Posted in 11 2009
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アダム・ファウアー『数学的にありえない(上)』(文春文庫)
アダム・ファウアーの『数学的にありえない』を上巻まで読了。元本は三年前に出ており、当時の『このミス』で五位、文春のベストテンでは三位に入った作品である。今回読んだのはその文庫版。
乱暴に言うと、巨大な陰謀に巻き込まれた天才数学者の活躍を描くといった内容。膨大な情報や知識をもとに壮大なホラ話を展開するといった作風は、マイクル・クライトンやダン・ブラウンを彷彿とさせ、決して嫌いではない。メイン・テーマであり味つけでもある確率論や統計学の使い方も堂に入ったものだ。
とりあえず上巻では主要な登場人物たちそれぞれの物語が語られるものの、その全貌はほとんど掴めない。それらのエピソードがやがて一本の流れに集約されるのが、この手の作品の読みどころだから、ここは下巻に期待であろう。
乱暴に言うと、巨大な陰謀に巻き込まれた天才数学者の活躍を描くといった内容。膨大な情報や知識をもとに壮大なホラ話を展開するといった作風は、マイクル・クライトンやダン・ブラウンを彷彿とさせ、決して嫌いではない。メイン・テーマであり味つけでもある確率論や統計学の使い方も堂に入ったものだ。
とりあえず上巻では主要な登場人物たちそれぞれの物語が語られるものの、その全貌はほとんど掴めない。それらのエピソードがやがて一本の流れに集約されるのが、この手の作品の読みどころだから、ここは下巻に期待であろう。
ううう、二十日の記事でHPを回復とか書いておきながら、すっかり風邪が長引いてしまった管理人です。熱は全然無いのだが鼻と喉をやられ、それが頭痛を誘発させて、おまけに薬も飲むものだから頭が冴えないこと夥しい。じゃあいつもは冴えてるのかというツッコミは無しの方向で。
くだらない枕はさておき、今年も年末恒例ベストテンの時期がやってきた。先陣を切るのはこれも恒例になりつつある早川書房の『ミステリが読みたい!2010年版』。
この『ミステリが読みたい!』については、刊行当初から相当文句ばかり書いてきたのだが、もちろん好きで書いていたわけではない。この海外ミステリ受難の時代にあって、早川書房が頑張らねば一体どこが頑張れるというのか、ということである。言わば期待しているからこその愛のムチ(笑)。ミステリ業界のトップたる会社があんなやっつけガイド本を作っているようでは、そりゃ海外ミステリは誰も読まなくなるだろう。
で、昨年、一昨年とかなり辛辣にやってきたわけだが、その気持ちが届いたか、今年は思い切った路線変更をやってくれた。ひと言で言うと、ミステリのミシュランを目指したというところか(笑)。
装丁の色遣いも明らかにミシュランを意識したものになっているのだが、まあ見た目だけではなく、今までにない細かい採点(ストーリー、サプライズ、キャラクター、文章という四つの要素)を用いたこと、さらには素人投票を無くしてすべてプロによる評価としたことなど、ガイドブックとして信頼できるものを目指した点は評価して良いと思う。
また、上に挙げた四つの要素の点数に加え、粗筋とコメントをつけて紹介している本は、ベストテンに止まらず、ベスト100まで広げている。ひとつひとつのボリュームはさすがに小さいけれど、これもガイドブックとして自分の好みにあった本を探しやすいという意味では、親切設計と言えるだろう。
さらにはベスト100に入らなかった本も、一応軽い粗筋だけはつけて、今年の刊行分についてすべて紹介しているのもよし。加えて(これは今年限りだろうが)ビギナー用に海外ミステリのオールタイムベスト100を一気に掲載しているのもなかなか。
ただ、ジャンル別や四つの要素別、目的別にもベスト5を出しているのは、少々やりすぎでうざい。
欠点ついでに書くと、データベースとしてはクオリティが上がったものの、企画ページが非常に少ないのはやはり物足りなさが残る。ミステリマガジンの掲載短編を語る座談会ぐらいで、あとは上に書いた海外ミステリのオールタイムベスト100。
ううん、海外ミステリの読者を増やしたいという意図は理解できるが、そのための企画がベスト100ではやや弱い。例えば売れっ子の日本人作家に座談会なりコラムなりで海外ミステリの魅力を語ってもらうとか、まだまだやりようはあるはずなんだがなぁ。
とはいえ、今年の『ミステリが読みたい!』は昨年に書いた不満点がかなり解消されているのは確か。いや、正直驚いた。とりあえず今年の路線変更は方向性としては悪くないので、残りは引き続き宿題としてもらいたい……って何様ですか(笑)。
最後に肝心のランキング作品だが、これは予想どおり早川書房から出た『ミレニアム』三部作が一位。三部作をまとめて一冊扱いにしているのはかなり納得いかないけれど(各上下巻だから計6冊ってあんた)、出来自体は出版当時から話題になっていたので、まあ、順位には文句なし。
『このミス』は『犬の力』とか、もしかすると『ユダヤ警官同盟』とかきそうな気がするが、あ、今挙げたの一冊も読んでないや。暮れの楽しみか。
あと、実は個人的に一番納得がいかなかったのは、あの『宮野村子探偵小説選』がランクインどころか書誌データにも載っていないこと。意図的に外されたのか、それとも単なるミスなのか、実に不思議。出来からするとベストテンに入っても全然おかしくないレベルだし、それこそプロがあれだけいて誰も評価しなかったとかあり得ないと思うのだが。
関係者、どなたか真実プリーズ。
くだらない枕はさておき、今年も年末恒例ベストテンの時期がやってきた。先陣を切るのはこれも恒例になりつつある早川書房の『ミステリが読みたい!2010年版』。
この『ミステリが読みたい!』については、刊行当初から相当文句ばかり書いてきたのだが、もちろん好きで書いていたわけではない。この海外ミステリ受難の時代にあって、早川書房が頑張らねば一体どこが頑張れるというのか、ということである。言わば期待しているからこその愛のムチ(笑)。ミステリ業界のトップたる会社があんなやっつけガイド本を作っているようでは、そりゃ海外ミステリは誰も読まなくなるだろう。
で、昨年、一昨年とかなり辛辣にやってきたわけだが、その気持ちが届いたか、今年は思い切った路線変更をやってくれた。ひと言で言うと、ミステリのミシュランを目指したというところか(笑)。
