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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 08 2004

ローレンス・ブロック『砕かれた街(上)』(二見文庫)

 あのローレンス・ブロックが、9.11同時多発テロをきっかけにして書いたというノン・シリーズ作品が『砕かれた街』。本国では賛否両論分かれたと聞いているが、確かに微妙な作品かも。感想は下巻読了時に。


三好徹、他『東京銀座ミステリー傑作選』(河出文庫)

 河出文庫の御当地ミステリー集から『東京銀座ミステリー傑作選』を読む。横溝正史や大下宇陀児、日影丈吉あたりを目当てに買ったもので、他の作家も大御所揃い。さすが文壇の方々だけに銀座は皆詳しそうだ。収録作品は以下のとおりだが、横溝正史と三好徹による銀座に関するエッセイを二篇載せているのが、ちょっとおまけっぽくてよい。
 ただ、全体的にはいまいち低調である。銀座もあくまで小道具にすぎず、ミステリとしても弱い。以前に読んだ『紀州ミステリー傑作選』や『沖縄ミステリー傑作選』あたりに比べると完全に一枚落ちる出来であろう。

横溝正史「銀座小景 或は、貧しきクリスマス・プレゼント」(エッセイ)
三好徹「魅惑の街・銀座」(エッセイ)
日影丈吉「美人通り魔」
大下宇陀児「銀座綺譚」
横溝正史「霧の中の女」
菊村到「ふしぎな紳士」
加納一朗「怪談銀座稲荷」
黒岩重吾「青ざめた装飾」
梶山季之「銀座祭り殺人事件」
赤川次郎「「通」」
三好徹「銀座心中」


中村圭子/編『石原豪人「エロス」と「怪奇」を描いたイラストレーター』(河出書房新社)

 あらゆる「怪奇現象」や「妖怪」「怪人」「怪獣」を描き続け、挿絵の世界で大活躍したイラストレーターがいる。その名は石原豪人。
 今、東京は上野にある弥生美術館において、その石原豪人の展覧会が開かれているが、その企画の一環だろう『石原豪人「エロス」と「怪奇」を描いたイラストレーター』という本が出た。

 などと書いてはみたものの、白状すると今まで石原豪人という名前などまったく知らなかった。だが、彼の書いたイラストが少年誌を飾っていた当時、こちらはまさに小学生だったため、リアルタイムで彼のイラストには接していたのである。
 ページを開くと見覚えのあるイラストも多く、まず懐かしさが先にたつ。だがあらためて一枚ずつイラストを追っていくと、そのあまりに独特のタッチに酔わされる羽目になる。

 石原豪人の絵の特徴は、力強さとエロスだ。本に収録された数々のイラストは、先に書いたように多くが「妖怪」「怪人」「怪獣」等を扱っているが、どれもリアルなうえに妙な色気をもっているため、思わず引き込まれてしまうのである。実際、少女雑誌などからはもっと色気を抑えて描くように注文が入ったと言う話も載っている。
 いまのところ彼の業績をこのような形で残した本は、この『石原豪人「エロス」と「怪奇」を描いたイラストレーター』のみ。イラストにビビッときた人なら間違いなくオススメの一冊であろう。


iPod三昧

 ipodのおかげで何年振りかで音楽漬けの日々が続いている。といっても三日ぐらい、しかも通勤電車のなかぐらいなのだが(苦笑)。ただ、そのせいでこの二、三日というものほとんど本を読んでいない。読むのはもっぱら歌詞カード。
 ちなみに聴いているのは昔懐かしいレインボーやクイーン、スパンダー・バレエ、デュランデュランあたり。あまり脈絡がないが、基本的にはブリティッシュ・ロックが好きなのである。妙なところではペンギン・カフェ・オーケストラなんてのも好み。

藤井淑禎/編『国文学解釈と鑑賞別冊 江戸川乱歩と大衆の二十世紀』(至文堂)

 先日の乱歩展とのコラボレーション企画というところか。本日の読了本は『国文学解釈と鑑賞別冊 江戸川乱歩と大衆の二十世紀』。
 叢書の性格を考えれば当然なのだが、ミステリとして純粋に解説したものではなく、文学的・社会学的アプローチの評論集である。個人的にはこういうのも嫌いではない。乱歩の残した業績はミステリ的価値だけでは括れないものであり、そういう意味でさまざまな研究が行われていくことが理想である。

