■ 2005年のファイナル2005年のナビスコカップ・ファイナル。ともに初めてのタイトルを狙うジェフ千葉とガンバ大阪が東京の国立競技場で対戦。
イビチャ・オシム監督率いる千葉は<3-6-1>の布陣。オーストリア代表でも活躍したFWマリオ・ハースは出場停止でFW巻の1トップ。GK立石。DF斎藤・ストヤノフ・結城。MF阿部・佐藤勇・山岸・坂本・ポペスク・羽生の中盤。FW巻誠一郎。MF阿部とMF佐藤勇のダブルボランチで、右に山岸、左に坂本。トップ下に羽生とポペスクが並ぶ。FW巻はこのシーズンに初めて二桁ゴールをマークし、初めて日本代表に選ばれている。
このスターティングメンバーを見ると、現在もこのチームに残っているのは、GK立石、DF斎藤、DF結城、MF坂本、FW巻の5人。ベンチにはMF水野、DF水本、FW林といった選手も控える。今振り返ると、さながらOB戦のような豪華メンバーである。
対するG大阪は<3-4-3>に近い布陣。GK藤ヶ谷。DF實好・シジクレイ・山口。MF遠藤・橋本・松下・二川。FWフェルナンジーニョ・アラウージョ・大黒の3トップ。こちらも現所属選手は5人だけ。スタメンには、FWアラウージョ、FW大黒といった懐かしい名前がそろっている。日本代表のキャプテンだったDF宮本は怪我のためベンチスタート。FW吉原、FW松波といった選手もベンチに控える。
■ ファイナルの死闘試合は両チームとも死力を尽くしたファイナルにふさわしい試合となった。シュート数はG大阪が22本で対する千葉が11本とややG大阪の方にチャンスの数は多かったが、チャンスの質という意味では同等だった。延長戦も含めて120分間、いつでもゴールが生まれそうな状況が続いていた、結局、最後までゴールは生まれなかった。
結局、PK戦の末、ジェフ千葉が勝利し、初タイトルを獲得。しかしながら、両チームともが攻撃的で、全力を尽くした末の結末であり、「サッカーでは得点が入らなくても面白い試合がある。」という格言を証明する好試合となった。
■ 強力なトライアングル敗れたG大阪は、この年のJリーグを席巻したFWアラウージョ中心のチーム。リーグ戦では33試合で33ゴールを挙げた脅威的なストライカーはファイナルの舞台でも力を発揮した。
彼のスピードに乗ったドリブルと正確無比な左足は危険極まりなく、またやみくもに突破やシュートを狙うだけでなく、味方を生かす術も心得ているのが、相手にすると厄介なところであり、ほとんどのチャンスはFWアラウージョ絡みのものであった。
そのFWアラウージョと前線でトリオを組んだのが、日本代表のFW大黒と現清水のFWフェルナンジーニョ。FW大黒の幅の広い動きとFWフェルナンジーニョのドリブルはFWアラウージョの動きとうまくマッチして、破壊的な攻撃を演出した。
ただ、一方で、このような強力な3トップを擁していたこともあって、G大阪の攻撃は前後分断気味で、なかなか厚みのある攻撃は出来ない。日本代表のMF遠藤がボランチで出場しているが、MF遠藤の存在感はそれほど高くなく、このあたりのチーム全体の成熟度という意味では、現在のチームと比べるとやや劣る。
G大阪はこのシーズンにリーグタイトルを獲得するが、チームとして成熟していくのは、その次の年以降のことであり、オフにFWアラウージョとFW大黒を失うが、日本代表のDF加地、MF明神、FWマグノ・アウべスを獲得し、さらに期待のMF家長がレギュラーポジションを取るなど、円熟度を増していく。
■ ハイライトゲーム一方、ジェフ千葉を見ると、このファイナル以後にステップアップに成功したG大阪と比べると、このファイナルがチームとしての1つのピークだったともいえる。
もちろん、MF羽生、MF山岸、MF工藤、MF水野、DF水本といった選手は、このファイナル以降にプレーヤーとして急激な成長を見せていくわけであるが、チーム全体で考えるともっともチームとして完成されていたのがこの頃であり、オシム千葉のハイライトといえる試合であった。
攻撃の核であるFWハースを欠いたが、攻守ともに主体的に戦う姿勢がチーム全体に行き届いており、G大阪の破壊的な前線に対して、一歩も引かなかった。GK立石の神がかり的なセーブに助けられた面もあったが、試合途中にMF工藤、MF水野、FW林と次々と攻撃的なタレントを投入していくオシム采配は見ごたえ十分であった。