装丁の色遣いも明らかにミシュランを意識したものになっているのだが、まあ見た目だけではなく、今までにない細かい採点(ストーリー、サプライズ、キャラクター、文章という四つの要素)を用いたこと、さらには素人投票を無くしてすべてプロによる評価としたことなど、ガイドブックとして信頼できるものを目指した点は評価して良いと思う。
また、上に挙げた四つの要素の点数に加え、粗筋とコメントをつけて紹介している本は、ベストテンに止まらず、ベスト100まで広げている。ひとつひとつのボリュームはさすがに小さいけれど、これもガイドブックとして自分の好みにあった本を探しやすいという意味では、親切設計と言えるだろう。
さらにはベスト100に入らなかった本も、一応軽い粗筋だけはつけて、今年の刊行分についてすべて紹介しているのもよし。加えて(これは今年限りだろうが)ビギナー用に海外ミステリのオールタイムベスト100を一気に掲載しているのもなかなか。
ただ、ジャンル別や四つの要素別、目的別にもベスト5を出しているのは、少々やりすぎでうざい。
欠点ついでに書くと、データベースとしてはクオリティが上がったものの、企画ページが非常に少ないのはやはり物足りなさが残る。ミステリマガジンの掲載短編を語る座談会ぐらいで、あとは上に書いた海外ミステリのオールタイムベスト100。
ううん、海外ミステリの読者を増やしたいという意図は理解できるが、そのための企画がベスト100ではやや弱い。例えば売れっ子の日本人作家に座談会なりコラムなりで海外ミステリの魅力を語ってもらうとか、まだまだやりようはあるはずなんだがなぁ。
とはいえ、今年の『ミステリが読みたい!』は昨年に書いた不満点がかなり解消されているのは確か。いや、正直驚いた。とりあえず今年の路線変更は方向性としては悪くないので、残りは引き続き宿題としてもらいたい……って何様ですか(笑)。
最後に肝心のランキング作品だが、これは予想どおり早川書房から出た『ミレニアム』三部作が一位。三部作をまとめて一冊扱いにしているのはかなり納得いかないけれど(各上下巻だから計6冊ってあんた)、出来自体は出版当時から話題になっていたので、まあ、順位には文句なし。
『このミス』は『犬の力』とか、もしかすると『ユダヤ警官同盟』とかきそうな気がするが、あ、今挙げたの一冊も読んでないや。暮れの楽しみか。
あと、実は個人的に一番納得がいかなかったのは、あの『宮野村子探偵小説選』がランクインどころか書誌データにも載っていないこと。意図的に外されたのか、それとも単なるミスなのか、実に不思議。出来からするとベストテンに入っても全然おかしくないレベルだし、それこそプロがあれだけいて誰も評価しなかったとかあり得ないと思うのだが。
関係者、どなたか真実プリーズ。
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本多猪四郎『ゴジラ』
デアゴスティーニから隔週で出ている「東宝特撮映画DVDコレクション」もすでに五巻目の発売(ちなみに今回は『モスラ』)。ただ定期購読などしているとついつい安心して実際に観ようとしないのは、本とまったく同じである。とりあえず少しずつでも片付けるのだと決意……ってそんな大層な話じゃないけれど(苦笑)。
で、一発目はもちろん本多猪四郎監督による1954年公開の『ゴジラ』(言わずもがなのことだが原作はあの香山滋)。
「東宝特撮映画DVDコレクション」でも当然ながらの第一巻、今さら感想を書くのも憚られる日本特撮映画の最高峰である。これ以降のゴジラ・シリーズは山ほどあるが、そのテーマ、ドラマ性、映像の迫力など、あらゆる点で別格。誤解を承知で書くと、ゴジラ・シリーズは『ゴジラ』とそれ以外の作品に大別すべきである。それぐらいモノが違う。
よく言われるのは『ゴジラ』が単なる怪獣映画ではなく、社会派の映画として優れていること。言うまでもなく『ゴジラ』のメイン・テーマは核の恐怖であり、反戦である。水爆実験によって生まれたという設定だけでなく、ゴジラの襲撃が東京大空襲を思わせたり、ゴジラ災害のあとがまるで戦争の様相であったりと、そのインパクトは今観ても強烈である(この辺の蘊蓄はいろんな専門サイトや本があるのでそちらを参考に)。
そのためにこそゴジラは怖くなければならなかった。怪獣は決して子供の味方などではなく、恐怖の象徴でなければならない。必然的に物語は大人の鑑賞に堪えうるものでなければならず、当時の情勢を反映し、リアリティを備えた。
ただ怪獣映画がすべからく大人向きであるべきだと言っているわけではない。それぞれに方向性があるわけだし、それは作り手の自由である。だが作り手がどこを観ているかは、特撮もの怪獣ものという性質上、ある程度明確にする必要はあるだろう。その意味でシリーズ第一作となる『ゴジラ』は明らかに大人のためのものであり、軸がまったくぶれていなかった。やがて迷走することになるゴジラ・シリーズだが、その原因のひとつは間違いなくこの辺りにもあったように思える。
とにかく『ゴジラ』は日本映画史における傑作のひとつである。怪獣映画だからとか、古い映画だからとか、ましてや最近のゴジラ映画だけ観てバカにしている人は、一度はこの『ゴジラ』を観ておくべきである。
で、一発目はもちろん本多猪四郎監督による1954年公開の『ゴジラ』(言わずもがなのことだが原作はあの香山滋)。
「東宝特撮映画DVDコレクション」でも当然ながらの第一巻、今さら感想を書くのも憚られる日本特撮映画の最高峰である。これ以降のゴジラ・シリーズは山ほどあるが、そのテーマ、ドラマ性、映像の迫力など、あらゆる点で別格。誤解を承知で書くと、ゴジラ・シリーズは『ゴジラ』とそれ以外の作品に大別すべきである。それぐらいモノが違う。
よく言われるのは『ゴジラ』が単なる怪獣映画ではなく、社会派の映画として優れていること。言うまでもなく『ゴジラ』のメイン・テーマは核の恐怖であり、反戦である。水爆実験によって生まれたという設定だけでなく、ゴジラの襲撃が東京大空襲を思わせたり、ゴジラ災害のあとがまるで戦争の様相であったりと、そのインパクトは今観ても強烈である(この辺の蘊蓄はいろんな専門サイトや本があるのでそちらを参考に)。
