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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 01 2013

テレンス・ヤング『007 ドクター・ノオ』

 今月号の『ミステリマガジン』は007特集。映画便乗ではあるのだろうが、これがなかなか力の入った特集で読ませる読ませる。特にウンベルト・エーコの評論は面白かった。
 惜しむらくは、007の成功を受けて登場したライバルたちの紹介もあればよかった。また、これから読もう観ようという人のための作品リストは簡単でいいからやはりほしかったかな。

 そんなわけで久々に007欲求が高まり、買い置きしてあるアシェット・コレクションズ・ジャパンの007シリーズを掘り出してくる。このアシェット・コレクションズ・ジャパン版DVDは『007 ドクター・ノオ』から『007 慰めの報酬』までの二十二作品をデジタルリマスターしたコレクション。買ったはいいが、例によって積んだままなかなか観るきっかけがなかったので、ちょうどいいタイミングである。


 さて、何を観ようか迷うまでもなく、ここは順番に行くべしと一作目の『007 ドクター・ノオ』。1962年公開で監督はテレンス・ヤング。公開時の邦題は『007は殺しの番号』。

 こんな話。1962年、東西が冷戦状態にあるなか、アメリカは月面ロケット計画を進めていたが、発射を妨害する怪電波に悩まされていた。アメリカの依頼でイギリス諜報部はジャマイカに諜報部員を潜入させ、妨害電波を阻止する工作にあたる。しかし諜報部員は秘書もろとも消息を絶ち、諜報部は捜査のため、殺しのライセンスをもつ007号ジェームズ・ボンドを派遣する。ボンドはCIAらと協力して捜査を進めるが、やがて現地のものすら近寄らないという謎の島「クラブ・キー」の存在に目をつけた。

 007ドクター・ノオ

 おお、久々に古い007を観たが今でも十分面白いではないか。一応は冷戦を背景にしているものの、その精神は徹底的な娯楽性にある。深刻な現実を忘れさせてくれる、どことなく優雅で脳天気なスパイアクションは、正に観客の求めるところ。大人のための紙芝居と揶揄もされたが、エンターテインメントを純粋に求めたこのシリーズにとって「大人のための紙芝居」はむしろ褒め言葉であろう。
 さすがに時代故、CGは見劣りがするし、アクションもおとなしい。秘密兵器もないしボンドカーもまだ登場しない。だが、銃やクルマ、アクション、お色気と、その後の作品に脈々と受け継がれる見どころの原型はきっちりと押さえている。
 そして、それを体現してゆく初代ボンドのショーン・コネリーがまたいい。現役ボンドのダニエル・クレイグもかなりいいが、コネリーのボンドには大人の色気や優雅さがある。ストイックさとは無縁の、日本人がイメージするヒーローとはまったく異なるヒーロー像。これにみな痺れたわけで、日本人には逆立ちしても出せない”味”なんだよなぁ。
 シナリオ的には放射能の扱いなど、いかがなものかという点もあるけれど、記念すべき007シリーズの第一作。固いことはいわず、コネリーボンドの魅力に酔いしれるのが吉。


エドワード・D・ホック『エドワード・D・ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ』(原書房)

 二〇〇八年に亡くなったエドワード・D・ホックの最後の作品集となったのが、本日の読了本『エドワード・D・ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ』。言うまでもなくホームズ譚のパスティーシュをまとめた短編集である。まずは収録作。

The Most Dangerous Man「いちばん危険な人物」
The Return of the Speckled Band「まだらの紐の復活」
The Adventure of Vittoria, the Circus Belle「サーカス美女ヴィットーリアの事件」
The Manor House Case「マナー・ハウス事件」
The Christmas Client「クリスマスの依頼人」
The Addleton Tragedy「アドルトンの悲劇」
The Adventure of the Domino Club「ドミノ・クラブ殺人事件」
The Adventure of the Cipher in the Sand「砂の上の暗号事件」
The Christmas Conspiracy「クリスマスの陰謀」
The Adventure of the Anomymous Author「匿名作家の事件」
A Scandal in Montreal「モントリオールの醜聞」
The Adventure of the Dying Ship「瀕死の客船」

