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2014年11月13日木曜日

「民主政国家は債務の膨張を止めることはできない」ジェームス・ブキャナン

アメリカではもはや、男性だけでは家計を支えられず、夫婦共働きが当たり前になってしまった。平均年間労働時間が2200時間を超えて、日本人よりも長くなった。

1979年と比較すると、標準的なアメリカ人家庭では年間500時間、12週分も余計に働くようになった。(橘玲 『(日本人)』

ーーという記述を読んで、意想外であったので、すこし調べてみたが、探し方が悪いのかーーそれほど熱心には探してはいないがーー、次の図表程度のものにしかいまのところ当らない。


Working hours 

だがこの図表にても、2012年時点では、アメリカは日本より労働時間がやや長くなっているには違いない。もっとも統計の取り方(たとえば日本のサービス残業などの悪癖)はどう考慮されているのかは定かではない。

橘玲氏の文章を拾ったのは、次の理由による。

…………

いまの痛みか vs 近い将来のより大きな痛みか」補遺(「財政破綻後の日本経済の姿」に関する研究会より)。


◆日本の国債市場と投資家行動 2014年10月3日 角間和男 (野村アセットマネジメント)よりの孫引き。

ジェームス・ブキャナンは「民主政国家は債務の膨張を止めることはできない」という論理的な帰結を1960年代に導き出した。政治家は当選のために有権者にお金をばらまこうとし、官僚は権限を拡大するために予算を求め、有権者は投票と引き換えに実利を要求するからだ。

このような説 明は、ほとんどの人にとって不愉快きわまりないものにちがいない。だが 現実には、日本国の借金は膨張をつづけ、ついには1000兆円という人 類史上未曽有の額になってしまった。ブキャナンの「公共選択の理論」は、 この事実を見事に説明する。そしてこれまで誰も、国家債務が膨張する 理由について、これ以上シンプルな説明をすることができないのだ。(橘玲『(日本人)』)

 橘玲氏はやや際物めいたところのある経済小説家だという評判もあるのだが、上のような比較的由緒正しい研究会での発表資料のなかにも引用されているようだ。わたくしも「アベノミクスの博打」で橘玲氏のよる「20XX年ニッポンの国債暴落」を引用したことがある。


この橘玲を引用する角間和男氏(現 野村アセットマネジメント)をめぐっては次の通り。

債券の取引はほとんどが店頭市場で行われ、主たる取引参加者が少数のプロの投資家に限定されているので、株式市場と比較してその実態が外部者にはわかりにくい。今回の研究会では、主として調査分析を中心に長年にわたり日本国債市場において仕事を続けてこられた角間和男氏(現 野村アセットマネジメント)に「日本の国債市場と投資家行動」というタイトルで国債市場の「内部者」の立場から報告をしていただいた。

 政府債務の膨張と予想インフレ率上昇を背景に国債暴落を懸念する人は多い。一方で、長期金利にはむしろ低下圧力がかかり、史上最低水準にある。両者の不整合性の原因と持続性について考える材料を提供していただきたいというのが研究会メンバーから角間氏にお願いしたことである。

 日本の財政状況は、たしかに数字の上では危機的な状況にあるが、国債の保有構造特性から直ちに危機が表面化する可能性は低いと市場は見ている、というのが角間氏の見方である。ほぼ国内で閉じた資金循環の中で、国債を買い支えているのは実質的には家計の金融資産であり、こうした家計金融資産保有特性が金融機関の投資行動に反映され、長期金利は上昇しにくい構図ある。影響が大きいのが銀行、保険、年金を経由した資金の流れで、これに最近の日銀を経由した流れが加わり、これらのチャネルで国債に伴う金利リスクの大部分が負担されている。日銀の金融政策が今後も最大の相場変動要因だが、日銀のオペ以外では、近年影響力が強くなっているのが生命保険である。その負債特性の変化を含めて生命保険の今後の動向は要注意である、という指摘がなされたのが注目される。

 研究会における今後の議論の参考になる様々なソースからの広範なデータに基づく分析をしていただいた角間氏に感謝したい。

角間氏の報告用ファイルは以下からダウンロードできる。

角間和男「日本の国債市場と投資家行動」 

角間氏による「日本の国債市場と投資家行動」の充実した資料から、他の論者によっても比較的よく語られる「一般会計を家計に喩えると」の頁を抜き出しておこう。







角間氏の試算によれば、3.5%成長かつ収支改善の20年後でさえ、日本の家計は現在のローン残高7800万円から1億1964万円と120%となっている。

いずれにせよブキャナンの言明は実践的には圧倒的に正しいのだろう。そしてくり返せば、リスクは第一にデフレ、第二に金利上昇、第三にばらまき財政とあるように、いま第一のリスクは黒田日銀がギャンブルをやって対応しようとしているわけで、そのとき第二のリスクがどうなるかであろう。


※附記:橘玲 『(日本人)』より。

日本がグローバルスタンダードの国に生まれ変わることはものすごく難しい。それは日本の社会に<他者>がいないからだ。グローバル空間とは、包摂できない<他者>と共存せざるを得ない世界のことだ。

日本にも在日朝鮮・韓国人のような人たちがいるが、日本社会は彼らを「日本人」として包摂するか、存在を無視するかしてローカルルールを変えずに対応してきた。

ほとんどの組織が日系日本人で構成されているかぎりはグローバルになる理由はどこにもない。





2014年11月5日水曜日

母さんのペニス(充実した社会保障制度)を信じるフェティシスト「左翼」たち

さあこれで「経済」やら「財政」の話はやめにすることにする。わたくしはこれにていささか慣れない肩の荷はおろすことにする。最後にいくらかの残りモノの資料をここに片付けておくことにする。


…………






ーーなどという図表に行き当って、高齢化比率、日本はイタリアやスペインに追い抜かれるのかと、不思議に思えば、データが2000年となっており、かなり古い。

不思議に思ったのは、以前、次の文をメモしたからだ。

少子高齢化が進展している日本が社会保障システムや政府財政の持続性に問題を抱え、制度疲労に対して喫緊の改革を迫られている点は周知の事実だが、中長期的にみると高齢化は日本に限った話ではなく、世界共通の課題である。ただ、国によってそのスピードが大きく異なることから、高齢化への取り組み方も変わってこよう。

国連の推計に基づくと、いずれの国の中位数年齢(年齢順に並べ、全人口を 2 等分する年齢)も年を経るにつれて上昇していく。例えば、2010 年時点の日本の中位数年齢は 44.7 歳であり、先進国平均の 39.7 歳を大きく上回り、ドイツ(44.3 歳)やイタリア(43.2歳)に近い。それが 2020 年には 48.2 歳、2050 年には 52.3 歳に上昇し、世界における超高齢社会のフロントランナーのポジションは譲らない。他方、高齢化の進展が相対的に遅いドイツやイタリアの場合、2050 年時点でも中位数年齢は 49 歳代にとどまる。(大和総研「DIR30年プロジェクト「超高齢日本の30年展望」」2013)


次の図表は、いつのデータか分からないが、Taichi Onoという方が、JUNE 28, 2012に発表されており、こちらの方がたぶん新しいのだろう。このデータからすればやはり日本はフロントランナーを走り続ける。とはいえ、長期にわたる人口予測とは、その都度変わってゆくので、あまり信用しすぎてもいけないのが、この二つの図表からわかるだろう。





世界的にも、2050年頃には中国の高齢化が予想されているせいもあるだろうが、次のような具合だ。





こうやって21世紀の人間はしだいに老いてゆく、欧米先進諸国や東アジア諸国はことさら。とすれば、20世紀後半に作られた制度で21世紀はやってゆけるはずはない。たとえば、社会保障制度など、少子高齢化のなかで、以前と同じように継続できるはずはないのだ。




そもそも1.2人の労働人口でどうやって1人の高齢者を支えることができるというのか。いまはまだ20世紀の社会保障制度の残照が残っているにすぎない。伝染病が流行して高齢者の半分ぐらいが消滅してしまえば別だが。とはいえ、ひとは、数において戦死者を凌駕する死者を出した大戦末期のインフルエンザ大流行の再来を願うわけにもいかない。

けれどもこれは意外に忘れられているのではないか。北欧諸国やドイツ、フランスなどの社会保障制度の充実ぶりを羨んで、われわれもあれを目指さなくては、などという幻想をいまだ抱いてはいないか。もちろん個別には、実際に日本も導入すべき西欧諸国の福祉制度もるだろう。だが大きく言えば、たまたま日本が少子高齢化トップランナーであるせいで、以前の制度の維持がまっさきに困難になってきているのであって、いま羨望をもって見られる西欧諸国でさえ、近い将来、社会保障費の維持にいっそう苦しみだすのではないだろうか。

たとえば年金支給開始年齢を引き上げることは世界の潮流であるのに(米国は 2027 年までに 67 歳へ、英国は 2046 年までかけて 68 歳へ、ドイツは2029 年までに 67 歳へ引き上げる予定)、日本はいまだ悠長に1985 年の改正の原則65 歳支給を、そこから約半世紀もかけて 65 歳に引き上げるという驚くほどの呑気なプランのままだ。日本の長寿ぶりからすれば、70歳支給開始がとっくの昔に検討されてもよいはずなのに。

ーーまあそういう国さ
どんづまりになってからしかやらないからな
消費税導入もそうだし、移民政策やら少子化対策だってそうだぜ

そして高齢者や高齢者予備軍ばかりが多い選挙で、
年金受給年齢改正案が通るわけないしさ

オメデトウ! 働きざかりの現役層のみなさん

日本の財政は、世界一の超高齢社会の運営をしていくにあたり、極めて低い国民負担率と潤沢な引退層向け社会保障給付という点で最大の問題を抱えてしまっている。つまり、困窮した現役層への移転支出や将来への投資ではなく、引退層への資金移転のために財政赤字が大きいという特徴を有している。(「DIR30年プロジェクト「超高齢日本の30年展望」」)


いずれにせよ、日本は幸か不幸か、現在の時点では、高齢化社会ダントツナンバーワンの国であるのは紛れもない事実である。20世紀後半のある時期にはうまく運用されているかにみえた社会保障制度がーー「世界で最も成功した社会主義国」などと呼ばれたこともある80年代の日本だったーー、現在の状況に変貌した今後、いままでどおりに継続できるはずはない。

それにもかかわらず、現在の社会保障制度のいっそうの充実が、日本でもいまだありうるという幻想のもとに発言している人が多すぎるのではないかい? くり返せば、個別の改善はありうるだろうが、全体としては、今後大きく社会保障給付金の削減をしていなくてはならないのは明らかなのに、いまだ「倒錯的フェティシスト」として振舞っている人びとが多すぎる。

ラカンの弟子オクターヴ・マノーニに古典的論文『よく知っているが、それでも……』がある。

「よくわかっている、しかし、それでも……」というこの主張の形式は、「それでも……」以下に語られる無意識的信念へのリビドーの備給を示すフェティシズムの定式である(「母さんにペニスがないことは知っている、しかしそれでも……[母さんにはペニスがあると信じている]」)(田中純「暗号的民主主義──ジェファソンの遺産 」

この「よく知っているが、それでも……」は、たとえばジジェクによって次のように変奏される。

態はきわめて深刻であり、自分たちの生存そのものがかかっているのだということを「よく知っているが、それでも……」、心からそれを信じているわけでは ない。それは私の象徴的宇宙に組み込む心構えはできていない。だから私は、生態危機が私の日常生活に永続的な影響を及ぼさないかのように振舞い続ける。(ジジェク『斜めから見る』)

ここでくどくなるのを怖れずにさらに変奏させれば、「社会保養制度は危機に瀕しているのをよく知っているが、それでも……」、心からそれを信じていない。母さんのペニス(充実した社会保障制度)がありうると信じている。そうやって現行の社会保障制度の危機が彼らの日常生活に影響を及ぼさないように振舞い発言しているのが、「左翼」やら「リベラル」と呼ばれる倒錯的フェティシストたちである。そうでなかったら、たとえば、どうして生活保護のいっそうの充実、高齢者福祉の維持を叫びつつ、消費税増反対などと言い放つことができよう。

彼らはあたかもトムとジェリーの猫のようでもある。あのような幻想に耽っていては二度死ぬことになる。すなわち将来ありうるべき「中福祉・高負担」の社会保障制度さえ死んでしまう。

猫が、前方に断崖があるのも知らず、必死にネズミを追いかけている。ところが、足元の大地が消え去った後もなお、猫は落下せずにネズミを追いかけ続ける。猫が下を見て、自分が空中に浮かんでいることを見た瞬間、猫は落ちる。(……)

エルバ島におけるナポレオン(……)。歴史的には彼はすでに死んでいた(すなわち彼の出る幕は閉じ、彼の役割は終わっていた)が、自分の死に気づいていないことによって彼はまだ生きていた(まだ歴史の舞台から降りていなかった)。だからこそ彼はワーテルローで再び敗北し、「二度死ぬ」はめになったのである。

ある種の国家あるいはイデオロギー装置に関して、われわれはしばしばそれと同じような感じを抱く。すなわち、それらは明らかに時代錯誤的であるのに、そのことを知らないためにしぶとく生き残る。誰かが、この不愉快な事実をそれらに思い出させるという無礼な義務を引き受けなくてはならないのだ。 (ジジェク『斜めから見る』p89-90)

