■ 16年前のアルゼンチン戦ブラジルW杯の開幕が目前に迫ってきたが、NHKのBS1では「過去に日本代表が出場した4つの大会の全試合をフルタイムで(再)放送する」という興味深い企画が行われている。とりあえずとして、1番最初の試合である1998年のフランスW杯のGLの初戦のアルゼンチン戦を視聴した。場所はトゥールーズで、試合が行われたのは1998年6月14日。あれから16年が経過している。
日本代表は「5-3-2」。GK川口。DF名良橋、秋田、井原、中西、相馬。MF山口、名波、中田英。FW中山、城。ベンチスタートとなったのは、GK楢崎、GK小島、DF斉藤、DF小村、MF伊東輝、MF服部、MF森島、MF小野、MF平野、FW岡野、FW呂比須ワグナーの11人で、当時の登録メンバーは今よりも1人少なくて22人まで。浦和のMF小野は18歳でメンバーに選ばれた。
一方のアルゼンチン代表は「3-3-2-2」。GKロア。DFビバス、アジャラ、センシーニ。MFアルメイダ、サネッティ、シメオネ、オルテガ、ベロン。FWバティストゥータ、 クラウディオ・ロペス。当時、世界最高のリーグだったイタリアのセリエAでプレーしている選手が中心で、スタメン11人全員が欧州組となる。FWクレスポ、MFガジャルドらがベンチスタートとなった。
■ 勝ち点「1」の可能性はあった。試合は前半28分のFWバティストゥータのゴールが決勝点となってアルゼンチンが1対0で勝利したが、「記憶していたよりもはるかにいい試合だった。」と言える。この試合はリアルタイムで視聴しただけでなく、その後も録画で何度か観ているが、アルゼンチンが2点目を奪うチャンスはあったが、日本が同点に追い付くチャンスもあった。勝ち点「1」を獲得できる可能性はあった。
もちろん、「点差以上に力の差があった。」というのが一般的な評価である。この見方は間違っておらず、個人個人でも、チーム全体としても、大きな実力差があったのは間違いないが、アルゼンチンは本調子ではなかった。W杯のデビュー戦となる日本を相手に1対0というスコアはかなり不満足なもので、余裕のある展開にはならなかった。付け入る隙は十分にあった。
ただ、何しろ、日本もW杯は初めてである。しかも、海外リーグでプレーしている選手はおらず、強豪国と対戦した経験もほとんどなかった。こうなると、正確に距離感をはかるのは難しい。「セリエAでプレーしているから。」、「アルゼンチン代表だから。」、「名前が知られている選手だから。」とかなり格上に感じてしまう。名前でビビってしまうのは仕方がないことである。
アルゼンチンは3バックで、中央がDFアジャラで、右がDFビバスで、左がDFセンシーニだった。DFアジャラのところを崩すのはかなり難しいが、「DFビバスあるいはDFセンシーニのところはどうにか攻略できそうだ。」と今の感覚であれば感じることができるが、当時はそうは思えない。実力差(あるいは距離感)がほとんど分からないままで戦うのは相当に大変な話になってくる。
■ 16年前との大きな違いは?アルゼンチンの決定機も多かったが、日本の決定機も2・3回はあったし、さらにゴール前の絶好の位置でFKを獲得したことが3回あった。何とかしてこれを生かしたかったが、FKは際どいシュートにもならなかった。右足のMF中田英と左足のMF名波の2人がキッカーを任されていたが、共に現役時代は直接FKをバシバシ決めた選手ではなかったので、物足りなさはあった。
一方のアルゼンチンも絶好の位置でFKを得た場面が4回ほどあったが、「今の時代と比べてもっとも違っている。」と言えるのはファールに対するレフェリーのジャッジ基準ではないかと思う。オランダ人の主審だったが、前半から選手が倒れたときはほぼ全てでファールを取るので、ゴール前のFKもたくさんあったし、プレーが止まる時間も長いし、簡単に倒れる選手が目立った。
特にアルゼンチン代表のMFオルテガは日本の選手に倒されてファールを貰うシーンが前後半を合わせて10回以上あった。あまりにもファールが多いので、後半はファールの数をカウントしながら試合を観ていたが、45分間で29個のファールを取っている。2013年のJリーグの1試合平均のファール数は25個前後だったので、半分の45分間でその数字を上回っている。異常な多さと言える。