 ただ、執筆者の方々はミステリをどの程度読んだ上で書いているのだろうか。いわゆるミステリ関係の執筆者がほとんどいないのである。
 ミステリ以外の部分から評価するにしても、最低限ミステリ作家としての乱歩の価値・ポジションは認識しておく必要があるだろう。なかにはちょっとピンと来ない叙述もあったので、気になったところである。

江戸川乱歩展

 東武池袋本店で開催されている江戸川乱歩展を観にいく。
 今回の目玉は何といっても蔵の公開だが、なんせ物が物だけに完全公開など無理に決まっている。入り口程度でお茶を濁されるだろうと思っていたが、まさにそのとおりで、期待以上でも以下でもなし。
 ただ、三十前後の頃、この近所に住んでいたこともあり、懐かしさもあって個人的にはいい記念になった。

 一方、東武デパート内の乱歩展。とにかく直筆原稿の多さに驚く。並の文豪の展覧会ではここまで生原稿など展示できまい。さすがに自分史を作ることに人一倍情熱を燃やしただけのことはあり、原稿はもちろん手紙やメモの類に至るまで圧倒的な量を誇る。これでもかというぐらいの生原稿、そして生貼雑年譜を見せられ、なかなか満足度は高い。
 ちょっと意外だったのは、人の多さ。東武デパート、蔵のどちらも入場制限があるほどの盛況ぶりである。ミステリファンはともかく一般人に対して「乱歩」がどの程度の訴求力を持っているのか、これは主催者もちょっとなめていた部分があるのではないだろうか。会期が短く、土日も一回しか含まないので、一気に集中した感じはある。せめて二週間あればもっとよかったかも。

宮脇修一『造形集団海洋堂の発想』(光文社新書)

 宮脇修一の『造形集団海洋堂の発想』読了。フィギュアや食玩で泣く子も黙る海洋堂の歴史を描いた新書で、著者はその海洋堂の専務=二代目である。
面白いのは、名を成した会社の成功物語にありがちなビジネス臭があまりないこと。なんせ海洋堂自体が行き当たりばったりのビジネスしか行わず、経営陣にしても、まともに会社を運営する気も力もあまりなさそうである(笑)。
今の景気も、現代の需要と会社の志向がたまたま一致しただけのことであり、いわゆるビジネス書としての役にはまったく立たないだろう。ただ、それだけに読み物としては面白い。これだけ浮き沈みのある会社っていうか、教訓を生かさない会社って(笑)。


デイヴィッド・グーディス『ピアニストを撃て』(ハヤカワミステリ)

 ipod購入。MP3というよりは外付けHDDの代わり。でもさすがにアップルはデザインが上手い。

 読了本はデイヴィッド・グーディスの『ピアニストを撃て』。『狼は天使の匂い』もよかったが、これもまたよし。
 場末の酒場でしがないピアニストをして暮らすエディ。そこへ久しぶりに再会する兄が現れる。兄はギャングとのトラブルを抱えており、エディに一晩かくまってくれと依頼する。心に暗黒を抱えるエディは兄といえども関わりを拒否するが、否応なくトラブルに巻き込まれることになる……。

 巧い。巧すぎ。
 主人公の抱える暗黒こそがテーマだが、そこに血の絆や恋愛といったいくつもの心的要素をつぎ込み、さまざまな葛藤をぶつけあう。現代の犯罪小説ほどの仕掛けや激しい描写はない。しかし、この抒情あふれる語りこそノワールなのだ。ラストシーンの余韻のなんと切ないことよ。


山田風太郎『天狗岬殺人事件』(出版芸術社)

 出版芸術社の山田風太郎コレクションから『天狗岬殺人事件』を読了。この山田風太郎コレクションというのは、単行本未収録や長らく絶版状態になっていたものをまとめた全三冊のシリーズで、いかにも出版芸術社らしい企画。ありがたやありがたや。
 まずは収録作から。

