■ ザックジャパン初戦ザッケローニ監督の初陣はアルゼンチン戦。世界最高のプレーヤーといわれるFWメッシを筆頭に豪華なタレントが揃う世界トップクラスのチームである。先日は世界チャンピオンのスペインに4対1で勝利している。アルゼンチンとの過去の対戦成績は6戦全敗。引き分けすらゼロという状態である。
アルゼンチンは<4-3-3>。GKロメロ。DFエインセ、Gミリート、デミチェリス、ブルディッソ。MFカンビアッソ、マスチェラーノ、ダレッサンドロ。FWテベス、Dミリート、メッシ。代表に戻ってきたMFダッレサンドロがトップ下。ワールドカップの韓国戦でハットトリックをマークしたレアル・マドリード所属のFWイグアインはベンチスタート。ワールドカップではメンバー入りしなかったインテルのMFカンビアッソがスタメン。
対する日本は<4-2-3-1>。GK川島。DF内田、栗原、今野、長友。MF遠藤、長谷部、岡崎、本田圭、香川。FW森本。登録上は4人のフォワード。GK西川、GK権田、DF駒野、DF伊野波、DF槙野、MF中村憲、MF阿部、MF細貝、FW前田、FW関口、FW金崎がベンチ入り。DF中澤、DF闘莉王は怪我で不在。FW関口は初代表。FW松井、MF本田拓はコンディション不良でベンチ外。
■ 岡崎の決勝ゴールワールドカップの興奮が戻ってきたような、すさまじい熱狂の中で始まった試合は、立ち上がりのファーストプレーでアルゼンチンが強烈なプレスをかけてビッグチャンスを作る。アルゼンチンのモチベーションの高さが垣間見れたシーンであり、本気モードのアルゼンチンに萎縮してしまうかと思われたが、日本も負けずに応戦する。
FW森本が積極的なプレーを見せて前線を活性化させると、前半8分に右サイドを崩したDF内田のクロスをFW岡崎がボレーで合わせるがGK正面。最初の決定機を逃してしまう。その後はFWメッシの異次元のプレーに翻弄される場面も見られたが、前半19分にMF本田圭がバイタルエリアでシュートモーションに入ってミドルを狙う体勢に入ると、そのボールはつつかれるが、後方にいた右足でMF長谷部が強烈なミドルシュート。これはGKロメロがはじくが、こぼれたボールをMF岡崎が押し込んで日本が先制ゴールを奪う。
アルゼンチンは前半にFWミリートとMFカンビアッソが負傷退場するアクシデントもあって、FWメッシ絡み以外ではビッグチャンスを作れず。1対0の日本リードで前半終了。
後半になると日本はMF香川がボールに絡み始めてチャンスを演出できるようになる。ビハインドのアルゼンチンは引き続きFWメッシにボールを集めて打開を図る。後半中盤を過ぎると日本はスタミナが切れ始めて、なかなかボールが奪えなくなるが、DF今野とDF栗原のセンターバックコンビが集中して守って決定機を作らせない。
試合終了間際にはFWメッシが絶好の位置でフリーキックを得るが、左足のシュートは壁に当たってそのまま試合終了。結局、1対0で日本が勝利し、フルメンバーといえるアルゼンチン相手に歴史的な勝利。ザッケローニ監督は初陣を勝利で飾った。
■ 歴史的な勝利親善試合とはいえ、本気モードのアルゼンチン相手に1対0で勝利。幸先のいいスタートとなった。これまでのアルゼンチンとの対戦成績は0勝6敗。FWバティストゥータにやられた1995年のコンフェデレーションズカップのようにボロボロに負ける試合も多くて、「アルゼンチンは強すぎる。」と思わずにいられない状況での勝利。まさしく歴史的な勝利を挙げたといえる。
もちろん、アルゼンチンは前半から負傷者も出ていて、後半にあってもリアル公式戦のような「是が非でも追いつかなければ・・・。」というフルモードにはならなかったが、シュート数も日本が15本対13本で上回るなど、内容面でも勝利したといえる。
あれだけのメンバーを相手に勝ち切ったことは日本にとっては大きく、ザッケローニ監督にとっても、今後の指導がやりやすくなるだろう。親善試合とはいえ、その中で得たものは、ただの親善試合の1つで得られるもの以上のものがあった。しばらくは、ザッケローニ監督への称賛の声はやまないだろう。いきなり強豪との対戦になったことで少なからず大敗の可能性もあったが、協会もリスクを冒して大きな実りを得たといえる。
■ まずは継続性<4-2-3-1>と<4-1-2-2-1>という違いはあったが、MF香川とMF岡崎のサイドハーフを含めて、「まずはしっかりと守って相手の自由を奪う」という岡田監督が南アフリカで見せたサッカーが踏襲されていた。