中井久夫は、フランシス・フクヤマの「歴史の終焉」ではなく、《歴史の退行を、二一世紀に見る。そして二一世紀は二〇〇一年でなく、一九九〇年にすでに始まっていた》とさえ言っている(参照:二十一世紀の歴史の退行と家族、あるいは社会保障)。本来は少子高齢化社会の先進国日本は、あたらしい福祉モデルの提案に先鞭をつけるべきなのに、そんな気配は微塵もないところが、低位の高齢化諸国の施策の後塵を拝する、いやそれどころか、彼らのやっていることーーたとえば上にあげた年金支給年齢引き上げーーなど日本ではすぐさま実現できるわけはないと苦笑を浮かべるのみであるかのようなのが、あいもかわらずの日本らしいぜ。

これくらいの法案、半日で作れるだろ、選挙を怖れなければだがね

■ アメリカの年金の受給開始年齢

アメリカの老齢年金の受給開始年齢は、生年月日に応じて65 歳から徐々に引上げられ、1960 年以降に生まれた人は67 歳となります。また、受給開始年齢を62 歳まで繰上げすることも可能ですが、支給される年金額は生涯にわたって減額されます。

なお、生まれた年ごとの老齢年金の受給開始年齢、及び、老齢年金を62 歳まで繰り上げて受けた場合の減額率は、以下の通りです。

アメリカの年金開始年齢 PDF


ーーで、やっぱりあきらめたほうがいいんじゃないか、という心持をもつ経済学者もいるわけだ。たとえば、『「財政破綻後の日本経済の姿」に関する研究会』のメンバーのエライ学者先生とかが、《「日本の財政は破綻する」などと言っている悠長な状況ではない?》ーーとするのはその口だろう。

次のような提案などだれも聞く耳もたないさ。

「日本は中福祉・中負担が可能だというのは幻想」とする大和総研の「超高齢日本の 30 年展望 持続可能な社会保障システムを目指し挑戦する日本―未来への責任」(理事長 武藤敏郎 監修 調査本部)における過激なシミュレーションーーおそらく今まで提出された最も厳しい社会保障費削減案ーーなんてね。

高齢化先進国の日本の場合、老年人口指数で言えば、既に 2010 年時点で 100 人の現役世代が 35 人の高齢者を支えており、2020 年には 48 人、2050 年には 70 人を支える必要があると予想される(いずれも国連推計であり、社人研推計ではより厳しい)
賃金対比でみた給付水準 (=所得代替率) は、 現役世代と引退世代の格差―老若格差―と言い換えることが可能である。この老若格差をどうコントロールするかが、社会保障給付をどれだけ減らすか(あるいは増やすか)ということの意味と言ってよい。少子高齢化の傾向がこのまま続けば、いずれは就業者ほぼ 1 人で高齢者を 1 人、つまりマンツーマンで 65 歳以上人口を支えなければならなくなる。これまで 15~64 歳の生産年齢人口何人で 65 歳以上人口を支えてきたかといえば、1970 年頃は 9 人程度、90 年頃は 4 人程度、現在は 2 人程度である。医療や年金の給付が拡充され、1973 年は「福祉元年」といわれた。現行制度の基本的な発想は 9 人程度で高齢者を支えていた時代に作られたものであることを改めて踏まえるべきだ。

以下、より詳しくは、「われわれの世代は、もしかすると「逃げ切れる」かもしれない」の後半を見よ。


われわれの世代は、もしかすると「逃げ切れる」かもしれない

いちじくの実が木から落ちる。それはふくよかな、甘い果実だ。落ちながら、その赤い皮は裂ける。わたしは熟したいちじくの実を落とす北風だ。

このようにいちじくの実に似て、これらの教えは君たちに落ちかかる。さあ、その果汁と甘い果肉をすするがいい。時は秋だ、澄んだ空、そして午後――(ニーチェ『ツァラトゥストラ』手塚富雄訳)

さあ、おわかりであろうか、こニーチェの引用から始めたのがなぜか?
なによりも「いちじくの実」が肝要であるのだ。そして澄んだ空が。
甘いいちじくの実を落とすには、あなたは北風でなくてはならぬ。
曖昧模糊とした春の駘風ではいちじくの実は腐ってから落ちるだけだ。

――というわけで、このところ「経済」とか「財政」とかをめぐる論文を眺めすぎたので、気分転換である。


ところで日銀黒田バズーカ砲第2弾が炸裂したがあれは北風だろうか。
澄んだ丘の上から日本の湿り澱んだ空気を吹き払う清い風だっただろうか。
「失われた20年」をさらに引き延ばしたいらしい慎重臆病派の経済学者たち
あの「下士官道徳」の連中を震えあがらせる冷気を送りこむことができただろうか。

もしあなたが北風種族であるならば、
反リフレ派と称されるらしい慎重臆病派の彌縫的睦言よりも

弱気な連中を蹴散らかす軍の司令官黒田東彦のギャンブルを

よりいっそう好むべきではないか、

――などと書けば懐疑派の経済学者たちやらその取り巻き連中が
このなにも分かっていないドシロウトが戯言を書きよって! 
とノタマウに相違ない。

連中は「失われた20年」を「失われた40年」にしたい種族である。

連中も彼らの睦言を守っているだけでは

2030年代には遅くとも財政崩壊があることを知っている

ただ黒田の博打ではそれが5年先に早まる可能性がある
(いや2年先かもしれないし、もっとはやいかもしれない)
それを怖れているのではないか


黒田日銀はその可能性を怖れつつも、
2、3割はありうるだろう好転に賭けている

――そうではないだろうか、と問いを発するのも

ディレッタントでしかないいまこうやって書きつつあるこの阿呆である


この阿呆のよりどころになるひとつの文を示そう。

敬愛すべき慎重派のすぐれた経済学者池尾和人氏の

アベノミクス導入前の冗談めかした「ホンネ」が滲み出ている文である
いやこの阿呆にはそういう錯覚に閉じこもらせてくれるに過ぎないが。

この記事は5年前に書かれたものとしてすばらしい
現在起こりつつあることを説明してくれるもするし
かつまた慎重派の経済学者が何を「誠実」に怖れているのかも明かしてくれる。


ある財政破綻のシナリオ--池尾和人(2009.10.4)

先の池田さんの記事へのコメントですが、字数の関係で記事にします。

現在は、資本移動も自由だし、金利規制もない(10%以上のインフレになると、利息制限法が制約になるが...)ので、3%とかいった緩やかなインフレで、政府債務の軽減を図れるとはあまり期待できません。これは池田さんもよく分かってらっしゃることですが、むしろインフレ期待の発生が財政破綻のトリガーを引くことになりかねないと考えられます。

すなわち、インフレ期待が生じると、既存の国債保有分については、インフレによる損失を回避するために、その前に売却しようという動きが生じることになります。これは、国債価格の暴落=長期金利の急騰につながります。投資家が、何もせずに、インフレによる債務の実質カットを甘受し続けることはありえません。

このことを避けようとして、日本銀行が買いオペをして代わりに現金を供給しても、インフレで価値が低下することが分かっている円をキャッシュのままで持ち続けようという者はいないはずですから、外貨建て資産や実物資産への転換が図られることになります。前者であれば、円安を招くことになって、輸入物価の上昇につながります。

こうしたことから、インフレ・スパイラルに陥る可能性が高く、安定的に穏やかなインフレ状態を続けることは難しいと思います。
かりに穏やかなインフレ状態が続くということになっても、その場合にも、固定利付きの長期国債の発行は難しくなります。物価連動債にするか、債務の短期化を強いられます。引き続き固定利付きの長期国債が発行できたとしても、フィッシャー効果で名目金利はインフレ期待分上昇しますから、借り換えと新規発行分の政府の負担は軽くなりません。インフレになると、税収が増える効果もありますが、歳出の名目額も拡大せざるを得ないので、財政赤字は続きますから、政府は国債の借り換えと新規発行を続けなくてはなりません。

ところが、インフレ・リスクが高まると、投資家の警戒感も高まることから、国債の入札に失敗するといった事態が起こる可能性も無視できなくなります。そして、国債の入札が不調に終わったといったニュースが流れると、ますます国債の借り換えと新規発行がしがたくなって、ついには政府の資金繰りがつかなくなり、公務員給与の遅配や(夕張市のように)病院のような基礎的サービスの供給にも支障が生じることが想定されます(これは、櫻川くんがちらっと言っていた財政破綻のシナリオ)。

要するに、むしろデフレ期待が支配的だからこそ、GDPの2倍もの政府債務を抱えていてもいまは「平穏無事」なのです。冗談でも、リフレ派のような主張はしない方が安全です。われわれの世代は、もしかすると「逃げ切れる」かもしれないのだから...(これは、本気か冗談か!?)

…………

ここで二度も次期日銀総裁として「絶対視」されたのに、
政局のせいで(民社党にキラワレタせいで、ーーことさら小沢一郎にーー)、
日銀総裁の地位を棒にふってしまった武藤敏郎氏
ーー黒田東彦氏は当時ダークホースにすぎなかったーー
の記事をいくらか掲げよう。
彼であるなら量的緩和はより穏健であったかもしれない。

ただし、現在すこぶる過激な社会保障制度改革を提案している。
慎重派の反リフレの経済学者がアベノミクスに反対するのは
それはそれでよろしい。
だが彼らからこういった「別の道」をさぐる具体的な提案
まともな社会保障制度改革案さえ提議されないのは
なにゆえであろうか、ーーここでもまた「逃げ切る」つもりであろうか?


「日本の社会保障制度を考える」(武藤敏郎)より。

国民の中では、「中福祉・中負担」でまかなえないかという意見があるが、私どもの分析では、中福祉を維持するためには高負担になり、中負担で収めるには、低福祉になってしまう。40%に及ぶ高齢化率では、中福祉・中負担は幻想であると考えている。

仮に、40%の超高齢化社会で、借金をせずに現在の水準を保とうとすると、国民負担率は70%にならざるを得ない。これは、福祉国家といわれるスウェーデンを上回る数字であり、資本主義国家ではありえない数字である。そのため、社会保障のサービスを削減・合理化することが不可避である。


◆社会保障改革 武藤敏郎 (大和総研 2013.8.11

日本の総人口は2008年をピークに減少し続け、2050年代には9000万人を割り込むと推計される。総人口は約60年前に戻るだけだが、問題は高齢化率(総人□に占める65歳以上の割合)だ。現在の23%(2010年)から、2060年には約40%になる。国連の定義では高齢化率が21%を超えた社会は「超高齢社会」である。超高齢社会を維持するには、人数が減った現役世代の生み出す付加価値によって、人数が増加した高齢者の生活を支えていかねばならない。現行の社会保障制度をそのまま続けることは不可能だ。

現行の社会保障制度を維持しつつプライマリーバランスを均衡させるには、国民負担率(税と社会保障の負担が国民所得に占める割合)を現在の4割から7割近くまで引き上げねばならない。しかし、これでは働く意欲を衰えさせ、経済に悪影響をもたらしかねない。福祉国家と言われ、かつては国民負担率が70%を超えていたスイゥーデンでも、現在は59%程度に下がっている。

では、いったいどの程度まで国民負担率を増やし、給付を削れば社会保障制度を持続させることができるのだろうか ―。

国民負担率は現在の欧州諸国に近い60%程度を超えないように設定し、消費税率は25%まで引き上げることが可能だと想定してみた。その上で、①年金支給開始年齢を69歳に引き上げ②70歳以上の医療費自己負担割合を2割へ引き上げ ― など思いきった給付削減を想定した。

しかし、この程度の改革では社会保障制度を維持できないばかりか、プライマリーバランスの構造的な赤宇も解消できず、国の債務残高は累増し続ける可能性が高いという結論になった。要するに、社会保障の給付削減と負担増を図るだけの従来の発想の延長では、問題を解決する処方箋は容易に描けないのである。

超改革シナリオとは、政府による直接的な給付をナショナルミニマム(国による必要最低限の保障)に限定して国民皆年金や皆保険を維持する一方、民間部門の知恵と活力を総動員して国民が自らリスクを管理していく発想である。

超改革シナリオでは、前述した改革シナリオの内容に加え、①公的年金の所得代替率(その時点の現役世代の所得に対する年金給付額の比率)を現在の62%(2009年財政検証時)から、40%に引き下げる医療費自己負担割合を全国民一律 3割とする③介護給付の自己負担割合を現在の1割から2割に引き上げる― など給付削減と受益者負担の引き上げを行うこととした。

結論を言えば、この超改革シナリオでは、プライマリーバランスが黒字化し、財政の債務残高そのものをGDP対比で減らしていくことができ、社会保障制度を確実に持続可能なものにしていくことができる。社会保障改革の在り方を、大きな政府か小さな政府かという視点ではなく、超高齢社会において機能する政府とは何かという視点で考えることが重要である。


◆「中福祉・中負担は幻想」 武藤敏郎氏 2013年9月12日

斎藤 それでは、日本の国民負担率は長期的にみてどの程度にすべきだと考えているのですか?

負担は5割増福祉は2-3割減

武藤 ここには学問的答えはありません。先ほど言いましたように現在の日本は38%と低い。借金に頼っていますから、表面的な租税負担率は低く、低負担社会です。半面、現行の制度を続け、同時にプライマリーバランスを均衡させれば国民負担率は70%程度になる。どの程度にすべきか。世界の例をみて考えるしかない。現状、フランスは60%、ドイツは50%、英国は47%、財政規律が弱いと見られているイタリアでも62%、スェーデンはかつて70%近かったのですが今は59%。日本の高齢化率は先進各国の中で最も高く、いずれ40%になる。そうした状況をふまえ総合的に考えた上で、日本の将来の国民負担率は60%を何とか下回る水準にとどめられないかと考えた。それにあわせた社会保障というのがどのようなものになるかを思考実験してみた。(図表2参照)





斎藤 つまり「中福祉・高負担」ということですか?

