アメリカ暗殺部隊株式会社
wsws.org
2009年8月21日
木曜日のマスコミ報道によると、アメリカ中央情報局(CIA)は、アルカイダ隊員とされる人々に対する、“標的殺害”の秘密計画を、いまや悪名高い民間警備会社ブラックウォーターと契約していた。
本質的に、CIAは、国家による暗殺を、傭兵を雇用している民間企業に外注しよう努力していたのだ。
6月、現在のCIA長官レオン・パネッタが、下院諜報委員会の主要メンバーに、計画の概要を説明し、自分がそれを停止するよう命じたと語った。明らかに、ディック・チェイニー元副大統領の命令の下、暗殺計画の存在は、議会には隠ぺいされていた。パネッタは、中央情報局の長官として、六ヶ月後に初めて知ったと語っていた。
ブラックウォーターの関与についての記事を発表した、ニューヨーク・タイムズによると、取り決めは、決して、契約によって、正式なものとされることはなかった。その代わりに、ブッシュ政権幹部とCIA幹部と、ブラックウォーター創立者でオーナーの、エリック・プリンスの間で、“紳士協定”がまとめられていた。
アメリカ海軍特殊部隊、ネービー・シールズの元隊員であるプリンスの下、ブラックウォーター社(現在はXeサービシズと社名変更)は、傭兵(彼等の大半は、元アメリカ軍の特殊作戦要員)を、イラクとアフガニスタンに、出動させることで、アメリカ政府から何十億ドルも稼いでいた。
イラク民間人に対し、同社工作員が、過剰で、往々にして、根拠のない武力使用を伴った一連の出来事の後に、ブラックウォーターの悪名が高まった。こうしたことが、ついには、ブラックウォーターの殺し屋が、17人の非武装のイラク民間人を殺害した、2007年9月バグダッドのニスール広場乱射事件となったのだ。
この虐殺は、占領しているイラクの法律にも、軍事司法の法規にも縛られずに、全く罰せられることなく、傭兵警備会社が殺人をすることができるという仕組みの、必然的な最終結果だ。これ自体、戦争というものの、略奪的で違法な性格の一つの反映に過ぎない。
プリンスは、共和党右派と、最も親密なコネがある。彼の妹は、ミシガン州共和党の元トップだった。彼は、フォーカス・オン・ザ・ファミリーのような右翼キリスト教原理主義組織に対する、主要出資者である財団の主要人物の一人だ。
こうした共和党とのコネが、ブラックウォーターの成功の鍵だったと、多数の人々が見ているにもかかわらず、ペンタゴンも、国務省も、オバマ政権の下でも、プリンスの会社に契約を発注し続けている。
ニスール広場虐殺のイラク人犠牲者に代わって起こされた、ある訴訟において、二人の元ブラックウォーター社員は、とりわけ、“同社が継続中の犯罪行為について、連邦当局に、情報を提供したか、情報を提供しようとしていた一人、あるいはそれ以上の人を、プリンス氏と彼の従業員が殺害した”と告発する宣誓陳述書を提出した 。二人とも、自分たちの生命が危ういのではと危惧したと語っている。
暗殺計画の下、ブラックウォーターの要員は、“しばしば、拉致をともなう任務のシミュレーション”を行うのに、非常に多くの時間を費やしていたと語った、ある匿名元CIA職員の発言をワシントン・ポストは引用している。
CIAの暗殺計画に、ブラックウォーターが関与していたことが明らかになった結果、一連の疑念が沸き上がる。CIAのパネッタ長官が、二ヶ月以上も前に、この計画について、議会に概略を説明してから、何故アメリカ国民に対して隠ぺいされたままだったのか? パネッタ長官は情報を議会から隠していたのか、それとも、諜報委員会のメンバー達は、ひょっとしたら犯罪的共謀である、この件について知った後も、黙っていたのだろうか?
