん顆粒状に破砕し、それを小粒の棒状に圧縮成型した固形燃料。 木質バイオマスの一種。ペレットストーブ、ペレットボイラー、バイオマス発電、吸収式冷凍機などの燃料として用いられる。(ウイキペディア)
「2022年のEUの需要は、バイオマスボイラー設置の支援制度や化石燃料の価格高騰に後押しされたドイツ、フランスを中心とした住宅市場の拡大に基づき、さらに2430万トンまで拡大すると予測される。EUの木質ペレット需要は過去10年間、国内生産を大幅に上回っており、主にロシア、米国、ベラルーシ、そしてウクライナからの輸入を増加させる結果となっている。」
© Getty Images / Dominika Zarzycka
ウクライナ紛争勃発後、EUはロシアとベラルーシからの木材輸入を禁止し、ウクライナからの輸出もウクライナでの戦争が理由で途絶えた。一方、そのギャップを埋めているのがアメリカであるとアナリストたちは指摘する。過去10年間に着実に上昇してきた同国の輸出量は、「過去最高の740万トン以上の米国産木質ペレットが海外で販売された昨年を上回っている。保険料と輸送費の平均価格は、昨年の1トン140ドル前後から、170ドル近くまで上昇している」と、Wall Street Journalは海外農務局の資料を引用して報じている。
政策の再考
現在、ドイツなどでは、薪ストーブを暖房に使う場合、補助金が出るようになっている。しかし、オランダ政府は薪ストーブに冷淡である。今年、都市部の暖房や温室でのバイオマス利用に対する補助金を廃止することを決定した。
関連記事:From Powerpoint to Potatoes:Why is Bill Gates buying so much land?
英国では、同国最大の再生可能エネルギー発電所であるドラックス(Drax)をめぐる騒動が続いている。2021年、同発電所は森林バイオマスを燃やすことで8億9300万ポンド(10億ドル)の政府補助金を受け取っていた。つい最近、、ビジネス・エネルギー省長官のクワシ・クワルテン(Kwasi Kwarteng)が、国会議員の私的な会合で、ドラックス発電所で燃やす木材を輸入することは「持続可能ではない」し「何の意味もない」と述べた、と報じている。ドラックスで使用される木質ペレットのほとんどは、米国とカナダからのものである。「ルイジアナ州から調達しても意味がない・・・持続可能ではないし、地球の裏側からペレットを輸送する意味が私にはさっぱりわからない」とクワルテンは付け加えた。
今年、欧州議会の環境委員会は、改正された再生可能エネルギー指令の下で「持続可能なバイオマス」とみなされるものを定義する新しい規則を採決した。そこで、一次木質バイオマス(基本的に未加工の木材)は再生可能エネルギー源とみなされず、奨励金の対象にもならないことが決定された。環境保護の観点からも、木材を燃やすというのは、はっきり言って疑問符がつく施策である。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のデータによると、単位エネルギー当たりの木材のCO2含有量は石炭に匹敵し、ガスよりもはるかに多い。
© Getty Images / Klaus-Dietmar Gabbert
「全体にはっきりさせなければならないのは--少なくとも私の立場ははっきりしているが--EUは、木材の燃焼を含むバイオマス利用は大規模に行えないという事実を、すべての政策に明確に示すべきだ、ということです」とクンドゥーリ教授は言う。生物多様性の危機は、気候変動そのものよりも大きな脅威であると彼女は説明する。「生物多様性の危機は、生態系サービスの崩壊によって引き起こされます。生態系サービスの堅牢性と継続性は、生態系が豊かな生物多様性を持ち、豊かな食物供給連鎖を持続させる能力に基づいています」。 EUが電力を木材燃焼に依存することを見直すのは正しいステップであることは明らかだが、この地域はその見直し政策をより速く進める必要がある、とクンドゥーリ教授は指摘している。
危機に直面して
「EUは、環境の質を向上させるために、多くの資金を投入し、人材や知的資源など他の多くの努力を行ってきました。今回の危機は、このような環境に関する成果の多くを間違いなく変えてしまうでしょう」とセルビアのミトロビッツァ国際ビジネスカレッジのアレクサンダル・ジキッチ(Aleksandar Djikic)教授は語っている。
そしてそれは、今まさに私たちが目にしていることでもあるのだ:7月、欧州議会は、天然ガスや原子力発電所を気候変動にやさしい投資先とする提案を支持し、新たな環境論議を巻き起こした。
関連記事:The West's futile folly: Why sanctions against Russia haven't worked in the past and they won't work in the future