武藤 国民負担率が60%超なら高負担とか55%なら中負担と言うべきかどうか……。いずれにしろ、これまでは財源を国債に依存していたのだから、負担は今よりもかなり上げる。一方福祉水準はかなり下げる。それがだいたいのイメージでしょう。国民負担率を40%近くから60%近くに上げるのですから負担は約5割上がる。一方社会保障水準はおそらく2-3割下げるということでしょう。負担を5割上げて、福祉水準が2-3割下がるのでは、辻褄が合わないように感じると思いますが、これは、これまで国債に頼っていた分を減らし、プライマリーバランスを改善させなければならないからです。現在の日本の福祉は、国際的に見てもかなりいい水準にあります。

例えば、年金の給付額も為替レートにもよるが、換算してみるとドイツやフランスと比べてもそん色ない。医療サービスにいたっては、むしろレベルは高い。医者の数は多く、病床数も多い。日本くらい簡単に医者にかかれる国はないのではないか。まあ、保育所だとか児童手当の水準なんか少子化対策はまだ十分ではないかもしれないが、中福祉よりは高福祉に近い水準にあると思う。

斎藤 福祉水準が2-3割下がるとはどういうことですか?

武藤 私たちは分析にあたっては、社会保障の受益者が得るサービスについて「所得代替率」という概念を使いました。年金受給額の水準を測る時によく使われる概念を、福祉全体にも適用して考えるということです。つまり65歳以上の高齢者一人あたりの社会保障給付額、これには年金受給額や医療サービス、介護サービス受給額などが含まれますが、この合計額を生産年齢人口(15-64歳)一人当たりの平均所得で割ってはじいた比率です。この比率を福祉水準を測る尺度として分析してみた。

現在、この社会保障の平均所得代替率は82.4%です。これが3割下がるということなら57.7%になる、2割下がるなら66%になるということです。今世の中で広く議論されている中で最も厳しい削減案だと思います。

斎藤 具体的には?

武藤 たとえば年金の支給開始年齢を69歳まで引き上げる。世界をみても2030年くらいに向けて67,68歳に上げていくという流れになっている。日本は高齢化のフロントランナーです。平均寿命も健康寿命も最も高い国の一つだ。

政府は、受給開始年齢を2030年度までに順次65歳まで引き上げることを決めていますが、このペースを早めたうえで、2025年度以降、2年に1歳のペースで69歳まで引き上げるという案です。

70歳以上の高齢者医療の自己負担は現在、政治的な配慮もあって1割になっていますが、これを75歳以上も含めて2割に上げたらどうかと考えた。さらに安価なジェネリック薬品の普及を一段と押しすすめる、などです。消費税も2020年代を通じて20%程度まで引き上げる。私たちはこれを「改革シナリオ」と呼んでいるのです。

ところがこれでも国家財政の収支を計算してみると、財政のプライマリーバランス(基礎的収支)は均衡しない。年々の赤字は縮小するが、赤字は出続ける。債務残高の対GDP(国内総生産)比率は250%あたりのままほぼ横ばいになる。

斎藤 それではまだ不十分ということですか?

武藤 ええ、国の財政を破たんさせず、社会保障制度をサステイナブルなものにするにはプライマリーバランスを黒字化させ、GDPに対する債務残高の比率を引き下げていかなければならない。

斎藤 ずいぶん厄介なことですね。

武藤 そうです。改革シナリオでも不十分と言うことは、事態は非常に厳しいということです。


この消費税25%、社会保障費3割カット案における財政再建シミュレーションの国債金利設定は次の通り(大和総研「DIR30年プロジェクト「超高齢日本の30年展望」」2013より)。

長期金利(10 年国債利回り)は、2010 年代で平均 1.5%、2020 年代で同 2.5%、2030 年代で同 2.6%と予想している。名目成長率と長期金利の関係をみると、2020 年代中頃までは成長率の方が高く、2020 年代後半以降は金利の方が高い状況を予想している。財政にとって好ましい状況が 2020 年代中頃まで長期に続くかという点には反論があるだろうが、物価上昇率 2%を目指す金融政策は超長期にわたる低金利政策を余儀なくさせ、短期金利がアンカーとなって長期金利もファンダメンタルズからいえば低い状況が続くと見込む。長期金利の推移としては、政府の債務残高 GDP 比が緩やかに上昇していく中で、 2010 年代までは 2000 年代と同程度の水準で推移した後、 デフレ脱却後の短期金利の正常化に伴って 2020 年代以降は 2~3%へ上昇すると見込んでいる

ここで財政状態の悪化に伴うプレミアムの発生で長期金利が上昇する「悪い金利の上昇」は想定していない。これは、過去の経済構造に依存するマクロモデルの特性上、そうした恣意的なシナリオを予測に反映できないためである。しかし今後も財政赤字が改善しなければ、債務残高は現在よりもはるかに高い水準に達し、いつかは財政プレミアムが金利を大きく押し上げる局面を迎えるだろう。この点、本予測は実体経済の状況のみを反映した楽観的な見通しといえるかもしれない。
……今後も財政状態の悪化が金利上昇を招かないということを何ら保証しない。現在の政府の歳出と歳入の構造を前提とすれば、多少楽観的な日本経済の姿を描いたとしても、財政収支や政府債務残高の見通しは極めて厳しいものになる。そうした状況下で財政再建や社会保障制度改革を取り組む姿勢が政府と国民に見られなければ、国債市場の参加者がリスクプレミアムを求めるようになるだろう。悪い金利上昇(国債価格の大幅な下落)が起きる可能性は決して小さくないと考えるべきである。

 


こうした問題意識に対しては、 日本国債の大半は日本国内で消化され、 外国人の保有比率が 1割以下と十分に低いので懸念する必要性は小さいという見方がある。言い換えれば、現在、日本は経常黒字国であり、経常黒字国の財政赤字はさほど深刻ではないという見方である。

この苛酷なシミュレーションでも、国債利回りがここにある設定よりも上がってしまえば、プライマリーバランスは黒字化されない。たとえば野口 悠紀雄氏の「金利上昇がもたらす、悪夢のシナリオ」における4%設定などだったらーー野口氏のやっているのは単純化されたモデルであり、実際は仮に金利が高くなっても、新規発行分と借り換え分のみに適用されるため、トータルの金利上昇はゆっくり進むーー、どう社会保障費削減しても、消費税40%にしても、プライマリーバランスは黒字にならないだろう。とすれば累積財政赤字がいっそう増えていくことになる。



2014年11月3日月曜日

「諸君、それは共産主義、“可能なる”共産主義以外の何であろう」(マルクス)

以下は社会保障給付の国際比較の図だが、やや古い(2009)が、現在も各国の比率は大きくは変わっていないだろうという前提(憶測)のもとに掲げる。


社会保障の給付と負担の現状と国際比較 厚生労働省2009


この図から、社会保障給付金の国民所得比率が西欧先進諸国に比べてひどく低いのが分かる。かつて80年代には「日本は世界で唯一成功した社会主義国家」で「格差が少ない平等な国」だなどと呼ばれたことのある日本のなんたる無惨さ! 日本の現状は、「自由主義」、「実力主義」のアングロサクソン国並である。とくに福祉(生活介護)などがひどく低レベルなのだから、ミクロ的には、公衆から文句がでるのは当たり前だ。

岩井克人は次のように言っているが(参照:「見えざる手(Invisible Hand)」と「消費税」)、日本はすでに英米型ということになる。

消費税問題は、日本経済の形を決めるビジョンの問題。北欧型=高賃金、高福祉、高生産性か。英米型=低賃金、自助努力、労働者の生産性期待せずか。日本は岐路にある。

(先進国で比較する日本の税収と構成比率)

財政赤字がとんでもないことになったのは、90年代以降、超少子高齢化社会への急激な変貌が明らかだったにもかかわらずーー「二十一世紀は灰色の世界…働かない老人がいっぱいいつまでも生きておって」渡辺美智雄1986ーー、税収が低いままに抑えられてきたのと、「失われた20年」の経済低迷、そして国民の将来への先送り気質などのせいだろう。

負担の配分をしようとする時、今生きている人たちの間でしようとしても、い ろいろ文句が出て調整できないので、まだ生まれていない、だから文句も言えない将来世代に負担を押しつけることをやってきたわけです。(池尾和人 大崎貞和)ーー野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部2011ーー二十一世紀の歴史の退行と家族、あるいは社会保障)

いずれにせよ、ここまで財政が悪化してしまえば、いまさら社会保障制度の充実といっても遅いという見解もあるだろう。だが個別に文句をいう手合いを非難する筋合いは誰にもない。たとえば生活保護費の増は避けがたい。消費税増も、たしかにミクロ的には貧困者たちに打撃を与えるに相違ないので、庶民的正義派の「左翼」や「リベラル」のように、いつまでも反対しておればよろしい。






財務省

この図にある、消費税収が平成25年(2013年)から平成26年(2014年)に10.6兆円から15.3兆円に、4.7兆円アップになっているのは、5%→8%のせいだろう。消費税1ポイントアップは、年間2.5兆円ほどの税収になるとされており(参照:日本の財政破綻シナリオ)、その数字を使うなら、2.5×3×9/12(4月からの導入)=5.62となり、やや少な目の見積もりになっている。これは消費税導入後の買い控えも考慮されているということかどうかは、ちょっと分からない。

…………

で、「左翼」のみなさんが主張するように、消費税増反対して、社会保障費給付金を今より充実させたる主張を続けたらいい。カネがどこから来るのかしらないが。

「いのちとくらし」事務局長さんのなんという素晴らしいツイート!

河添 誠@kawazoemakoto

・「消費税増税で低所得層に打撃になるのは問題だと思うけれど、今の日本の財政では云々」という人へ。前段の「低所得層への打撃」だけで、消費税増税に反対するのに十分な根拠になるはず。なぜ、財政を理由に低所得層の生活に打撃になるような増税が正当化されるのか?この問いにだれも答えない。

・「消費税増税にはさまざまな問題がありますが、財政の厳しい状況では仕方ないですね」と、「物わかりよく」言ってみせる人たち。低所得層の生活が破壊され、貧困が拡大する最大の政策が遂行されるときにすら反対しないのかね?まったく理解不能

まだ若い「ほっとプラス」代表理事さんだって負けてはいない!

藤田孝典@fujitatakanori:

・みんなが社会手当を受けたら、国の財源がなくなるという人々がいる。それはウソ。それなら欧州の国々はとっくに破綻している。

・ 財源が足りないという理由だけで、国民の生存権や社会権を剥奪していいなら、法秩序は崩壊する。



いや彼らだけがまったく理解不能の「奇矯さ」をもっているのではない、ここでご本尊のおでましを願うことにしよう。

日本共産党は、消費税増税に断固反対するとともに、消費税を増税しなくても、社会保障の拡充と財政再建のための財源をしめした「経済提言」の実現をめざしています。巨大開発などムダづかいの見直しや、大企業・大金持ちに応分の負担を求める税制改革こそ進めるべきです。国民の所得を増やして日本経済を立て直せば、税収も増やすことができます。(「赤旗」 2014年3月24日(月)

きっと民主党のかけごえばかりの宣言、《ムダの削減により16.8兆円を捻出する》などというマニフェストをしつつの数千億円しか減らせなかった軟弱ぶりではなく、実現性のある提言がなされることであろう、やはり共産党はスバラシ~イ! 

だがムダづかいを減らせるのはこの中からだけだ、じっくりみておこう。「その他」なんてぜんぶなくしちゃったらどうだい? ところで、それでも単年度の40兆円規模の財政赤字さえ埋まらないのだがどうしたもんだろう? ほかに1000兆円相当の累積赤字があってその利子支払い費だってバカにならないのだけれど。




小黒 そうですね。その視点は重要で、公務員人件費、議員の歳費の効率化に限らず、行政一般の効率化、すなわちムダの削減に終わりはなく、不断の見なおしを続けていかなければならないでしょう。実際、政府は、最近の「行政事業レビュー」という事業の見直し・効率化の取り組みをはじめ、ムダの削減を常に行っています。

しかし、多くの人がイメージするほど日本の政府支出は水ぶくれしているわけではなく、社会保障以外の政策的歳出については、すでにかなりスリム化してきているのが現状です。

 「ムダが多い」と言うのは簡単ですが、ムダと呼ばれているものが、じつは自分が日々使っている道路であったり、自分の子どもが通っている学校の先生の給料であるかもしれませんないのです。
なかには、だれの目にもムダな事業もあるでしょうが、そうした事業は金額的にはそう多くないのです。

―― たしかに、全体の割合としてはそれほど多くないというのは、逐一見ていかないとわからなかったですね。とにかく国債と社会保障が大きすぎるというのはよくわかりました。

小黒 前政権の民主党も、ムダの削減などにより16.8兆円を捻出するとマニフェストでうたいましたが、実際、ただちに壁につきあたり、鳴り物入りの事業仕分けでさえ、捻出できたのは数千億円にとどまっています。

 「節約してよ!」という気持ちはたいへんよくわかるのですが、仮に「その他」の30.9兆円の「その他」を全て削減しても、40兆円近い借金を無くすことはできません。

―― じゃあ、どうしたらいいんですか???