より根本的に、CIA-ブラックウォーターの不正取引は、アメリカ合州国における、広範囲で、継続的な、デモクラシーの退廃を証明している。
これは、ブッシュ政権が、アメリカの法律や憲法を公然と無視して活動し、暗殺や拷問を、ホワイト・ハウスから指令していた、犯罪的政権であるという証拠の一つだ。
にもかかわらず、誰一人として説明責任を問われていない。オバマ政権は前任者の犯罪行為をかばい、こうした犯罪の中でも最悪の、侵略戦争を継続している。
オバマ ・ホワイトハウスと、民主党優位の議会は、国家の中の国家、軍・諜報複合体による圧力の前に、退却を続けるばかりで、ブッシュ政権の犯罪に対する、いかなる調査も停止しており、まして起訴どころではない。
木曜日、元CIA長官マイケル・ヘイデンが、CIAは、同社の“極めて目立たない技能”を活用する必要があったのだと述べて、決然とブラックウォーターを擁護して、この作戦がまたしても明らかになった。
こうした最新の事実発覚によって、更にはっきりと浮き上がったのは、プリンスのような連中と、軍や諜報機関内部にいる彼の相手方が、驚くべき、責任を問われることのない権力を行使しているという政府の姿だ。
1960年代と1970年代、CIAは、コンゴのパトリス・ルムンバから、キューバのフィデル・カストロに至るまで、諸外国の指導者に対する、一連の暗殺や、暗殺の企てに関与していたことから、“殺人株式会社”というあだ名を獲得した。
しかし、CIA-ブラックウォーターの不正取引で明らかになったのは、一層不気味なことだ。CIAは、共和党と密接なコネを持つ右翼の人物が組織した傭兵で構成される暗殺部隊と契約していたのだ。
イラクとアフガニスタンで、何ら罰せられずに、殺害や拷問をすることが許されていた同じ勢力が、アメリカ合州国内での、支配層エリートの権益や、自由企業制度に異議を申し立てる戦闘的な労働者や、その他の人々に対して向けられるという、本当の危機が存在している。要するに、アメリカ帝国主義が、エルサルバドルから、イラクに至るまで、活用してきた暗殺部隊の暴力が、国内に向けられるのだ。
実際、ブラックウォーターは、高度に訓練された殺し屋を、既に国内作戦で配備したことがある。2005年、自動小銃を持った何百人もの同社の傭兵が、カトリーナに襲われた、ニューオリンズの市街に送り込まれたのだ。
こうした分子の活用は、対国内スパイ活動の継続や、国家の敵に対する、告訴や裁判無しでの、無期限拘留を可能にする“予防拘禁”制度の導入とセットになっている。アメリカにおいて、独裁政治の足場は既に組み立てられている。
この傾向は、オバマ政権の下で、衰えることなく継続している。政策は、階級の権益と、アメリカと世界の資本主義が直面する危機の性格によって、決定されている。アメリカの金融界の上流階級と、勤労者との間のこれまでにない水準の社会的不平等は、デモクラシーとは本来相いれない。
社会の社会主義的変革を目指して戦う自らの政党の下に結集した労働者階級による政治闘争によってのみ、民主的な権利に対する、これらの深刻な脅威に打ち勝ち、政府首脳に、その犯罪の責任を負わせることが可能になるだろう。
Bill Van Auken
お勧め記事:
記事原文のurl:www.wsws.org/articles/2009/aug2009/pers-a21.shtml
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2年前に、関連記事を翻訳しているのを思い出した。
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最後の三行、正論ながら、夢のような話。
宗主国でも、わが属国でも、労働者階級の人々、社会主義的変革を目指して戦う自らの政党の下に結集することなど決してなく、二大政党というサルでも分かるトリックにすっかりとりこまれ、永久戦争の道をまっしぐら。
8/30、9/11小泉郵政詐欺選挙の焼き直し。圧倒的議席を獲得する党名のチェンジ。
ナオミ・クラインの名著翻訳『ブランドなんか、いらない』が新版として刊行された。
2001年5月に刊行されたものに、2007年の講演録(補論)と2008年9月のガーディアン記事(序文)翻訳が追加されている。
この記事に直接関連する文章が、この補論にあるので、引用させていただこう。