 エドワード・D・ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ

 ううむ、期待していたほどではなかったか。ホックはもともと多作な人だっただけに、ある程度のアベレージは残せているものの、ガツンとした手応えを感じることはそう多くはない。それでも本作はホームズのパスティーシュでもあり、かなり力は入っているはずと踏んだのだが、ミステリとしてもパスティーシュとしてもまあまあといったレベルである。

 ただ、それなりの趣向は凝らしており、読者に対するサービス精神は感じられる。
 例えば、某犯罪者の側からホームズを語った「いちばん危険な人物」。ホームズ譚をエラリー・クイーン風に仕立てた「マナー・ハウス事件」。実在の某有名作家を依頼人に設定した「クリスマスの依頼人」。アイリーン・アドラーとの再会を盛り込んだ「モントリオールの醜聞」。ホームズのライバルの一人”思考機械”の作者、ジャック・フットレルとホームズが、タイタニック号で競演する「瀕死の客船」。
 目のつけどころはよく、楽しいことは楽しい。ただのパスティーシュでは終わらせるわけにはいかないという意地みたいなものは感じるのだが、それだけにミステリとしてのこだわりが逆に薄味なのが惜しまれる。

 最後に、これは個人的好みではあるが、この表紙はちょっとアレ。西山クニ子氏はホックのサム・ホーソーンものなどミステリの装画も多く手掛けているが、ホームズのもつ雰囲気には全然合わないんではないかなぁ。


ポール・W・S・アンダーソン『バイオハザードV リトリビューション』

 先週末にVODで観た映画の感想など。ものはポール・W・S・アンダーソン監督の『バイオハザードV リトリビューション』。
 昨年秋口に公開されたバイオハザード・シリーズの最新作だが、まあ、このシリーズにはもう期待することもあまりないわけで。

 前作『バイオハザードIV アフターライフ』で、感染が及んでいない安息の地「アルカディア」を目指したアリスたち一行。それは海上に浮かぶ巨大船舶のことであった。だが、アルカディアに辿り着いたアリスたちの前に現れたのは、アンブレラ社の特殊部隊だった。というのが前作のラスト。
 本作はそのラストシーンから幕を開ける。続編とかそういうレベルではなく、単純に話が終わっていないだけなのだが、もうこの時点で嫌な予感である。
 襲撃されたアリスは海へ転落、意識を失ったが、目覚めた先はアンブレラ社の巨大実験施設であった。ジルに拷問を受けるアリス。そのさなか、施設のセキュリティが停止し、アリスは施設を脱出するが、そこは何と渋谷の街であった。
 しかし、その渋谷は紛い物であった。バイオハザードの恐怖を各国にプレゼンするための、精巧に再現した巨大なシミュレーション施設だったのだ……。

 だいたいがテレビゲームの映画化というものは無残な結果に終わることが多いのだが、それでもこのシリーズは、特に一作目、二作目あたりまでは例外的に見るべきところが多かった。ところが監督のポール・W・S・アンダーソン。奥様のミラ・ジョヴォヴィッチをかっこうよく見せることに執着しすぎたか、あるいはシリーズ化を意識しすぎたか。話を膨らませすぎるわ、それをまたひっくり返すわで、正直、もうストーリーが何でもあり。どんな展開になろうとも、そこには何の驚きもない。
 しかもクローン技術を非常に大安売りしてしまったため、かつて死んだ主要キャラクターも大挙して再登場する始末。まあ、お祭り的作品という観点ではOKだろうが、キャラクターの存在意義や価値なんてもうペラッペラで、『バイオハザード』が本来備えていたハラハラドキドキ感など、もう遠い昔の話である。

 これまではけっこう生温かい目で見てきた管理人だが、この調子ではさすがにVIができても、スルーするかもしれない。気づくのが遅いですかそうですか。


仁木悦子『探偵三影潤全集3 赤の巻』(出版芸術社)