小黒 兆円単位で歳出を削減するためには、社会保障費に手をつけるしかないのが現状です。(小黒一正「どうして歳出減らせないの?」――30代のための財政入門【7】ーー「日本の財政破綻シナリオ」より)

さてここで敬愛すべき経済学者野口悠紀雄氏の2013年11月5日の「金利上昇がもたらす、悪夢のシナリオ」から図を付記しておこう。幸い今のところ国債の金利上昇は起こっていず、むしろ逆方向の「不可解な現象」が起こっているのは、「アベノミクスによる税収増と国債利払い増」にて見たが。


野口悠紀雄 金利上昇がもたらす、悪夢のシナリオ


2%金利なら国債利払い額だけで10年後には今のレベルの税収の半分、金利4%なってしまったら税収はすべて金利支払いとなってしまう。日本の今の国債がすぐさま4%の金利になるとは考えにくいがーー仮に金利が高くなっても、新規発行分と借り換え分のみに適用されるため、トータルの金利上昇はゆっくり進むーー、アベノミクスによりインフレが過熱してしまったり、財政破綻へのシナリオの悪循環が始まってしまえば、将来的には充分ありうる。世界の10年国債金利(2012.5)は次の通り。









さて話題を変えよう。

厚生労働省は、〈きみ〉たちの期待に沿うよう、現状投影ではなく、改善の方向で「社会保障に係る費用の将来推計について」という資料を提示しているじゃないか、メデタシ、メデタシ!


厚生労働省


2012年→2025年に社会保障費給付金が約40兆円増える推計になっている。そのうち、介護は倍増以上の11兆円。医療費だって35.1兆円→54兆円で、20兆円弱の伸び(後期高齢者が増えるという想定もあるのだろうが)、なんと5割増である。

社会保障費給付金40兆円増というのは、消費税1ポイントが、約2.5兆円だから、13年間で消費税16%相当のカネが必要なことになる。きっとアベノミクスの成功で、税収がバブル期ほどまでに増え、消費税増などしなくてもまかなえるという想定なんだろう、「左翼」のみなさんは。いやいや、上の一般会計税収の推移のグラフによれば、バブル期の最高税収は60兆円ほどだから、その最高時の税収でも足りないわけで、すなわちバブル期以上の税収を期待され、消費税増反対を唱えられるのかもしれない。

ところで毎年1%労働人口が減っていく国でどうやって目覚しい経済成長するんだろ? 共産党は移民反対だったな。とすれば、女性が輝く社会!、女性労働力のいっそうの拡充を! ってヤツだろ?


アベノミクスによる税収増と国債利払い増


あまりにも無責任だって? 元日銀理事の早川英男氏の「戯言」などほうっておけばよろしい、責任あふれる「左翼」のみなさんにとっては!

で、こういうことを書いて何がいいたいわけでもない。

ただ、最近ようやくわかって来たのは、「左翼」のみなさんは財政破綻を無意識的に願っていて、旧ソ連の崩壊後のように、平均寿命が急激に低下して、少子高齢化が革命的に是正されることではないか、ーーなどという錯覚にわたくしは閉じ篭りがちなことだ。ああ、なんというハシタナイ錯覚! 彼らはそんな冷酷でも無責任でもない人種にきまっている! とすればただの経済音痴のマヌケなのだろうか……いやマヌケなどと呼ぶシツレイなことをわたくしはけっして書かないタイプである、ただひどく近視眼な人たちなだけであろう、そして近視眼はかならずしも悪いことではない。

《偉大な映画作家は、やはりみんな近眼なのだ。フォードも、フィリッツ・ラングも、そしてあなたも(笑)》(蓮實重彦 ヴェンダースとの対話『光をめぐって』所収)。そして、ゴダール、アンゲロプロス、ビクトル・エリセ……偉大なる日本の庶民派「左翼」も!

しかもラカンを変奏させれば、最も近視眼なひとは最も遠方を見ることができるのかもしれない。

《要するに、私たちのもっとも近くにあるものが、私たちのまったくの外部にあるのです。ここで問題となっていることを示すために「外密extime」という語を使うべきでしょう。》(Lacan S16)

共産党のお方のヒドイ近視眼は反転して、理論経済学者たちのほどよい遠方とは訳が違う「至高」の遠方を垣間見ることさえできるのではないか?


高齢化社会対策の劇薬


劇薬服用するのがイヤだったら、大和総研の「DIR30年プロジェクト「超高齢日本の30年展望」」(2013)によれば、消費税欧州諸国並にして、社会保障費を3割程度削減するしか他に道がないらしい。総額3割だったら、生活保護費はどうしても増すとするとしたら、年金や医療費は3割以上カットということになる。

だが、これだって高齢者どうやって生活するんだろ? 家族のあり方変えなくちゃいけないんだろうな。きっと真摯な「左翼」のみなさんがすでに、その近視眼を「遠近法的に倒錯」させて考えてくださっておられるだろう。彼らはヴェンダースやラカン的だけでなく、スピノザ的でもあるのだ!

社会保障制度全体の財源に占める公費負担割合を現在のまま一定とする前提で試算すると、代替率 82.4%を維持した場合、 2030 年頃でも 20%程度の消費税率でないと中央・地方政府の基礎的財政収支は均衡せず 、 社会保険料率は現在の 1.5 倍必要になる。 さらに、その状況を 2050 年頃まで延伸すると消費税率は 25%を超え、 社会保険料率は現在の約 2 倍となる。 これは、 現在 40%に満たない国民負担率51を 70%超に引き上げるということに相当する (なお 2011 年度の財政赤字を含む潜在的国民負担率は 48.6%)。代表的な福祉国家であるスウェーデンの現在の国民負担率が 62.5%(2009 年、潜在的国民負担率は 63.9%)であることなどに照らして、国民負担率 70%への道を辿るということは、日本の国家像や国民意識という点で考えにくいのではないか。

しかも、ここで消費税率 25%とは、かなり控えめにみた税率である。①医療や介護の物価は一般物価よりも上昇率が高いこと、②医療の高度化によって医療需要は実質的に拡大するトレンドを持つこと、③介護サービスの供給不足を解消するために介護報酬の引上げが求められる可能性が高いこと、④高い消費税率になれば軽減税率が導入される可能性があること、⑤社会保険料の増嵩を少しでも避けるために財源を保険料から税にシフトさせる公算が大きいこと――などの諸点を考慮すると、消費税率は早い段階でゆうに 30%を超えることになるだろう。

では、 代替率を抑制していけばどうだろうか。(……) 代替率を 1割抑制する程度では大きな効果は得られない。 だが、 代替率を現在から 3 割程度抑制できれば、状況はかなり違ってくる。年金・高齢者医療・介護に関する賃金で測った実質給付を今より 3割減らして平均代替率を 57.7%とすれば、 2030 年頃までは消費税率を 10%台半ばに抑制し、 2050年時点でも消費税率を代替率一定ケースの約 7 割に抑制できる。上で述べた①~⑤の要因を考えると、代替率 3 割引下げとは、今後の 30 年程度をかけて現在の大陸欧州並みの付加価値税率を目指していくシナリオといえよう。代替率 3 割の引下げは、現在の年金水準の高さや高齢者医療の自己負担割合の低さなどを考えると、実現不可能ではないと考えられる。


年金給付額は、物価スライド制やめて、消費税増スライドやめて、そして2%の経済成長によるインフレとなったら、実質は3割減ではなく、半額近くになっていく筈。そのときこそ共産党の真の提言のお出ましだ! 新しいアソシエーション、新しい家族! 未来は彼らの提言にかかっている!

もし連合した協同組合組織諸団体(uninted co-operative societies)が共同のプランにもとづいて全国的生産を調整し、かくてそれを諸団体のコントロールの下におき、資本制生産の宿命である不断の無政府主と周期的変動を終えさせるとすれば、諸君、それは共産主義、“可能なる”共産主義以外の何であろう。(マルクス『フランスの内乱』)


実際、たとえば2016年より? は無理か、では2017年正月より毎年2%消費税増、2020年代半ばまでに徐々に社会保障費給付金3割カット、経済成長2%継続、そしてその間に国債金利が上昇しないことを神さまに祈るーー祈るのは神さまじゃなくマルクスやレーニンでもいいさ--このくらいしかないんじゃあないですか? 真のラディカル共産党さんよ、(そんな人はいないのは分かってるがね)、あなたたちの偉大なる「「経済提言」は? さて、どうでしょう? そこに新たなる「家族」案が入ってたら、それが真のマルクス的な提言じゃあないかしら?







アベノミクスによる税収増と国債利払い増

まず「アベノミクス2年目の課題」(富士通総研 早川英男 2014.3.11)より。








元日銀理事である早川英男氏は、今年の5月2日にもこう語っている。


「物価だけに限って言えば、日銀の勝ちだ」と述べ、既に完全雇用であり、人手不足による賃金上昇が今後起きて、物価は来年度の終わりころには2%には近づいてくると予想した。同時に日銀は潜在成長率の低下という不都合な真実から目を背けているとも語った。(……)

 


足元0.6%前後で低位安定している長期金利 について早川氏は「国債市場は物価がいつまで経っても2%に届かない、従って日銀がいつまでも国債を買ってくれるという前提で取引をしている」と語った。

 


その上で今年度末は無理にしても物価は2%にだんだん近づいてくるとして「そうなると、日銀はいずれ国債を買ってくれなくなる。その日が近づいている。国債市場だけでなく、日銀も完全にモラルハザードに陥っていて、国債の暴落は起こらないと思っているが、それは起こる」と予測した。(国債暴落必至、日銀の「不都合な真実」潜在成長率低下で-早川氏  2014.5.7)


国債の暴落、急激なインフレが起こる予兆さえないのは「不可解な現象」であるという疑念が、『「財政破綻後の日本経済の姿」に関する研究会』においても主要な議題であるのを少し前みた。

日本の深刻な財政危機状態や2%の物価上昇率を目標に掲げる日銀の歴史的な積極的金融緩和策が続行されるなか、8月末時点の長期債の最終利回りは0.5%を下回っている。ある意味、不可解な現象である。われわれは過去2年間「現状の日本でなぜ国債価格の大幅下落、急激なインフレを伴う「財政破綻」は現実化しない、その予兆も見えないのはなぜか・・・?」という問題意識を抱き、研究会を続けてきた。そして過去数回の研究会では、日本の国債価格の形成メカニズム、とりわけ投資家の期待形成メカニズムや資産選択行動を解明する糸口を求めて関連するファイナンス研究について見てきた。(「日本の財政は破綻する」などと言っている悠長な状況ではない?

ーーやっぱり不思議だぜ。そろそろあるんじゃないか? で、どうしたらいいんだろって? タンス外貨預金に決まってるだろ。まともな経済学者や政治家、財務省やら日銀の首脳はもうとっくの昔に準備してるさ。銀行封鎖もあるしな、大事なのはタンス「外貨」預金だぜ、それに田舎に農地なんかあったら、ハイパーインフレでボロ儲けできるかもな、ーーなどと書くほど、経済のことに詳しくなく、一年に何度か訪れる「日本の財政」への散発的な関心からの臆断ではあるに過ぎないのは蛇足ながら断わっておかなくちゃな。

ジャン=ピエール・デュピュイは、《たとえ知識があろうとも、それだけでは誰にも行動を促すことはできない》と言う。なぜなら《私たちは自分の知識が導く当然の帰結を、自分で思い描けないから》と。

で、どうしたらいいのかと言えば、「地獄郷dystopia」、「未来の固定点」からの倒錯的遠近法であり、これがデュピュイの主張する「プロジェクトの時間」、あるいはフレドリック・ジェイムソンのいう「現在へのノスタルジア」的なパースペクティヴということになる。

で、現在に、《「これこれをしておいたら、いま陥っているーー未来の「今」陥ってるーー破局は起こらなかっただろうに!」)を挿入すること》が肝要らしいな。(参照

…………

税収増と利払い増のかねあいが、ここ数年来、経済専門家たちの議論の種になってきた。要するに、アベノミクス(リフレ政策)によって、税収増以上に国債の利払い増となってしまうのではないか、という懸念をもつ慎重派がリフレ政策を嫌った大きな理由だっただろう。

前投稿では、アベノミクスが仮に成功しても、かつまた消費税大幅増施策を打っても、社会保障費削減に手をつけなければ、なんともならない、という経済学者たちの見解をメモした。以下も、前投稿「日本の財政破綻シナリオ」と同じくメモに終始する。

財務省は、狭い自分の領域でしか物事を考えていません。たとえば、国債の名目金利が低ければ利払い費が少なくて済みます。利払い費が少なければ安心だと考えます。そして、利払い費を少なくするためには、デフレのほうがいいと考えるため、財務省はデフレを好む傾向があります。しかし、デフレが続いて、国債の名目金利が低いにもかかわらず、毎年財政が悪化していることを、財務省はどう説明するのでしょうか。(岩田規久男『リフレは正しい:アベノミクスで復活する日本経済』)
──異次元緩和後の金利動向をどうみているか。

「金利に対しては2つの違う働きの効果が働いている。国債を大量に買い入れたため、名目金利やリスクプレミアムは下がる。一方、予想インフレ率が上がることで名目金利が上昇する要素もある。金融政策の結果、予想インフレ率が上昇し、実質金利が下がっているかどうかが一番大事だ。そうでなければ株や為替、実体経済に対する影響が出てこない。(現在の実質金利は)BEIでみるとマイナスだ」(岩田日銀副総裁インタビューの一問一答 2103.6.24)

ここで、「アベノミクスと日本経済の形を決めるビジョン」から再掲してみよう。


◆インタビュー:利払い負担で資金繰り苦しく、財政不安定化も=池尾教授(2013.4.12)