「天狗岬殺人事件」
「この罠に罪ありや」
「夢幻の恋人」
「二つの密室」
「パンチュウ党事件」
「こりゃ変羅」
「江戸にいる私」
「贋金づくり」
「三人の辻音楽師」
「新宿殺人事件」
「赤い蜘蛛」
「怪奇玄々教」
「輪舞荘の水死人」
「あいつの眼」
「心中見物狂」
「白い夜」
「真夏の夜の夢」

 以上全17編。玉石混淆気味なところもあるが、山風ファンであれば文句なしに買いの一冊。
 特に興味深かったのは、「三人の辻音楽師」から「輪舞荘の水死体」までの五作。実はこの五作、「女探偵捕物帳」という本格ものの連作短編なのだが、なかなか凝った構成をとっている。沖縄で起こったある事件の復讐のため、姫と少年と爺の三人組はどさ回りをしながら、復讐相手たちを捜して旅を続けている。そして毎回、復讐相手を見つけだすことには成功するが、彼らはたいてい事件に巻き込まれており、三人組が復讐を遂げる前に他の誰かに殺されているのだ。結局その謎を解き明かす羽目になるのが三人組という、なんとも不条理なシリーズなのである。
 一つひとつの作品もまずまず楽しめるが、残念なのは、どうやらこのシリーズが収録されている五作で中断したらしいことである。山田風太郎はこの手の連作、例えば『妖異金瓶梅』や『誰にもできる殺人』でもわかるように、たいていシリーズそのものに対する仕掛けをかましてくるのは有名な話。短編でありながら長篇としても成立する構成。毎回の定型を逆手に取ったトリック。この妙技をおそらく「女探偵捕物帳」でも狙っていたはずである。それが読めなかったのが唯一の心残りだ。

 他の作品では比較的コミカルな作品が多いけれども、その手のものよりは独特のムードがいかにも山田風太郎らしい「天狗岬殺人事件」がやはり素晴らしい。


ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』(新潮社)

 今までの真夏日が嘘のような、実に涼しい一日。これでも28度はあったそうで、28度がこんなに涼しく感じられるというのもすごい話である。

 読了本はジュンパ・ラヒリの『停電の夜に』。ミステリではなく、新潮社のクレストブックスからの一冊。のっけから話がそれて恐縮だが、このクレストブックスは現代の海外文学を愛好する者にとって大変嬉しいシリーズである。翻訳される早さ、その質の高さもさることながら、美しい装丁も魅力のひとつ。軽めの紙もよし。本書を含め『朗読者』や『アムステルダム』などといったヒット作も生まれているようだし、ぜひこのままがんばってもらいたいシリーズなのだ。

 さて、『停電の夜に』である。
 本書もクレストブックスのイメージを裏切ることのない、美しくもほろ苦い話が詰まった短編集だ。
 著者はイギリスに生まれ、幼少時代にアメリカへ渡ったインド系アメリカ人。作品のベースにはもちろんある程度の民族性が反映されているが、それを前面に出すようなことはない。また、どの話も比較的淡々と流れてゆき、大きな事件が起こることもない。描かれるのは人の細やかな感情の流れであり、小さな悲喜劇である。文体も淡く儚く、日頃血なまぐさいミステリを読んでいる身には心洗われる思いである。おすすめ。


小林信彦『回想の江戸川乱歩』(光文社文庫)

 まもなく東武百貨店池袋本店で行われる「江戸川乱歩と大衆の20世紀展」の話題があちらこちらで見受けられる。江戸川乱歩展の類は今までにもいろいろあったが、今回はあの「蔵」が公開されるとあって、期待している人も多いのだろう。もちろん私も行きます。2年ほどあの付近に住んでいたこともあって、個人的にも思い入れのある地なのだ。

 で、そのイベントに便乗したのだろうが、光文社文庫から小林信彦の『回想の江戸川乱歩』が復刻された。
 江戸川乱歩に誘われて「宝石」の編集者として過ごした若き日の小林信彦。その思い出を綴ったエッセイ集だが、実弟の泰彦氏との対談、エッセイのそのまま小説化したような「半巨人の肖像」も収録しているのがミソ。
 後年、ビジネスマンとして「宝石」を支える江戸川乱歩の素顔は、戦前のエログロのイメージを払拭する常識人であった。著者の乱歩に対する眼差しはなんともいえず温かく、乱歩ファンならずとも読んでもらいたい一冊。


