■ ブランド化された日本代表第2次岡田ジャパン(2008年-2010年)はあまり人気がなかった。寒い時期に行われた大会だったことも大いに関係しているが、2010年2月に行われた東アジアカップの初戦の中国戦は25,964人(@味の素スタジアム)で、2戦目の香港戦(@国立競技場)は16,368人だった。中国戦ではキャパの6割程度で、香港戦に至ってはキャパの4割程度である。客席は空席が目立った。
しかしながら、南アフリカW杯でベスト16に入ったこと、MF香川・DF長友・DF内田らが海外クラブに移籍して活躍していること、2011年1月のアジアカップで劇的な形で優勝を果たしたことなどいくつものプラス要因が重なって、この4年間、日本代表は大人気だった。普通にチケットを購入するのは難しくなって、TV視聴率は好調で、常にザックジャパンは話題の中心となった。
日本代表ならびに日本代表候補の選手たちがブランド化されたが、こうなると、「一度、日本代表の試合を生で観たい。」という人が多くなる。その結果として、スタンドはサッカー観戦に慣れていない人が増えた。2011年や2012年の年末に日本で開催されたクラブW杯でも見られた傾向であるが、サッカー観戦に慣れていない人が多くなると、いつもとは雰囲気が違ってくる。
■ お祭りのような雰囲気「スタンドがぬるくなった。」、「日本代表の試合はコンサート会場か・・・。」と憤る人もいるが、「キプロス戦は過去に代表戦を10試合以上観たことがある人にしかチケットを売りません。」ということが可能かというと無理である。そして、「Jクラブの年間パス(年間シート)を持っている人を優先します。(あるいは優遇します。)」というやり方は無理ではないが、現実的ではない。
確かに、代表戦のスタジアムはお祭りのような雰囲気になっているときがある。W杯予選のときは幾分かはピリピリした雰囲気になるが、親善試合になると緩い雰囲気になることは多い。いいこととは言えないが、だからと言って、スタンドの緩い雰囲気がピッチ上の選手に伝染して、緩い試合になっているかというとそうではない。「影響は全く無い。」とは言えないが、「ほぼ無い。」と言える。
もちろん、相手チームが「アウェー感」を感じる雰囲気になっておらず、殺伐としたところは全くない。今のスタジアムの空気を全面的に肯定することはできないが、別に誰かが悪いわけではない。「どうにも我慢できない。」という人がいるのであれば、そういう人が骨を折って、毎度、日本代表の試合でスタジアムに通って地道な活動から空気を変える努力をするしかない。
■ スタジアムの雰囲気は千差万別日本と外国でも異なるが、日本国内でもスタジアムの雰囲気というのは千差万別である。観客のほとんどが試合に集中していて、1つ1つのプレーに大きな歓声が上がるスタジアムもあるし、スタンドの一部からはずっとサポーターの歌声が聞こえてくるが、それ以外の場所は非常に静かで、チャンスやピンチになりそうな場面でもそれほど盛り上がって来ないスタジアムもある。
最近の日本代表の試合はサッカー観戦に慣れていない人が多いので、先のとおり、相手チームに与えるプレッシャーは小さいと思うが、マイナスなことばかりではない。慣れていないが故に反応はダイレクトである。MF香川がボールを持ったとき、MF本田圭がボールを持ったとき、「ワァー」という大歓声が上がるし、チャンスシーンになったときのボリュームは相当なものである。
上で「お祭りのような雰囲気」と書いたときは、必ずしも、肯定的な意味で使ったわけではなかったが、彼女や彼氏とお祭りに行く時と同様で、「(サッカーを)存分に楽しもう。」という人が多い。1人1人の反応はダイレクトで、「周りにいるみんなと一緒になって日本代表を応援している。」という感覚になれる。今の代表戦は「サッカー観戦の面白さ」を感じることができる場所になっていると思う。
■ 「有害な素人」と「無害な素人」もちろん、サッカー観戦に慣れていないと、厳しい視点で選手や日本代表を評価するのは難しくなる。いい内容の試合ができなくて、結果も芳しくないときは、選手を叱咤激励することを目的にJリーグの試合でも前半終了のホイッスルが鳴った直後や試合終了のホイッスルが鳴った直後にブーイングが起こるときがある。しかし、慣れていないサポーターにそういうことは期待できない。
なので、単純に玄人/素人で分類すると「素人」に分類されると思うが、一方で、この試合に合わせて調整してきたわけではないキプロス戦で必要以上に内容や結果にこだわって、試合中や試合後にブーイングをしたり、批判をする玄人かというと、絶対にそうではない。むしろ、そういう人の方が素人っぽく見える。「無害な素人」と言える観戦初心者よりもはるかにたちが悪い。
たくさんの試合をスタジアムで観戦していても、肝心なところを観ていない人や大事なところを観ようともしない人は玄人とは言えない。個人的には、こういう人たちも、単純に玄人/素人で分類した場合、「素人」に組みこまれると思う。観戦年数や観戦回数というのは1つの目安にはなるが、それが多いからと言って玄人ではないし、偉そうに上から目先で指摘できるわけではない。
Jリーグは浦和やC大阪など一部のクラブを除くと観客動員で苦労しているが、代表戦でサッカー観戦の面白さに気が付いた人がJリーグに興味を持って、Jリーグの試合にも足を運ぶようになってくれるようになるといい循環が生まれる。こういう人たちを排除しなければならない理由は全く無い。日本サッカー界の足を引っ張っているのは「玄人気取りの素人」の方である。
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