■ 2試合目UAEで開催されているU-17W杯のGLの2試合目。初戦でロシアに1対0で勝利して白星発進となった「96ジャパン」は、2戦目で南米代表のベネズエラと対戦した。ベネズエラは初戦はチュニジアに1対2で敗れている。先に行われたロシアとチュニジアの試合(=2戦目)はチュニジアが勝利したので、チュニジアは2連勝で、ロシアは2連敗となった。したがって、日本はベネズエラに勝つとグループDの2位以内が確定してベスト16入りが決定する。
日本は「4-1-2-3」。GK阿部(新潟Y)。DF石田(磐田Y)、宮原(広島Y)、茂木(浦和Y)、水谷(清水Y)。MF鈴木徳(前橋育英)、仲村(千葉Y)、斎藤翔(浦和Y)。FW中野(東京VY)、杉本(帝京大可児)、渡辺凌(前橋育英)。2試合連続スタメンとなったのは、右SBのDF石田、CBのDF宮原、CBのDF茂木の3人だけで、残りの8人は今大会初スタメンとなった。FW杉本は2012年のU-16アジア選手権のMVPで鹿島アントラーズへの入団が内定している。
■ 3対1で日本が快勝!!!試合は前半7分に日本が先制する。中盤でボールを受けたMF仲村の絶妙のスルーパスから右SBのDF石田がオーバーラップしてグラウンダーのクロスを入れると、最後は、エースのFW杉本が決めて幸先よく先制する。しかし、前半17分に左サイドを突破されると、DF宮原が釣り出されたスペースを埋めきれず、最後は、FWカラバリョに決められて1対1の同点に追いつかれる。日本は今大会の2試合目で初失点となった。
しかしながら、ポゼッション力で圧倒する日本は、前半44分にMF仲村がドリブルで1人をかわしてから、またもや絶妙のタイミングでスルーパスを出すと、裏に飛び出したアンカーのMF鈴木徳の折り返しをFW渡辺凌が決めて2対1と勝ち越しに成功する。前半は2対1と日本がリードして折り返す。後半も日本ペースが続いて、何度も決定機を迎えるが、相手キーパーの攻守もあってなかなか3点目を獲ることができない。
すると、次第にベネズエラの高さを生かした攻撃に手を焼くようになるが、後半33分にペナルティエリアでファールを受けたFW渡辺凌が自ら得たPKを確実に決めてダメ押しの3点目を挙げる。前橋育英高校のFW渡辺凌は2ゴール1アシストという大活躍となった。結局、試合は日本が3対1で勝利して2連勝となった。これで同じく2連勝のチュニジアとともにグループDの2位以内が確定して、2大会連続の決勝トーナメント進出が決定した。
■ スタメン8人が変更となるも・・・スタメン11人のうち、8人を入れ替えてきた日本だったが、攻守にベネズエラを圧倒した。ポゼッション率は68%で、シュート数は日本が23本で、ベネズエラは6本だけ。枠内シュートも、日本が17本で、ベネズエラはわずかに3本だけだった。最終的には3ゴールにとどまったが、相手キーパーの攻守に阻まれた決定機が何度もあったので、決定機の数でもベネズエラを圧倒した。これで2連勝となったが、得失点差でもチュニジアを上回ってグループ首位に浮上した。
94ジャパンのときも、昨秋のU-16アジア選手権のときも、吉武監督はスタメンをコロコロ変えてくるので、事前に予想はできたが、一気にスタメン8人を変更して来た。残ったのは、右SBのDF石田、CBのDF宮原、CBのDF茂木の3人だけなので、この3人は代えの利かない選手であることが分かるが、それ以外の選手が全員変わっても、クオリティーは落ちなかった。むしろ、アタッキングサードでの迫力は、ロシア戦よりもはるかに上だった。
ロシア戦のスタメン11人がベストメンバーかというと、そういうわけでもない。もちろん、ベネズエラ戦のスタメン11人がベストというわけでもない。どういう風にスタメン11人を分けているのかも興味深いところであるが、これだけ選手が変わっても、世界大会で圧倒できるというのは、凄い話である。おそらく、3戦目はロシア戦のメンバーとベネズエラ戦のメンバーがミックスされた11人になると思うが、全く問題なく機能はずである。
どの監督も「ベストの11人」を決めて、そこから、テスト等を行いながら、肉付けしていくのが、普通である。その方が落ち着いてチームを作ることができるので「セオリー」と言えるが、吉武監督は変わっている。「21人全員に戦術が浸透していて、誰が入っても一定以上のレベルを維持できる。」という自信があるのだと思うが、なかなかできることではない。そして、特定の誰かに負担がかかるわけでもないので、過密日程になっても、チームとしての質は下がらない。
