■ 3回戦天皇杯の3回戦。JFLで3位と好位置に付けている町田ゼルビアとJ1のアルビレックス新潟の対戦。町田は元日本代表で鹿島アントラーズで左サイドバックとして活躍した相馬直樹氏が指揮するチームで、新潟の黒崎監督とは鹿島時代のチームメイトである。東京都の町田市をホームタウンとする町田ゼルビアはJFLで2年目。昨シーズンは18チーム中6位。2011年からのJ2昇格を目指していたが、スタジアムの問題等でリーグ戦で4位以内に入っても実現は難しくなった。
ホームの新潟は<4-2-2-2>。GK東口。DF西、鈴木、永田、内田。MF千葉、本間、三門、マルシオ・リシャルデス。FW田中亜、大島。韓国代表のFW曹永哲が代表戦のため欠場。さらに、U-19日本代表のMF加藤、DF酒井も欠場。しかしながら、大黒柱のMFマルシオ・リシャルデスが約1ヶ月ぶりに復帰した。
対するアウェーの町田は<4-2-2-2>。GK吉田。DF藤田、津田、深津、久利。MF太田、柳崎、星、酒井。FW勝又、木島。GK吉田は元C大阪の守護神で2005年のJ1のベストイレブン。FW木島は2009年にロアッソ熊本で10ゴールを挙げているストライカー。JFLではFW勝又が14ゴールで得点ランキング3位、FW木島が13ゴールで得点ランキング4位。MF星は昨シーズンは栃木SCに所属していたサイドアタッカーで、DF藤田、DF深津、MF太田らもJリーグで経験を積んだ選手である。
■ 新潟がベスト16入り試合はいきなり町田のFW勝又がスピードに乗ったドリブルからゴール前に侵入して強烈なシュートを放つなど勢いを見せる。開始10分はアウェーの町田がペースを握るが、徐々に新潟が対応し始めて新潟のペースとなる。起点となったのはやはりMFマルシオ・リシャルデス。MFマルシオ・リシャルデスのキープから右サイドDF西を効果的に使ってチャンスを作っていく。
完全に新潟が押し込んでいた前半24分に左サイドから先制ゴールが生まれる。それまでの時間帯は、ほとんどが右サイドからの攻撃であったが、逆サイドの左DF内田がオーバーラップして左足でクロス。中央のFW田中亜がヘディングで決めて新潟が先制する。さらに新潟は前半ロスタイムにもサイドを攻略。右サイドのDF西が攻撃参加してグラウンダーのクロスを入れると、相手DFに当たってコースが変わると、ゴール前でフリーのFW田中亜の足元にこぼれる。これをFW田中亜が冷静に右足で流し込んで2点リードとする。前半はそのまま2対0で終了。
いい時間帯に追加点を奪ったことで「新潟が楽な展開に持ち込んだ」と思われたが、後半は一転して町田ペースとなる。中盤のMF太田、MF柳崎らが攻撃に絡むようになっていい攻撃を見せるになると後半4分。左サイドを崩して最後はFW勝又のポストプレーからMF太田がシュート。1点差に迫る。
その後、町田は何度かチャンスを作るが、新潟もセットプレーを中心に追加点を狙う。互角の攻防となるが、両チームともに追加点は奪えず。結局、2対1でホームの新潟が順当に勝利。ベスト8をかけて名古屋グランパスと対戦することになった。
■ 機能したサイド攻撃後半はやや苦しんだが、新潟が町田の挑戦を退けてベスト16に進出決定。FW曹永哲が不在で得点力ダウンが心配されたが、MFマルシオ・リシャルデスが復活したことで以前の調子を取り戻して、前半はサイド攻撃が面白いように機能した。フォワードで起用されたFW田中亜が2ゴールと結果を残したこともチームにとっては良かったといえる。
2点共にサイドバックのクロスからのゴール。町田の左サイドの守備が甘かったという理由もあったが、特に右サイドのDF西が果敢に攻撃参加してサイドで主導権を握った。DF西とMFマルシオ・リシャルデスのコンビネーションは見事で町田の左サイドバックで19歳のDF久利は全く対応できていなかった。
J1の新潟とJFLの町田の対戦ということは、1部リーグと3部リーグの対戦ということになる。もちろん、どのポジジョンでもJ1の新潟が優勢になるのは間違いないが、こういったレベル差がある場合、分かりやすく差が出るのは「サイドバックのクオリティー」であることが多く、実際、新潟のDF西と町田のDF久利との間には大きな差があった。
