■ クルピ監督の退任が決定セレッソ大阪のレヴィー・クルピ監督が、今シーズン限りで退任することが発表された。すでに、サンフレッチェ広島のペトロヴィッチ監督や、モンテディオ山形の小林監督の退任も決定しているので、長期政権を築いていた指導者の退任が相次いでいて、2012年シーズンは、J1も、J2も、「勢力図」が大きく変わりそうな雰囲気になってきている。
クルピ氏が監督に就任したのは2007年5月なので「4年半」もチームを率いたことになる。これは、C大阪というクラブの歴史を振り返ると、「異例」ともいえる長期政権であり、その間に、様々なことが起こった。MF香川らのA代表選出、J1への昇格、ACL出場権の獲得、ACLでのベスト8進出などなど・・・。「有力候補」と言われながらも、2008年にJ1昇格に失敗するなど、いくつかの失敗もあったが、基本的には「ポジティブな話題」が多かったように感じる。
クルピ監督が就任した2007年当時のC大阪は「どん底」の状態にあった。2006年のJ1で「17位」となってJ2に降格すると、オフに、FW西澤、FW大久保、MF下村といった主力が相次いで流出し、大黒柱のMF森島も原因不明の首痛で離脱していた。都並新監督はチームを掌握できず、13試合を終えて4勝3分6敗という成績で、9位(13チーム中)と低迷していた。「1年でのJ1復帰」を目指していたが、先の見えない暗い時代に突入しようとしていた。
■ 若手を育てた手腕①その後、MF香川・MF乾らを中心にJ1昇格を果たし、2010年にはJ1でも3位と躍進するが、クルピ監督というと、成績以上に、MF香川、MF乾、MF清武を代表選手に育て挙げたことが高く評価されている。その中では、MF乾を代表クラスまで育てたことが、注目に値する。
仮定の話となるが、おそらく、MF香川の資質をもってすれば、クルピ監督でなかったとしても、少なくとも、20代前半には代表選手になったことだろう。もちろん、ここまで「点の取れる選手」に変身することはなかっただろうが、「技本技術」がしっかりしていて、「運動量」もあって、「向上心」も強いので、どんな監督にも重宝されるタイプである。MF清武も同様である。彼も非常にクレバーな選手なので、この年でフル代表に定着していたかどうかは、分からないが、いずれは「代表クラス」まで駆け上がってきたと思う。
ただ、MF乾については、クルピ監督でなければ、ここまでの成長はなかっただろう。今でこそ「運動量」や「守備力」が、MF乾の武器となったが、C大阪にレンタル移籍してきた2008年当初は、献身的なプレーは皆無で、好不調の波も激しかった。よって「使いにくいタイプ」の典型でだったが、クルピ監督はレギュラーに固定し、(移籍問題でこじれた期間を除くと、)どんなに調子が悪くても、スタメンから外すことはなかった。そういうことから、クルピ監督が育てた選手の代表格としては、MF乾の名前を挙げるのがもっとも適切だと思う。
■ 若手を育てた手腕②C大阪では、MF清武、MF山口蛍、MF扇原3人がロンドン五輪代表チームの「常連」になっていて、FW杉本、FW永井龍、DF丸橋も、代表チームに呼ばれた経験がある。MF香川も含めて、この世代に「能力のある選手」が集まっており、育成を含めたフロントの成果でもあるが、クルピ監督が「適切なタイミング」で出場機会を与えて、経験を積ませたことも大きい。
若い選手は、どうしても「波」があるので、責任のある立場で起用し続けるのは難しいが、クルピ監督は「良い」と思った選手は、辛抱して使い続ける「覚悟」を持っていた。「ポジション」というのは、与えられるものではないが、実績のない選手は、「いいところ」で、「いいタイミング」で使ってあげないと、結果を残すのは難しい。したがって、ベテラン以上に「使いどころ」は大切で、よほどの才能でない限り、チャンスを与えても、結果を出すのは難しい。
C大阪の場合、若年層の代表経験のある選手が多くて、「もともとの素材が良かった。」という理由もあるが、クルピ監督が「タイミング」を見極めて、「チャンス」を与えてきたので、結果も出しやすく、活躍しやすかったと思う。「若手の育成に定評のある監督」と言われるには、それなりの理由はあると感じる。