■ 吉武サッカーで重要なSB対戦相手のレベルも考慮する必要はあるが、先のとおりで、攻撃のバリエーションはロシア戦の11人よりも豊富で、次々にチャンスを作っていった。結局、3ゴールにとどまったが、確実に決めていれば、5対1や6対1のようなスコアになってもおかしくないほど、チャンスの数には差があった。途中出場のFW永島らが大チャンスに決められなかったのは課題と言えるが、1点目や2点目の崩しはパーフェクトだった。
攻撃的なポジションの選手は揃って良さを発揮したが、まず目立ったのは、千葉ユースのレフティのMF仲村である。インサイドハーフで起用されたが、独特の感性を持っていて、左足のパスは一級品である。役割としては、ロシア戦で先発したMF三好と同じような感じだったが、MF三好よりも質の高いプレーができており、特に、右SBのDF石田とのコンビが絶妙だった。ジェフユースは、近年、いい選手が出て来なくなっているが、創造性もあって、面白い選手である。
先制ゴールをお膳立てした磐田U-18のDF石田の攻撃的な良さを発揮した。94ジャパンのときは、現在、J1の新潟でレギュラーの右SBとして活躍しているDF川口の攻撃参加が武器となっていたが、以前、吉武監督は、「サイドバックの選手がチームの得点王になることが理想」と語っていた。よって、右SBというのは、吉武サッカーにおいては、非常に重要なポジションと言えるが、いいところにポジションを取ってチャンスに絡んだ。
DF石田は2試合連続スタメンだったが、初戦のロシア戦は控えめだった。相手の左サイドの選手の攻撃力を警戒していたことが理由なのか、中盤でタメを作れなかったことが理由なのか、左SBのDF坂井が高いポジションを取って左偏重だったことが理由なのか、定かではないが、攻撃においては見せ場は少なかった。U-16アジア選手権では、DF石田の攻撃参加が武器になっていたので、「おとなしい。」と感じたが、この日は、積極的だった。
■ 才能豊かな杉本太郎2ゴール1アシストと文句なしの結果を残した前橋育英高校のFW渡辺凌も試合を通して目立っていた。プレーに関与する回数では、右サイドのFW中野の方が多かったかもしれないが、FW渡辺凌も行けそうなときは積極的にドリブルで仕掛けて、3点目は彼のドリブル突破がPK獲得につながった。右足のシュートはパンチ力があって、突破もできて、判断も的確で、あらゆる能力を高いレベルで兼ね備えている選手である。
U-16日本代表の中でもっとも注目を集めているFW杉本は、前半7分に先制ゴールをマークした。その後も、何度か決定機を迎えたが決めることはできなくて、勝利を決定付ける働きはできなかったが、マークが1人くらいならば、簡単に抜いてしまう。右SBのDF石田、CBのDF宮原も将来性を感じる選手であるが、やはり、現時点では、帝京大可児高校のFW杉本が「96ジャパン」の中でもっとも大成しそうな雰囲気がある。
卒業後は鹿島アントラーズへの入団が決まっている。何年か前までは、小柄なドリブラータイプの選手は、「上のレベルではフィジカルでつぶされるのではないか?」という風な心配をされたが、MF香川などが小柄な日本人選手の生きる道を示してくれたので、風向きは変わってきている。小柄であることが「弱点」とはならなくて、むしろ、「小ささ」を武器にしている選手が増えてきたので、FW杉本も162センチを武器にして欲しいところである。
この日も先制ゴールをマークしたが、ドリブルで相手をかわすだけでなく、大事な試合でゴールを決めることができる点に魅力を感じる。日本人のドリブラーは「ドリブルは上手いけれども、シュートは上手くない。」という選手が多くて、「得点力」が課題に挙げられることが多いが、FW杉本はアジア予選の頃から、いいところでゴールを決めてチームを助けている。結局のところ、評価されるのは「点の獲れる選手」なので、得点にはこだわり続けてほしい。
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