■ 別格のマルシオ・リシャルデス久々の出場となったMFマルシオ・リシャルデス。リーグ戦ではMFマルシオ・リシャルデスの不在が響いて「5試合勝利なし」という状況であるが、ようやくMFマルシオ・リシャルデス怪我から復帰してきて、さっそくクオリティーの高いプレーを見せた。後半になると少し疲れたのか、攻撃に関与する場面が減ってきたが、前半は「いつ味方を確認したのか?」と思わせるほどの鮮やかなパスを何度も通して攻撃の起点となった。
MFマルシオ・リシャルデスに依存しすぎていることがここ数年の新潟の課題であり、彼がいるときと、いないときでははっきりとした成績の差が生まれているが、新潟のように資金力が潤沢ではないチームにとって、アクシデント等に備えて、「MFマルシオ・リシャルデスの代わりの選手」を用意しておくことは不可能に近いし、その部分にお金を使うよりも、他の部分に投資した方が有益だろう。
ずっとレンタルが続いていて、オフには毎年のように流出が噂されている。これはチームが落ち着かない原因にもなっているが、仕方がないとも感じる。
■ 善戦のゼルビア相馬監督率いる町田ゼルビアは2回戦で東京ヴェルディを下して3回戦に進出。そのサッカーが注目されたが、想像以上にいいサッカーだったといえる。開始早々から激しくプレッシャーをかけてFW勝又のシュートまで導くと、最初の10分間は新潟を非常に苦しめた。徐々に守備の穴を突かれるようになって前半に2失点を喫したが、後半からフレッシュに戦って1点差に迫るなど、後半は互角以上だった。
目立ったのはやはり2トップ。熊本での実績十分のFW木島の仕掛けは十分に通用していたが、驚いたのはその相方のFW勝又。JFLでゴールを量産しているという情報はあったが、なかなか実際にプレーする姿を見る機会は少なくて他の楽しみな選手の一人だったが、想像以上だった。
スピードもあって、運動量もあって、さらには、独りでも縦に仕掛けることが出来る。その突破は迫力十分で、新潟のDFラインも脅威に感じただろう。このプレーであれば、J2に昇格してからも十分な活躍が出来るように思うが、このレベルの選手が3部リーグにいること自体が少し不思議な気もするほど、いい選手だった。
■ 1年目の相馬監督前半から左サイドをズタズタにされていて、前半のうちに何か手を打ってくるのかと思われたが、相馬監督は動かず。結局、サイドから前半に2つのゴールを奪われてしまったため、後手に回ってしまった感じもしたが、2点ビハインドの後半になると、町田の動きが一変した。
ハーフタイムのインタビューで「勇気が足りない。」と語っていたが、その通りで中盤の選手が勇気を持って攻撃に参加し始めたことで、いくつかのチャンスと1つのゴールが生まれた。インタビュー中の語り具合から、相当にハーフタイムでイレブンに激を飛ばしたと思われるが、ハーフタイム中に選手にはっぱをかけて、イレブンを鼓舞するという仕事は監督に必要な能力の1つであり、相馬監督は若いながらもその能力を備えているような感じは受ける。
フランスW杯から12年。フランス組のほとんどが現役を引退していて指導者の道を進んでいるが、その中でも現役時代から「クレバー」で鳴らした相馬監督に指導者としての大成を期待している人は多いはず。ロアッソ熊本の高木琢也監督や清水エスパルスの長谷川健太監督などドーハ組からも指導者として成功した人が出ているが、ラモス瑠偉氏、柱谷哲二氏、都並敏史氏といったビッグネームがそれぞれ1回目、2回目、3回目の挑戦で芳しい結果が出ておらず、指導者も新世代の台頭が期待されるところ。
諸々の事情で、来シーズンからのJ2昇格の可能性がなくなってしまったことは残念であるが、今後の相馬監督の活躍に期待したいところである。
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