 本日の読了本は仁木悦子の『探偵三影潤全集3 赤の巻』。『白の巻』『青の巻』と続いてきた私立探偵、三影潤シリーズの最終巻。本作では『赤の巻』と題して、秋をテーマにした作品がまとめられている。収録作は以下のとおり。

「くれないの文字」
「夢魔の爪」
「どこかの一隅で」
「暗緑の時代」
「アイボリーの手帖」
「緋の記憶」
「数列と人魚」

 探偵三影潤全集3赤の巻

 三影潤ものを読んでいて、いつも気になっていたことがある。それは仁木悦子がどこまでハードボイルドを意識して本シリーズを書いていたかということ。
 本シリーズは仁木悦子の異色ハードボイルドと呼ばれることも多いし、そのテイストは確かにハードボイルドの要素を多分に含んでいる。だが、『探偵三影潤全集1 白の巻』の感想でも書いたのだが、やはり根本的なところが違う。作品の根底にあるのはあくまで謎解きを中心とした本格ミステリであり、主人公たちの行動原理は他者に対する優しさである。絶対とはいわないが、これはどうしてもハードボイルドとは相性が悪い。
 そんなこんなで、ぶっちゃけ著者自身はどうなんだと。そんなモヤモヤが、本書の解説であっさり解消してしまった。
 結論から言うと、仁木悦子はハードボイルドを書いているつもりはまったくなかったとのこと。これは『EQ』八十四年七月号に掲載されているインタビューの中で明らかになっている。曰く「その気はまったくないですね。……自分の好きなものはなるべく書かないようにしているんですよ」。
 長篇『冷え切った街』などはとりわけハードボイルド味が強いが、作品によってはまったくハードボイルドっぽくないものもある三影潤もの。この返答でその理由も納得である。ただ、本人のハードボイルド嗜好が与える影響は決して小さくなく、結果として仁木流のハードボイルドに昇華したということだろう。
 っていうか、『EQ』八十四年七月号ってリアルタイムで読んでるはずなんだけどなぁ。全然憶えてなかったぞ(苦笑)。

 内容的には非常に安定した作品ばかり。驚くようなトリックなどはないけれど捻りはきいているし、扱っている事件が家族の暗部をえぐり出すようなネタが多く(こういうところもハードボイルド的なのだよなぁ)、想像以上に読み応えがある。
 密室のなかで催眠術をかけられ、伯父を殺害したという学生の事件を調査する「夢魔の爪」。同じ夢を何度も見てしまう理由は過去の殺人事件にある、という女性の依頼を調査する「緋の記憶」。全体に満足度は高いけれど、この二作は特におすすめ。
 逆にワーストも挙げておくと三影潤デビュー作の「くれないの文字」。ダイイング・メッセージものだが、これはヤバイ。仁木悦子でもこういう作品を書いていたのかという意味では興味深いけれど(笑い)。
 まあ、そんな玉に瑕も含め、楽しめる短編集ではありました。


鷲巣義明『ジョン・カーペンター 恐怖の倫理』(洋泉社)

 鷲巣義明の『ジョン・カーペンター 恐怖の倫理』を読む。『遊星からの物体X』や『ハロウィン』等のホラー映画で知られる映画監督ジョン・カーペンターの魅力に迫ったガイドブック。

 ジョン・カーペンター恐怖の倫理

 洋泉社から出ている『映画秘宝』のムックは面白い企画が多いが、これは『映画秘宝ディレクターズ・ファイル』と銘打たれたシリーズで、監督に焦点を当てたストレート真っ向勝負。ただし、大御所や巨匠を選ぶのではなく、わざわざジョン・カーペンターをセレクトするところが流石というか無謀というか(笑)。
 そもそもジョン・カーペンターといっても、一般にどの程度の知名度があるのか。『遊星からの物体X』あたりはまだ有名だろうが、基本的にはB級映画ばかりだから、その名前や作品をスラスラ言える人なんて相当なホラーマニアかSFマニアぐらいだろう。その人気はあくまでカルトであり、映画そのものの出来も正直、玉石混淆という方が正しい。そんなジョン・カーペンターで一冊作ってしまうのだから洋泉社は偉い。特撮好きの管理人としてもこれはやはり見逃せない。
 中身のほうはけっこうな充実ぶりである。全監督作の紹介はもちろんTV作品や未映像化作品、ターニングポイントとなる作品にはびっしりと解説やインタビューを詰め込んでおり、例によってレイアウトは少々ダサイが(苦笑)内容は盛りだくさん。