小栗虫太郎『二十世紀鉄仮面』(扶桑社昭和ミステリ秘宝)

 アテネオリンピック開幕。時差がかなり香ばしく、また、けっこうな寝不足になりそうな予感。とりあえず女子サッカーの1試合目はしっかり楽しめた。ほんとにメダルいけそう。

 読了本は小栗虫太郎の『二十世紀鉄仮面』。
 扶桑社文庫から出たもので、『失楽園殺人事件』と合わせれば法水麟太郎ものがすべて網羅できるという優れものである。収録作は「二十世紀鉄仮面」「国なき人々」「悪霊」「小栗虫太郎小品集」「付録」。

 目玉となる長篇「二十世紀鉄仮面」は、後のロマンティズム溢れる秘境冒険物との架け橋となる作品として有名だが、四ヶ月前に読んだばかりなのでここでは省略。小栗作品の中では読みやすい方だとは思うが、さすがに中四カ月では再読する気になれない(苦笑)。
 その他の作品では、(といってもそんなに残ってないが)、遺作を笹沢左保が書き継いだ「悪霊」が印象的。小栗&笹沢という組み合わせがどのような経緯によるものなのか浅学にして知らぬが、意外にもミスマッチな感じはなく、笹沢左保の芸達者振りが見られて楽しい(といっても小栗の文体模写ははなから捨てているようで文章はかなり平易ですが)。また、小栗の構想について海野十三が解説しており、そちらも興味深い。テーマ自体はかなり重いので、小栗が最後まで書いていたらもの凄い作品になっていたような気はする。

 あと、本編ではないが、小栗虫太郎の小品や、様々な作家の小栗論やエッセイを集めた「付録」もお得感あり。万人に勧められる作品集ではないが、個人的には満足の一冊である。


角田喜久雄『高木家の惨劇』(春陽文庫)

 角田喜久雄の『高木家の惨劇』読了。実はこれで二度目の読了になるのだが(ちなみに初読は創元推理文庫版『大下宇陀児・角田喜久雄集』)、以前にも増して傑作の感を強くした。まずはストーリーから。

 喫茶店で飲物に蜘蛛が入っていると騒ぎ出した青年がいた。あまりの度を越した口調に、呆気にとられる周りの客たち。だが隣の席に座っていた男だけは、青年が自ら蜘蛛を飲物に入れるところを目撃していたのだった。青年はいったい何の目的で、そんなことをしたのか? 
 同じころ、有数の資産家、高木家の当主、孝平が自宅のベッドで射殺されるという事件が起こり、捜査一課の加賀美が犯人究明に乗り出す。容疑者は家族や関係者ごく少数の人間に絞られるが、誰もが強い動機をもっており、全員が怪しいという状況だった。だが同時に、彼ら全員には確固としたアリバイも存在していた……。

 本作は角田喜久雄の代表作であると同時に、戦後の本格探偵小説復興の一翼を担った作品でもある。だがその割には知名度が低く、同時代の『本陣殺人事件』『不連続殺人事件』などに比べてあまり語られることは少ない。考えられる要因としては、メインの密室トリックが弱いこと、そして舞台設定やストーリーが地味なことか。
 しかし、本作の見所はもちろんそんなところにあるのではない。例えば密室トリックは弱いものの、その裏に隠された本当の作者の狙いは今読んでもアッと言わされるものだ。また、ストーリーは地味ながら語り口が非常に巧い。シムノンのメグレ警視ものを彷彿とさせる加賀美の捜査の過程も、派手ではないが決して退屈することがない。とりわけ絞りに絞った容疑者たちと探偵役の加賀美警視のさまざまな対決シーンは、戦前から伝奇小説でならした作者ならではのものだろう。
 本作は短いページ数のなかに、数々の旨味がギュッと圧縮した傑作であり、魅力ある探偵小説なのだ。おすすめ。


エドワード・D・ホック『サム・ホーソーンの事件簿II』(創元推理文庫)