「日銀が大量の国債を買い取ることで、これまで民間部門が保有していた国債が減るために、国債の需給が引き締まり、長期国債の利回りは低下する要因となるはず。一方で他の資産市場にシフトして国債市場から離脱する市場参加者の方が多ければ、かえって需給が緩み、結局利回りは下がらない。何らかのストレスが市場に発生することで、財政に伝播してしまうリスクや、金利上昇の際のリスクが大きくなったともいえる」と不安を示す。

ただし「何が起こるかは、民間金融機関の行動次第だ。買えるだけの国債は買った上で買えない部分だけ外債投資に移すのか、あるいは、国債市場から離脱して他の投資先を本格的に求めていくのかによって、生じる結果も変わる。確定的なことはわからない」として、今後の市場の動きを見極める必要性を指摘する。

さらに大きなリスクとみているのは、デフレから脱却して景気が回復すれば、金利が上昇し、利払い負担が膨らむこと。「これまでは、デフレのもとで財政が奇妙な安定を保ってきたが、デフレから脱却して金利が上昇すると、財政の安定が崩れるというリスクがある。その際、成長率上昇による税収増と利払い費の比較になる。税収に比べて利払いが大きくなっているので、成長率が1%上がった場合、金利も1%上がると、税収増より利払い増が大きくなり、資金繰りが苦しくなる」というものだ。

そのうえで、デフレ脱却を目指す以上、財政リスクへの備えが欠かせないと指摘。「これだけの公的債務を抱えている国の首相が、金利上昇方向の政策を推進し、大胆な緩和策をとる以上は、それに見合った財政のコンティンジェンシープランが必要だ」と強調する。

後半箇所の「大きなリスク」をめぐっては、池尾氏は、アベノミクス以前、リフレ談義が巷間で賑わったころより(あるいはそれ以前から)、再三同じようなことを主張し続けている(参照:「財政破綻」、「ハイパーインフレ」関連)。

ここでは野村総研の大崎貞和氏との対談(「経済再生 の鍵は 不確実性の解消 」 野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部 ©2011 Nomura Research Institute, Ltd. )よりひとつだけ抜き出しておく。http://www.nri.co.jp/opinion/kinyu_itf/2011/pdf/itf_201111_2.pdf


デフレから脱却しなければいけないのだけれども、そのプロセスについてはかなり慎重に考えなければいけません。

インフレになれば債務者が得をして債権者が損をするという感覚があります。しかしそれは、例えば年収と住宅ローンのように、所得1に対して抱えている負債がせいぜい2、3ぐらいのときの話です。

日本の置かれている状況は、 一般会計の税収40兆円ぐらいに対し、 グロスで1,000兆円ぐらいの政府債務があるわけです。 そうすると、 1対25です。 景気がよくなって税収が増えたとしても、 利払いの増加のほうがその上をいく構造になっています。 ですから、 景気が好転するときが一番用心すべきときになります。

デフレ脱却を叫ぶのであれば、デフレを脱却しても困らない体制をつくる必要があります。所得税の累進構造をもう少し高めるのも一つですし、景気が回復に向かった際、ある種の増税措置を速やかに発動できる体制をつくるのも一つです。要するに、そこまで日本の財政問題は困難化しているわけです。

やはり政治にちゃんと機能してもらわないと絶対よくなりません。財務省や日本銀行に責任を丸投げしている場合ではありません。

国債利払い、21年度20兆円に倍増 財務省試算 (2012/1/30)

財務省は30日、2012年度予算案をもとに歳出と歳入の見通しを推計して公表した。消費税率を15年10月に10%に引き上げても国債残高は21年度末に1000兆円を超えるまで増え続け、21年度の国債の利払い費は20兆円へと倍増する見込みだ。先進国で日本の債務残高が突出している状態は変わらず、社会保障費の抑制など歳出削減が急務であることが改めてわかった。

 財務省が公表したのは「後年度影響試算」。消費税率を14年4月に8%に、15年10月に10%に引き上げることを盛り込んだ初めての試算になる。

 消費増税しても国債の残高が膨らむのは、全体の税収が増えても、社会保障の拡充やそれまでに発行した国債の元利払いが税収増より大きいためだ。このため新規国債の発行額も減らない。過去に発行した国債の利払いのために新たな国債を発行する悪循環を断ち切れない構図だ。

残高1000兆円超

 試算によると、国債残高(復興債を除く)は12年度末の696兆円から21年度末には311兆円増の1007兆円に達する見通し。利払い費も12年度の10兆円から21年度には20.7兆円にまで増える。経済成長率は1%台半ば、長期金利(新発10年物国債利回り)は現在より高い2%程度と仮定している。

 消費税率を5%上げるのに伴って税収は15年度には12年度よりも約10.5兆円増える。これにより税外収入なども含めた収入は15年度に56兆円に増える。

 ところが社会保障費や地方交付税など政策的な経費は12年度の68.4兆円から15年度には73.9兆円まで増える。国債も毎年40兆円以上の新規発行で残高が積み上がるため、利払い費に国債の償還費などを足した国債費は12年度の21.9兆円から、15年度には27.5兆円に増えることになる。

 税収で政策的経費が賄えるかを示す基礎的財政収支は、12年度の22.3兆円の赤字が15年度に18.2兆円の赤字に縮小する。だが国債残高が増え続けるため、財政再建が急進展するとはいえない。


◆「日本の財政赤字の維持可能性」(深尾光洋 RIETI Discussion Paper Series 2012 年 6 )より。
消費税を 25%まで引き上げても、金利が少し上昇すれば、政府債務は増加を続けてしまう。例えば政府の平均借入金利が 2016 年の 1.5%から 21 年に 2.5%まで毎年 0.2 ポイント上昇を続けるケースを見たのが図表16である。この場合には、プライマリーバランスの3.4%の黒字では、利払い負担の GDP 比 4.6%をカバーしきれず、負債 GPP 比率は上昇を続ける。このように、政府債務が巨額になると、小幅の金利上昇でも政府債務は安定化できなくなってしまう。





…………

以下、うっかりすると間違えてしまう考え方への指摘(池尾和人氏から高橋洋一氏への質問)を附記しておく。元財務官僚の高橋洋一氏でさえこうなのだから、ネットなどでもっともらしく語られる話はさらにヒドイ、--嘲笑する気にもならない(オレの最近の記事も含めてな、と書いておかなくちゃな)。



経済成長は、大切である。しかし、実質的な成長でなければ意味が乏しく、インフレの高進で名目的に成長率が高まっただけだと、日本経済の抱える問題の解決に資することにはならず、逆に問題を悪化させる恐れすらある。例えば、インフレ率の上昇を反映して名目成長率と名目利子率が同率で上昇したとすると、日本の財政収支はむしろ悪化する可能性がある。それは、これだけ膨大な公的債務残高を抱えている状況下では、税収の増加を利払い費の増加が上回ると考えられるからである。


こうした点は、私自身も以前に述べたことがある(「デフレ脱却は信頼できる確約か」)が、高橋洋一氏は、こうした主張をする者に「財政破綻論者」というレッテルを貼った上で、そうした主張がインチキであるかのように論じている。しかし、私には高橋氏の主張の方にむしろ論理的な陥穽があるように思われる。こういうときには、本人にまず聞いてみた方がよいと思うので、次のような私信を送ってみた。


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高橋 洋一 様

前略

ご無沙汰しています。ちょっと質問です。

ダイヤモンド・オンラインの記事の中で、

 この数字にはトリックがある。国債残高は600兆円として、もしすべて1年債であったなら、金利が1%とすると次の年に6兆円増加して、その後は増えない。実際には1年より長期の国債もあるので、徐々に上がり数年経って6兆円まで上がるが、その後は増えない。

 ところが、名目成長が1%アップすると、時間が経過すればするほど税収は大きくなる。数年経つと6兆円以上増える。財務省の資料は、3年までしか計算せずに利払費が税収より大きいところだけしか見せないのだ。

と書かれています。

同じ趣旨のことは、『経済セミナー』20101011月号での宮崎哲弥氏との対談の中でも述べられていて、それを読んだときに疑問に思ったのですが、再び繰り返されているので、質問します。

上記の議論では、国債残高は600兆円のままで一定で、ずっと変わらないことになっていて、GDP(それゆえ税収)だけが成長することになっていると読めます。それだと、国債残高の対GDP比率は時間の経過とともに低下していくことになります。換言すると、上の主張は、現時点で財政収支の均衡を達成できていれば、という仮定がないと成立しないものではないですか?

しかし、日本の現状は、ご承知の通り、国債残高の対GDP比率はいまなお増加の一途にあります。かりに国債残高の対GDP比率を一定にもっていけたとしても、翌年以降の国債残高は増え、時間が経過すればするほど利払い費も大きくなっていくはずです。それゆえ、税収だけではなく、利払い費の方もやはり複利で考えなければならないと思いますが、いかがでしょう?

私が何か勘違いしていますか?

草々

池尾 和人(慶應義塾大学経済学部)

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(……)

なお、もちろん「公債残高が増えないとすれば、いずれ税収増が利払い増を上回る」、あるいは「当初時点で存在していた公債残高分に限れば、いずれ税収増がその分に関する利払い増を上回る」という主張は、論理的には間違っていない。しかし同時に、現実的な関連性に乏しい無意味な話に過ぎない。

実際には、公債残高は増え続けると見込まれるのであるから、問われるべきは、その時点で存在している公債残高に関する利払い費の推移と税収増の関係である。しかし、これをかなり先の時点についてまで計算しようとすると、名目成長率と名目利子率が同率で上昇したときに基礎的財政収支にどのような影響があるか等について想定を置く必要があり、その想定次第で結果は幅をもったものとなる。



高橋洋一氏からの返信

高橋洋一氏から返信をもらった。以下、主要部分を引用する。

なお、引用に際しては、再返信で「いただいた返信の内容をブログ記事の中で引用(公開)して、構わないでしょうか? もし支障があるようでしたら、お手数ですが、早めにお知らせ下さい。」と断りを入れておいたが、別にプライベイトなことを話しているわけではないので、問題はないはずだと考える。
ご質問の件ですが、
成長率が上がると、プライマリー収支が改善することを前提にしています。
すると、高い成長率の場合、債務残高対GDP比を減少させることも可能です。(金利>成長率でも、成長率を高くしてプライマリー収支黒字にすればそうなります)
その場合、文章は少し修正して、同じ論法が適用できると考えています。
少し単純化しすぎた文章だと思いました。

これには、私が勘違いしているという指摘はないし、「少し修正して」、「少し単純化しすぎた文章だと思いました」という形でミスリーディングである点が認められている。それゆえ、今回の件はこれで良いと思う(もっとも、乏しい根拠だけでトリックだ、マジックだと決めつけられた財務省はたまったものではないだろうが...)。

ただし、読者一般の参考のために、若干の補足的な指摘をしておきたい。

先に取り上げたダイヤモンド・オンラインの記事では、1%の名目成長率と名目利子率の同時上昇が想定されていた。前の『経済セミナー』の記事でも、2%である。1~2%くらい成長率が高まったくらいで、現在足下では対GDP比で6%もの赤字になっている基礎的財政(プライマリー)収支が黒字化すると考える者はさすがにいないと思う。

簡単な計算から、
t1

であることが確認できる。したがって、公的債務残高の対GDP比の上昇が止まるための条件は、


になる。目の子算でいうと、現状、利子率と成長率の差は1%程度あり、公債残高の対GDP比は2倍に達しているので、基礎的財政収支が対GDP比で2%の黒字になることが必要な条件になる。

いくらなんでも、1~2%程度の名目成長率の上昇で、-6%から+2%へ計8%の基礎的財政収支の改善が起こるということはあり得ない(名目成長率と名目利子率が同率で上昇するケースを考えているので、利子率と成長率の差は変わらない)。そうしたことが起これば、それこそがマジックである。

しかも、公的債務残高の対GDP比が一定では、税収だけが複利計算で増え、利払い費は一定ということにはならない。ともに複利で増えることになる。論法を成り立たせるために想定されていたのは、公的債務残高の絶対的な値そのものが変わらない(増えない)ということである。そのための条件は、さらにきつい




2014年11月2日日曜日

日本の財政破綻シナリオ

以下、日本の財政のことがよく分かっていないもののメモである。



…………

■消費増税では日本の財政は救えない(小黒一正氏(法政大学経済学部准教授) マル激トーク・オン・ディマンド 第677

そもそも何のための増税なのだろうか。

 4月1日から消費税率が8%に引き上げられた。僅か3%ポイントというが、6割の増税である。

 今回の増税の大義名分は「日本の社会保障を守るための安定的な財源確保」とされ、社会保障の膨張で危機的な状況にある日本の財政を再建するためには、どうしても消費増税が不可欠であると説明されている。われわれの年金や医療保険を守るためにはやむを得ないと考え、厳しい経済状況の下で増税の苦難を甘受している人も多いにちがいない。

 しかし、法政大学准教授で財政問題に詳しいゲストの小黒一正氏は、今回の消費増税では財政再建は達成できないし、社会保障も守れないと断言する。

 仮に日本がアベノミクスでデフレから脱却し成長軌道に乗ることができたとしても、現在の日本の財政構造は社会保障関連の義務的経費が、増税による税収の増額分を上回るペースで増えているため、今回程度の増税では到底財政再建など夢のまた夢だというのだ。