■ 抜群のダブルボランチ①千葉は攻守の要であるMF阿部とMF佐藤のダブルボランチの活躍が際立っていた。
攻撃的な姿勢で前にスペースがあればどんどん飛び出して行ってチャンスに絡んでいくMF佐藤勇と相手FWフェルナンジーニョを徹底的に監視しつつも、機を見て攻撃にも絡んでいくMF阿部。ジェフユース以来積み重ねてきたこの2人のコンビネーションは抜群であった。
間違いなく、重心であるダブルボランチがしっかりとしているからこそ、チーム全体が攻撃的で流動的に仕掛けが出来ているといえる。「そのまま、このコンビを代表で起用してはどうでしょうか?」とジーコ監督に問いかけたくなるほどの出来だった。
■ 抜群のダブルボランチ②こういうプレーを見ると、やはりMF阿部はボランチで起用するのがベストだなという思いを強くする。確かに2007年に浦和レッズに移籍して以降はセンターバックでプレーすることが多くなり、センターバックとしても新境地を開いているが、セットプレーからのゴールも多かったとはいえ、05年にリーグ戦で12ゴール、06年にも11ゴールをマークしている選手である。
浦和に移籍してからも、時折、セットプレーからファインゴールを見せることもあるが、攻撃的な部分での危険性という意味では、ポジションの問題もあるが、減衰してしまったということが残念でならない。
■ オシムが伝えたいもの①千葉は、右にMF山岸を起用し、左にMF坂本を配置した。この頃によく見られた采配であるが、オシム監督は、相手の選手の能力を考えて左右の配置を変化させることが多かった。
この試合のG大阪は右MFが松下で、左MFが二川。右のMF松下はやや守備的なキャラクターで、左のMF二川はトップ下タイプの選手で守備はそれほど得意ではない。今ほど成熟した選手ではなかったとはいえ、MF二川の攻撃的なプレーは千葉としては危険な存在であったが、そこにMF山岸をマッチアップさせることで、MF二川の存在を消そうとした。
オシム監督の選手起用の特徴は明確で、1対1に強い選手を優遇する。ここでいう1対1とは、単にドリブルで突破できたりシュートに持ち込む能力に優れた選手という意味ではなく、攻守両面において90分に渡って対面する選手とのマッチアップに勝利することのできる選手である。
そういう意味では、攻守にわたってMF山岸が優遇される理由も明確であり、06年に行われた日本代表のガーナ戦が特徴的であるが、同じウイングで起用されたFW佐藤寿人が相手のサイドバックとの引っ張り合いに敗れて主導権を握られたのとは対照的に、MF山岸は体の強さをベースにフィジカルでも負けずに、攻撃的な良さを発揮することで相手のサイドバックの存在を消すことに成功した。
■ オシムが伝えたいもの②オシム監督は日本代表に就任すると、これまでの日本サッカー界で優秀な選手だと考えられていた選手の多くを日本代表から外し、実績は乏しいが運動量があって攻守ともにチームに貢献の出来る選手を多く代表に抜擢した。
この思い切った選手選考は、スター選手を望むマスメディアや一部のサポーターからは非難を浴びたが、それでも当時の歪んだ代表チームと日本サッカーにとっては必要なことであったといえるだろう。いい選手というのは攻守ともにチームに貢献の出来る選手であり、スポット的に華やかな活躍ができる選手ばかりが脚光を浴びる状態は、健全とはいえなかった。
もちろん、そのすべてがオシム監督の功績ではないが、ドイツW杯以降、明らかに俯瞰的な視野をもってサッカーを語ることのできる人が増えてきている。スタジアムで、ゴールに直結するプレーを見せた選手だけでなく、ハードワークした選手に対しても、同じくらいの声援が与えられるような環境が整ってきたのは、ここ数年の出来事である。
オシム監督がジェフ千葉の監督に就任することなく歴史が進んでいたとしたら、今でも日本では、「3バックか4バックか論争」が続いていたのだろうか?「ファンタジスタ至上主義」が続いていたのであろうか?
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