421-422ページ。
戦争の遂行から戦後復興、災害時の救援活動にいたるまで、本来なら公的部門が担当すべき事業を、次々と営利をもくろむ民間企業に委託した。これは市場原理の大胆な進化だった。現存する水道や電力などの公共部門を民間に売却する90年代のやり方とは違い、ブッシュ陣営はまったく新しい枠組みをつくった。その
枠組みとは反テロ戦争であり、これははじめから民間企業のために計画され、実際に民間企業が管理した。ブッシュ政権は警備会社を支援する資本家のような役割を果たし、90年代のITブームと同じような好況を生みだした。この構想には二つの段階があった。9月11日のテロ事件を利用して、国家の監視と安全保障の政策を強化し、その権力を中央政府の中枢に集中させた。同時
に、さまざまな民間企業にその業務を委託した。ブラックウォーター、ボーイング、AT&T、ハリバートン、ベクテル、カーライル・グループといっ
た企業がその恩恵にあずかった。80、90年代の民営化は国家の付属機関の売却だったが、今回起こったのは国家の本質的な部分の民間への売却だ。安全保障や災害への対応といった事業以上に、一国の政府の中心となるものがあるだろうか? これが反テロ戦争の最大の皮肉のひとつだ。結局、それは企業を儲けさせ
る効果的な武器となった。政府は企業を優遇してはいないと否定しつづけているが、その強い否定こそが真実である証だ。
さらに、新しい選択肢、希望のようなものが、結局は失望的な結果となった例を幾つかあげている。
1973年チリの9/11クーデターで転覆されたアジェンデ政権
1989年6月4日のポーランド「連帯」の勝利
1989年6月4日の天安門広場
1994年の南アフリカ共和国総選挙での、アフリカ民族会議の大勝
426ページ(補論の最終部分)から引用しよう。
人々が新しい選択肢を選ぶそばから、それは奪われてきた。軍事クーデター、大虐殺、ペテン、裏切り、テロにより、私たちの夢は奪われた。
もうひとつの世界の実現をめざす私たちは、自分たちが決して敗北者ではないことを知るべきだ。アイディアでは誰にも負けていない。知恵で出し抜かれたのでも論破されたのでもない。私たちは叩き潰されたのだ。ときに戦車により、ときにシンクタンクにより私たちは潰された。ここでのシンクタンクとは、戦車の製造元に金で雇われて知恵を出す人たちの集団だ。
私たちはアイディアの戦いではなく、繰り返し、仕掛けられた汚い戦争に負けただけ-この歴史を理解することが、失った自信を取り戻し、強烈な情熱に火をつける鍵となるだろう。
戦車といえば、ソ連軍および他のワルシャワ会議四カ国の軍隊が、プラハに侵攻したのは、1968年8月20日のことだった。
ちくま学芸文庫新刊『言葉と戦車を見すえて』加藤周一が考えつづけてきたこと のなかに、この出来事についての文「言葉と戦車」が収録されている。最後の部分を引用しておく。
チェコスロヴアキアの夏については、想出すことが少くない。その山河、その牧場の樹陰、スロヴアキアの娘、プラハの編集室、学生、腸詰とビール、スコダの工場、文芸復興期の小さな町、比類のない後期ゴティック……しかしその町とその国に戦車の砲口の向けられているかぎり、語ることのできる話題には限りがあ
る。今私は八月二一日以前についてただひそかにボードレールの一句を呟くほかはない。さようなら、あまりに短かかりしわれらが夏のきらめきよ。(一九六八年九月二五日、カナダ)
益岡賢氏のブログ、Falluja, April 2004 - the bookに、同じ話題に関するジェレミー・スケーヒルの記事翻訳あり。
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関連記事翻訳:
知識人の組織的暗殺、独立国家を強引に侵略し、属国化するための、あの国最強の手段。
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追記:vox_populi様から、ブラックウオーターは、ブラックウォーターと、ご指摘いただいたので、訂正。(ローマ字入力の場合には、uloと入力すると入ることまで、ご教示いただいた。実は、入力には別方式を常用しているので、折角の御意見、利用できないのが残念。)
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