 小黒氏によると消費税を1%上げるごとに2.7兆円程度の増収が見込まれる。しかし、少子高齢化が進む中、社会保障関連費は毎年3兆円ペースで増え続けている消費税1%の増収分はわずか1年で相殺されてしまう計算になる。今回は3%の増税だから、3年ほどで食いつぶす計算になるが、これでは社会保障関連費を賄うだけのために、3年後から毎年1%ずつ消費税を上げないと追いつかないことになる。しかも1%の増税では、辛うじて社会保障関係費の増加分を補うだけで、予算全体の不足分を解消して、貯まっている借金の元本を減らすなどとても無理な状況だ。

 現在でも日本の一般会計予算が、50兆円規模の赤字で辛うじて運営されていることを考えると、仮に日本のGDP総額約500兆円が年2%ずつ成長して税収が増えたとしても、公債依存度50%、累積債務残高1,000兆円以上という惨憺たる財政の現状は全く変わらないことになる。アベノミクスでデフレから脱却し経済が成長軌道に乗れば、日本にも明るい未来への道筋が開けてくるかのような話が流布されているが、それは全くの誤解であり、安倍首相がどんなに力説しようが、また日本経済がどんなに成長軌道に乗ろうが、今後消費税は上げつつけなければならないというのが実情だと、小黒氏は言う。

 それでは、日本が財政破綻を避けるためには、一体どこまで消費税を上げないといけないのか。小黒氏は、現在の財政構造では、毎年の歳入と歳出を同じ規模にして赤字を無くすという最低限の現状維持だけでも、「25%から30%の消費税が必要になるだろう」と試算する。しかもこれだけ消費税を上げても累積債務1,000兆円のうち、その利払いをかろうじてカバーするだけで、元本は丸々残ったままなのだ。

 財政を再建するには、税収を増やして歳出を抑える以外に有効な手立てはない。しかも、ここまで財政状況が悪化したら、5年、10年ではなく、20年、50年の時間をかけて改善していくほかない。数パーセントの消費税率の引き上げや成長戦略だけでは全く焼け石に水だ。まずは年金や医療を含む社会保障制度を抜本的に見直すなどして、歳出を大幅に削減することが急務だが、今の政府にそれを実行する意欲も能力も、そしてその気概も、とても期待できそうにない。また、そもそも国民にその痛みを受け入れられる用意があるとも到底思えない。

ここで語られているのはまず、単年度「50兆円規模の財政赤字」を消費税だけ赤字をチャラにするためには、「25%から30%の消費税が必要になる」ということであり、これは単純計算してもそうなる。

小黒氏によれば「消費税を1%上げるごとに2.7兆円程度の増収が見込まれる」とあるが、計算しやすいように、消費税1%が2.5兆円だとしよう。とすれば50兆円の赤字は、20%の消費税に相当する。すなわち現在の消費税率に20%上乗せして「25%から30%の消費税が必要になる」ということだ。

ただし「社会保障関連費は毎年3兆円ペースで増え続けている」のであるなら、もしこの費用の見直し(削減)がなければ、これ以外に毎年1%強の消費税増が必要ということになる。

そしてもうひとつ、単年度の財政赤字をチャラにしても「累積債務残高1,000兆円以上」は残ったまま」とある。この金利支払額が9兆円程度なのだが、これがたとえば倍増したらどうなるのか。すなわち9兆円相当の消費税4%弱をさらに上げなければならない。とすれば、社会保障関連費によるアップもふくめ、消費税40%達成なり、--というのは計算上は冗談ではない(経済成長による税収増は考慮外ではある)。

元財務次官、元日銀副総裁、現東京オリンピック競技大会組織委員会の事務総長でもある武藤敏郎氏が取り仕切った大和総研のDIR30年プロジェクト「超高齢日本の30年展望」2013のシミュレーションにはこうある。

……ここで消費税率25%とは、かなり控えめにみた税率である。①医療や介護の物価は一般物価よりも上昇率が高いこと、②医療の高度化によって医療需要は実質的に拡大するトレンドを持つこと、③介護サービスの供給不足を解消するために介護報酬の引上げが求められる可能性が高いこと、④高い消費税率になれば軽減税率が導入される可能性があること、⑤社会保険料の増嵩を少しでも避けるために財源を保険料から税にシフトさせる公算が大きいこと――などの諸点を考慮すると、消費税率は早い段階でゆうに30%を超えることになるだろう。

もっともアベノミクスでインフレになっても、実は国債の金利水準がすぐさま連動して変わっていくわけではない。これについては、吉野充巨という方が説明される記事を参照しておくことにしよう。

明日、国債金利が上昇しても、1,000兆円全体に高い金利が適用されるのではありません。新規発行分と借り換え分のみです。現在発行されている国債のトータルの償還年限は8年です。従って理論的には、利払いが元々の国債が残る為、全体にかかる金利は徐々に上がってまいります。

ところで、小黒一正氏はこんなことも語っているようだ。

アベノミクスが失敗したほうが日本にとって被害は少ない(2013年6月11日)

日銀の黒田総裁が国債の大量購入を公式発表した翌日の4月5日から、利益を追求する海外の投資家たちは売りに転じた。結果、長期国債の金利は高騰。それは国と地方自治体が抱える借金の利払い費がふくれ上がることを意味し、日本は財政破綻へと突き進むという声も出始めている。

しかし、同時に経済成長を達成できれば、長期金利が上昇しても税収が増える分、それほど財政の負担になることはないのではないだろうか。元財務省のキャリア官僚で、現在は法政大学経済学部准教授の小黒(おぐろ)一正氏が解説する。

「昨年の国の税収入は約35兆円です。バブルの絶頂期でさえ、約60兆円ほどでした。それに対し、国と地方が抱える借金の合計額は1000兆円以上です(国の公債残高に地方自治体の借金額を加えると、1000兆円を軽く超える)。物価と金利は基本的に連動するので、アベノミクスが目指す2%のインフレ率に合わせて金利も2%になると、単純計算で日本の利払い費は数年で20兆円にもなる。ここに国債の償還費も10兆円以上加わります」

もし経済成長が頓挫すれば、日本は借金の利払い費と国債の償還費だけで、30兆円以上もの歳出が必要となる。しかも、必要なお金はこれだけではない。

「さらに、社会保障費の公費負担額は約40兆円で、これは毎年約1兆円ずつ増加していく。つまり借金の返済費と社会保障費だけで70兆円を超え、バブル期の税収入を大きく上回ってしまうのです。このギャップを経済成長で埋めて財政赤字を解消できる可能性は、極めて低いと言わざるを得ません」(小黒准教授)

長期国債金利は国の信用度が大きく影響する。このまま財政赤字が悪化すれば、長期国債金利が暴騰するリスクが高まるのだ。借金を1000兆円とすると、金利がたった0.1%上昇しただけで利払い費が1兆円も増えるのだ。もし金利が3%を超えたら……、想像しただけで背筋が凍る。

結局のところ、アベノミクスが成功すると、財政赤字が埋まらない程度の微妙な経済成長を得る代わりに、財政にトドメを刺すような金利上昇がついてくるのだ。逆に失敗すると、経済成長も物価上昇も起こらないが、金利も上がらないで済む。差し引きすると、アベノミクスが失敗したほうが日本にとって被害が少ないという計算が成り立つのだ。

どちらにせよ、アベノミクスはもう始まってしまった。今はまだ入り口付近にいるが、金融緩和は出口こそが難しいのだと前出の小黒准教授は警告する。

「金融緩和の際に日銀は大量の国債を買いますが、引き締めのときは国債を売るわけではありません。大量の国債を売れば国債の価格が下落し、金利が上昇してしまうからです。急に国債の購入をストップする場合も、国債の需給が急変し、長期金利は上昇してしまうので、ソフトランディングさせるためには出口のプロセスになっても国債の購入量を徐々に減らしながら買い続けなければならないのです」

黒田日銀と安倍政権にそんな繊細なコントロールが可能なのか。日本経済の先行きに不安は尽きない。

これは日銀首脳もかねてより怖れていることで、「アベノミクスの博打」(浅田彰)といわれる所以でもある。《黒田東彦総裁はことあるごとに、日銀の長期国債買い入れが長期金利に強い下方圧力を加えていると述べている。》(日銀は長期金利急騰を懸念  2014.4.25 ブルームバーグ)

──異次元緩和後の金利動向をどうみているか。

「金利に対しては2つの違う働きの効果が働いている。国債を大量に買い入れたため、名目金利やリスクプレミアムは下がる。一方、予想インフレ率が上がることで名目金利が上昇する要素もある。金融政策の結果、予想インフレ率が上昇し、実質金利が下がっているかどうかが一番大事だ。そうでなければ株や為替、実体経済に対する影響が出てこない。(現在の実質金利は)BEIでみるとマイナスだ」(岩田日銀副総裁インタビューの一問一答 2013年 06月 24日)

さて小黒氏の上掲の文に戻れば、《社会保障費の公費負担額は約40兆円で、これは毎年約1兆円ずつ増加していく》とあり、冒頭に掲げた記事には、《社会保障関連費は毎年3兆円ペースで増え続けている》とある。このあたりはわたくしはよく分っていないのだが(いまは敢えてさらに調べてみることはしない)、一般会計と特別会計の絡みもあるのだろうか。今は下記の文を貼付しておくだけにする。



―― 8兆円程度、消費税で収入が増えるといっても、その何十倍もの借金があったんですね……。

家計だったら、少しくらい給料が上がっても、借金が減らないのであれば家計を切り詰めようと思いますが、報道では「今年の予算は95兆円超で過去最大」などと出てますね。 どうしてここまで膨らんでしまったんですか?

小黒 一言でいうならば、急速な高齢化で、社会保障(年金・医療・介護)の予算が急増しているからですが、それはまだ序の口です。

というのは、2025年には団塊の世代のすべてが75歳以上になるからです。その結果、2000年時には900万人に過ぎなかった後期高齢者(75歳以上)が2025年には2000万人に達し、医療・介護ニーズが急増します。医療・介護のコストは前期高齢者(60~74歳)よりも後期高齢者の方がずっと高いですから。

その点で、これまでは、ずっと一般会計の話をしていますけど、じつは国の予算は95兆円じゃないんですよ。

―― えっ!?

小黒国の予算には、「一般会計予算」だけでなく、「特別会計予算」があります。特別会計では、年金特別会計や労働保険特別会計などが有名ですね。さらに、国の予算ではありませんが「政府関係機関予算」といって、日本政策金融公庫など資本金が全額政府出資で設立された4つの法人(注1)の関連予算は、国会の議決が必要です。 今年度予算でいうと、95兆円というのは「一般会計予算」の額で、「特別会計予算」は約400兆円、政府関連予算は約2兆円です。

―― え! じゃあ足して500兆円くらいですか?

小黒 それがそうじゃないんです。 3種類の予算は互いに独立しているわけではなくて、相互に様々な財源の繰り入れが行われているんです。したがって、3種類の予算を単純に合計したものが国の予算規模というわけではないんですよ。実質的な国の予算規模は、ここ数年でいうとだいたい220~240兆円くらいです。

■「どうして歳出減らせないの?






小黒 Bの「社会保障関係費」というのは、年金・医療・介護・生活保護などの費用です。上の図表は、国の予算のみですが、地方公共団体の予算も含めると、社会保障費は約110兆円に達しています。

これを「社会保障給付費」といい、内訳は年金が約50兆円、医療が約35兆円、介護が約9兆円です。年金や医療・介護は高齢者の数が増えると増加する予算であり、社会保障給付費は減らせないどころか、ここ10年間、年平均で2.6兆円のペースで増え続けています。


■文教費、国防費、公共事業費を全部削ってもまだ借金返せない!

―― あと「その他」のなかにさらに「その他の事項経費」7.3兆円とありますが、このあたりは、中身がわからないのでちょっとモヤモヤしていますね。今年の秋にはさらに2%消費税を上げる決定が行われるともっぱらのウワサですよね。こまごま節約を積み上げたら1兆円、2兆円くらいなら減らせないのかと、庶民としてはどうしても思ってしまいます。

小黒 そうですね。その視点は重要で、公務員人件費、議員の歳費の効率化に限らず、行政一般の効率化、すなわちムダの削減に終わりはなく、不断の見なおしを続けていかなければならないでしょう。実際、政府は、最近の「行政事業レビュー」という事業の見直し・効率化の取り組みをはじめ、ムダの削減を常に行っています。

しかし、多くの人がイメージするほど日本の政府支出は水ぶくれしているわけではなく、社会保障以外の政策的歳出については、すでにかなりスリム化してきているのが現状です。

 「ムダが多い」と言うのは簡単ですが、ムダと呼ばれているものが、じつは自分が日々使っている道路であったり、自分の子どもが通っている学校の先生の給料であるかもしれませんないのです。
なかには、だれの目にもムダな事業もあるでしょうが、そうした事業は金額的にはそう多くないのです。

―― たしかに、全体の割合としてはそれほど多くないというのは、逐一見ていかないとわからなかったですね。とにかく国債と社会保障が大きすぎるというのはよくわかりました。

小黒 前政権の民主党も、ムダの削減などにより16.8兆円を捻出するとマニフェストでうたいましたが、実際、ただちに壁につきあたり、鳴り物入りの事業仕分けでさえ、捻出できたのは数千億円にとどまっています。

 「節約してよ!」という気持ちはたいへんよくわかるのですが、仮に「その他」の30.9兆円の「その他」を全て削減しても、40兆円近い借金を無くすことはできません。

―― じゃあ、どうしたらいいんですか???