 エドワード・D・ホックの『サム・ホーソーンの事件簿II』読了。
 ノースモントはアメリカのどこにでもあるのどかな田舎町。ところがなぜかそこは不可能犯罪が頻発する不思議な町でもあったのだ(笑)。探偵役の青年医師サム・ホーソーンはレンズ保安官に請われ、数々の難事件を解決してゆく。
 収録作は以下のとおり。
 
The Problem of the Revival Tent「伝道集会テントの謎」
The Problem of the Whispering House「ささやく家の謎」
The Problem of the Boston Common「ボストン・コモン公園の謎」
The Problem of the General Store「食料雑貨店の謎」
The Problem of the Courthouse Gargoyle「醜いガーゴイルの謎」
The Problem of the Pilgrims Windmill「オランダ風車の謎」
The Problem of the Gingerbread Houseboat「ハウスボートの謎」
The Problem of the Pink Post Office「ピンクの郵便局の謎」
The Problem of the Octagon Room「八角形の部屋の謎」
The Problem of the Gypsy Camp「ジプシー・キャンプの謎」
The Problem of the Bootlegger's Car「ギャングスターの車の謎」
The Problem of the Tin Goose「ブリキの鵞鳥の謎 」
The Oblong Room「長方形の部屋」(ノン・シリーズ作品)

 基本的にはいつものホック。これだけの不可能犯罪をさらりとこなしてしまうところは感嘆に値するが、クセのなさもあって少々薄味。サムという主人公、牧歌的な設定も影響しているのだろうが、個人的にはもう少しアクが強ければとつくづく思う。
 そんな中で気に入った作品を選ぶとすれば、やはりケレン味の強いものになってしまう。しかし、実は本書で一番好きなのが、最も地味だと思われる「長方形の部屋」。なぜ殺人を犯したか、という動機の謎に迫った作品だが、これは絶品(ただし、これはボーナス収録のレオポルド警部もの)。本作を読めただけでも本書を買った甲斐はある。


神宮花火大会へ

 神宮花火大会に出かける。チケット代はとられるが、場所取りをしなくていいのが最大のメリット。最近の暑さを考えると、何時間も前から炎天下で場所取りをするのは命がけである。
 肝心の花火は、昭和記念公園や浅草、横浜など、他の花火大会に比べて質量ともに少々小粒で物足りない。おそらくは都心部のビル街という理由から(安全のために高度をとれないので)、極端な大きさのものは打ち上げられないのだろうが、ちょっと弱いなあ。ただ、アイドル等のミニコンサートがあるのは、神宮ならでは。

 最悪なのは帰りの足である。神宮花火大会は神宮球場、国立球技場、秩父宮ラグビー場すべてが会場となるため、その集客力は10万人規模。とてもじゃないが千駄ヶ谷と外苑前の二つの駅ぐらいではさばききれない。表参道あたりまで歩き、なおかつバーで小一時間ほど時間をつぶしたのだが、それでようやく人通りも少なくなるといったレベルだ。結局、トータルすると場所取りの苦労はないものの、次はもういいかな、という感じだ。

縄田一男『捕物帳の系譜』(中公文庫)

 休み初日は日頃たまった雑用を片づけるだけで終了。

 読了本は先日買ったばかりの縄田一男『捕物帳の系譜』。タイトルどおり捕物帳の歴史を綴った一冊だが、そのすべてというわけではなく、本書では半七、むっつり右門、銭形平次という捕物帳のビッグ3を中心に、その誕生秘話を綴っている。
 横溝正史の人形佐七や城昌幸の若さま侍についての記事を期待していたため、実をいうとちょっと期待はずれ。でも勉強にはなります。そもそもミステリと捕物帳の関係は兄弟ぐらい近いはずなのに、ミステリに比べて捕物帳の研究書は圧倒的に少ない。そのなかで一人気を吐いている感のある縄田氏には頭が下がる。ぜひ続編では人形佐七や若さま侍について紹介してもらいたいものだ。


鮎川哲也/監修、芦辺拓/編『絢爛たる殺人』(光文社文庫)

 金曜・月曜と休みをとり、本日より一応四連休。だが同時に3日ほど相方が里帰りをするため、基本的には愛犬とともにぼーっと過ごすことになるはず。古本屋めぐって本を読んで資料整理して。これはこれで楽しい。