そのためにこそゴジラは怖くなければならなかった。怪獣は決して子供の味方などではなく、恐怖の象徴でなければならない。必然的に物語は大人の鑑賞に堪えうるものでなければならず、当時の情勢を反映し、リアリティを備えた。
ただ怪獣映画がすべからく大人向きであるべきだと言っているわけではない。それぞれに方向性があるわけだし、それは作り手の自由である。だが作り手がどこを観ているかは、特撮もの怪獣ものという性質上、ある程度明確にする必要はあるだろう。その意味でシリーズ第一作となる『ゴジラ』は明らかに大人のためのものであり、軸がまったくぶれていなかった。やがて迷走することになるゴジラ・シリーズだが、その原因のひとつは間違いなくこの辺りにもあったように思える。
とにかく『ゴジラ』は日本映画史における傑作のひとつである。怪獣映画だからとか、古い映画だからとか、ましてや最近のゴジラ映画だけ観てバカにしている人は、一度はこの『ゴジラ』を観ておくべきである。
この一週間で買った本を紹介。
まずは創元推理文庫からジェフリー・ハウスホールドの『祖国なき男』。あの傑作『追われる男』の続編なので買わないわけにはいかないのである。
創元からはガイ・バートの『ソフィー』も出ていたが、こちらは読売新聞社版で出たときに読んでいるので今回はパス。当時はあまり評判にならなかったと思うが、これは知られざる傑作。未読の方はこの機会にぜひどうぞ。そんなにボリュームもないので、できれば予備知識や先入観なしで一気に読むのがおすすめ。目眩くひとときを体験できます。
なお、ガイ・バートの邦訳は、このほかに集英社の『体験のあと』がある。こちらも同様におすすめだがどうせ絶版……と思っていたらなんとAmazonにはまだ在庫があるようで。『ソフィー』を気に入った方はこちらもどうぞ。
ハヤカワ文庫からは「現代短篇の名手たち」の6冊目、ローラ・リップマンの『心から愛するただひとりの人』。ローラ・リップマンはMWA等の受賞歴もある実力派だが、もっぱら長篇が活躍の場。これまで読んだことがないこともあって、個人的には注目の一冊である。
論創ミステリ叢書からは待ってましたの『瀬下耽探偵小説選』を購入。相変わらずとんでもないラインナップが続いており、さらに今後も狩久とか出るらしい。個人的には宮野村子の衝撃いま一度ということで、ぜひとも大倉燁子を希望。
あとは生誕百年を迎えた清張の評論本『松本清張 時代の闇を見つめた作家』。清張の評論は山ほどあるが、どうせなら新しいものを、ということで業界の長老権田萬治氏が出したばかりのものをチョイス。現在は短編集をぼちぼち読んでいるが、そのうち長篇にもあらためて取りかかろうと思っているため、そのガイドとしてゲット。
最近はストレスが溜まる仕事が多くて、慢性的にバテ気味ついでに風邪気味。読書も進まないし、余計にストレスも溜まる。インフルエンザも猛威を振るっていることだし、せめて体調管理だけには気をつけねば。とりあえずこの三連休ではできるだけHPを回復する予定。でないと、この暮れのバタバタはとても乗り切れない。皆様もくれぐれもお体をお大事に。
まずは創元推理文庫からジェフリー・ハウスホールドの『祖国なき男』。あの傑作『追われる男』の続編なので買わないわけにはいかないのである。
創元からはガイ・バートの『ソフィー』も出ていたが、こちらは読売新聞社版で出たときに読んでいるので今回はパス。当時はあまり評判にならなかったと思うが、これは知られざる傑作。未読の方はこの機会にぜひどうぞ。そんなにボリュームもないので、できれば予備知識や先入観なしで一気に読むのがおすすめ。目眩くひとときを体験できます。
なお、ガイ・バートの邦訳は、このほかに集英社の『体験のあと』がある。こちらも同様におすすめだがどうせ絶版……と思っていたらなんとAmazonにはまだ在庫があるようで。『ソフィー』を気に入った方はこちらもどうぞ。
ハヤカワ文庫からは「現代短篇の名手たち」の6冊目、ローラ・リップマンの『心から愛するただひとりの人』。ローラ・リップマンはMWA等の受賞歴もある実力派だが、もっぱら長篇が活躍の場。これまで読んだことがないこともあって、個人的には注目の一冊である。
論創ミステリ叢書からは待ってましたの『瀬下耽探偵小説選』を購入。相変わらずとんでもないラインナップが続いており、さらに今後も狩久とか出るらしい。個人的には宮野村子の衝撃いま一度ということで、ぜひとも大倉燁子を希望。
あとは生誕百年を迎えた清張の評論本『松本清張 時代の闇を見つめた作家』。清張の評論は山ほどあるが、どうせなら新しいものを、ということで業界の長老権田萬治氏が出したばかりのものをチョイス。現在は短編集をぼちぼち読んでいるが、そのうち長篇にもあらためて取りかかろうと思っているため、そのガイドとしてゲット。
最近はストレスが溜まる仕事が多くて、慢性的にバテ気味ついでに風邪気味。読書も進まないし、余計にストレスも溜まる。インフルエンザも猛威を振るっていることだし、せめて体調管理だけには気をつけねば。とりあえずこの三連休ではできるだけHPを回復する予定。でないと、この暮れのバタバタはとても乗り切れない。皆様もくれぐれもお体をお大事に。
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新章文子『バック・ミラー』(桃源社)
新章文子の『バック・ミラー』を読む。桃源社から1960年に刊行された「書き下し推理小説全集・第二期」の一冊である。著者の新章文子は、今ではあまり読まれない作家だろうが、『危険な関係』で第5回江戸川乱歩賞を受賞しており、心理描写やサスペンスには定評があった作家だ。
呉服を商う京都の〈えり紅〉に務める青地有美。彼女は入社一年目ながら、自社の広報誌編集に抜擢され、短歌の掲載許可を求めるために女流歌人の河野いさ子を訪ねる。用件も無事に済んだときであった。有美はいさ子から母親と旧知の間柄であることを知らされる。だが有美といさ子の間には、当人たちですら知らない、もっと深い関係があった。そして、その出会いをきっかけに、彼女たちは悲劇の奔流に呑み込まれてゆく……。
一応、ミステリとしての体裁は整えられている。第一の殺人が起こり、やがては第二の殺人まで派生する。しかも、第一の殺人こそすぐに犯人を明かしてしまうけれど、そのうえで第二の事件をフーダニットでまとめるという趣向であり、この試みは決して悪くない。