 私見だが、ジョン・カーペンターの魅力は、世の中を支配する万物の法則の一面だけを切り取り、その一つのエピソードによるインパクトでもって勝負しているところにあると思っている。すべてを説明することはないが、観る者にストレートにイメージを叩きつけていく。その積み重ねで真実が見える。
 喩えるならカーペンターの作品は短編小説なのである。ともすると陳腐に見える場合や、逆に意味不明の場合もあったりするが、その創作における姿勢は終始一貫しておりまったくブレがない。それもまた魅力のひとつである。

 なお、本書のテキストはすべてが書き下ろしというわけではなく、再録もいくらかあるようだ。その際の整合性がとれていないところがいくつかあるのは残念だが、まあ、個人的には概ね満足のいく一冊であった。洋泉社さんにはこのノリで他の監督もどんどん出してもらいたい。


ドナルド・A・スタンウッド『エヴァ・ライカーの記憶』(創元推理文庫)

 東京は大雪。本日、仕事の方にはご苦労様だが、こちらは休みで助かった。といっても夜まで降り続けるみたいだから、明日の電車が心配だ。久しぶりに雪かきをしたから、ついでに筋肉痛も心配である。やれやれ。


 本日の読了本はドナルド・A・スタンウッドの『エヴァ・ライカーの記憶』。かつて文藝春秋で出たものをあらためて創元推理文庫が復刊したもの(といっても既に四年ほど経ったけれど)。まずはストーリーから。

 ハワイの若き警官ノーマン・ホールは、タイタニック沈没事件の生き残りだという老夫婦が起こした交通事故に駆り出された。夫はすでに死亡していたが、残された夫人はこれが殺人事件であると訴える。しかしノーマンはそれを深刻に受け止めず、ほどなくして夫人もまた殺害されたことで、自責の念にかられたノーマンは警察を辞職することになった。
 それから二十年あまりが過ぎた。ノーマンはさまざまな職を経て、やがて作家として成功した。そんなある日、彼のもとに米財界の大物ウィリアム・ライカーが計画しているタイタニック引き揚げ事業の特集記事の仕事が舞い込む。取材を始めたノーマンだが、その仕事に何かきな臭いものを感じ始め……。

 エヴァ・ライカーの記憶

 噂どおり、スケールの大きいエンターテインメント。
 タイタニック沈没という歴史上の大事件の陰で実はこんなドラマが繰り広げられていた、というパターンは別に目新しいものではないけれど、これにノーマンが警官時代に体験した殺人事件やリアルタイムで発生している殺人事件が絡み、実に緻密な物語が織り込まれている。取材を進めるノーマンに降りかかる事件が、いつしかタイタニックで起きた事件に連なり、それが若きノーマンの体験した事件にも関連があって、少しずつ事件の構図が浮かび上がってくるという結構の鮮やかさがとにかく印象的だ。
 帯のキャッチにもある「異色の本格ミステリ」というのはどうかと思うけれど、魅力的な謎を含んだ壮大な冒険小説といえるだろう。

 構成も挑戦的である。現代と過去に大きく二部された構成は、バランスとしてどうなんだろうという思いも当初はあったが、単なるサスペンスで終わらせたくないという作者の気持ちが伝わる部分でもあり、これはこれで良しとすべきだろう。極端にいえば、現代編と過去編を別々の物語として読んでも成立するぐらい、内容は充実している。

 欠点を挙げるとすれば、主人公ノーマンのキャラクター設定が軽すぎるところか。警官時代に犯した失策のため、大きなトラウマを抱えているはずの彼だが、ずいぶん軽口も叩くし、自己中心的だし、皮肉屋でもある。
 なんせ失策としてはかなり最低の部類。おまえ、どんだけ簡単に克服してるんだよ本当に反省してんの?と言いたくなるわけで、ここはもう少し過去を引きずったキャラクターにすべきだったろう。せっかくの重い事件の数々が、この主人公の言動のため常にB級っぽいテイストになってしまい、ああ面白かった程度で終わるのが非常にもったいない。

