■ オランダとの試合国際親善試合のオランダと日本の試合がベルギーのゲンクで行われた。ゲンクはオランダとの国境に近い位置にあるので、ベルギーという中立国での試合となったが、アウェーに近い環境の中で試合が行われることになった。日本代表とオランダ代表が対戦するのは通算3回目で、1回目は2009年の秋に対戦して0対3で敗れた。2回目は2010年の南アフリカW杯のGLの2試合目でこのときは後半にスナイデルに決勝ゴールを決められて0対1で惜敗している。
日本は「4-2-3-1」。GK西川。DF内田、吉田、今野、長友。MF山口螢、長谷部、岡崎、本田圭、清武。FW大迫。ほとんどスタメンから外れることがなかったMF香川とMF遠藤の2人がベンチスタートとなって、ここ最近、スタメンが続いていたFW柿谷もベンチスタートとなった。C大阪のMF山口螢は国内組中心だった7月末の東アジアカップを除くと日本代表としては初スタメンとなる。また、キーパーには広島のGK西川が起用された。
対するオランダは「4-1-2-3」。GKシレセン。DFヤンマート、デフライ、フラール、ブリント。MFN・デヨング、ストロートマン、ファンデルファールト。FWロッベン、S・デヨング、レンス。マンチェスターUでプレーする大黒柱のFWファン・ペルシーは怪我のため欠場となったが、世界最高のウイングと言われるFWロッベンは右ウイングでスタメンとなった。アヤックスで一時代を築いたファン・ハール監督がチームを指揮している。
■ 2点差を追いついてドロー試合の序盤は日本ペースとなる。前半5分にMF山口螢、前半7分にMF岡崎がシュートチャンスを迎えるが、決めることはできない。すると、前半13分にDF内田のヘディングでのパスが中途半端になったところを奪われて、最後は、MFファン・デル・ファールトに決められてオランダが先制する。さらに、前半39分にも素晴らしいサイドチェンジのボールを受けたFWロッベンが得意の形から左足で決めて2対0とリードを広げる。
嫌な流れになった日本だったが、後半44分にボランチのMF長谷部が巧みなコントロールから前を向いてFW大迫に絶妙のタイミングでパスを送ると、これをFW大迫が右足で確実に決めて1点差に迫る。FW大迫は日本代表では東アジアカップの2戦目のオーストラリア戦以来となるゴールで、国際Aマッチでは通算3ゴール目となった。結局、前半はシュート数では日本が上回ったが、2対1とオランダがリードして折り返す。
迎えた後半開始からMF清武とMF長谷部を下げて、MF香川とMF遠藤を投入。2人がキーになって、後半は完全に日本ペースとなって試合の主導権を握り続ける。待望の同点ゴールが生まれたのは後半15分で、MF遠藤のサイドチェンジを起点にDF内田とFW大迫とMF本田圭が上手く絡んで、最後は、FW大迫の落としたボールをMF本田圭が決めて2対2の同点に追い付く。久々の先発となったFW大迫は1ゴール1アシストと結果を残した。
さらに、その後も、MF香川のスルーパスを受けた途中出場のFW柿谷が絶好のチャンスを迎えるが、決めることはできない。対するオランダは後半はほとんど決定機を作れなくて日本が圧倒したが、逆転には至らず。2対2の引き分けに終わったが、10月の欧州遠征では「2試合連続完封負け」と流れが悪くなっていた日本代表にとっては、嫌な流れを払拭する価値あるドローとなった。欧州遠征2連戦の2試合目はタレント集団のベルギー代表と対戦する。
■ 見せた反発力FWロッベンに個人技からシュートを決められて0対2になったときは、危うい雰囲気になったが、そこから2ゴールを奪って引き分けに持ち込んだ。ザックジャパンは劇的な試合が続いた2011年のアジアカップは別として、反発力のあるチームとは言い難くて、ミスから失点して先制されると意気消沈してしまう傾向にあったが、この日は、バックパスのミスから先制されても、FWロッベンに2点目を決められても、気持ちが沈むことはなかった。
もちろん、この日のオランダは本来のオランダではなかったので、割り引いて考える必要はある。ただ、オランダクラスの強豪チームになると、親善試合でフルパワーにならないのは当たり前のことで、W杯の本番であっても、GLの試合は余力を残した状態で勝ち点「3」を狙いに行くことが多い。したがって、「オランダは本気ではなかった。」という風に考えることは、はっきり言うと、全く意味の無いことで、W杯の決勝トーナメントでない限り、フルパワーにはならない。
ただ、この試合でオランダがあからさまに手を抜いたかというと、そういうわけでもない。2対0になって、オランダがわざとペースを落としたから日本が同点に追い付くことができたかというと、それは「正しい見方」とは言えないだろう。中立地での試合とは言っても、隣国であり、オランダのサポーターは非常に多かったので、当然、「日本相手に引き分け」という結果は、本国では批判されることになるだろう。