とはいえ、残念ながら著者の他の作品同様、そこまで謎解きものとして機能しているわけではない。あくまで主眼は人間ドラマや心理サスペンスにある。
新章文子は京都出身の作家だ。作家活動も京都なら、内容においても京都を舞台にすることが多かった。そして何より登場人物の造型に、京都人ならではのものが強く打ち出されている。
一見当たりはよいけれど、実は決して心を開いていない。直接的な表現を好まず、非常に婉曲的にものを言う。要は裏表が激しいのである。これは決して悪口ではない。京都人はそういう性質を普通にもっているわけで、うちの嫁さんもその一人(笑)。
本作はそういう京都人のダークサイド(笑)をベースに、複雑に絡んだ人間模様を描きつつ、カタストロフィに向かって進んでいく家族の肖像が描かれる。特に決まった主人公は設けず、それぞれが勝手に苦悩し、憎しみ、それがさらなる憎しみを生んでいく。まさに負の連鎖。いやー、これはきついわ。このどうしようもないほどの愛憎劇が読みどころとはいえ、あまりの救いの無さに読後もぐったり。正直、読後感はかなり悪い。
ただ、それ以上に気になったのは、ドラマを詰め込みすぎなこと。
登場人物の数だけトラブルを設けましたといっていいくらいの内容なので、これらを消化するにはやはりページ数が足りない。
その影響か、描写も常に説明不足気味で、登場人物の言動について説得力がなくなっているのが残念。場面場面での心理描写はそれなりに見せるが、やはり消化不良の感は否めない。
ミステリとしても弱いので、マニアならともかく無理に探して読むほどのものではないだろう。
呉服を商う京都の〈えり紅〉に務める青地有美。彼女は入社一年目ながら、自社の広報誌編集に抜擢され、短歌の掲載許可を求めるために女流歌人の河野いさ子を訪ねる。用件も無事に済んだときであった。有美はいさ子から母親と旧知の間柄であることを知らされる。だが有美といさ子の間には、当人たちですら知らない、もっと深い関係があった。そして、その出会いをきっかけに、彼女たちは悲劇の奔流に呑み込まれてゆく……。
一応、ミステリとしての体裁は整えられている。第一の殺人が起こり、やがては第二の殺人まで派生する。しかも、第一の殺人こそすぐに犯人を明かしてしまうけれど、そのうえで第二の事件をフーダニットでまとめるという趣向であり、この試みは決して悪くない。
とはいえ、残念ながら著者の他の作品同様、そこまで謎解きものとして機能しているわけではない。あくまで主眼は人間ドラマや心理サスペンスにある。
新章文子は京都出身の作家だ。作家活動も京都なら、内容においても京都を舞台にすることが多かった。そして何より登場人物の造型に、京都人ならではのものが強く打ち出されている。
一見当たりはよいけれど、実は決して心を開いていない。直接的な表現を好まず、非常に婉曲的にものを言う。要は裏表が激しいのである。これは決して悪口ではない。京都人はそういう性質を普通にもっているわけで、うちの嫁さんもその一人(笑)。
本作はそういう京都人のダークサイド(笑)をベースに、複雑に絡んだ人間模様を描きつつ、カタストロフィに向かって進んでいく家族の肖像が描かれる。特に決まった主人公は設けず、それぞれが勝手に苦悩し、憎しみ、それがさらなる憎しみを生んでいく。まさに負の連鎖。いやー、これはきついわ。このどうしようもないほどの愛憎劇が読みどころとはいえ、あまりの救いの無さに読後もぐったり。正直、読後感はかなり悪い。
ただ、それ以上に気になったのは、ドラマを詰め込みすぎなこと。
登場人物の数だけトラブルを設けましたといっていいくらいの内容なので、これらを消化するにはやはりページ数が足りない。
その影響か、描写も常に説明不足気味で、登場人物の言動について説得力がなくなっているのが残念。場面場面での心理描写はそれなりに見せるが、やはり消化不良の感は否めない。
ミステリとしても弱いので、マニアならともかく無理に探して読むほどのものではないだろう。
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ジェフリー・ディーヴァー『ソウル・コレクター』(文藝春秋)
先週は飲みの機会が多くて読書が進まず。そういうときに限って、重めの本を通勤のお供にしてしまうという罠。それでも週末を使って何とか読み切る。ものはディーヴァーの最新作『ソウル・コレクター』。こんな話。
捜査中の事故によって四肢の自由を奪われた科学捜査の天才、リンカーン・ライム。その彼のいとこ、アーサーが殺人の罪で逮捕された。絶対的な証拠の数々に、有罪は確定的かと思われたが、ライムはその揃いすぎる証拠に疑念を抱く。アメリア刑事らと共に独自の捜査を開始したライムたちは、何者かが証拠を捏造し、他人を殺人罪に陥れていたことを突き止めるが……。
超人的鑑識捜査とスピード感に満ちた展開、意表を突くどんでん返し。このあたりがライム・シリーズの魅力と言えるだろうが、もうひとつライムに敵対する絶対的悪役の存在も忘れてはならない。
『ボーン・コレクター』や『魔術師』『ウォッチメイカー』などは、その悪役の魅力という点でも成功した例だが、本書もまたその流れを継ぐかのように、非常に強力な犯人を設定している。その武器は、膨大な電子データを自在に操るという能力。およそ彼の前に秘密を持つことは不可能で、このITの時代にあっては、まさに神のごとき力である。
と聞けばなかなか面白そうな感じはするのだが、犯人の動機付けや言動を読んでいても、それほどの驚きはない。確かにITの知識などは相当なものなんだろうけど、そこには恐ろしいまでの情念とか狂気というものがない。ぶっちゃけこれまでの名犯人に比べると小物感が強いのである。殺伐としてりゃいいというものでもないが、その手口や言動もやや甘く、これではスリルもいまひとつだ。
ちなみに本作では、恒例のどんでん返しもやや弱目。まあ、どんでん返しのやりすぎはかえって白けるだけなので、これに関しては個人的にノープロブレム。
もうひとつ本作で気になるのは、アーサーの存在か。ライムとアーサーは単なるいとこ同士というだけでなく、過去に様々なトラブルがあり、つきあいを断っていたという因縁がある。この辺りをサイド・ストーリーとして本作に膨らみを持たせようとしているのはわかるのだが、いや~シリーズ八作目でいきなりそんなエピソードを出されてもという感じ。おまけにアメリアはアメリアでサイド・ストーリーを持たされ、それぞれが問題を抱えながらメイン・ストーリーと絡む。