「2030年までにCO2排出量を55%削減し、2050年までに気候変動に影響を与えない社会を実現するというグリーン・ディールを私たち欧州人は掲げています。気候変動から目を背けないという明確な使命感を持ち、その使命感を諸政策や投資利益に振り向ける時、その過渡期ではある種の危機に直面することが予想されるのです。気候変動との戦いは、大きな変革です。健康や福祉の分野、教育分野、地域社会や都市の建設方法、土地や水の利用方法など、これほど大きな変革はかつてなかったことです」とクンドゥーリ教授は説明する。
彼女にとって、現在の状況は環境問題への課題を放棄する理由にはならない。「予期せぬ出来事に直面した場合、2つのことが起こります。ひとつは、危機から身を守るために何をし、何をしなかったかに気づくことです。ヨーロッパは自然エネルギーにもっと早く投資する必要があったのです。もうひとつの気づきは、『よし、私は気づきが遅かった。今は現実を受け入れて、どうしても石炭と原子力を使わなければならないのだ。しかし石炭と原子力は使うにしても短期間であり、天然ガスや石炭そして原子力への新たな投資はもう行わない、自然エネルギーへの投資はどんどん進めるべきだ、ということを忘れているわけではない』という点です。」
© Getty Images / Andia
ジキッチ教授によると、EUはこれから多く後戻りのステップを踏まなければならないだろうとのことだ。それに、EUの貧しい国々が森林破壊にさらされることも予想されるという。
「私の考えでは、EUは事前の準備なしに、この "冒険"に突入してしまった」とジキッチ教授は述べている。
では、戦略的な目標はさておく:エネルギー価格の上昇に直面し、ただ冬に暖かく過ごしたいと願う一般市民はどうだろうか?「国民は国の政治に左右されるから、あまりたいしたことはできない。もし政治家が腰を据えて考え、解決策を見出そうとすれば、それは国民にとって良いことだろう。そうでなければ、エネルギー危機は日常生活に影響を及ぼすだろう。各国政府はもう一度、国民のために何ができるかを考え直さなければならない」とジキッチ教授は言う。
対話こそが、解決への唯一の道である、というのがクンドゥーリ教授の結論だ。「政治家の責任として、この問題をどう解決していくかを真剣に考えなければならない。それが人類としての勝利を手にする唯一の道だ。もし、私たちが互いに相手に不利益を為すことに気を取られ続けるのであれば、最終的にこれでよかったという解決にたどり着く可能性はない」。
Gas shortages, freezing temperature, firewood hoarding: Just how bad could things get this winter?
Skyrocketing energy prices have prompted some Europeans to stockpile basic forms of heating and buy stoves to keep warm.
(ガス欠、氷点下の気温、薪の買い占め。この冬はどこまでひどいことになるのだろうか?
エネルギー価格の高騰により、ヨーロッパでは基本的な暖房器具を整えたり、薪ストーブを購入する人も出てきている。)
出典:RT
2022年8月20日
著者:アナスタシア・サフロノーバ(Anastasia Safronova) RT編集者
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年9月18日
© Getty Images / vitranc
ヨーロッパでは、天然ガスの価格が今年に入ってから4倍になっている。冬を前にして、エネルギー価格の高騰を予想し、消費者は代替の(古い)暖房手段である薪を選択し始めている。薪ストーブはもちろんのこと、可燃物に対する旺盛な需要が西側各国で確認されている。
半数近くの家庭がガスで暖を取っているドイツでは、人々はより確実なエネルギー源に目を向けつつある。薪販売業者は地元メディアに、「需要に対応するのがやっと」と語っている。また、ドイツでは薪の盗難も増えている。
隣のオランダでは、顧客がこれまでより早く木材を購入するようになった、と薪販売業界の経営者たちが指摘している。ベルギーでは、木材生産者たちが需要の対応に四苦八苦している。価格も上昇している。薪の価格はこの地域全体で上昇している。
関連記事:The price of defeat:The US fled Afghanistan exactly a year ago, but the real consequences are yet to come
デンマークでは、地元のある薪ストーブメーカーがメディアに語ったところによると、COVIDの流行が始まってから自社製品の需要は増加し、2019年には240万クローネだった収益が、今年は1600万クローネ(200万ユーロ)以上に達する見通しだそうだ。とてつもない数字だ。
ロシアの化石燃料を段階的に排除するというEUの決定を支持せず、今年の夏にはモスクワと新たなガス購入に合意したハンガリーでさえ、厳しい冬への備えを進めている。同国は薪の輸出禁止を発表し、伐採の制限を一部緩和した。この件に関して、世界自然保護基金ハンガリーはこの問題への懸念を表明し、こう宣言している:
