■ 本当にサガン鳥栖は雨の降っている試合には弱いのか?少し前に「サガン鳥栖はJリーグの中で試合当日の天気に結果が左右されやすいチームの1つである。」と記述した。理由として雨のときはMF藤田直がロングスローを投げようとしてもすっぽ抜けることが多くて効果的な武器にならないからである。ロングスローは直接ゴールにつながらなかったとしても相手に与える心理的な影響は大きいが、雨が降っているとロングスローを使用することすら諦めざる得ない時もある。
実際に調べたわけではないが、「3回に1回程度は雨の影響でボールがすっぽ抜けてしまって全然距離が出なくて簡単にクリアされている。」という印象がある。もちろん、タッチライン際に専用のタオル(※ 濡れないようにビニール袋の中に入れている。)を置くなどの対策を取っているが思うような効果は得られていない。ロングスローという武器が使えなくなるのは鳥栖にとっては大きなマイナスである。
一方でロングスローの使い手としては「Jリーグの中ではMF藤田直と並んで双璧」と言える松本山雅のMF岩上については「極端に雨に弱い。」というイメージはない。投げ方などが関係しているのかもしれないが、本当に鳥栖は雨が降った日はあまり勝てていないのだろうか?単に勝手にイメージしているだけなのか?この点が少し気になったので「試合が行われたときの天気と鳥栖の勝敗の関係性」について調べてみた。
■ 試合中の天気と鳥栖の勝敗の関係性は・・・。Jリーグの公式サイトには「このデータは誰が活用するのか?」と思えるものもある。天気と勝敗に関する情報もその1つだったが今回はこのデータを利用したい。よく知られているとおり、当時J2だった鳥栖にMF藤田直が入団したのは2010年のこと。その前年のオフに横浜FCの新監督に就任した岸野監督がDF武岡やDF渡邉将など主力選手数名を引き抜いたことで選手層が薄くなっていた時期に鳥栖に入団している。
2年目の2011年は東日本大震災が起こってJリーグの試合は一時中断したが、中断期間中に左足第5中足骨を骨折。全治3か月と診断されて前半戦を棒に振ったが、この期間中に上半身を徹底的に鍛えたことで「距離とスピードの出るロングスロー」を習得することができた。怪我が治って後半戦になるとピッチに戻ってきたが、「MF藤田直のロングスローは凄い。」と騒がれるようになったのは2011年の秋あたりである。
鳥栖がクラブ史上初となるJ1昇格を果たした2011年の後半戦からMF藤田直は本格的にロングスローを多用するようになったが、2011年は怪我の影響で23試合の出場にとどまっている。あまり参考にはできないのでここでは2012年以降のデータを引っ張ってきたいと思う。鳥栖は2012年からずっとJ1生活を送っているので、ここから出てくる数字は全てJ1での記録となるが、天候別の成績は表1のとおりである。
表1. サガン鳥栖の天候別の成績 (2012年以降)
天候 | 試合 | 平均勝ち点 | 勝 | 分 | 敗 | 得点 | 失点 |
晴 | 76 | 1.47 | 31 | 19 | 26 | 103 | 105 |
晴のち曇 | 1 | 1.00 | 0 | 1 | 0 | 2 | 2 |
曇 | 30 | 1.57 | 14 | 5 | 11 | 43 | 38 |
曇のち晴 | 2 | 1.50 | 1 | 0 | 1 | 2 | 2 |
曇のち雨 | 2 | 2.00 | 1 | 1 | 0 | 2 | 1 |
曇時々雨 | 1 | 3.00 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 |
曇一時雨 | 1 | 3.00 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 |
雨 | 12 | 1.00 | 4 | 0 | 8 | 14 | 23 |
雨のち曇 | 2 | 0.50 | 0 | 1 | 1 | 4 | 6 |
雨時々曇 | 1 | 0.00 | 0 | 0 | 1 | 1 | 7 |
屋内 | 1 | 3.00 | 1 | 0 | 0 | 3 | 2 |
合計 | 129 | 1.47 | 54 | 27 | 48 | 176 | 186 |
■ イメージ通りに雨の日はあまり結果を出せておらず。表1を見ると「何となく」の傾向はつかめる。ただ少し分かりにくい。なので「晴れ」と「曇り」と「雨」の3つに分類したい。この分類方法が妥当がどうかは分からないが、「晴」・「晴のち曇」→「晴れ」、「曇」・「曇のち晴」・「曇のち雨」・「曇時々雨」・「曇一時雨」→「曇り」、「雨」・「雨のち曇」・「雨時々曇」→「雨」と分類する。こうしたところ、表2のようにすっきりした感じになる。
表2を見ると、「晴れ」のときは31勝26敗20分けで平均勝ち点は「1.47」。「曇り」のときは18勝12敗6分けで平均勝ち点は「1.67」。曇りのときはかなり好成績である。対して「雨」のときは4勝10敗1分け。平均勝ち点は「0.87」となる。『鳥栖って雨が降っているときはロングスローが使えなくなって苦戦しているイメージがあるなあ・・・。』と漠然と思っていたが実際に雨の日は結果が出ていないことが分かった。
もちろん、ロングスロー以外にも思い当たる理由はある。ホームのベアスタは基本的には試合前の水撒きをやっていなかったと思う。鳥栖はロングボールを主体とするチームなのでボールスピードが出なくても大きな問題はないが、相手チームはボール回しで苦労することになる。ピッチが乾燥していた方が鳥栖には有利であるが、当然、雨が降ってくるとボールが走りやすくなって、相手チームのパスが回りやすくなる。
表2. サガン鳥栖の天候別の成績 (2012年以降)