アルゼンチンも直接FKはゴールにつながらなかったが、これだけ簡単にファールを取ってくれるとフリーキッカーというのは超が付くほど重要になってくる。(逆に言うと、今の時代は当時ほどフリーキッカーは重要ではなくなってきている。)FW三浦知は左右両足でFKを蹴ることができたので、FW三浦知が落選したというのは、フリーキッカーが1人減ったという意味でも大きかった。
2006年のドイツW杯あたりからプレーを流す傾向が強まっているが、これだけ基準が異なると、選手に求められる資質も変わってくる。日本代表にとっては、簡単にファールを取ってくれた方がいいのか、プレーを流す方がいいのか、どちらが都合がいいのだろうか。微妙な話になるが、スタミナや運動量がより生きるという意味では今のジャッジ基準の方が都合がいいのかもしれない。
■ 出来が良かったのは3人日本の選手の中で目立ったのは、キーパーのGK川口、右WBのDF名良橋、ストッパーのDF中西あたりである。前半は日本の左サイドを中心に試合が進むことが多かったので、前半は全くと言っていいほどDF名良橋が活躍するシーンはなかったが、それがスタミナを温存することにつながったのか、後半はDF名良橋の攻撃参加が目立った。突破口の1つになった。
また、後半になるとストッパーのDF中西が右サイドから攻撃に参加するようになって、右サイドから攻撃が厚みのある攻撃ができるようになった。後半終了間際にDF中西が右サイドを突破して途中出場のFW呂比須ワグナーに決定的なパスを供給したシーンがあったが、日本の中で出来が良かったのは、キーパーのGK川口、右WBのDF名良橋、ストッパーのDF中西の3人である。
その一方で、中盤のMF山口、MF名波、MF中田英のトリオは悪くはなかったが、期待されたほどのプレーはできなかった。3人とも軽率なミスもいくつかあって、第一次岡田ジャパンの強みであり、自慢だったトライアングルはアルゼンチン戦では不発に終わった。「この3人がもう少し活躍できていれば、もっといい展開になったのに・・・。」というところはある。
大会終了後に批判の声が集中した2トップのFW中山とFW城は決定的な仕事はできなかった。確かに守備で頑張っているのは間違いないが、現代の感覚では(フォワードであっても)これくらい守備をするのは当たり前で、「とんでもなく守備にエネルギーを使っている。」ということはない。2人ともドリブルで打開することはできないので、攻撃はMF中田英への依存度が高くなる。
1つ不思議なのは、岡田監督が交代枠を1つ残している点である。最後の時間帯で惜しいチャンスを2度ほど作ったので、その選択が間違いだったとは言えないが、かなり疲れていた。中盤にエネルギーを注入する交代があっても良かったと思うが、後半20分にFW中山に代えてFW呂比須ワグナーを投入して、後半39分に左WBのDF相馬に代えてMF平野を投入しただけだった。
■ 尋常ではないスタジアムの熱狂ぶりそれ以外でも、若かりし頃のMFサネッティの全く止まらないドリブルであったり、すぐに倒れてしまうFWオルテガであったり、「3-3-2-2」というアルゼンチンのちょっと変わったシステムであったり、見所は満載である。中盤でマークが浮く選手が多発しそうな全く噛み合わないシステムで戦ったことを考えると、「岡田ジャパンはうまく守った。」という見方もできるだろう。
16年も経過すると冷静に見ることができるし、当時、感じた印象とは全く違ってくる可能性もある。非常に興味深く試合を観ることができたが、最後にスタジアムを埋めた大サポーターに触れたいと思う。アルゼンチンのサポーターも多かったが、数では日本のサポーターが大きく上回っており、応援の声もはるかに大きかった。トゥールーズがホームのような雰囲気になった。
フランスW杯終了後、「キリンカップのような雰囲気だった。」、「日本のサポーターが多すぎて、W杯の雰囲気ではなかった。」と苦言を呈したサッカーライターもいた。確かにそういう一面もあったが、フランスW杯のアジア最終予選からジョホールバルの戦いを経て、フランスW杯に至るまでの日本代表の試合におけるスタジアムの熱狂具合は尋常ではない。
それ以前とも、それ以後とも、全然違っている。期間にすると「1年弱」。非常に短い期間であるが、今、ビデオ等で見返しても鳥肌が立つような素晴らしい雰囲気の中で試合が行われている。「ここでW杯に出場できなかったら日本サッカーは終わってしまう。」という危機感と、「W杯に出場できたらどんなに素晴らしいことだろう。」という期待感が合わさった独特の雰囲気である。
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