これまでの日本は監督が変わるたびにサッカーが変わってしまって、4年ごとにリセットせざる得ない状態になっていて、新監督は前任者を否定する作業から入らざる得ないケースが多かった。、したがって、せっかく進歩しても、自ら後退してしまうという「非効率な強化」になっていたが、ザッケローニ監督は就任間もないということと、南アフリカ大会である程度の結果が残ったということで、大きくいじってこなかった。ファルカン、加茂、トルシエ、ジーコ、オシムという歴代の日本代表監督の初戦の状態と比べても、「初戦の戦闘力」という意味ではこのチームがダントツで高いといっていいだろう。(もちろん、諸事情でリセット得ざるないときもあったが・・・)
今後、は試合が進むごとにザック・カラーも出てくるだろうが、今の段階で、岡田ジャパンと異なると感じられる部分は、ボールを持てる選手が増えたということ。南アフリカではFW本田圭とMF遠藤の二人は相手にプレッシャーをかけられてもパニックにならずに味方につなぐことが出来たが、他の選手は少し厳しかった。しかし、この試合ではドルトムントで経験を積んだMF香川が相手にプレッシャーをかけられても落ち着いてボールが持てていて、後半はたびたび時間を作った。また、ワールドカップ後に経験を積み重ねているDF長友やMF長谷部も落ち着いてボールを動かせていた。この部分は南アフリカからの進歩といえる。
■ 岡崎が先制ゴール非公開練習が多くて予想スタメンも各マスコミでバラバラになった。攻撃陣はFW森本、MF本田圭、MF香川の欧州トリオのスタメンはほぼ確実といえる情勢だったが、あと一人は、MF金崎なのか、MF関口なのか、予想も分かれたが、結局、MF岡崎が先発。そしてそのMF岡崎が期待に応えた。こぼれ球に反応したゴールはMF岡崎らしいゴールだった。(シュートの時に一番、近い位置にいたはずのFW森本よりも先に反応して決めたのは素晴らしかった。)
南アフリカ大会ではスタメンから外れたMF岡崎であったが、サイドハーフとフォワードの両方のポジションでチームに貢献できるのは強みであり、左サイドハーフのMF香川とともに守備面での貢献も高かった。どうやらザッケローニ監督は<4-2-3-1>で行きそうであるが、予想された純粋なサイドアタッカーを置くスタイルではなく、ストライカータイプのMF岡崎をサイドに置くオプションもあるようで、MF岡崎も代表に絡んでくることだろう。
■ トップ下の本田圭今回、背番号「10」は与えられなかったが、MF本田圭がトップ下でスタメン。ゴールはなかったが、先制ゴールに絡んだ。先日のパラグアイ戦、グアテマラ戦ではあまり元気はなかったが、この日はワールドカップの時を思い起こさせるようなプレーで、MF本田がチームの中心になった。
攻撃の2枚看板として期待されるMF香川とのコンビネーションも良好。もともと北京五輪でも攻撃的MFでコンビを組んでいた二人なので大きな問題はないが、MF香川のパスからMF本田圭佑が左足でシュートチャンスを作った後半のシーンなどは、今後の可能性を感じさせるものであった。攻撃陣はMF香川を含めてほとんどの選手が途中交代する中でMF本田圭はフル出場。やはりザッケローニ監督もMF本田圭が中心に据えてくるのだろうか?この試合のパフォーマンスは十分にその可能性を感じさせるものであった。
■ 栗原と今野 ただ、何といっても光ったのがセンターバックコンビ。DF中澤、DF闘莉王が不在で最も不安なポジションであったが、アルゼンチンを完封してみせた。
DF栗原は序盤にミスがあったが高さでも負けておらず、DF今野は本職ではないポジション(もはやCBが本職なのか?)にもかからわず、ほとんどミスがなくてアルゼンチンのアタッカーに食らいついた。再三にわたってFWメッシが仕掛けてきたので、終盤にしんどくなる時間帯もあったが集中して守り切った。この試合のMOMを選ぶとしたらDF今野を選びたい。
両サイドバックの出来も良かったといえる。DF内田は後半にややバテたのか、守備面でポジショニングが危うくなるシーンが何度かあったが、前半からいつになく積極的でサイドから何度もいい攻撃参加が見られた。
シャルケに移籍してなかなかポジション確保にまで至っていないが、この日のプレーを見るといい経験を積んでいるようで、こと攻撃に関しては自身の代表キャリアでもベストゲームに近い出来だったのではないか。疲れてくると判断ミスが出てくるのが難点であるが、このままドイツで頑張っていけば、日本代表にとっても大きい
■ 途中出場の前田遼一攻撃陣でアピールしたのは途中出場のFW前田遼一。後半20分にFW森本に代わって1トップで出場し、3度ほどいいシュートシーンを作った。味方の押上げが少なくなっていた時間帯だったが、FW前田が一人で持ち込んで左足のシュートに持っていったシーンと、カウンターからドリブルで相手を外して決定的なシュートを作ったシーンは印象に残るものとなった。