■ 途中出場の2人の活躍ザッケローニ監督がMF香川とMF遠藤の2人をスタメンから外したことは驚きだったが、後半開始から投入された2人の存在感は際立っていた。MF清武とMF長谷部の2人のパフォーマンスも決して悪くはなかったので、後半の開始から入れ替えてきたことにも驚いたが、2人とも、サッカーに関しては頭の切れる選手なので、前半の45分間をベンチから観ていて、どこがオランダの強みで、どこが弱点なのか、完璧に把握してピッチに入って来た。
オランダというチームは2人のウイングがサイドに開くことが特徴のチームである。「前からプレッシャーをかけてボールを奪ってカウンター」というのが日本の狙いだったが、前半10分あたりを過ぎると、ボールの奪いどころが見つからなくなって、中盤でプレッシャーをかけることができなくなった。良くない流れになりかけたときにミスから失点して、さらに、FWロッベンに追加点のゴールを決められたので、苦しい展開になったが、MF遠藤が入って守備が非常に良くなった。
要のMF遠藤がピッチ上でチームメイトに指示を出しつつ、自らも積極的にボールを奪いに行く姿勢を打ち出して「攻撃的な守備」を取り戻すことができたが、後半は彼が試合をコントロールしていた。W杯は3試合あって、日本の場合、準々決勝以降はボーナスと考えるべきで、とりあえずとして、最初の4試合をフルパワーで戦い抜く必要がある。本大会のときは34歳になるので、大事に使わないといけないが、本番でもありうる「いい起用方法」だったと思う。
同じく前半の頭から投入されたMF香川はピッチ上で違いを生み出した。左足で放ったミドルシュートと、FW柿谷に出した完璧なスルーパスがゴールにつながらなかったのは残念だったが、間違いなく、ワールドクラスのプレーを見せたと言える。何だかんだで「マンチェスターU」という看板は大きくて、オランダの選手はMF香川がボールを持つと積極的にボールを奪いに来ることが出来なくなって、前半は死んでいたトップ下のMF本田圭も蘇った。
日本代表では左サイドハーフで起用されているが、マンチェスターUで出場機会があまり無かった時期は、「香川不要論」も出ていた。調子の良くないMF香川と比較すると、もっといいプレーできる選手は日本にも何人かはいると思うが、ネームバリューでは大きな差があるので、相手に怖さを与えることはできない。不調であっても、怪我明けであっても、ザッケローニ監督がなかなかスタメンから外すことが出来なかった理由はそのあたりにあると思う。
■ ロンドン世代の2人そして、何と言っても、FW大迫とMF山口螢の2人の活躍が目立った。FW大迫は前半はなかなかボールがおさまらなかった。トップ下のMF本田圭の調子がイマイチで、2人の距離がちょっと遠かったことも関係していると思うが、FW大迫のところにボールが入ってもすぐにボールを奪われるシーンが何度かあって、彼の力を考えると物足りない出来だったが、前半の終了間際に決めた追撃のゴールは日本を蘇らせる非常に価値のあるゴールとなった。
さらに、後半15分のMF本田圭のゴールにつながったアシストも見事だった。フルメンバーが揃った試合でスタメン起用されたのは2回目だと思うで、息を合わせる機会はあまり無かった。コンビネーションに関しては、今後、もっと成熟していくと思うが、オランダという強豪を相手に「1ゴール1アシスト」と文句の付けようのない結果を残したので、決定機に決められなかったFW柿谷との立場は逆転したのではないかと思われる。
一方、MF山口螢は東アジアカップを除くと初スタメンだったが、攻守両面で非常に良かった。後半開始からMF遠藤が投入されそうな雰囲気だったので、これまでの傾向を考えるとMF山口螢がベンチに下げられるかと思ったが、MF遠藤とMF山口螢のダブルボランチになった。ボールを奪うだけでなく、前に出ていくシーンが何度もあったので、ここ最近、停滞していた日本の中盤に活力を与えた。1ゴール1アシストのFW大迫に優るとも劣らない活躍だった。
つなぎの部分も非常に良かった。先制される直前に、一度、バックパスのミスを拾われてオランダにシュートチャンスを作られたが、大きなミスというのは、この1度だけである。中央への楔のパスも正確で、サイドへ散らすミドルパスも精度が高かったが、一番いいのは、パススピードがあることで、無駄にボールをキープすることはほとんど無くて、判断が非常に速い選手なので、MF山口螢のところを経由すると攻撃のテンポが上がっていく。
今回はヘルタ・ベルリンのMF細貝とFC東京のMF高橋秀がメンバーに選ばれている。日本代表のボランチは3番手がMF細貝、4番手がMF高橋秀という時期が長かったが、ここに来て、MF山口螢の評価が急上昇している。強豪のオランダと引き分けたことで、チームとして失いかけていた自信と信頼を取り戻すことができたというのも大きいが、MF山口螢の活躍というのが、この試合における最大の収穫と言えるだろう。
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