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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


極私的ベストテン 2024

 2024年もいよいよ残りわずか。今年はなんといっても元日に起こった能登半島地震に尽きるわけで、被災した実家と両親の支援が最優先の一年であった。実家の片付け、家財の回収、両親の移転先の確保と将来のこと、行政関係の手続き、そして実家の解体、それらに絡む諸々を、富山在住の弟と連携して進めていった。もちろん現地にも何度か足を運ぶ。
 とりあえず年内に一山超えた感じで、なんとか年は越せそうだが、奥能登の輪島や珠洲といった被災地ではまだまだ復興が進んでいないし、今も水道すら通っていない方々のことを思うとまったく穏やかではいられないし、どこにぶつけていいかわからない怒りが湧き上がる。いろいろ思うところはあるが場違いなのでここでは触れないけれども、今も苦しんでいる方々が少しでも早く元の生活に戻れるよう国や県は支援を加速してほしい。
 そういえば昨年末には図書館司書の資格を取得し、図書館勤務も少し考えていたのだが、震災絡みでバタバタが続き、それもすっかり後回しになってしまった。本当に人生は何があるかわからない。

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 さて、気を取り直してここからは通常営業、いつものミステリ感想ブログに戻す。とは言っても今年最後の記事ということで、今回は恒例の「極私的ベストテン」の発表である。
 管理人が今年読んだ小説の中から、刊行年海外国内ジャンル等一切不問でベストテンを選ぶという企画である。
 今年の読書の柱となったのは海外ミステリの新刊である。数年前から某社のベストテンアンケートに答えるため、ある程度の数はこなすようにしているのだが、今年はとりわけ押さえるべき異色作が多くて疲れてしまった。新刊といっても海外ミステリの翻訳なので、発売される国も違えば発売年も違う。普通に考えれば国内ミステリほど傾向が偏ることもなく、バラエティに富んだ作品に接することができる。
 ところが、ある作品が好評だと、他社も同趣向の作品を探してきて発売するものだから、下手をすると国内物より流行りが顕著になってくるのである。昨年もそうだったが、今年はその傾向がさらに強くなってきたような気がする。
 具体的にいうと、ここ数年で目立つのは、少女を主人公とするもの、メタミステリ、モキュメンタリーあたりである。管理人も決してそういうジャンルは嫌いではないし、むしろ喜んで読んではいるが、少々食傷気味なのも確か。作者には気の毒だが、あまりに似た作品が重なると、せっかくのチャレンジがチャレンジでなくなってしまう。言葉は悪いが、色物は王道の中にあるからいいのであって、色物だらけでは色物の良さが出てこないよなぁ。

 そのほかのトピックでいうと、今年はついにロス・マクドナルドの全長編を読破。また、それ以外のハードボイルドやノワール系でもホレス・マッコイやエド・レイシイ、エドワード・アンダースンといったところを読めたのが大収穫であった。
 あとは昭和作家読破計画の一環で西村京太郎の初期作にトライしてみたが、これも予想以上の面白さで、現在も絶賛進行中である。
 逆にあまり読めなかったのは国内の戦前作家や海外クラシック。特に論創海外ミステリはかなり遅れが出ているので、もう少し気合を入れなければ、という感じである。それと昨年マイブームになったSFミステリ。今年もぼちぼち読んではいたが、来年はソウヤーをはじめ、もっと数をこなさねば。

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 前置きが長くなったけれど、それでは2024年の「極私的ベストテン」発表である。

 極私的ベストテン2024

1位 アンディ・ウィアー『火星の人(上・下)』(ハヤカワ文庫)
2位 マルレーン・ハウスホーファー『壁』(同学社)
3位 エド・レイシイ『さらばその歩むところに心せよ』(ハヤカワミステリ)
4位 シャロン・ボルトン『身代りの女』(新潮文庫)
5位 馬伯庸『両京十五日( I 凶兆・ II 天命』(ハヤカワミステリ)
6位 西村京太郎『七人の証人』(講談社文庫)
7位 ベンジャミン・スティーヴンソン『ぼくの家族はみんな誰かを殺してる』(ハーパーBOOKS)
8位 ホレス・マッコイ『彼らは廃馬を撃つ』(王国社)
9位 ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ『止まった時計』(国書刊行会)
10位 ギジェルモ・マルティネス『オックスフォード連続殺人』(扶桑社ミステリー)

 堂々の1位は今更ながらの『火星の人』だが、面白いものはしょうがない。SF、冒険小説としても面白いのはもちろん、ミステリ好きにもフックになる要素が目白押し。昨年もSFミステリ作品が1位だったのでどうかと思ったのだが、繰り返しになるけれど、面白いものはしょうがない。
 2位は世界三大サバイバル小説に入れるべき一冊。これも設定はSF的ながら、中身はガチガチのサバイバル小説である。
 3位は知る人ぞ知るハードボイルドの傑作。読む前はまずまずよくできたハードボイルドなんだろうな、ぐらいの気持ちだったのだが、いざ読むとそんなレベルではなく、こんな傑作の読み残しがまだあることにショックを受けてしまった。
 4位と5位は今年の大収穫。どちらを上にするかで悩んだが、壮絶な心理戦が味わえる『身代りの女』をチョイス。ありそうでなかったストーリーが素晴らしい。
 5位は歴史冒険小説だが、実は壮大なミステリでもある。食わず嫌いをせず、ぜひ。
 6位は唯一の日本代表。ケレン味の強さと個人的好みで選んだが、他の作品も傑作だらけで、偉大なベストセラー作家が実は偉大なミステリ作家であったことを再認識できた。
 7位も今年の新作。ミステリの可能性を模索するという意味で今年もっとも気になった作品である。実験的作品でありながら間口も広く設けているところが吉。
 8位は一応ノワールに入る作品。とはいえここまでくるともう純文学との垣根などないようなもので、変わったノワールを読みたい人はぜひ。
 9位は完全な好み。クラシック作品も数あれど、こういう道を踏み外したような作品は実に面白い苦笑)。
 10位もなんでこれまで読んでいなかったのかという悔しさが先にたつ一昨。実は気になる点もいろいろあるが、この独特の味わいは捨て難い。 

