■ 元イラン代表監督京都サンガの監督に就任した69歳のバドゥ監督はイラン代表を率いた経験があって、日本代表がW杯初出場を決めたジョホールバルの戦いのとき、対戦相手のイラン代表の監督を務めていたことで知られている。このときは延長戦の後半にFW岡野がVゴールを決めて日本が3対2で勝利したが、FWダエイ、FWアジジ、MFマハダヴィキアなど、当時のイラン代表は攻撃的なポジションのタレントが豊富だった。
ジョホールバルの戦いというと、試合前日にいわゆる「アジジ車いす事件」が起こった。そのため、FWアジジという選手は、日本においては、プレーそのものよりも、車いすに乗っているところであったり、演技をした選手として知られている。この騒動もバドゥ監督が仕組んだものと言われているが、当日、FWアジジは何食わぬ顔をしてスタメンで起用されて、後半1分に同点ゴールを決めている。
ちなみに「アジジ車いす事件」は、『(車いすに乗った)FWアジジに騙された。』と思っている人も少なくない。話としてはその方が面白いが、残念ながら、試合の先日あるいは当日のニュースでは、当時から、「これは演技だ。」、「W杯予選ではこういうことをしてくる。」、「普通にFWアジジは試合に出てくる。」と冷静に報じられていた。そのため、日本代表への影響はほとんど無かったと思われる。
■ 昇格候補の京都の監督に就任バドゥ監督は、その後、いろいろなチームを指揮して、2006年の途中から2009年まで長野エルザサッカークラブ(現長野パルセイロ)の監督を務めている。当時の長野は(JFLよりもさらに下の)北信越1部リーグに属しており、地域リーグのクラブだった。そのクラブにイランというアジア屈指の強豪国の代表監督を務めたことのある指導者がやってくるということで、長野の監督に就任したときは大きな話題になった。
今シーズン、久々に日本に戻ってきて、J1復帰を狙う京都の監督に就任したが、ここまで3勝1敗4分けで勝ち点「13」。開幕8連勝の湘南が勝ち点「24」で突っ走っており、ちょっと離されてしまった。8試合で勝ち点「13」という数字はそこまで悪くはないが、自動昇格となる2位以内を狙っている京都にとっては「やや不本意な数字」である。ホームの西京極で「3試合とも引き分け」と勝てていない点が響いている。
京都は2位以内に入ってきても全くおかしくない戦力を有している。スタートでやや出遅れてしまったので、バドゥ監督に対して懐疑的な声も出始めているが、なかなかユニークな監督である。2011年から2013年まで京都を指揮した大木監督も異質なサッカーをしていたので、「誰か後任監督になってもチームが大きく変わるのは確実」と言える状況だったが、バドゥ監督の作った今のチームも普通とは言えない。
■ 全員がゴール前にいるCK特に話題を集めているのは、風変わりなセットプレーである。バドゥ監督自身のアイディアというよりは、「練習中に選手たちがいろいろとアイディアを出して、それを試合中に実行している。」と言われているが、斬新なやり方である。第2節の福岡戦(A)のFKのときに見せたトリックプレーは大きな話題となったが、それ以降の試合でも、FKのシーンではいろいろなことをやってくる。
したがって、京都が相手の陣地でファールを得てFKを獲得したときは、「今度は何をしてくるのか?」という楽しみがあるが、FKのときだけでなく、CKのときも異質である。4月20日(日)に松本市にあるアルウィンで行われた松本山雅との試合は、終盤に両チームが点を取り合って2対2の引き分けに終わった。昇格候補のチーム同士の好ゲームだったが、京都のCKを巡る攻防は熱いものがあった。
結局、この試合の京都は13本のCKを獲得した。通常は、攻撃側のチームも相手のカウンターに備えて、(キーパー以外に)2人程度はハーフウェーライン付近に待機しているものであるが、京都はこのあたりに待機している選手が全くいないケースがほとんどである。試合終盤のラストプレーでもないのに、CKのときに待機役の選手を全く置かないチームというのは、過去に見た記憶は無い。
■ 駆け引きの面白さMF工藤とDF石櫃の2人は基本はやや下がり目で、何かあったときは、即座に戻れるように準備をしているが、その2人でさえ、ゴール前に入って行くシーンがあった。前半42分のCKの場面であるが、結局、CKのキッカーのMF山瀬功と京都のキーパーのGKオ・スンフン以外の全員がゴール前に入った。松本山雅も全員が戻ったので、両チームを合わせるとゴール前に20人。とんでもない人口密度となった。
これだけゴール前に人がいると、絵的にはシュールである。そして、ここまでゴール前が密集地帯になると、キーパーの動きはかなり制限される。ゴールマウスを大きく出すことは難しくて、敵あるいは味方と不意に衝突する確率は高くなる。この試合ではCKからゴールを決めることはできなかったが、全員が飛び込んでくる京都のCKは何かが起こりそうな雰囲気がぷんぷんと漂っている。
ただ、松本山雅の反町監督も策士である。最初のうちは松本山雅も全員が戻って11人で対処していたが、あるタイミングから、MF船山だけは相手のCKのときも守備に戻らずに、ハーフウェーラインの手前で待ちかまえるようになった。こうなると、さすがの京都もMF船山を無視することはできないので、何人かの選手は下がって来て、相手のカウンターに備えたポジションを取るようになった。
このあたりの駆け引きの面白さが満載の試合だったが、CKのとき、守備側の選手が全員戻って自陣のゴール前で守備をするようだと京都の思うつぼである。京都の選手が全員ゴール前に上がろうとした場合でも、対戦相手のチームは(少なくとも1人は)ハーフウェー付近にとどまる素振りを見せる必要がある。ただ、どのあたりに位置するのがいいのか?など、いろいろと考える余地はある。
当然、京都側もリスクはある。相手が全員戻ってきたとしても、CKが直接キーパーにキャッチされるなど、攻撃の終わり方が良くないと、数的不利のカウンターを食らう可能性がある。なので、今後、積極性が仇となって、カウンターから失点するケースも出てくると思うが、単なるセットプレーでさえ、観ている人たちにいろいろなことを考えさせる今シーズンは京都はなかなか面白い。
当然、ありきたりなことしかしないチームよりも、いろいろと策を講じてくるチームの方が面白くて、「こういうことでも観客を楽しませることができるのか・・・。」と驚いた。そして、もちろん、話題になるだけでなく、すでにいろいろなことをやっているので、今後、特別なことをしなくても、「何かやってきそう。」と相手チームは勝手に警戒してくれる。心理的にも有利に働くだろう。
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