もちろん、それらが巧く融合されていればOKである。しかし残念ながら本作においてはとってつけたような印象しか受けない。あくまでディーヴァー水準で文句をつけているので、そこらの翻訳物よりは全然ハイレベルだだが、シリーズ読者にはどうか? まあ若き日のライムについての描写があるのは楽しいのだけれど。
『ソウル・コレクター』という邦題は、わざわざディーヴァー自身が提案してくれたものらしい。読者としては、当然シリーズ第一作の『ボーン・コレクター』を連想するわけで、その期待に応えた作品かどうかは微妙なところであろう。
捜査中の事故によって四肢の自由を奪われた科学捜査の天才、リンカーン・ライム。その彼のいとこ、アーサーが殺人の罪で逮捕された。絶対的な証拠の数々に、有罪は確定的かと思われたが、ライムはその揃いすぎる証拠に疑念を抱く。アメリア刑事らと共に独自の捜査を開始したライムたちは、何者かが証拠を捏造し、他人を殺人罪に陥れていたことを突き止めるが……。
超人的鑑識捜査とスピード感に満ちた展開、意表を突くどんでん返し。このあたりがライム・シリーズの魅力と言えるだろうが、もうひとつライムに敵対する絶対的悪役の存在も忘れてはならない。
『ボーン・コレクター』や『魔術師』『ウォッチメイカー』などは、その悪役の魅力という点でも成功した例だが、本書もまたその流れを継ぐかのように、非常に強力な犯人を設定している。その武器は、膨大な電子データを自在に操るという能力。およそ彼の前に秘密を持つことは不可能で、このITの時代にあっては、まさに神のごとき力である。
と聞けばなかなか面白そうな感じはするのだが、犯人の動機付けや言動を読んでいても、それほどの驚きはない。確かにITの知識などは相当なものなんだろうけど、そこには恐ろしいまでの情念とか狂気というものがない。ぶっちゃけこれまでの名犯人に比べると小物感が強いのである。殺伐としてりゃいいというものでもないが、その手口や言動もやや甘く、これではスリルもいまひとつだ。
ちなみに本作では、恒例のどんでん返しもやや弱目。まあ、どんでん返しのやりすぎはかえって白けるだけなので、これに関しては個人的にノープロブレム。
もうひとつ本作で気になるのは、アーサーの存在か。ライムとアーサーは単なるいとこ同士というだけでなく、過去に様々なトラブルがあり、つきあいを断っていたという因縁がある。この辺りをサイド・ストーリーとして本作に膨らみを持たせようとしているのはわかるのだが、いや~シリーズ八作目でいきなりそんなエピソードを出されてもという感じ。おまけにアメリアはアメリアでサイド・ストーリーを持たされ、それぞれが問題を抱えながらメイン・ストーリーと絡む。
もちろん、それらが巧く融合されていればOKである。しかし残念ながら本作においてはとってつけたような印象しか受けない。あくまでディーヴァー水準で文句をつけているので、そこらの翻訳物よりは全然ハイレベルだだが、シリーズ読者にはどうか? まあ若き日のライムについての描写があるのは楽しいのだけれど。
『ソウル・コレクター』という邦題は、わざわざディーヴァー自身が提案してくれたものらしい。読者としては、当然シリーズ第一作の『ボーン・コレクター』を連想するわけで、その期待に応えた作品かどうかは微妙なところであろう。
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アイザック・アシモフ『象牙の塔の殺人』(創元推理文庫)
アイザック・アシモフの長篇ミステリ『象牙の塔の殺人』を読む。
アシモフのミステリといえば何といっても「黒後家蜘蛛の会」シリーズが有名だろうが、本書は著者初の長編ミステリで1958年の作品。黒後家蜘蛛の十年以上も前に書かれていた作品だ。したがってなんとなく「黒後家蜘蛛の会」の作風を意識していると、これがかなり予想を外されて興味深い。
とりあえずストーリー。
大学の実験室で、化学実験を行っていた学生が毒ガスを吸って死亡しているところを、指導教官のブレイドが発見した。警察や大学は事故死との見方を強めていたが、ブレイドは死因に疑問を抱き、独自に調査を始める。だがこれが殺人だとすれば、もっとも容疑者として疑われるのは自分であることに気がつく。それを裏付けるかのように、ブレイドの周囲をかぎまわる刑事。大学での立場も危機に追い込まれ、ブレイドは必死に調査を進めるが……。
ミステリとしては極めて真っ当な本書。アシモフの書いた初の純粋なミステリは、フーダニットというガチガチの本格である。だが、上でも書いたとおり、後にアシモフのミステリにおける名声を確立した「黒後家蜘蛛の会」シリーズとは、まったく作風は異なる。
何より違うのはそのテイスト。「黒後家蜘蛛の会」に顕著なユーモアという要素(ある種の余裕といってもよい)が、本書にはまったく見られない。象牙の塔で繰り広げられる極めて人間的な営み、現実と理想のギャップに苦しむ主人公ブレイドの苦悩が、本書のベースである。事件の謎や自らの立場、家族との関係などなど、とにかく悩みに悩んで、考えに考える。
この描写が辛気くさすぎて、正直、最初はあまりノレなかったのだが、読むうちに意外とこれがだんだんはまってくる。
途中で気がついたのは、これって「イライジャ・ベイリ」のパターンだよな、ということ。イライジャ・ベイリが登場する『鋼鉄都市』『はだかの太陽』等の作品は、SFミステリとして名高いことはもちろんだが、一種の議論小説でもある。事件の謎に絡んだロボット三原則の解釈を巡る登場人物たちのやりとりが実は面白い。アシモフが純粋なミステリを書くにあたって、数年前に書いたそれらの作品のパターンを用いたとすれば、この作風も納得である(そもそもアシモフの作品は全般的に理屈が多すぎるきらいはあるけれど)。
トリック等は小粒ゆえ、本格としてはあまり大向こうを唸らせるほどではないけれど、黒後家蜘蛛やイライジャといった他のシリーズとの比較で読めば、けっこう楽しめる作品ではある。アシモフのファンなら、というところか。
なお、蛇足ながら、主人公にまとわりつく刑事が面白い。この刑事、解説で指摘されているとおり、キャラクターが非常にコロンボに似ているのである。そう言われてみれば、雰囲気や遠回しなアプローチ、犯人への心理トリックなど、共通点は多い。コロンボが生まれるまでには、まだ十年ほどあるわけだが、若きリンク&レビンソンが本書を読んだ可能性について想像するのもまた一興かと。