 しかしながら、せっかく復刊されたこの一冊。お話としては非常によくできているので、再び品切れとなる前に皆様もぜびお試しを。ただ、Amazonで見たらもう品切れっぽい……。


ビリー・ワイルダー『シャーロック・ホームズの冒険』

 1970年に公開(日本は1971年)されたビリー・ワイルダー監督による映画『シャーロック・ホームズの冒険』を観る。
 もともとは四つのエピソードを盛り込んだ四時間近い超大作として撮られたが、公開にあたって二時間ほどに編集されたという曰く付きの一本。その際、エピソードも削られ、謎の美女とネス湖の怪物を中心とした話にまとめられたという。

 ストーリーは完全オリジナルである。ホームズの私生活に深く関わるため、当時未発表だったエピソードが、ワトスンの死後50年を経て公開されたという設定で、物語は幕を開ける。
 さて舞台は変わって19世紀末のロンドン。あるときホームズはロシアのバレリーナから強引な求婚を受けてしまうが、ワトスンと同性愛の関係にあるからと偽って逃れることに成功する。ワトソンは自分の名誉が汚されたと激怒するが……といったところがプロローグ。ここでホームズとワトソンの生活ぶりが楽しめるわけで、本筋はここから。
 ある日、彼らのもとに記憶喪失の女性が運び込まれる。やがて記憶を取り戻した女性ガブリエルの依頼で、ホームズは彼女の夫を探し始めるが、そんな彼らの前にホームズの兄マイクロフトが現れ、調査の中止を勧告する……。

 シャーロック・ホームズの冒険

 ロバート・スティーブンス演じるホームズの造型は悪くないが、個性が弱いか。やや冷たさに欠けるというか、それなりに雰囲気は出ているけれど物足りなさは残る。本筋とは関係ないが化粧が濃いのもちょい気になった(苦笑)。
 一方のワトソンはコリン・ブレークリーが演じており、こちらはえらくお調子者。一般に定着しているまぬけなワトソン像もどうかと思うが、こっちも微妙だ。
 それでも二人とも一応は基本に忠実にやっている感じではあるので、これはこれでありだろう。むしろ記憶喪失の女性ガブリエルが、どことなくアイリーン・アドラーを思わせる雰囲気でかなりよい。後のホームズもの映画やテレビにけっこう影響しているのではないだろうか。

 内容の方はといえば、ビリー・ワイルダーらしいコメディ色の強いものだが、ホームズ譚のポイントはきっちりと押さえているうえ、ミステリー映画としても予想以上に伏線や推理の部分が効いており、個人的には非常に楽しめた。
 謎解きのシーン、ホームズとワトソンの関係、コカインやバイオリンなどお馴染みの小道具の使い方、マイクロフト(なんとクリストファー・リーが演じている)の登場、当時の街並みや221Bの部屋の雰囲気、どれもこれもがいい感じ。目新しさはないが、どうすればファンが楽しめるかがわかっている。
 おすすめ。


金子修介『ガメラ3 邪神覚醒』

 平成ガメラの第三作=完結編『ガメラ3 邪神覚醒』を観る。監督は前二作と同様、金子修介。公開は1999年。

 奈良県明日香村で親戚に引き取られて暮らす二人の姉弟がいた。二人は四年前のガメラとギャオスの戦いによって両親をなくし、そのため中学生の姉、比良坂綾奈はガメラを激しく憎んでいた。その頑なすぎる言動から周囲に溶け込むこともできず、同級生との度胸試しに応じて、古くから「柳星張」が眠ると伝えられている祠へ入ってゆく綾奈。彼女はそこで不思議な卵状のものを発見する。
 そんな頃、渋谷で二匹のギャオスが出現した。かつてガメラはレギオンを倒すため、地球の生命エネルギー”マナ”を大量消費したが、それによって地球環境のバランスが崩れ、世界各地でギャオスが大量発生する兆しがあったのだ。二匹のギャオスは追いかけるようにして現れたガメラによって駆逐されたが、渋谷の被害は甚大で、政府や世論はギャオス以上にガメラを危険視するようになる。
 一方、絢奈の見つけた卵からは奇妙な生物が生まれていた。絢奈は以前に飼っていた愛猫の名前からイリスと名付けたが……。

