■ アクチュアル・タイム Football LABさんの各種データの中で、もう一つ、面白いと思うのが、アクチュアル・タイムに関する数字で、「51分未満のとき」、「51分以上54分未満のとき」、「54分以上57分未満のとき」、「57分以上のとき」の4つに分けて、各チームがそれぞれの場合で、どんな成績を残しているかについて、まとめている。
・Football LAB
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http://www.football-lab.jp/ ・アクチュアルタイムについて (J1)
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http://www.football-lab.jp/summary/other_summary/j1/?year=2012 ・アクチュアルタイムについて (J2)
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http://www.football-lab.jp/summary/other_summary/j2/?year=2012 ■ アクチュアル・タイムの長い浦和と広島 アクチュアル・タイムとは、「試合中にプレーが途切れた時間を除いた実際のプレー時間」のことで、一般的には、『アクチュアル・タイムが長い試合ほど、面白い試合になりやすい。』と言われているが、まず、J1のクラブが、どうだったのかを抜き出してみた。(※ 勝敗に関する記録も公表されているが、ここでは、数だけを抜き出してみた。 )
もちろん、アクチュアル・タイムは、相手方の事情も絡んでくるので、自チームだけでどうにかできる話ではないが、表を見ると、浦和と広島の2チームの突出度は、一目瞭然である。過去数年間は、広島がアクチュアル・タイムの長さでリーグナンバー1というが、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督はさすがという感じである。
アクチュアル・タイムが長い試合というのは、「ボールがタッチラインやエンドラインを割る回数が少ない。」、「オフサイドが少ない。」、「リスタートのときに素早く再開する。」などが挙げられる。ゆっくりと時間をかけてセットしてからボールを蹴ることも、1つのやり方なので、否定はできないが、広島にしても、浦和にしても、ゴールキックになったとき、すぐにプレーを再開するので、ストレスを感じずに試合を観ることができる。
■ アクチュアル・タイムの短い仙台意外に思うのは、リーグ戦で最下位に低迷している札幌が、アクチュアル・タイムの長い試合が多いことで、「57分以上の試合」の回数は、浦和と広島に次いでリーグ3位となっている。これについては、どうしても戦力で劣るチームなので、もう少し、アクチュアル・タイムが短くなった方が、勝ち点につながりやすいと思うので、解せないところである。
同じ昇格組の鳥栖は、リーグの平均よりも、少し短い程度になっている。鳥栖には、ロングスローという大きな武器があって、ロングスローを投げるときは、センターバックの選手も前線に上がっていくので、そこで、時間をロスすると思われる。よって、アクチュアル・タイムが短い試合が多くなっても不思議ではないが、それほど、極端な数字にはなっていない。 これも意外である。
逆に、「51分未満」の試合が多いのは、首位を走っている仙台で、リーグ最多の7試合を数えている。したがって、札幌のケースとは真逆で、仙台のペースを乱すには、できるだけアクチュアル・タイムを長くしたいところで、アクチュアル・タイムが長い浦和であったり、広島であったり、そういったチームと対戦したとき、どういう試合になるのか、どういう結果になるのかは、見どころと言える。
表1 クラブ別のアクチュアル・タイム(J1)
| 51分未満 | 51分以上54分未満 | 54分以上57分未満 | 57分以上 |
札幌 | 2 | 14.3% | 1 | 7.1% | 2 | 14.3% | 9 | 64.3% |
仙台 | 7 | 50.0% | 2 | 14.3% | 3 | 21.4% | 2 | 14.3% |
鹿島 | 1 | 7.1% | 2 | 14.3% | 4 | 28.6% | 7 | 50.0% |