アシモフのミステリといえば何といっても「黒後家蜘蛛の会」シリーズが有名だろうが、本書は著者初の長編ミステリで1958年の作品。黒後家蜘蛛の十年以上も前に書かれていた作品だ。したがってなんとなく「黒後家蜘蛛の会」の作風を意識していると、これがかなり予想を外されて興味深い。
とりあえずストーリー。
大学の実験室で、化学実験を行っていた学生が毒ガスを吸って死亡しているところを、指導教官のブレイドが発見した。警察や大学は事故死との見方を強めていたが、ブレイドは死因に疑問を抱き、独自に調査を始める。だがこれが殺人だとすれば、もっとも容疑者として疑われるのは自分であることに気がつく。それを裏付けるかのように、ブレイドの周囲をかぎまわる刑事。大学での立場も危機に追い込まれ、ブレイドは必死に調査を進めるが……。
ミステリとしては極めて真っ当な本書。アシモフの書いた初の純粋なミステリは、フーダニットというガチガチの本格である。だが、上でも書いたとおり、後にアシモフのミステリにおける名声を確立した「黒後家蜘蛛の会」シリーズとは、まったく作風は異なる。
何より違うのはそのテイスト。「黒後家蜘蛛の会」に顕著なユーモアという要素(ある種の余裕といってもよい)が、本書にはまったく見られない。象牙の塔で繰り広げられる極めて人間的な営み、現実と理想のギャップに苦しむ主人公ブレイドの苦悩が、本書のベースである。事件の謎や自らの立場、家族との関係などなど、とにかく悩みに悩んで、考えに考える。
この描写が辛気くさすぎて、正直、最初はあまりノレなかったのだが、読むうちに意外とこれがだんだんはまってくる。
途中で気がついたのは、これって「イライジャ・ベイリ」のパターンだよな、ということ。イライジャ・ベイリが登場する『鋼鉄都市』『はだかの太陽』等の作品は、SFミステリとして名高いことはもちろんだが、一種の議論小説でもある。事件の謎に絡んだロボット三原則の解釈を巡る登場人物たちのやりとりが実は面白い。アシモフが純粋なミステリを書くにあたって、数年前に書いたそれらの作品のパターンを用いたとすれば、この作風も納得である(そもそもアシモフの作品は全般的に理屈が多すぎるきらいはあるけれど)。
トリック等は小粒ゆえ、本格としてはあまり大向こうを唸らせるほどではないけれど、黒後家蜘蛛やイライジャといった他のシリーズとの比較で読めば、けっこう楽しめる作品ではある。アシモフのファンなら、というところか。
なお、蛇足ながら、主人公にまとわりつく刑事が面白い。この刑事、解説で指摘されているとおり、キャラクターが非常にコロンボに似ているのである。そう言われてみれば、雰囲気や遠回しなアプローチ、犯人への心理トリックなど、共通点は多い。コロンボが生まれるまでには、まだ十年ほどあるわけだが、若きリンク&レビンソンが本書を読んだ可能性について想像するのもまた一興かと。
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住田忠久/編著『明智小五郎読本』(長崎出版)
読了本は──というほど実はちゃんと読んでいないのだが、精読にどれだけ時間がかかるかわからないので、とりあえず斜め読み程度ながら感想をアップ。住田忠久/編著による『明智小五郎読本』である。
購入時にも少し触れたのだが、この本は大乱歩が生んだ希代の名探偵、明智小五郎に関する一切合切を網羅しようと試みた本である。1000ページに迫ろうかというボリュームは束幅にして5.5cm、定価は7800円。サイズも値段もド級だが、下の目次を見てもらえればわかるように、小説はもとより映画やテレビ、舞台などあらゆる情報を詰め込んでおり、何より内容が超ド級。
しかも資料性の高さはもちろんだが、「読本」というタイトルが示すように、本文は意外にとっつきがよく、読み物としても非常に楽しめるのが高ポイント。特に「明智小五郎年代学とその周縁」はシャーロキアン流に明智の物語を検証し、時代別に再編したもの。まるで伝記を読むような感じで楽しめ、むちゃくちゃ面白い。
ただ、野暮を承知でひとつだけ言わせてもらうと、ちょっと誤植が多い。とりたてて締め切りを急ぐような本でもなさそうだし、これだけの好著だから、もう少し慎重にやってもらいたかったものだ。拙ブログもいいかげん誤植が多いので、あまり人のことは言えないのだが(笑)。
とはいえ、それぐらいの瑕には目をつぶろう。まずは編者の偉業を素直に称えたい。江戸川乱歩を愛する人なら間違いなく買い。
序
明智小五郎相関図
明智小五郎調書
コラム 明智小五郎のピストル
コラム 明智小五郎川柳
コラム 玩具・ゲームになった明智小五郎
明智小五郎ノート1 お洒落になった明智小五郎
明智小五郎ノート2 世界を巡る明智小五郎
明智小五郎ノート3 日本の話芸と明智小五郎
明智小五郎ノート4 お酒になった明智小五郎
明智小五郎のライバル──乱歩の創造した探偵たち
明智小五郎年代学とその周縁
コラム 明智に対した犯罪者1
明智小五郎の更なる活躍
雑誌『少年』掲載の江戸川乱歩(名義)のクイズ小説(漫画)総解説
漫画に登場した明智小五郎
明智小五郎挿絵考
舞台の明智小五郎
コラム 舞台の明智
コラム リーディングシアター『黒蜥蜴』
コラム 明智に対した犯罪者2
銀幕の明智小五郎
コラム 狙われる男No.1、宇佐美淳!
幻の松竹版『一寸法師』ストーリー
コラム 明智に対した犯罪者3
ブラウン管の明智小五郎 住田忠久
コラム 明智小五郎、ポーの身上調査に挑む
コラム タモリ、志村けんの明智小五郎!
コラム CMにも登場! 明智小五郎と二十面相
コラム テレビの明智はスポーツカーがお好き?
コラム 幻のアニメ作品、テレビ劇画『パノラマ島奇談』
TVドラマ『江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎』覚書
TVドラマ『明智探偵事務所』の思い出
コラム 幻の未放送エピソード『明日香の月はウソつき』について
TVドラマ(天知茂主演版)「江戸川乱歩の美女シリーズ」覚書
我らが明智小五郎! 天知茂物語
ラジオの明智小五郎
明智小五郎音源資料室
明智小五郎の謎
小林少年の謎
【小説】「磔刑の調べ」柚木まい
『鉄塔の怪人』で二十面相は、まだ死んでいる !?