 ガメラ3 邪神<イリス>覚醒

 シリーズの掉尾を飾る作品であり、映像やCGなどは三作中でもピカイチ。ガメラの造型ももっとも迫力があり、怖い怪獣映画ということであれば文句なし。日本の怪獣映画もここまできたかと思わせる作品である。
 だが、その一方で、シリーズ全体の整合性やストーリーの決着をつけるため、明らかにネタを詰め込みすぎ。本来、この作品でもっとも大きく謳いたいのは、正義の味方である怪獣が敵と戦うことで実はより大きな被害を与えているのではないかというもの。それを体現するヒロインがガメラを憎みイリスを生み出した比良坂綾奈である。
 だが本作には、他にもギャオスの謎を追う鳥類学者の長峰真弓、ガメラの存在意義について考えるガメラの巫女たる草薙浅黄、内閣情報調査会所属で巨大生物被害災害審議会メンバーの朝倉美都、三名のヒロイン格の女性がおり、それぞれにドラマがあるような状態。個々のネタは面白いのに、それぞれが消化不良になってしまっている。
 特に朝倉美都とそのブレーンの男のドラマは、ギャオスとガメラを生み出した古代文明に直結する話で、それだけで一本映画が撮れるネタだけに実にもったいない。

 圧倒的な好評をもって迎えられた平成ガメラシリーズ。そのラストを締める作品ということで、スタッフとしてはやれるだけのことはやりたかったに違いない。だが、ストーリー的に空回りの感じは否めず、ビジュアルがいいだけに何とも惜しい一作であった。個人的にはこの三作目のガメラで一作目を観たかったなぁという気持ちである。


ルパート・サンダース『スノーホワイト』

 VODでルパート・サンダース監督の『スノーホワイト』を観る。何でも今年はグリム童話が生まれて200周年とかで、昨年あたりからグリム童話を原作とした映画がいろいろと公開されている。『スノーホワイト』もそのひとつで、原作は言うまでもなく『白雪姫』。日本では昨年の六月頃に公開された。

 さて、原作は『白雪姫』と書いたものの、ストーリーや設定はかなりのアレンジがなされている。
 とある国のプリンセスとして生まれたスノーホワイト。彼女は王や王妃、国民にも愛されて育ったが、王妃は病気でこの世を去ってしまう。
 悲しみに暮れる王。だがその後、王は幻の軍勢と戦った際、囚われていたラヴェンナという女性を助け、すっかり虜に。王はやがて新しい王妃としてラヴェンナを迎えることにしたが、実は彼女は邪悪な魔女であった。ラヴェンナは王を殺害すると、幻の軍勢を引き入れて国を乗っ取り、スノーホワイトを監禁してしまった。
 七年後。女王となったラヴェンナは圧政を敷く一方、「この世でいちばん美しい者は誰?」と常に魔法の鏡に問いかけていた。ラヴェンナの魔力と若さは、誰よりも美しくあることで維持できていたのだ。そんなある日、ラヴェンナは鏡から自分よりも美しい娘が現れたことを知らされる。その娘の名こそスノーホワイト。ラヴェンナは永遠の若さを手に入れるべく、スノーホワイトの心臓を手に入れようとするが……。

 ううむ、何というか、そこそこ面白いのだが、物足りなさもそれなりに。
 どこかで見たような展開、ほどほどに迫力ある映像、そこそこ頑張っているCGなどなど、怖ろしいくらい新味がなくて、もう少し何とか個性を出せよと言いたくなる。ベースは確かに白雪姫なんだけど、女王の手から逃れた白雪姫が抵抗勢力を決起して国を取り戻すという流れは、「ロード・オブ・ザ・リング」や「ハリー・ポッター」、「タイタンの戦い」などの例を出すまででもなく既視感バリバリ。
 同じグリム童話ネタの映画で『赤ずきん』というのがあったけれど、せめてあれぐらいにはお話をひねってくれ、ヒロインも魅力的なら良かったのだけれど。