浦和 | 0 | 0.0% | 0 | 0.0% | 1 | 7.1% | 13 | 92.9% |
大宮 | 2 | 14.3% | 0 | 0.0% | 3 | 21.4% | 9 | 64.3% |
柏 | 4 | 30.8% | 4 | 30.8% | 2 | 15.4% | 3 | 23.1% |
F東京 | 1 | 7.7% | 4 | 30.8% | 0 | 0.0% | 8 | 61.5% |
川崎F | 1 | 7.1% | 2 | 14.3% | 3 | 21.4% | 8 | 57.1% |
横浜FM | 5 | 35.7% | 4 | 28.6% | 3 | 21.4% | 2 | 14.3% |
新潟 | 4 | 28.6% | 0 | 0.0% | 4 | 28.6% | 6 | 42.9% |
清水 | 3 | 21.4% | 6 | 42.9% | 2 | 14.3% | 3 | 21.4% |
磐田 | 3 | 21.4% | 2 | 14.3% | 5 | 35.7% | 4 | 28.6% |
名古屋 | 2 | 15.4% | 2 | 15.4% | 4 | 30.8% | 5 | 38.5% |
G大阪 | 0 | 0.0% | 1 | 7.7% | 3 | 23.1% | 9 | 69.2% |
C大阪 | 2 | 14.3% | 3 | 21.4% | 3 | 21.4% | 6 | 42.9% |
神戸 | 5 | 35.7% | 4 | 28.6% | 0 | 0.0% | 5 | 35.7% |
広島 | 0 | 0.0% | 2 | 14.3% | 0 | 0.0% | 12 | 85.7% |
鳥栖 | 4 | 28.6% | 3 | 21.4% | 4 | 28.6% | 3 | 21.4% |
| 46 | 18.5% | 42 | 16.9% | 46 | 18.5% | 114 | 46.0% |
■ J2の場合は・・・ 次に、J2のアクチュアル・タイムを抜き出してみた。こちらで、「57分以上の試合」が多いのは、岡山(9試合)、町田(8試合)、北九州(6試合)、FC岐阜(5試合)の4チームで、千葉・横浜FC・鳥取・徳島が、各4試合で続いている。こちらも、ショートパス主体のサッカーを見せている岡山・町田・北九州というチームが上位に入っており、違和感は少ない。
意外に感じるのは、パスサッカーを志向している京都の数字が伸びていないことで、「57分以上」の試合は3試合だけである。その理由を考えてみると、京都には、MFチョン・ウヨンという優秀なプレイスキッカーがいて、セットプレーも大きな武器となるので、「落ち着いてボールをセットして、得点につなげたい。」という意図があるのでは?と思われる。
また、京都は戦力が充実しているので、相手チームは「京都ペース」にならないように、意図的にプレーを遅らせて、京都の選手が気分よくプレーできないように駆け引きしているのでは?とも考えられる。
表2 クラブ別のアクチュアル・タイム(J2)
| 51分未満 | 51分以上54分未満 | 54分以上57分未満 | 57分以上 |
山形 | 10 | 50% | 4 | 20% | 5 | 25% | 1 | 5% |
水戸 | 9 | 45% | 7 | 35% | 3 | 15% | 1 | 5% |
栃木 | 14 | 70% | 5 | 25% | 1 | 5% | 0 | 0% |
草津 | 9 | 45% | 8 | 40% | 2 | 10% | 1 | 5% |
千葉 | 4 | 20% | 6 | 30% | 6 | 30% | 4 | 20% |
東京V | 9 | 45% | 8 | 40% | 1 | 5% | 2 | 10% |
町田 | 4 | 20% | 4 | 20% | 4 | 20% | 8 | 40% |
横浜FC | 3 | 15% | 5 | 25% | 8 | 40% | 4 | 20% |
湘南 | 11 | 55% | 4 | 20% | 3 | 15% | 2 | 10% |
甲府 | 6 | 30% | 6 | 30% | 5 | 25% | 3 | 15% |
