インドとの試合。中村憲剛と播戸竜二が、代表初スタメン。前半23分に播戸のゴールで先制すると、さらに前半44分にも播戸が追加点。後半は攻めあぐんだが、中村憲剛のミドルシュートで追加点を挙げた。
■ 有効だったサイドチェンジ前半の日本は、いつになく、ロングボールが主体の攻撃。阿部や鈴木啓太の大きなサイドチェンジが効果的で、サイドの三都主や駒野の前のスペースをうまく使った、ダイナミックな攻撃を見せた。1点目も2点目も、三都主のクロスボールから生まれたゴールだった。
3バックの中央に入って阿部は、もともと、ロングボールの精度の高さに定評のある選手だが、最近は、ジェフでも、それほどロングボールを使った展開を見せておらず不満に感じていたが、この試合は、さすがに阿部というプレーを見せた。
■ 鈴木啓太がいなくなった中盤さて、問題の後半。水本の負傷で、長谷部がボランチに入って、鈴木啓太が最終ラインに入ったが、見事なまでに攻撃が衰退した。別に、長谷部のプレーに大きな問題があったわけではないが、鈴木啓太不在の大きさを感じずにはいられなかった。
中村憲剛と長谷部のダブルボランチは、もしかしたら、中村憲剛と鈴木啓太を並べるダブルボランチよりも、卓上では、魅力的に見えるかもしれないが、現実は、そうはうまくいかない。どちらがいいというわけではないが、ジーコ監督のサッカーは、クリエイティブな選手がより光るサッカーであり、オシム監督のサッカーは、クリエイティブな選手をより光らせるサッカーである。
前半の鈴木啓太は、後方の選手へのサポートだけではなく、正確なロングボールと、積極的な飛び出しで攻守の要になっていたが、鈴木啓太のポジションを下げたことで、チームは、軸を失って迷走した。鈴木啓太に関しては、この試合のインドレベルの相手であれば、センターバックの中央でプレーすることも可能だが、判断ミスからピンチになりかけたシーンがあったように、やはり、センターバックでプレーすることにやりにくさを感じているようだった。
■ 鈴木啓太のセンターバック起用この試合での鈴木啓太のセンターバックでの起用に関しては、2つの考え方がある。
・インド相手だからといって、普通の相手にはやらないような、起用はするべきではない。意味がないとする意見。
・緊急事態になったときは、鈴木啓太をセンターバックで起用することは、全くありえない話ではない。また、この段階で、鈴木啓太の可能性を探ってみるのは悪くないという意見。
である。どちらの意見も間違ってはいないと思う。ただ、結果的には、鈴木・阿部・今野の3人をセンターバックに置いた、センターバックレスのサッカーは、失敗に終わった。(試みとしては非常に面白いとは思うが・・・。)
■ 再考が必要なフォワードの人選フォワードの人選については、もう一度、考え直す必要があると思う。この試合に関して言うと、ここまで覇気がなくて低調なプレーをする巻をはじめて見た。インドには失礼だが、このくらいの相手であっても、センターフォワードがほとんどヘディングで競り勝てず、前線で起点になれなければ、苦戦するのは当たり前。オシム監督は、よく、後半の半ばまで、我那覇の投入を我慢したなと思う。この試合のことだけを考えたならば、前半の途中で巻を交代させる選択肢もあったと思う。
巻に代わって出場した我那覇に関しては、可もなく不可もなしという印象。柔らかいタッチのキープは魅力で、これまでの試合でも、なかなかのプレーを見せてはいるが、もうワンランク上のチーム相手に戦うには、もう一歩足りないように思う。
ジーコ監督は、ターゲットタイプとしては、鈴木や久保を重宝したが、最終的には、柳沢と高原のコンビを選択した。オシム監督は、一貫して、ターゲットタイプとシャドーストライカータイプの組み合わせで試合に臨んでいるが、人材が不足しているのは明らかで、当分は、ターゲットタイプにこだわらないほうが、うまく攻撃は回るかもしれない。
■ 山岸2試合連続でスタメン出場を果たした山岸に関してだが、左サイドを基本のポジションとしながら、三都主のプレーエリアと重ならないように、中央に進出してクロスに飛び込もうとする意識が高かった。181cmの高さに加えて、運動量もあるし、また、フォワード出身らしく決定力もあって、潜在能力は非常に高い。例えば、右サイドから多くのクロスが上がってくるチームなら、左サイドに位置しながら、フラフラっと中央に進出してきて、ゴールを奪っていく山岸のプレースタイルは、はまるかもしれない。そういうオプションがあってもいいかもしれないが、現状の山岸は、代表でスタメンを飾るだけのレベルをもった選手ではないと思う。
今シーズン、ジェフ千葉でなかなかいいプレーを見せていることは承知しているし、いい選手であることは間違いないが、代表は、グレートな選手が集まる場所である。国際舞台で戦うには、もうひとつ、ふたつ武器が欲しい。現状は、中途半端な印象を受ける。
■ 初スタメンでMOM級の活躍を見せた中村憲剛初スタメンとなった、中村憲剛に関しては、ポジティブな印象を受けた。ワンタッチコントロールで相手をかわす技術があるので、少々のプレッシャーを受けてもあわてないし、相手をひきつけてからパスを出すことが出来るので、必然的に味方がフリーになりやすい。柔らかいスルーパスも秘めていて、強烈なミドルシュートも備えるとなれば、現状では、国際舞台では、Jリーグで普段見せているハイレベルなパフォーマンスを、なかなか披露できない遠藤よりも、オシム監督のプライオリティが高くなるかもしれない。
三都主については、前半は非常にいい出来だったが、後半は非常にまずいプレーをした。前半の三都主は、裏のスペースに飛び出す意識が強く、無理な突破をせずに、ダイレクトで上げる高速のクロスが効果的で、2ゴールを演出した。
しかし、後半に入ると、チームのパフォーマンスが落ちたのに比例して、三都主のプレーレベルも著しく低下した。この選手は、いろいろと考えさせたら駄目で、本能の赴くままにドリブルやクロスが出来る環境を周りが提供しなければならない。三都主が中心になって攻撃を組み立てようとすると、必ず裏目に出て、非効率的なプレーが多くなってしまう。
■ 先送りになったトータルフットボール論ガーナ戦から論争を巻き起こしてきた、”トータルフットボール”に関してだが、この試合に関しては、その片鱗はほとんど見えなかったし、また、格下のインドが相手ということもあって、あえて、バランスを崩してまで、センターバックが攻めあがる必要性もなかった。
オシムサッカーに関していろいろな意見が出ているが、ボクは、オシム監督のサッカーを一言で表すと、”リスクをかけるサッカー”だと思う。トータルフットボール的な、センターバックのオーバーラップとそれに伴うポジションチェンジには確かにリスクが伴うが、リスクをかけて攻撃しないと、現状が打破できないことを、オシム監督は理解している。もちろん、やみくもに前線に飛び出していけばそれでOKかというそうではなくて、しっかりと周囲の状況を把握して、メリットがデメリットを上回るような状況では、リスクをかけることを控えなければならない。
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