はじめに
最近、タツノコ劇場で
科学忍者隊ガッチャマン、宇宙の騎士テッカマン、破裏拳ポリマーなどの
ディテールを積み重ねつつ重厚かつハッタリの効いたリアル感ある演出をされていた
鳥海永行さんの作風に心惹かれている。
ただ私のアニメ体験を振り返れば、
子供の時に大好きだった「雲のように風のように」の監督も
鳥海さんだと考えれば、子供の頃から鳥海さんには惹かれるものがあったのだろう。
「雲のように風のように」とは
「雲のように風のように」は酒見賢一氏の「後宮小説」を原作としたテレビアニメである。
「後宮小説」は日本ファンタジーノベル大賞最初の受賞作である。
三井不動産がスポンサーとなり、
本編中にCMを入れないという異例の形式で1990年に日本テレビで放送された。
キャラクターデザイン・作画監督に近藤勝也さんが参加し、
特にスタジオジブリで活躍したアニメーターが参加した作品でもある。
余談ではあるが、リアルタイムで視聴した時はCMがないので
トイレに行けるタイミングがなく、やむなく途中でトイレに行った記憶がある。
また春分の日に放送されていた為、巨人とどこかの球団のオープン戦の結果が
テロップ表示されていたのも記憶に残っている。(さすが日テレ)
さて、話を戻すと、本作はTV放映ということもあって、
原作には濃厚に描かれていた性的なモチーフが大幅にオミットされ、
必ずしも原作の持ち味をアニメ化されているとは言い難い作品ではあった。
ただこれは、鳥海さんの考えもあったのだろう。
鳥海さんの考え~教育的側面を意識して作品を作る~
鳥海さんはそんな自分の考えの変遷を
「教育的な側面を意識して作品を作る」と題して以下のように語っている。
教育的な側面を意識して作品を作る
ぼくは昔「科学忍者隊ガッチャマン」などのアクション物をやっていたのですが、ある時期非常に嫌悪感をいだきました。私の作ったアニメ番組を見て、まだ小さかった子供が逃げ回ったのを見て「こんな作品を作ってはいけない」と思いました。
(中略)
「ニルスのふしぎな旅」のLDを出すというので、テレシネの作業に立ち会ったのですが、いま見ると非常に過激なんですよね。「ああ、こんな事をやっていたのか」「まずいなぁ」と感じました。
(中略)
作品の教育的な側面というのは、作っている本人が年を取らないと判らないですね。作っている時にはぜんぜん判らない。
(中略)
ぼくはここ数年「しましまとらのしまじろう」というTVアニメを作っています。(中略)これは幼児向けの番組で、子供はどう育てたらいいのか、今の子供には何を与えるべきなのか、または与えてはいけないかを考えながら作っています。
【押井守全仕事 増補改訂版 鳥海永行●インタビューより キネマ旬報社(2001年)】
「雲のように風のように」は1990年放映。「ニルスのふしぎな旅」は1980年であり、
教育を意識して作った「しましまとらのしまじろう」が1993年の放映である事を踏まえると
おそらく「雲のように風のように」を作っていた頃の鳥海さんの中では、
子供を意識した作風に傾きつつあったと言えるのかもしれない。
そして上記のインタビューでも言っているように、
子供に与えてはいけないもの、過激なものとして、
原作の後宮小説にあった性的なモチーフを捉えたのかもしれない。
だからこそこのモチーフをオミットしたという見方もできるだろう。
(もちろんそれが作品的に正しいのかどうかとは別問題ではあるが・・・)
まとめ
「科学忍者隊ガッチャマン」や「宇宙の騎士テッカマン」を
作っていた頃の鳥海さんは恐ろしくハードだった。
当時の時代の空気とはいえ、公害や環境問題などのテーマに踏み込んでいった作風。
そんな鳥海さんは徐々に「ニルスの不思議な旅」から「雲のようにかぜのように」
そして「しましまとらのしまじろう」へと年を経るたびに
過激さを抑えた作風へ変遷していったのだろう。
この鳥海さんの作風の変遷を見る上で
「雲のように風のように」を見ても、面白いのではないかと思った。
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