松本 | 11 | 55% | 5 | 25% | 4 | 20% | 0 | 0% |
富山 | 10 | 50% | 6 | 30% | 2 | 10% | 2 | 10% |
岐阜 | 5 | 25% | 8 | 40% | 2 | 10% | 5 | 25% |
京都 | 7 | 35% | 7 | 35% | 3 | 15% | 3 | 15% |
鳥取 | 6 | 30% | 5 | 25% | 5 | 25% | 4 | 20% |
岡山 | 3 | 15% | 5 | 25% | 3 | 15% | 9 | 45% |
徳島 | 6 | 30% | 9 | 45% | 1 | 5% | 4 | 20% |
愛媛 | 8 | 40% | 8 | 40% | 2 | 10% | 2 | 10% |
福岡 | 7 | 35% | 8 | 40% | 2 | 10% | 3 | 15% |
北九州 | 4 | 20% | 5 | 25% | 5 | 25% | 6 | 30% |
熊本 | 12 | 60% | 5 | 25% | 3 | 15% | 0 | 0% |
大分 | 10 | 50% | 6 | 30% | 2 | 10% | 2 | 10% |
| 168 | 38.2% | 134 | 30.5% | 72 | 16.4% | 66 | 15.0% |
■ J1とJ2の差最後に、J1とJ2の数字をまとめてみると、以下のようになって、リーグで大きな差があることが分かる。アクチュアル・タイムは、パスをつないでいくチームが多いほど、長くなる傾向にあるので、技術のある選手が多いJ1の方が、プレー時間が長くなるのは自然なことであるが、それにしても、差があり過ぎる。
表3 J1とJ2の比較
| 51分未満 | 51分以上54分未満 | 54分以上57分未満 | 57分以上 |
J1 | 18.5% | 16.9% | 18.5% | 46.0% |
J2 | 38.2% | 30.5% | 16.4% | 15.0% |
比較すると、「57分以上」の試合は、J1が「46.0%」であるのに対して、J2は「15.0%」で、1/3以下である。逆に、「51分未満」は、J1が「18.5%」で、J2は「38.2%」である。チーム別でみると、栃木SC・松本山雅・熊本の3チームは「57分以上」がゼロで、ほとんどの試合が「57分以上」である浦和や広島と比べると、大きな差になっている。
松本山雅などは、ファールを得たとき、かなり時間をかけて、リスタートを始めるが、これも1つのやり方であり、昇格1年目のチームが勝ち点を稼ぐ方法の1つである。したがって、J1でも、J2でも、上がってきたばかりのチームに「アクチュアル・タイムを伸ばすこと」を要求するのは、酷な話であり、サッカーの多様性を損なうことにもつながるので、注意すべきであるが、やはり、面白い試合を多くして、観客動員数を伸ばすためには、プレー時間を増やして、エキサイティングなシーンを多くすることは、絶対に必要である。
特に、J2の場合は、スター選手の数であったり、技術や戦術のレベルでは、絶対にJ1に見劣りする。また、スタジアムなどの設備面でも、整っていないケースが多い。今シーズンから、原則として、J1が土曜日開催で、J2が日曜日開催となったので、競合する可能性は低くなっているが、J2の各クラブは、今後は、J1のクラブとサポーターの取り合いをしなければならないが、現状で、ここまで、アクチュアル・タイムに差があると、J1と「試合の面白さ」で勝負していくのは、不可能である。
前述のとおり、技術的な差は埋めようがないので、アクチュアル・タイムでJ1を上回るというのは無理な話であるが、ここまで大きな差があるのは、問題である。そろそろ、リーグ全体で、どうにかしなければならない状況に突入していると思うし、観客動員数の伸び悩みで苦労しているチームは、「アクチュアル・タイム」を伸ばすことで、何かきっかけを得ることができるかもしれない。
備考
※ 数値は、6/22(金)時点のものです。
※ なお、ブログなどで、このデータを用いるためには、Football LABさんに承諾を得る必要がありますので、データの取り扱いには注意してください。
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