コラム 二十面相のヘリコプター
シャーロック・ホームズと明智小五郎
アルセーヌ・ルパンと明智小五郎──或いは保篠龍緒と江戸川乱歩
明智・小林少年・二十面相と当時の少年
明智小五郎関連図書
『明智小五郎読本』制作録──あとがきにかえて
資料篇 明智小五郎読本目録
購入時にも少し触れたのだが、この本は大乱歩が生んだ希代の名探偵、明智小五郎に関する一切合切を網羅しようと試みた本である。1000ページに迫ろうかというボリュームは束幅にして5.5cm、定価は7800円。サイズも値段もド級だが、下の目次を見てもらえればわかるように、小説はもとより映画やテレビ、舞台などあらゆる情報を詰め込んでおり、何より内容が超ド級。
しかも資料性の高さはもちろんだが、「読本」というタイトルが示すように、本文は意外にとっつきがよく、読み物としても非常に楽しめるのが高ポイント。特に「明智小五郎年代学とその周縁」はシャーロキアン流に明智の物語を検証し、時代別に再編したもの。まるで伝記を読むような感じで楽しめ、むちゃくちゃ面白い。
ただ、野暮を承知でひとつだけ言わせてもらうと、ちょっと誤植が多い。とりたてて締め切りを急ぐような本でもなさそうだし、これだけの好著だから、もう少し慎重にやってもらいたかったものだ。拙ブログもいいかげん誤植が多いので、あまり人のことは言えないのだが(笑)。
とはいえ、それぐらいの瑕には目をつぶろう。まずは編者の偉業を素直に称えたい。江戸川乱歩を愛する人なら間違いなく買い。
序
明智小五郎相関図
明智小五郎調書
コラム 明智小五郎のピストル
コラム 明智小五郎川柳
コラム 玩具・ゲームになった明智小五郎
明智小五郎ノート1 お洒落になった明智小五郎
明智小五郎ノート2 世界を巡る明智小五郎
明智小五郎ノート3 日本の話芸と明智小五郎
明智小五郎ノート4 お酒になった明智小五郎
明智小五郎のライバル──乱歩の創造した探偵たち
明智小五郎年代学とその周縁
コラム 明智に対した犯罪者1
明智小五郎の更なる活躍
雑誌『少年』掲載の江戸川乱歩(名義)のクイズ小説(漫画)総解説
漫画に登場した明智小五郎
明智小五郎挿絵考
舞台の明智小五郎
コラム 舞台の明智
コラム リーディングシアター『黒蜥蜴』
コラム 明智に対した犯罪者2
銀幕の明智小五郎
コラム 狙われる男No.1、宇佐美淳!
幻の松竹版『一寸法師』ストーリー
コラム 明智に対した犯罪者3
ブラウン管の明智小五郎 住田忠久
コラム 明智小五郎、ポーの身上調査に挑む
コラム タモリ、志村けんの明智小五郎!
コラム CMにも登場! 明智小五郎と二十面相
コラム テレビの明智はスポーツカーがお好き?
コラム 幻のアニメ作品、テレビ劇画『パノラマ島奇談』
TVドラマ『江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎』覚書
TVドラマ『明智探偵事務所』の思い出
コラム 幻の未放送エピソード『明日香の月はウソつき』について
TVドラマ(天知茂主演版)「江戸川乱歩の美女シリーズ」覚書
我らが明智小五郎! 天知茂物語
ラジオの明智小五郎
明智小五郎音源資料室
明智小五郎の謎
小林少年の謎
【小説】「磔刑の調べ」柚木まい
『鉄塔の怪人』で二十面相は、まだ死んでいる !?
コラム 二十面相のヘリコプター
シャーロック・ホームズと明智小五郎
アルセーヌ・ルパンと明智小五郎──或いは保篠龍緒と江戸川乱歩
明智・小林少年・二十面相と当時の少年
明智小五郎関連図書
『明智小五郎読本』制作録──あとがきにかえて
資料篇 明智小五郎読本目録
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カテゴリーの一部変更
カテゴリーを少しいじる。これまで「映画・DVD」としていた記事が100近くになってきたので、少しは中身がわかるように、以下のように細分化。映画の感想に関しては、けっこー適当なのだけれど、まあ少しは目安になるはず。今後もそこそこボリュームがかさむものは、ジャンル分けや整頓を進めていきまする。
「映画・DVD ミステリ・サスペンス」
「映画・DVD 刑事コロンボ」
「映画・DVD SF・ファンタジー」
「映画・DVD その他」
「映画・DVD ミステリ・サスペンス」
「映画・DVD 刑事コロンボ」
「映画・DVD SF・ファンタジー」
「映画・DVD その他」
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横溝正史『横溝正史探偵小説選II』(論創ミステリ叢書)
昨日の神田古本まつりは、やはり一度ぐらいはのぞいておこうと思っていたら、小雨が降り出してあえなく玉砕。結局今年は縁がなかったということで。
読了本は論創ミステリ叢書から『横溝正史探偵小説選II』。未発表作品「霧の夜の出来事」を含む『横溝正史探偵小説選I』も悪くはなかったが、本書でも単行本初収録となる作品をどかっと詰め込んだ大盤振る舞い。ジュヴナイル拾遺集ゆえの品質がちょいと気になるとはいえ、御大の未読作品がまだまだ読めるという事実に感謝。古本を探さなくとも古い作品は読めるのである、って負け惜しみですか。
■創作篇
※三津木俊助・御子柴進の事件簿
「孔雀扇の秘密」
「赤いチューリップ」
「魔人都市」
「鉄仮面王」
「怪盗X・Y・Z/おりの中の男」
「怪人魔人」
「爆発手紙」
「渦巻く濃霧」、
「曲馬団に咲く花」
「変幻幽霊盗賊」
「笑ふ紳士」
「鋼鉄仮面王」
「薊を持つ支那娘」
※誰が犯人か?