決してスタメンだったFW森本の出来も悪くはなくて、前半からアグレッシブにプレーしており、ポスト役としても及第点以上のパフォーマンスだったが、FW前田が残したアピール度と比べると劣ってしまう。これまで実力を評価されながらも代表にはあまり縁がなかったが、ザッケローニ監督の初戦で強烈にアピールした。
サイドハーフがMF岡崎とMF香川であり、サイドから頻繁にクロスが入ってくるような構成ではなくて、FW前田の高さという武器が十分に発揮できるような環境ではないが、いろいろなゴールパターンを持っている選手なので彼にボールが渡ると得点の匂いがする。若いころはドリブルのうまい選手だったが、20代後半になってスタイルが変わってきたこともあって、独りで持ち込んでシュートというプレーが国際舞台で通用するかは少し疑問を感じる部分もあっただけに、上記の2つのプレーはインパクトのあるプレーとなった。
■ 次は韓国戦次はアウェーの韓国戦。今年は韓国と2回対戦して1対3、0対1で敗れている。3度目の正直と行きたいところであるが、欧州組はもちろん、Jリーグに所属する選手も終盤戦を迎えていて疲れている時期なので、無理はしてほしくないところ。アジアカップまでの強化試合が少ないので仕方がないが、ほどほどに戦って収穫が得られればOK。怪我だけは避けてほしい試合である。
2連戦ということでメンバー変更も考えられるが、見てみたいのは名古屋のDF金崎、広島のDF槙野、FC東京のGK権田といったところ。フレッシュなメンバーで若い選手の多い韓国を下すことが出来るようだと、ザッケローニ監督としては最高のスタートとなる。
■ 重症のアルゼンチン一方のアルゼンチンはまさかの敗戦。暫定監督のバティスタ氏の立場は非常に苦しくなったといえる。南アフリカ大会でも「FWメッシにお任せ」状態であったが、この試合も基本的には同じであり、FWメッシがチャンスメイクからフィニッシュまで大車輪の活躍。その一方でサポートするFWテべスやMFダッレサンドロ、FWイグアインといった選手の存在感は薄かった。
FWメッシをフリーにしてしまうと危険であるが、さすがに日本の守備陣も集中していてゴール前でFWメッシをフリーにすることはなくて、2人・3人でボールを奪いに行くと、ボールを取れなくとも、ドリブルをするのは止められるし、シュートを打たれる危険性も少なくなる。
怖いのはFWテべスやMFダッレサンドロがチャンスを作って、最後のところでFWメッシが出てきて仕事をされることであるが、そういったシーンはほとんどなくて、攻撃のほとんどすべてはFWメッシからスタートしていた。中盤にパスを散らすことの出来るタレントがいれば少し変わったと思うが、ピッチ上にも、ベンチにもいなかった。
日本代表 (採点)GK 川島永嗣 6.0
→ 難しいシュートは少なかったが、安定したキャッチングを見せた。
DF 内田篤人 6.0
→ 守備では危ない場面もあったが、タイミングのいい攻撃参加を見せる。
DF 栗原勇蔵 6.5
→ 立ち上がりにミスをおかすもポテンシャルの高さを見せた。
DF 今野泰幸 7.0
→ 地上戦での対応はさすが。つなぎの場面も落ち着いていた。
DF 長友佑都 6.5
→ 攻守ともに自信満々のプレー。ただし、クロスは精度は欠いた。
MF 長谷部誠 6.0
→ 鋭いシュートで先制ゴールを演出。つなぎも正確。
MF 遠藤保仁 5.5
→ パスミスもあったが、試合を落ち着かせた。
MF 岡崎慎司 7.0
→ 決勝ゴールに加えて、守備でもハイパフォーマンス。
MF 本田圭佑 6.0
→ 高いキープ力で周りを生かす。セットプレーの跳ね返しでも貢献。
MF 香川真司 5.5
→ 守備は良かったが攻撃では少し持ちすぎるシーンが多かった。全体としてはイマ一つ。
FW 森本貴幸 5.5
→ 悪くはなかったが、決定的なチャンスは作れなかった。
FW 前田遼一 7.0
→ 後半20分から出場。シュートは外したが抜群の動きで何度もシュートチャンスを作った。
MF 関口訓充 5.0
→ 後半26分から出場。デビュー戦で硬さがあったのか持ち味は出せず。ミスパスもあった。
MF 阿部勇樹 6.0
→ 後半26分から出場。期待通りの働きで完封勝利に貢献。
MF 中村憲剛 6.0
→ 後半32分から出場。効果的なキープで時間を稼いだ。
GK 西川周作 なし
→ 後半40分に緊急出場となったが落ち着いてプレーした。
アルベルト・ザッケローニ 7.0
→ 強豪国から金星。後半の積極的な交代も当たった。
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