「このような判断は、わが国では何十年も前例がない。」
実は、エネルギー危機の原因は、ウクライナ紛争だけではない。2021年にはすでに価格の上昇に関する意見が表明されていた。
アテネ経済ビジネス大学の社会経済環境持続性研究所の所長で、欧州環境資源経済学会会長のフィービー・クンドゥーリ(Phoebe Koundouri)教授は、「世界中で大量のLNGが買われたのは、COVIDによるサプライチェーンの中断、非常に寒い冬、非常に暑い夏、そして中国のエネルギー危機が原因です」と述べている。
© Getty Images / Westend61
ウクライナ紛争が起きた時、ロシアに対する制裁措置とそれに対するモスクワの対応で、価格は一気に上昇した。
「この地政学的危機の影響を受けている何百万人もの人々にとって意味のある解決策を見つけるために、欧州はNATO、ロシア、ウクライナの間で交渉役を務め、中国も議論に加える必要があります」と、クンドゥーリ教授は述べた。
「環境にやさしい」薪利用
EUでは、エネルギー源として薪を燃やすことは何も新しいことではない。過去10年間は、EUの環境目標を達成するための最良の方法のひとつとさえ考えられていた。2009年、EUは「再生可能エネルギー指令(Renewable Energy Directive(RED)」の第一版を発表した。この指令は、EU域内で再生可能エネルギーの利用を義務付けるものである。
この指令によると、再生可能エネルギー源とは、「再生可能な非化石エネルギー源(風力、太陽光、地熱、波力、潮力、水力、バイオマス、埋め立て地ガス*、下水処理場ガス、バイオガス)を指す」とされている。バイオマスとは、「農業(植物性、動物性物質を含む)、林業、関連産業からの製品、廃棄物、残渣、および産業廃棄物、都市廃棄物の分解可能な部分」を意味する。
埋め立て地ガス*・・・埋め立てに用いられた廃棄物に含まれる有機物が分解することによって発生するガス(英辞郎)
関連記事:Monsieur general:How France’s Macron is trying to distract from the economic crisis by impersonating a military tough-guy
この文書では、薪を燃やすことが望ましいエネルギー源のひとつであると指摘されており、その後、多くの環境保護論者がこの点について議論している。
活動団体「自然資源防衛協議会」が2019年に発表したデータによると、ヨーロッパ諸国は電力や熱源として木材を燃やすための補助金に年間70億ドル費やしているそうだ。また、2017年の時点で、「評価対象となったEU加盟国全15カ国において、2017年に支払われたバイオマスエネルギー補助金の半分以上がドイツとイギリスであった」ことも判明している。
EUは最大の木質ペレット*市場で、2021年には2310万トン(MMT)を消費し、その記録は今年破られる見込だ。これは、米国農務省海外農務局グローバル農業情報ネットワークが発表した報告書によるものだ。
木質ペレット*・・・丸太、樹皮、枝葉や製材時に発生する端材などを一たん顆粒状に破砕し、それを小粒の棒状に圧縮成型した固形燃料。 木質バイオマスの一種。ペレットストーブ、ペレットボイラー、バイオマス発電、吸収式冷凍機などの燃料として用いられる。(ウイキペディア)
「2022年のEUの需要は、バイオマスボイラー設置の支援制度や化石燃料の価格高騰に後押しされたドイツ、フランスを中心とした住宅市場の拡大に基づき、さらに2430万トンまで拡大すると予測される。EUの木質ペレット需要は過去10年間、国内生産を大幅に上回っており、主にロシア、米国、ベラルーシ、そしてウクライナからの輸入を増加させる結果となっている。」
© Getty Images / Dominika Zarzycka
ウクライナ紛争勃発後、EUはロシアとベラルーシからの木材輸入を禁止し、ウクライナからの輸出もウクライナでの戦争が理由で途絶えた。一方、そのギャップを埋めているのがアメリカであるとアナリストたちは指摘する。過去10年間に着実に上昇してきた同国の輸出量は、「過去最高の740万トン以上の米国産木質ペレットが海外で販売された昨年を上回っている。保険料と輸送費の平均価格は、昨年の1トン140ドル前後から、170ドル近くまで上昇している」と、Wall Street Journalは海外農務局の資料を引用して報じている。
政策の再考
現在、ドイツなどでは、薪ストーブを暖房に使う場合、補助金が出るようになっている。しかし、オランダ政府は薪ストーブに冷淡である。今年、都市部の暖房や温室でのバイオマス利用に対する補助金を廃止することを決定した。
関連記事:From Powerpoint to Potatoes:Why is Bill Gates buying so much land?