もちろん、「こだわり」を持ちすぎて失敗したケースも多々ある。2008年は「守備」が不安定でJ1昇格を逃したが、シーズン終盤に「穴」になっていたDFジウトンを使い続けて、大事なところで勝ち点を失った。その後のDFジウトンが、新潟、鹿島とステップアップしたことを考えると、間違いなく「才能」はあったと思うが、ここでは頑固さが仇となった。ただ、トータルで見ると、人材登用に優れた指導者だと言える。
■ セレッソ大阪の未来は・・・①C大阪が保有する選手で見ても、DF丸橋、MF柿谷、MF扇原、MF山口蛍、FW杉本、FW永井龍と、まだまだ「レベルアップ」しなければならない選手がたくさんいるので、「彼らの才能が完全に開花するまで、ブラジルに戻るのは待ってほしい。」という気もするが、家庭の事情もあるので仕方ない。
もともと、クルピ監督は、2001年に『ブラジル代表の監督に就任するのでは?』という話もあったほどの名監督で、毎年のように『ブラジルに戻るのでは?』という話があった。よって、ここまで残ってくれただけでもラッキーと言える部類で、「これ以上」となると、厳しいものがある。また、「タイトル」こそ獲得できていないが、J1にも復帰して、ACLにも出場し、やれることのほとんどを、すでに達成しているので、「モチベーション」を保つのも難しかったのだろう。
となると、大事なのは、次の監督である。いろいろな考え方があると思うが、ひとまずは、クルピ監督が築いた「スタイル」を継続する道を探るべきだろう。このサッカーで成果をおさめて、サポーターにも支持もされているので、捨ててしまう必要性は全く感じない。難しいのは、あまりにも優秀な監督や、意欲的な監督を連れてくると、前任者のカラーを消そうとするので、失敗する可能性が高くなることである。したがって、「さじ加減」は難しいと思うが、チーム統括部長の梶野氏が優秀なので大きなミスはしないだろう。
■ セレッソ大阪の未来は・・・②肝となる「クルピ・スタイルを継続しつつ、発展させていくこと」については、実現できる可能性はあるように思う。「クルピ・サッカー」は、リスクを冒し過ぎて、バランスを崩して失点を重ねるシーンも多く、非効率的なところもあった。ACLの全北戦などがその典型となるが、もう少し失点数を減らして、落ち着いた戦いができるようになると、J1でも安定した成績を残すことができるだろう。
今年のC大阪の大きな問題点として、「SBが上がり過ぎて、その裏を突かれて失点する。」というのがあった。DF高橋が長期離脱し、DF丸橋が低調だったという理由もあるが、SBが無理をし過ぎたところは否定できない。もちろん、無理をしなければならなくなった理由として、2010年シーズンのFWアドリアーノ、MF家長、MF乾、MF清武の組み合わせほど、前線に破壊力がなくて、攻撃にかかる人数を増やす必要があったという事情もあるが、バランスを欠いてしまう試合が多かった。
「1つの理想型」として頭に浮かんでくるのは、2010年のサッカーである。3位に入って躍進したシーズンであるが、MFアマラウとMF羽田の二人がダブルボランチで起用された試合は、しっかりとした守備からボールを奪って、カウンターでゴールを奪うことができていた。メンバーだけ見ると「守備」に特徴のある選手が多かったが、「攻撃的なサッカー」が実現できており、C大阪らしさを感じさせる試合が続いて、結果も出ていた。もちろん、そういうサッカーをするには、FWアドリアーノやMF家長など、絶対的な「個の力」が必要となるので、簡単にはいかないだろうが、目指す「到達点」の1つになると思う。
関連エントリー 2007/09/15
「個の力」というフレーズにだまされるな!!! 2008/12/07
【C大阪×愛媛FC】 モリシ ラストマッチ (生観戦記 #19) 2010/05/16
【C大阪×神戸】 シンジ 旅立ちの日 (生観戦記 #4) 2010/09/24
香川真司はドイツでどんな評価をされているのか? 2011/09/29
韓国サッカーとは、どのように付き合っていくべきか? 2011/09/17
レヴィー・クルピ監督の元では、なぜ、若手が育っていくのか? → J3+(メルマ) 2011/11/24
ロンドン五輪代表候補について考える。 (GK、右SB、CB編) 2011/11/25
ロンドン五輪代表候補について考える。 (左SB、ボランチ編) 2011/11/29
ロンドン五輪代表候補について考える。 (攻撃的MF、FW編) → J3+(メルマ)
- 関連記事
-