天候 | 試合 | 勝 | 分 | 敗 | 得点 | 失点 | 平均勝ち点 |
トータル | 129 | 54 | 27 | 48 | 176 | 186 | 1.47 |
晴れ | 77 | 31 | 20 | 26 | 105 | 107 | 1.47 |
曇り | 36 | 18 | 6 | 12 | 49 | 41 | 1.67 |
雨 | 15 | 4 | 1 | 10 | 19 | 36 | 0.87 |
■ 雨に強いのは仙台と広島、雨に強くないのは名古屋「鳥栖以外のチームはどうなのか?」も気になったので表3にまとめてみた。細かく調べるのは大変なのでここでは「晴れの日」と「雨の日」の2つの成績のみ考える。(※ 「晴のち曇」や「曇のち晴」などの成績は全く考えない。)文句なしで晴れたときと文句なしで雨が降り続いたときの成績を引っ張ってきた。(※ 「晴れ」の試合が50試合以上のチーム限定。対象は1993年以降。J2やJ3の試合は除外。)
「晴れの時」と「雨の時」の勝ち点差を計算。プラスの大きかった方から順番に並べているが、「+0.47」の鳥栖は2番目。1番は「+0.52」の名古屋だった。名古屋は雨の時は7勝12敗5分けと負け越しているが、晴れの時は95勝68敗40分けと大きく勝ち越している。鳥栖は「雨」の時は4勝8敗。平均勝ち点「1.00」はリーグワースト。他チームと比較した時も「雨の試合にあまり強くない。」ということが分かる。
逆に雨の日に強いのは広島と仙台の2チーム。広島は「-0.54」で、仙台に至っては「-0.90」。仙台は雨の時は11勝2敗6分けと無類の強さを発揮している。仙台がこれほど雨の降った試合に強い理由は何かあると思うが何も思い浮かばない。また、「雨が降っているときは技術の差が出やすい。」と言われることは多い。「技術の高い選手が多いチームは雨の時は有利に働くのか?」と思ったがそういう傾向は見られない。
表3. 「晴れ」の時と「雨」の時の差 (1993年以降でJ1の試合に限定する。)
チーム | 勝ち点差 | 晴れの時 | 雨の時 |
試合 | 平均勝ち点 | 勝 | 分 | 敗 | 試合 | 平均勝ち点 | 勝 | 分 | 敗 |
名古屋 | 0.52 | 203 | 1.60 | 95 | 40 | 68 | 24 | 1.08 | 7 | 5 | 12 |
鳥栖 | 0.47 | 76 | 1.47 | 31 | 19 | 26 | 12 | 1.00 | 4 | 0 | 8 |
G大阪 | 0.44 | 179 | 1.82 | 95 | 40 | 44 | 35 | 1.37 | 13 | 9 | 13 |
C大阪 | 0.43 | 154 | 1.46 | 60 | 45 | 49 | 29 | 1.03 | 7 | 9 | 13 |
横浜FM | 0.33 | 216 | 1.55 | 90 | 65 | 61 | 37 | 1.22 | 12 | 9 | 16 |
千葉 | 0.14 | 123 | 1.41 | 48 | 30 | 45 | 22 | 1.27 | 7 | 7 | 8 |
大分 | 0.14 | 136 | 1.14 | 40 | 35 | 61 | 13 | 1.00 | 4 | 1 | 8 |
FC東京 | 0.11 | 196 | 1.36 | 74 | 45 | 77 | 28 | 1.25 | 9 | 8 | 11 |
磐田 | 0.11 | 205 | 1.26 | 69 | 52 | 84 | 33 | 1.15 | 10 | 8 | 15 |
鹿島 | 0.11 | 189 | 1.78 | 99 | 40 | 50 | 37 | 1.68 | 17 | 11 | 9 |
柏 | 0.07 | 150 | 1.39 | 58 | 34 | 58 | 38 | 1.32 | 13 | 11 | 14 |
大宮 | 0.04 | 156 | 1.29 | 57 | 31 | 68 | 35 | 1.26 | 11 | 11 | 13 |
川崎F | 0.00 | 157 | 1.62 | 76 | 26 | 55 | 31 | 1.61 | 13 | 11 | 7 |
新潟 | -0.02 | 186 | 1.32 | 65 | 50 | 71 | 42 | 1.33 | 16 | 8 | 18 |
甲府 | -0.02 | 88 | 1.05 | 24 | 20 | 44 | 16 | 1.06 | 3 | 8 | 5 |
清水 | -0.19 | 215 | 1.33 | 76 | 59 | 80 | 36 | 1.53 | 15 | 10 | 11 |
神戸 | -0.22 | 198 | 1.18 | 60 | 53 | 85 | 15 | 1.40 | 6 | 3 | 6 |
浦和 | -0.27 | 215 | 1.75 | 108 | 52 | 55 | 46 | 2.02 | 28 | 9 | 9 |
山形 | -0.28 | 58 | 0.97 | 16 | 8 | 34 | 12 | 1.25 | 3 | 6 | 3 |
京都 | -0.30 | 78 | 0.97 | 18 | 22 | 38 | 11 | 1.27 | 4 | 2 | 5 |
広島 | -0.54 | 186 | 1.42 | 73 | 45 | 68 | 27 | 1.96 | 15 | 8 | 4 |
仙台 | -0.90 | 124 | 1.15 | 36 | 35 | 53 | 19 | 2.05 | 11 | 6 | 2 |
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