 ということで以上が2024年の極私的ベストテン。個人的には新刊、旧作ともかなり良作を読めた気がしており、ベストテンから溢れた作品でもそれに匹敵する作品がゴロゴロしている。これも下にずらっと並べたので、ぜひ読んでもらえれば幸いである。(作者名アイウエオ純、海外国内の順)

ロバート・アーサー『幽霊を信じますか?』(扶桑社ミステリー)
エドワード・アンダースン『夜の人々』(新潮文庫)
アーナルデュル・インドリダソン『悪い男』(東京創元社)
ヤーン・エクストレム『ウナギの罠』(扶桑社ミステリー)
マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『ある晴れたXデイに』(東京創元社)
S・A・コスビー『すべての罪は血を流す』(ハーパーBOOKS)
ゾラン・ジヴコヴィチ『フョードル・ミハイロヴィチの四つの死と一つの復活』(盛林堂ミステリアス文庫)
サラーリ・ジェンティル『ボストン図書館の推理作家』(ハヤカワ文庫)
サマンタ・シュウェブリン『救出の距離』(国書刊行会)
ロス・トーマス『狂った宴』(新潮文庫)
ウィリアム・フライアー・ハーヴィー『五本指のけだもの』(国書刊行会)
アルバート・ハーディング『レイヴンズ・スカー山の死』(ROM叢書)
レオ・ブルース『怒れる老婦人たち』(ROM叢書)
ローレンス・ブロック『エイレングラフ弁護士の事件簿』(文春文庫)
アンソニー・ホロヴィッツ『死はすぐそばに』(創元推理文庫)
ジリアン・マカリスター『ロング・プレイス、ロング・タイム』(小学館文庫)
ロス・マクドナルド『別れの顔』(ハヤカワ文庫)
ジル・マゴーン『騙し絵の檻』(創元推理文庫)
サイモン・モックラー『極夜の灰』(創元推理文庫)
ベンハミン・ラバトゥッツ『恐るべき緑』(白水社)
マット・ラフ『魂に秩序を』(新潮文庫)
ピエール・ルメートル『邪悪なる大蛇』(文藝春秋)
ジェイソン・レクーラック『奇妙な絵』(早川書房)
マネル・ロウレイロ『生贄の門』(新潮文庫)
多岐川恭『黒い木の葉』(河出書房新社)
西村京太郎『殺しの双曲線』(講談社文庫)

 最後にアンソロジーや評論、ノンフィクションなどからミステリ関係でよかった本を以下に挙げておこう。今年はあまり読めていないので、これも来年の課題である。

佐々木徹/編訳『英国古典推理小説集』(岩波文庫)
池央耿『翻訳万華鏡』(河出文庫)
森咲郭公鳥、森脇晃、kashiba@猟奇の鉄人『Murder, She Drew Extra : Carr Graphic Vol.3 KEEP CARR AND CARRY ON』(饒舌な中年たち)
江戸川乱歩『江戸川乱歩座談』(中公文庫)

 ということで、今回が今年最後の『探偵小説三昧』であります。今年も拙ブログをご愛顧いただき、誠にありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
 そして来年こそは災害や紛争のない平和な一年になりますよう心からお祈りしたいと思います。
 それでは皆さま、良いお年を!

Comments

Edit

ハヤシさん

もう何度か珠洲には行かれたと思いますが、あちらは本当に大変ですね。七尾の方ではそこまで被害が酷くありませんでしたが、それでも住居を失った人はかなりいます。まあ、私の実家もその一つですが、先日ようやく半壊した家を取り壊しました。
その業者さんに聞いた話では、業者も県内では足りないため、他県から応援に来ているとのこと。こちらにずっと泊まり込みで作業しているようです。七尾はぼちぼち解体も進んでいますが、輪島や珠洲ではまだその段階にすら達していないとのことで、ハヤシさんもさぞやご苦労されていることと思います。とはいえ下を向いていてはなかなか前へ進めませんし、お互い頑張ってまいりましょう。来年もどうぞよろしくいお願いいたします。
ちなみに今年最後の読書はレムになりそうです。

Posted at 22:23 on 12 30, 2024  by sugata

Edit

一年経っても復興が進まぬ能登の被害には心が痛みます。私のパートナーの実家や墓は酷く被害を受けてしまいましたが人的被害が無かったのはまだ救いです。
今年も一年、参考になるレビューをありがとうございました。読書が楽しめる環境がいかに幸せかを改めて痛感します。

Posted at 22:06 on 12 30, 2024  by ハヤシ

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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