「匂う抽斗」
「目撃者」
■随筆篇
「「大迷宮」について」
「子供のための探偵小説」
「ミステリー好きの少年少女諸君へ」
収録作は以上だが、楽しいのはやはりシリーズ物の三津木俊助&御子柴進ものか。特に角川文庫版の『怪盗X・Y・Z』で収録されていなかった「おりの中の男」が読めるのは嬉しい。
「怪人魔人」以下のノン・シリーズものは、短めの長篇といってもいいぐらいのボリュームのものもあり、こちらも読み応えあり。なかでも名探偵対怪盗の図式をきちっと踏まえた「変幻幽霊盗賊」は楽しい。また、「笑ふ紳士」は古典の某有名作品にかなりインスパイアされたような作品で(当時にはよくある話だけれど)、すぐにあんな作品やこんな作品が頭に浮かぶが、これを書いては興味半減だろうからここでは秘密。でもミステリ的ギミックに満ちあふれた作品で、話自体は面白い。
ただ、これらを書いていた頃の正史は非常に多忙だったらしく、悪く言うと書き散らかしていたような部分も決して少なくはない。展開を急ぎすぎて説明不足だったり、あるいは唐突に終了したり、使い回しのネタがあったりという具合である。
残念といえば残念だが、本書を好んで読むような人間は、そういうところも含めて興味や考察の対象なのだろうから、まあいいんだろうけど。さすがに一般のミステリファンに勧めるようなものではないが、横溝ファンなら間違いなく買いの一冊。
読了本は論創ミステリ叢書から『横溝正史探偵小説選II』。未発表作品「霧の夜の出来事」を含む『横溝正史探偵小説選I』も悪くはなかったが、本書でも単行本初収録となる作品をどかっと詰め込んだ大盤振る舞い。ジュヴナイル拾遺集ゆえの品質がちょいと気になるとはいえ、御大の未読作品がまだまだ読めるという事実に感謝。古本を探さなくとも古い作品は読めるのである、って負け惜しみですか。
■創作篇
※三津木俊助・御子柴進の事件簿
「孔雀扇の秘密」
「赤いチューリップ」
「魔人都市」
「鉄仮面王」
「怪盗X・Y・Z/おりの中の男」
「怪人魔人」
「爆発手紙」
「渦巻く濃霧」、
「曲馬団に咲く花」
「変幻幽霊盗賊」
「笑ふ紳士」
「鋼鉄仮面王」
「薊を持つ支那娘」
※誰が犯人か?
「匂う抽斗」
「目撃者」
■随筆篇
「「大迷宮」について」
「子供のための探偵小説」
「ミステリー好きの少年少女諸君へ」
収録作は以上だが、楽しいのはやはりシリーズ物の三津木俊助&御子柴進ものか。特に角川文庫版の『怪盗X・Y・Z』で収録されていなかった「おりの中の男」が読めるのは嬉しい。
「怪人魔人」以下のノン・シリーズものは、短めの長篇といってもいいぐらいのボリュームのものもあり、こちらも読み応えあり。なかでも名探偵対怪盗の図式をきちっと踏まえた「変幻幽霊盗賊」は楽しい。また、「笑ふ紳士」は古典の某有名作品にかなりインスパイアされたような作品で(当時にはよくある話だけれど)、すぐにあんな作品やこんな作品が頭に浮かぶが、これを書いては興味半減だろうからここでは秘密。でもミステリ的ギミックに満ちあふれた作品で、話自体は面白い。
ただ、これらを書いていた頃の正史は非常に多忙だったらしく、悪く言うと書き散らかしていたような部分も決して少なくはない。展開を急ぎすぎて説明不足だったり、あるいは唐突に終了したり、使い回しのネタがあったりという具合である。
残念といえば残念だが、本書を好んで読むような人間は、そういうところも含めて興味や考察の対象なのだろうから、まあいいんだろうけど。さすがに一般のミステリファンに勧めるようなものではないが、横溝ファンなら間違いなく買いの一冊。
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特に書くこともないので適当に近況など
会社の目と鼻の先で神田古本まつりをやっているというのに、この一週間は仕事が詰まりすぎてまったく身動きが取れず。まあ昼休みに行こうと思えば行けるのだが、中途半端に三十分ぐらいのぞいても、かえってイライラが募るだけなので自粛モード。今頃見てもろくな物は残っていないのだろうけれど、明日ぐらいはなんとかしたいものである。
ところで先週末、十年ぶりぐらいに麻雀をやった。とにかくあまりにも久しぶりなので、最初は緊張して牌を持つ手が震えるぐらい(笑)。一局まわす頃にはようやく落ち着いたんだけれど、自分どんだけ小心なんだか(苦笑)。
ちなみに学生時代はこれでもかなりの勝率を誇っており、今回も密かに全員からかっぱぐつもりで臨んだのだが、結果はトントンというところ。寄る年波には勝てず、後半は疲れから思考力ガタ落ち。打ち方がかなり適当になってしまったのが敗因かと。
本日は近場をウロウロ。ディーヴァーの新作『ソウル・コレクター』や文庫化されたバークリー『ジャンピング・ジェニイ』を購入したが、もう一冊、気になったのがこれ。創元推理文庫から出たマルセル・F・ラントームの『騙し絵』である。「第二次大戦末期、本格ミステリ・マニアのフランス人が捕虜収容所で書き上げたという、幻の不可能犯罪ミステリ」という謳い文句がそそるそそる。ま、ここまで書かれると逆に眉唾っぽいんだけど(笑)。
読書ペースは激しくダウン中。一応アシモフと溝正史を同時進行で。感想はそのうちに。
ところで先週末、十年ぶりぐらいに麻雀をやった。とにかくあまりにも久しぶりなので、最初は緊張して牌を持つ手が震えるぐらい(笑)。一局まわす頃にはようやく落ち着いたんだけれど、自分どんだけ小心なんだか(苦笑)。
ちなみに学生時代はこれでもかなりの勝率を誇っており、今回も密かに全員からかっぱぐつもりで臨んだのだが、結果はトントンというところ。寄る年波には勝てず、後半は疲れから思考力ガタ落ち。打ち方がかなり適当になってしまったのが敗因かと。
本日は近場をウロウロ。ディーヴァーの新作『ソウル・コレクター』や文庫化されたバークリー『ジャンピング・ジェニイ』を購入したが、もう一冊、気になったのがこれ。創元推理文庫から出たマルセル・F・ラントームの『騙し絵』である。「第二次大戦末期、本格ミステリ・マニアのフランス人が捕虜収容所で書き上げたという、幻の不可能犯罪ミステリ」という謳い文句がそそるそそる。ま、ここまで書かれると逆に眉唾っぽいんだけど(笑)。
読書ペースは激しくダウン中。一応アシモフと溝正史を同時進行で。感想はそのうちに。