小黒 兆円単位で歳出を削減するためには、社会保障費に手をつけるしかないのが現状です。


アベノミクスの経済成長が日本の財政問題にトドメを刺す

 アベノミクスで円も株価も劇的に回復した’13年。しかし、この経済成長は一時的な財政拡大頼みの側面が強い一方、デフレ脱却後の金利上昇が日本の財政を窮地に追い込む可能性があると指摘するのは経済学者の小黒一正氏。

「消費税増税で景気が停滞すると危惧する人もいますが、その主張は税収増による将来不安の解消などのプラスの面を無視した話なので、一時的なショックを除き、消費増税で景気停滞が起きるとは思いません。それ以上に問題なのは、あの程度の消費増税では、アベノミクスでデフレ脱却が成功した場合、金利が上昇することによって起きる“利払費”の増加にとても対応できないことです

グラフを見ると、平成元年度から、公債残高は急速に右肩上がりになっている一方で、利払費は10.6兆円から7兆円にまで下がっている。通常、債務が膨らめば当然利払いも増加するものだ。それなのに下がっているのはひとえに金利低下の効果が債務の増大を上回っていたからなのだ。






平成17年度からは利払費が緩やかに上昇している。金利の低下分では吸収しきれなくなったのだ。今後金利が上昇した場合、利払費が大幅に増加し債務残高とともに財政を圧迫することは必至だ(財務省作成資料)

「金利は平成17年度からほぼ横這い状態にあります。にもかかわらず、利払費は平成18年度を最後に上昇に転じ、平成25年度には一気に上昇し、10兆円に迫る勢いになっています。これはもはや“低金利”のボーナスタイムが終わったということ。さらにデフレ脱却が成功し、金利が上昇し始めると、低金利の恩恵を受けられなくなった利払費が急速に膨張していくことになります


…………

以上、財務省出身である比較的若手の経済学者小黒一正氏の見解を中心にまとめたが、日銀出身の経済学者深尾光洋氏(慶應義塾大学商学部教授、元日本経済研究センター理事長)のアベノミクス導入前の論文からもいくらか抜粋しておこう。この論文は、三十年以上「経済学」から離れていたわたくしのようなものには、とても勉強になる。



本稿では、 日本経済をマクロ的な観点からとらえ、 日本の長期的な潜在成長率の低下、 長期化するデフレの実態、 政府債務と利払い負担などの現状を概観する。そのうえで、政府債務の GDP 比率を安定化させて、財政に対する信頼性を取り戻すためには、 少なくとも消費税で 20%程度に相当する 50 兆円程度の歳出削減ないし増税が必要であることを示す。 また今後利払い負担が急増する見通しであることを指摘し、 政府債務が巨額になってしまった現在では、 デフレからの脱却は政府の利払い負担を急増させることで政府信用を悪化させかねないことも説明する
毎年の財政赤字も 2011 年には 48 兆円程度と GDP 比 10%に達したと推定され、きわめて高水準にある。仮に消費税を 10 ポイント引き上げて 15%にしたとしても、税収増は 24 兆円程度であり赤字を半分に減らすのが精一杯である。

ーーここに、消費税

10 ポイント引き上げは、24 兆円程度とあるように、小倉氏の見解とほぼ同じである。そして2012年におけるシミュレーションの前提として、《消費税引き上げによる税収増加額は、 税率の2%引き上げで GDP 比1%に相当すると想定した》とされている。




政府債務 GDP 比率の上昇が止まり低下を始めるためには、 遥かに大幅なプライマリーバランスの改善が必要である。 一例として図表15は消費税を 2014 年から 2023 年までの 10年間、 毎年 1 月に 2 ポイントずつ引き上げ、 23 年の 1 月以降 25%にするケースを示してある。 このケースであれば、 政府の純債務 GDP 比率は消費税率が 19%に達する 2020 年にピークの 180%に達した後、 徐々に低下を始める。 プライマリーバランスは、 2024 年以降 3.4%の黒字となるが、この時点でも利払い負担が GDP 比 2.6%あるため利払い負担を調整した黒字幅は小さく、 政府債務 GDP 比率は非常にゆっくりとしか低下しない。 実際に財政赤字を削減するためには、 消費税だけの増税を行う必要は無く、 所得税、 法人税、 社会保険料、税外収入、 固定資産税など、 どんな税目で増税を行ってもよいし歳出削減を行っても良い。
消費税を 25%まで引き上げても、金利が少し上昇すれば、政府債務は増加を続けてしまう。例えば政府の平均借入金利が 2016 年の 1.5%から 21 年に 2.5%まで毎年 0.2 ポイント上昇を続けるケースを見たのが図表16である。この場合には、プライマリーバランスの3.4%の黒字では、利払い負担の GDP 比 4.6%をカバーしきれず、負債 GPP 比率は上昇を続ける。このように、政府債務が巨額になると、小幅の金利上昇でも政府債務は安定化できなくなってしまう。



※参照



《……プライマリーバランスの概念を導入するために、ここで経常収入を「金利収入」と「金利以外の経常収入」、経常・投資支出を「金利支出」と「金利以外の経常・投資支出」に分割して上の式を書き直すと、以下のようになる。

「金利以外の経常収入」+「金利収入」+「国債発行」
=「金利以外の経常・投資支出」+「金利支出」+「国債償還」 (1-3)

プライマリーバランスは、「金利以外の経常収入」から「金利以外の経常・投資支出」を差し引いた金額であるから、上の式を整理すると次の式が得られる。

「プライマリーバランス」+(「金利収入」-「金利支出」)
=「国債償還」-「国債発行」 (1-4)

簡単に言えば、

「プライマリーバランス」+「純金利受取」=「国債のネット償還額」 (1-5)

現在の日本では、プライマリーバランスは赤字で、金利は支払い超過、国債は発行超過であるから、次の式の方が直感的に分かりやすいだろう。

「プライマリーバランス赤字」+「純金利支払」=「国債のネット発行超過額」 (1-6)》


6. 日本の財政破綻シナリオ

4節の日本の財政バランスのシミュレーションを読み進まれてきた読者には、日本の財政破綻のシナリオがイメージできるだろう。概略、次のようなシナリオである。

(1)選挙民を恐れる政治家が増税を先延ばし続けて政府の累積赤字が拡大する。この結果、金利上昇による利払い負担増加のリスクが蓄積されていく。

(2) 日本の金融資産の大部分を保有する 50 歳以上の高齢者層も、 政府に対する信頼を徐々になくし、円から不動産、株式、外貨、金等に資金を移動し始める。

(3)長期国債価格が下落し、長期金利が上昇を始める。

(4)新規発行や借り換え国債の利払い負担増加に直面した政府が、発行国債の満期構成を短縮し、主に短期国債で赤字をファイナンスするようになる。日銀がゼロ金利政策を続けている間は、 政府の利払い負担は増加せず、 財政破綻を先延ばしできる。 しかし同時に、国債の満期構成の短期化は、将来の短期金利の上昇で、政府の利払いが急増するリスクを増大させる。

(5)政府の財政悪化に伴い、上記(2)の資金シフトが加速する。特に高齢化に伴う貯蓄率の低下や財政赤字の拡大によって経常収支が赤字化すると、大幅な円安になるリスクが高まる。実際に円安、株高が発生すれば、景気にはプラスとなりバブル的な景気回復を達成する可能性もある。そうなればインフレ率も上昇し始める。景気回復は税収を増大させ、財政赤字を減少させる。この時点で大幅な増税と赤字の削減が出来れば、財政破綻は避けられる可能性がある。

=>この場合、政府はタイミングの良い増税で健全化を達成できる。

しかし政府が増税に躊躇すると、以下のシナリオに突入する。

(6)日銀はインフレ率の上昇に対して金利引き上げによる金融引き締めを行うが、これで政府の利払いが爆発的に増大し、政府の信用が急激に低下する。

(7)政府が日銀の金融政策に介入して、低金利を強制したり、国債の買い取りを強制したりすれば、インフレがさらに加速し、国債価格は暴落する。

(8)金利の急激な上昇で長期国債を大量に保有する銀行が、巨額の損失を被り、政府に資金援助を要請する。

(9)政府が日銀に国債の低利引き受けを強制する場合には、政府は利払い増加による政府債務の急増を避けることが出来る。この場合は、敗戦直後のインフレ期と同様に、政府債務を大幅に引き下げることが可能で、政府は財政バランスの回復に成功する。しかし、所得分配の上では、預金や国債、生命保険、個人年金などの金融資産を保有する人々が、その実質価値の喪失で巨額の損失を被る。

=>この場合、政府はインフレタックスにより財政を健全化できる。しかし金融資産の実質価値の大幅低下により、生活資金に困る多数の人々を生み出す。

2014年11月1日土曜日

高齢化社会対策の劇薬

以下、メモ。このような少子高齢化推測の資料は、興味のある人にとっては周知のことなのだろうが、日本の新聞雑誌等を手にとることがないわたくしには目新しいのでここに貼付。

2050年と言えば、いま30歳の人が65歳になる頃である。ちょうど今の彼らの両親の年齢になる頃といってよいかもしれない。





このデータはおそらく移民による生産年齢人口増を考慮していないはず。以下に図表の説明がある(共同通信)。


総務省が公表した2013年10月1日時点の人口推計で、働き手の中核となる15~64歳の「生産年齢人口」が32年ぶりに8千万人を下回りました。

 Q 人口推計とは。
 A 全世帯に調査票を渡して人口などを調べる国勢調査は5年に1度だけです。国勢査のない年に、出生児数と死亡者数の差や、出入国者数の変動などから算出するのが人口推計です。

 Q 生産年齢人口が減ったのはなぜですか。
 A 少子化の流れが止まらない上に、1947~49年ごろの第1次ベビーブームに生また「団塊の世代」が65歳に達し高齢化が急速に進んでいるためです。この傾向は今後も続く見通しです。

 Q 生産年齢人口が減るとどうなりますか。
 A 働き手不足が深刻化して日本経済の成長力が低下する懸念があります。国民の豊かさが損なわれるだけでなく、税収が減って公共サービスや社会インフラの整備が滞る可能性もあります。

 Q ほかの影響は。
 A 高齢者が増えて生産年齢人口が減れば、若い世代の社会保障費の負担が重くなります。働く世代を20~64歳、高齢者を65歳以上とした財務省の試算では、12年は働く世代2・4人で高齢者1人の社会保障費を支えていましたが、50年には1・2人で支える時代になる見通しです。

 Q 現行制度を今後も維持できるのですか。
 A 年金支給開始年齢は現在、自営業者らが加入する国民年金の場合は65歳です。会社員の厚生年金は段階的に引き上げている途中で、男性は25年度、女性は30年度から65歳支給となります。この支給開始をさらに遅らせるなどの抑制策が必要との指摘もあります。

 Q 働き手を増やす方策はありますか。
 A 女性やシニア世代の活用が重要です。子育てをしながら女性が働き続けられるよう、学童保育や育児サービスの充実を図るべきでしょう。企業の定年延長も有効な手段となります。

 Q 建設業や介護分野での人手不足は深刻です。
 A 政府は外国人の活用を拡大する方針です。東京五輪が開催される20年までの時限措置として、新興国への技術移転を目的に労働者を受け入れる外国人技能実習制度の期間延長を決めました。安倍晋三首相は、家事支援や介護分野で外国人労働者を受け入れる制度の検討も指示しています。


 Q 移民は受け入れないのですか。
 A 治安悪化や日本人の雇用が長期的に奪われることへの懸念が根強く、政府は慎重姿勢です。ただ経済界などからは、本格的な受け入れが必要との指摘も出ています。

※より詳しくは、国立社会保障・人口問題研究所による「日本の将来推計人口」(2013)がすばらしい。


社会保障給付費の構成は次の通り(厚生労働省)。





高齢化比率に対して、少子化対策で対応できる時期はもうすでに終わったらしい。


河合 対照的に日本は結婚をしないと産まない国といわれていますが,そもそも未婚者がパートナーを見つけにくくなっています。婚外子の多い国はカップルが成立しやすいようですか,なぜなのでしょう。

阿藤 本当に最近の日本はセックスレスどころか「パートナーレス」ですね。もしかしたら,そこが一番のポイントかもしれませんが,一番わからないところでもありますね。ただ,緩少子化国には核家族の文化をもっているという共通点があります。古くから純粋な核家族の文化があったのが,ちょうど北欧,フランスあたりまで,ドイツや南欧は子どもが結婚しても親と住むタイプの家族(拡大家族)の伝統がありますし,中国文化圏の日本,韓国,台湾なども拡大家族の伝統をもちます。

 日本も含めて核家族文化ではない国では親と子のつながりが強く,親の権威が強い。核家族の国ではすべての子どもは未婚の時代に親から離れるので,外に出て自立してパートナーを見つけ,うまく生きていけるように育てるのが親の務めです。そういうわけで同棲・婚外子が拡がっています。しかし親子の関係が強い社会では親は子どもをひきとめ,子どもはそれに甘えてしまう。パラサイトシングルも,そのような文化を抜きにして考えられないですよ。北欧では成人した子が親とずっと一緒に住むなんて,双方生理的に耐えられないでしょう。
……また,選挙で強いのは高齢者福祉で子どもではないのです。そちらのほうにどうしても関心が行ってしまい,そうこうするうちに出生率を取り戻すタイミングを逸してしまったという感じですね。