英国では、同国最大の再生可能エネルギー発電所であるドラックス(Drax)をめぐる騒動が続いている。2021年、同発電所は森林バイオマスを燃やすことで8億9300万ポンド(10億ドル)の政府補助金を受け取っていた。つい最近、、ビジネス・エネルギー省長官のクワシ・クワルテン(Kwasi Kwarteng)が、国会議員の私的な会合で、ドラックス発電所で燃やす木材を輸入することは「持続可能ではない」し「何の意味もない」と述べた、と報じている。ドラックスで使用される木質ペレットのほとんどは、米国とカナダからのものである。「ルイジアナ州から調達しても意味がない・・・持続可能ではないし、地球の裏側からペレットを輸送する意味が私にはさっぱりわからない」とクワルテンは付け加えた。
今年、欧州議会の環境委員会は、改正された再生可能エネルギー指令の下で「持続可能なバイオマス」とみなされるものを定義する新しい規則を採決した。そこで、一次木質バイオマス(基本的に未加工の木材)は再生可能エネルギー源とみなされず、奨励金の対象にもならないことが決定された。環境保護の観点からも、木材を燃やすというのは、はっきり言って疑問符がつく施策である。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のデータによると、単位エネルギー当たりの木材のCO2含有量は石炭に匹敵し、ガスよりもはるかに多い。
© Getty Images / Klaus-Dietmar Gabbert
「全体にはっきりさせなければならないのは--少なくとも私の立場ははっきりしているが--EUは、木材の燃焼を含むバイオマス利用は大規模に行えないという事実を、すべての政策に明確に示すべきだ、ということです」とクンドゥーリ教授は言う。生物多様性の危機は、気候変動そのものよりも大きな脅威であると彼女は説明する。「生物多様性の危機は、生態系サービスの崩壊によって引き起こされます。生態系サービスの堅牢性と継続性は、生態系が豊かな生物多様性を持ち、豊かな食物供給連鎖を持続させる能力に基づいています」。 EUが電力を木材燃焼に依存することを見直すのは正しいステップであることは明らかだが、この地域はその見直し政策をより速く進める必要がある、とクンドゥーリ教授は指摘している。
危機に直面して
「EUは、環境の質を向上させるために、多くの資金を投入し、人材や知的資源など他の多くの努力を行ってきました。今回の危機は、このような環境に関する成果の多くを間違いなく変えてしまうでしょう」とセルビアのミトロビッツァ国際ビジネスカレッジのアレクサンダル・ジキッチ(Aleksandar Djikic)教授は語っている。
そしてそれは、今まさに私たちが目にしていることでもあるのだ:7月、欧州議会は、天然ガスや原子力発電所を気候変動にやさしい投資先とする提案を支持し、新たな環境論議を巻き起こした。
関連記事:The West's futile folly: Why sanctions against Russia haven't worked in the past and they won't work in the future
「2030年までにCO2排出量を55%削減し、2050年までに気候変動に影響を与えない社会を実現するというグリーン・ディールを私たち欧州人は掲げています。気候変動から目を背けないという明確な使命感を持ち、その使命感を諸政策や投資利益に振り向ける時、その過渡期ではある種の危機に直面することが予想されるのです。気候変動との戦いは、大きな変革です。健康や福祉の分野、教育分野、地域社会や都市の建設方法、土地や水の利用方法など、これほど大きな変革はかつてなかったことです」とクンドゥーリ教授は説明する。
彼女にとって、現在の状況は環境問題への課題を放棄する理由にはならない。「予期せぬ出来事に直面した場合、2つのことが起こります。ひとつは、危機から身を守るために何をし、何をしなかったかに気づくことです。ヨーロッパは自然エネルギーにもっと早く投資する必要があったのです。もうひとつの気づきは、『よし、私は気づきが遅かった。今は現実を受け入れて、どうしても石炭と原子力を使わなければならないのだ。しかし石炭と原子力は使うにしても短期間であり、天然ガスや石炭そして原子力への新たな投資はもう行わない、自然エネルギーへの投資はどんどん進めるべきだ、ということを忘れているわけではない』という点です。」
© Getty Images / Andia
ジキッチ教授によると、EUはこれから多く後戻りのステップを踏まなければならないだろうとのことだ。それに、EUの貧しい国々が森林破壊にさらされることも予想されるという。
「私の考えでは、EUは事前の準備なしに、この "冒険"に突入してしまった」とジキッチ教授は述べている。
では、戦略的な目標はさておく:エネルギー価格の上昇に直面し、ただ冬に暖かく過ごしたいと願う一般市民はどうだろうか?「国民は国の政治に左右されるから、あまりたいしたことはできない。もし政治家が腰を据えて考え、解決策を見出そうとすれば、それは国民にとって良いことだろう。そうでなければ、エネルギー危機は日常生活に影響を及ぼすだろう。各国政府はもう一度、国民のために何ができるかを考え直さなければならない」とジキッチ教授は言う。
対話こそが、解決への唯一の道である、というのがクンドゥーリ教授の結論だ。「政治家の責任として、この問題をどう解決していくかを真剣に考えなければならない。それが人類としての勝利を手にする唯一の道だ。もし、私たちが互いに相手に不利益を為すことに気を取られ続けるのであれば、最終的にこれでよかったという解決にたどり着く可能性はない」。
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