 芦辺拓氏の編集による『絢爛たる殺人』読了。探偵小説がまだ探偵小説と呼ばれていた時代の、幻の作品を集めたアンソロジーである。まずは収録作から。

岡村雄輔「ミデアンの井戸の七人の娘」
宮原龍雄、須田刀太郎、山沢晴雄「むかで横町」(リレー小説)
坪田宏「二つの遺書」
宮原龍雄「ニッポン・海鷹」
鷲尾三郎「風魔」

 さすがに探偵作家にして探偵小説マニアでもある芦辺氏が編纂しただけあって、既読の作品はゼロ。著書を二、三持っているのが宮原龍雄や鷲尾三郎、かろうじて過去に短編をいくつか読んだことがあるのは岡村雄輔、山沢晴雄。坪田宏は以前に鮎川哲也編集のアンソロジーで読んだことがあるような気もするのだが……思いだせん。須田刀太郎は間違いなく初めて。
 こんな案配なので、基本的には読めるだけで幸せなのだが、客観的に評価するとなると、そこまで幸せにはなれない(笑)。以下は作品ごとの感想。

 まずは岡村雄輔の「ミデアンの井戸の七人の娘」。
 これは強烈である。小栗虫太郎を意識した作風や文体で書かれ、作中で小栗の探偵小説にも言及するなど、目指すところはハッキリしている。ところが仕上がりそのものがけっこう中途半端で、小栗ほどの難解さや高尚さにも欠けるのが残念。だが本書の肝はそんなところにあるのではない。実はトリックが尋常ではないのだ。おそらく現代では絶対に真似できないほど危険なネタであり(笑)、インパクトの強さでは本書中随一。当時であってもこれが許されたのか気になるところだ。

 「むかで横町」は宮原龍雄、須田刀太郎、山沢晴雄の三氏によるリレー小説だが、発端編がいい感じなのに、発展編がだめ。山沢晴雄がなんとか解決編で頑張ってまとめてはいるが、やはり取り返せるところまではいっていない。期待はずれ。

 坪田宏の「二つの遺書」は雰囲気がいい。ネタ自体は弱いけれど好みの作品である。

 「ニッポン・海鷹」はまたもや宮原龍雄。伝奇小説的な設定は面白いが、なんだかちぐはぐ。探偵小説と見事に融合しているかといわれれば、ちょっと辛い。

 「風魔」はコミカルな味付け、大がかりなトリック、奇抜な設定が見事にまとまった作品。バカミスの一歩手前できれいに止めた感じであり、本書のなかでは最も面白かった。


コーネル・ウールリッチ『シンデレラとギャング』(白亜書房)

 白亜書房から出たウールリッチ短編集の第三巻『シンデレラとギャング』読了。
 ウールリッチが長篇を書き始めた頃の作品をまとめたもので、まさに脂の乗り切った時期に書かれたものだ。アベレージはもちろん高いが、勢いで書かれたような作品も見受けられ、やや気になるところもちらほら。特に感じるのは主人公や犯人の行動にご都合主義的な部分が見られるということ。スピード感やサスペンスを第一に考えると、それも仕方ないかなと思われる部分もないではないが、「アリスが消えた」などは少々厳しいか。

 だが全般的には十分楽しめる作品揃いで、サスペンスのパターンはウールリッチが出し尽くしたのではないかと思えるほどだ。とりわけ少女の目から見たギャングの抗争を綴った「シンデレラとギャング」は絶品。ウールリッチは暗い生涯を送った人なのに、なぜこうもイキイキとしたお話しが書けるのか? それが最大の謎である。

The Street of Jungle Death「黒い爪痕」
Through a Dead Man's Eye 「ガラスの目玉」
All at Once, No Alice「アリスが消えた」
I'll Take You Home, Kathleen(別題はOne Last Night/Murder in the Dark Blue Night)「送っていくよ、キャスリーン」
Finger of Doom「階下で待ってて」
Cinderella and the Mob「シンデレラとギャング」
The Drugstore Cowboy「ドラッグストア・カウボーイ」


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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