河合 取り戻すタイミングとは団塊ジュニア世代が出産できた時代のことですね。

阿藤 そうです。第二次ベビーブームで生まれた世代が出産年齢にあるうちに何とかできれば,日本にもチャンスはあるはずでした。その世代が出産できる年齢を過ぎ,本当はあるべき第三次ベビーブームがないことがはっきりした今,日本は,たとえこれから少々出生率が上がっても大勢は変わりません。今後は出産年齢にある人口が減る一方ですから,私たちはこれを少子化スパイラルと呼んできましたが,長期にわたって人口減が続くことはすでに避けられないのです。

働く世代1.2.人で、高齢者1人を支えなくてはならないなどということはどう考えてもありえず、少子化対策もダメ、消費税増も移民もイヤであるなら、高齢者が急激に死んでくれることを期待するよりほかないんじゃないかい? それとも75歳ぐらいまでは働いて税金払ってもらうとかさ。

上にもあるように、選挙では高齢者(高齢者予備軍も含め)が強いに決まってるんだから、社会保障費削減政策なんて実現しようがないだろうからな。

ところで2011年時点での「平均代替率」は82%だったらしい。すなわち、生産年齢人口 1 人当たりの所得は 316 万円であったのに対し、65 歳以上人口 1人当たりの社会保障給付額は 261万円とのこと。

ここでは議論の大枠を踏まえるために、年金、高齢者医療、介護について、平均代替率をど う制御するかで中央・地方政府の基礎的財政収支均衡を維持するための必要な消費税率、さらには国民負担率が長期的に変わってくることを、マクロの視点から試算する。試算上での平均代替率は、65 歳以上人口1人当たりの社会保障給付(65 歳未満への医療給付、雇用保険給付、子ども手当等を除く社会保障給付)の生産年齢人口1人当たりの平均所得(雇用者報酬及び混合所得)に対する比率と定義する。こうして計算された現在の平均代替率は 2011 年度の実績で82.4%である。すなわち、生産年齢人口 1 人当たりの所得は 316 万円であったのに対し、65 歳以上人口 1 人当たりの社会保障給付額は 261 万円だった。(大和総研「DIR30年プロジェクト「超高齢日本の30年展望」」(2013))

これは消費税率、あるいは国民負担率を上げるための議論のなかの記述なのだけれど、いまはその議論を外し、単純化する(他の条件を一定と仮にする)。

上で見たように、現在、生産年齢人口2.4人で高齢者1人を支えなくてはならなく、2050年は生産年齢人口1.2人で高齢者1人を支えることになる。ある時期の高齢者人口/生産年齢人口を基準にして、たとえば現在の平均代替率を基準としたら、2050年には生産年齢人口/高齢者人口比率が半減するのだから、高齢者への社会保障給付額をも半額130万円にするという「スライド」制でも無理矢理つくったらどうだろうかね。まあこれは冗談にしても、日本の袋小路の根源は、少子高齢化にあるので、最近は殆どすべて他の議論はこの派生物でしかないようにさえ思えるな。

冒頭の図と同じデータからの別の図だが、2012年だって目一杯なんだから、2050年の1.2人ってのはすでに上のおじいちゃん、崩れ落ちているにきまってるよ。そのおじいちゃんとは、いま三十代の「きみ」だぜ。




日本の財政は、世界一の超高齢社会の運営をしていくにあたり、極めて低い国民負担率と潤沢な引退層向け社会保障給付という点で最大の問題を抱えてしまっている。つまり、困窮した現役層への移転支出や将来への投資ではなく、引退層への資金移転のために財政赤字が大きいという特徴を有している。(DIR30年プロジェクト「超高齢日本の30年展望」

どうしたらいいだって? 新しい形態の家族=アソシエーションしかないんじゃないかい?

一般に流布している考えとは逆に、後期のマルクスは、コミュニズムを、「アソシエーションのアソシエーション」が資本・国家・共同体にとって代わるということに見いだしていた。彼はこう書いている、《もし連合した協同組合組織諸団体(uninted co-operative societies)が共同のプランにもとづいて全国的生産を調整し、かくてそれを諸団体のコントロールの下におき、資本制生産の宿命である不断の無政府主と周期的変動を終えさせるとすれば、諸君、それは共産主義、“可能なる”共産主義以外の何であろう》(『フランスの内乱』)。この協同組合のアソシエーションは、オーウェン以来のユートピアやアナーキストによって提唱されていたものである。(柄谷行人『トランスクリティーク』)

二十代の連中はだって? 彼らはとっくの昔に開き直ってシオラニストだろ。

@Cioran_Jp: 私が自殺を若い頃から考えてきたのは、人生を自殺の遅延と私が考えているからです。三十を過ぎて自分は生きていないだろうと私は思ってました。臆病だったからではないので、私はいつだって自殺を延期してきた。自殺という考えに私はしがみついてきた。自殺に私は寄生してきたんです。(シオラン)

パラサイト・スーサイド(Parasite Suicide)ってわけさ。

…………

困難な時代には家族の老若男女は協力する。そうでなければ生き残れない。では、家族だけ残って広い社会は消滅するか。そういうことはなかろう。社会と家族の依存と摩擦は、過去と変わらないだろう。ただ、困難な時代には、こいつは信用できるかどうかという人間の鑑別能力が鋭くないと生きてゆけないだろう。これも、すでに方々では実現していることである。

現在のロシアでは、広い大地の家庭菜園と人脈と友情とが家計を支えている。そして、すでにソ連時代に始まることだが、平均寿命はあっという間に一〇歳以上低下した。高齢社会はそういう形で消滅するかもしれない。(中井久夫「親密性と安全性と家計の共有性と」『時のしずく』所収ーー何を今更言ってるんだろう

ここに《あっという間に一〇歳以上低下した》とあるが、これはやや誇張のようだ。



ソ連崩壊以降、驚くべき平均寿命の低下があったとも言えるが、最近の上昇ぶりも目覚しい。

ロシアの人口は、 ソ連邦崩壊直後の 1992 年をピークに減少に転じ、 総人口は 2009 年 1 月までの 17 年間で約 6.6 百万人減少した。2007 年以降、減少幅は縮小し、2009 年には自然減を移民増でカバーして 10.5 千人増と、18 年ぶりに僅かながら人口増を記録した。ようやく長年の人口減少は一服した感があるものの、この主因は移民の流入増であって、長期的な人口減少傾向に終止符が打たれたものかどうかは判然としない。また、平均寿命は 67.9 歳(男性は 61.8 歳、2008 年)と BRICS4ヵ国の中ではインドを若干上回るものの、中国(74 歳)、ブラジル(73 歳)に比してかなり低い。一方で、ロシアの医師数(2008 年)は、人口 1,000 人当り 4.54 人 (日本は 2.15 人) と主要国の中では世界一多い。〔『ロシア連邦の医療』医療経済研究機構 専務理事 岡部 陽二)

『「財政破綻後の日本経済の姿」に関する研究会』では、財政破綻によるハイパーインフレーションをめぐって、次のようなメモがあるを見た(参照:「日本の財政は破綻する」などと言っている悠長な状況ではない?)。

・意外に悪影響の少ない劇薬?
・日本への教訓 – ハイパーインフレ恐るるに足らず?
・むしろ究極の財政再建策として検討すべき?

そしてこの「冷徹な」メンバーの方々はロシアの財政崩壊をも研究されている。

いささか不謹慎な話題かもしれませんが・・・。――旧ソ連が崩壊し、ロシアでは、それまで全国民に医療サービスを政府が提供する体制が実質的に崩壊しました。また、ソ連崩壊後の時期に死亡率が急上昇しました。……[送り状(2)]http://www.carf.e.u-tokyo.ac.jp/research/zaisei/ScenarioCrisis2904pdf.pdf

ーー以下、おそらく肝腎なところは、「オフレコ」なようだ。だが彼らがひそかに期待している「劇薬」の最も顕著な効果は何か? はなんとなく憶測できないでもない。

ひょっとすると、多くの社会は、あるいは政府は、医療のこれ以上の向上をそれほど望んでいないのではないか。平均年齢のこれ以上の延長とそれに伴う医療費の増大とを。各国最近の医療制度改革の本音は経費節約である。数年前わが国のある大蔵大臣が「国民が年金年齢に達した途端に死んでくれたら大蔵省は助かる」と放言し私は眼を丸くしたが誰も問題にしなかった。(中井久夫「医学部というところ」書き下ろし『家族の深淵』1995)

《お元気でいらっしゃいましたか? いちばん心配なのは長生きでございます!》(大江健三郎『懐かしい年への手紙』


…………

もし、現在の傾向をそのまま延ばしてゆけば、二一世紀の家族は、多様化あるいは解体の方向へ向かうということになるだろう。すでに、スウェーデンでは、婚外出産児が過半数を超えたといい、フランスでもそれに近づきつつある、いや超えたともいう。(中井久夫「親密性と安全性と家計の共有性と」より(2000年初出)『時のしずく』所収ーー二十一世紀の歴史の退行と家族、あるいは社会保障

ーーとすこし前に引用したが、フランスも実際に超えたようだ(「少子化を克服したフランス~フランスの人口動態と家族政策~」 第三特別調査室 縄田康光)。




  (「フランスにベビーブーム到来! 日本の未来は?」NTTコム リサーチより)

今やフランスにおける婚外出生比率は 50%を超えている(2007 年) 。事実婚に対する差別が解消されたことが非婚カップルの出産を促し、出生率上昇につながったと言える。一方我が国の婚外出生比率は、2.03%(2007 年)と先進国では異例の低さであり、また同棲している独身者は、男性 1.9%、女性 2.3%にすぎず、 「出産≒結婚」という傾向は大きくは変化していない。ただ、長期的には我が国においても婚外子が増加する傾向にあることから、婚外子が不利益を被ることのないよう議論を深めていく必要がある。(縄田康光少子化を克服したフランス~フランスの人口動態と家族政策~」) 

日本は、パラサイトシングルの国だからな、しかたがないさ! などと言い放つわけにはいかない。、世界の状況は次の通り。






パラサイトシングル率の国際比較



アジア先進諸国だけでなく、イタリアだって、わが日本の味方さ。でも

婚外子はかなり遅れをとっているようだな。

イタリアの場合、2000年には婚外子は約10%だったものが07年には20・8%に上昇し、このままの上昇率で行けば、20年には出生児の2人に1人、つまり50%は婚外子になると推定されている。

 この急上昇の原因は、正式な結婚をせずに同棲(どうせい)する男女が増えたことだ。1972年と2008年両年の結婚総数、つまり教会での結婚と市役所での非宗教結婚の合計を比較すると、39万2千件から21万2千件に減少している。この結果、上記の結婚のどちらも行わないで一緒に住んでいる男女のカップル、つまり同棲カップルの総数はイタリア全国で現在63万7千組と推定される。

 わが国でも、夫婦別姓制度が導入されるとこれまでの家族概念が崩れ、同棲カップルが増加し、婚外子の数は欧米並みに急増する可能性がある。(坂本鉄男 イタリア便り 婚外子の急増


同棲比率までここでは貼り付けないが、日本の「

男性 1.9%、女性 2.3%」ってあり? カップルは経済単位でもあるけれど、カップルになって困ることってなんだろ? カップルというか同棲してさ。ひょっとして自由に自慰ができなくなることかい?

結婚じゃなくて同棲でもジジェクのいうメカニズムはいっしょだからな、やっぱり同じ女や男じゃ「義務」になり勝ちなのさ。

ラカン派の用語では、結婚は、対象(パートナー)から“彼(彼女)のなかにあって彼(彼女)自身以上のもの”、すなわち対象a(欲望の原因―対象)を消し去ることだ。結婚はパートナーをごくふつうの対象にしてしまう。ロマンティックな恋愛に引き続いた結婚の教訓とは次のようなことである。――あなたはあのひとを熱烈に愛しているのですか? それなら結婚してみなさい、そして彼(彼女)の毎日の生活を見てみましょう、彼(彼女)の下品な癖やら陋劣さ、汚れた下着、いびき等々。結婚の機能とは、性を卑俗化することであり、情熱を拭い去りセックスを退屈な義務にすることである。(ジジェク『LESS THAN NOTHING』(2012) 私訳)

で、どうして海外の若いヤツラは同棲して子供つくっちゃうんだろ。




…………

※附記:「財政破綻後の日本経済の姿」に関する研究会 [論点整理メモ 2]  September 7, 2012: Miwa


*そんなことは誰でも知っている・・・・かもしれない?

・しかし、なかなか話題にならない・・・?――とりわけ、具体的内容を伴う話題とはならない。

・理由?:誰にとっても本格的検討はスタートすることすら容易でない・・・?どのように考えて整理・主張しても、意見の一致は容易には得られない?検討方法すら不明?面倒 ・ ・ ・ ? (バカバカしく阿呆らしい?) ――だから、 誰もが回避したくなる? (誰か ・ ・ ・挑戦してくれないかな・・・と見果てぬ夢を・・・)――そういう状態が続いてきたから、いまさら・・・?――そんな課題に(自らはもちろん、誰かが)挑戦することなど、夢にも見ない?

・ 「政府」の周辺では?――縦割りだから、誰も全体のことは考えない(考えられない)?

ウチだけは大丈夫・・・だと考える(たとえば、社会福祉・医療・教育や農業、対外援助、さらに科学技術の振興など)?だから、これは政治と財務省の検討課題・・・だと無視する?――直接の関係者・担当者は 「考えたくない」 と思っている?1 年や 2 年の在任期間中に急ぐ必要はない・・・?――さらに、周りがそう考えていることもあって実質的なタブー?――さらに、そんな余計なことを考える連中を近づけるな・・・?(自己防御あるいは組織防衛?)――(とはいえ、個人的には深刻な事態だと考えている官僚たちも少なくない・・・?)