 ヒロインと言えばスノーホワイト役のクリステン・スチュワートも弱いよなぁ。これは演出のせいでもあるのだろうが、美しさでいくのか、凛々しさでいくのか、セクシーさでいくのか、ヒロインの魅力がいまひとつハッキリしない。むしろ女王ラヴェンナ役のシャーリーズ・セロンが圧倒的な存在感でこちらはビジュアル的にも見応えあり。設定上もスノーホワイトより複雑な人間性が与えられていて、ここも高ポイントである。
 こんなことなら完全にシャーリーズ・セロン主役で、裏から見た白雪姫、みたいな作り方にすればよかったんじゃないだろうか。以前にシガニー・ウィーバーが継母役を演じた『スノーホワイト』もあったが、あちらも実質的な主役はシガニー・ウィーバーで、グリム童話の毒を前面に押し出したところがミソだった。それぐらい独自性を出さなければ、いくらグリム童話生誕200年という冠があっても難しいんじゃないか。

 ちなみにこの映画の三ヶ月ほど後に、白雪姫リリー・コリンズ、女王ジュリア・ロバーツという布陣で『白雪姫と鏡の女王』も公開された。こちらはもっと脳天気な感じの白雪姫ムービーらしいけれど、女王の方が存在感が上っていうのは共通してそうだ(苦笑)。


金子修介『ガメラ2 レギオン襲来』

 『ガメラ2 レギオン襲来』をブルーレイで視聴。先日、購入した『ガメラ トリロジー 平成版ガメラ3部作収録 Blu-ray BOX』の一本で、平成ガメラシリーズの第二作。監督はもちろん金子修介。公開は1996年。

 前作から一年後。北海道に流星群が降り注ぎ、その隕石のひとつの落下現場が発見されたにもかかわらず、その場から隕石が発見できないという不思議な事件が起こる。
 一方、札幌市青少年科学館の学芸員である穂波碧は、流星群と同じタイミングで北海道に現れたオーロラの調査を進めていた。やがて隕石を調査する自衛隊の渡良瀬佑介二等陸佐らと出会い、彼女は隕石が自力で移動したのではないかという仮説を披露する。その目的地は札幌。
 その仮説を立証するかのように、札幌の地下鉄で全長三メートルはあろうかという巨大な虫の大群が出現。同時に高さ数十メートルもある奇怪な草体が発生した。
 流星群の正体は判明したが、事態はさらに深刻化する。虫と植物は共生関係にあることが判明し、虫はシリコンを餌として、その分解過程で発生した高濃度の酸素で草体を育てている。その高濃度酸素の環境下では、地球の大部分の生物は生存することができない。さらに驚くべきことに、草体は種子を宇宙に放って繁殖するものと推測されたが、その際の爆発力は札幌を壊滅させるほどのパワーを持っているというのだ。
 草体を一刻も早く爆破しなければならない。自衛隊の準備が進む中、三陸沖では海中を移動する巨大な物体が確認された……。

 ガメラ2 レギオン襲来

 第一作の『ガメラ 大怪獣空中決戦』もよかったが、これも実によろしい。自衛隊が怪獣という災害(ガメラも含め)に対し、どのように対処していくのかという、大人のためのファンタジーをきっちりと作り上げている。
 「ガメラは正義の味方」という、怪獣映画としてはどうなんだ?という大前提に対しても、前作のとおり古代文明によって生まれた地球を護るための超生物兵器という設定が効いているし、そこを踏まえた上でなおかつ人間とガメラの対立構造も描いているので、とにかくフォローがしっかりしている。
 もちろん細かい矛盾やアラはいくらでも突けるのだが、それは怪獣映画に限った話ではないのでまあ許せる範囲。実をいうとファンタジーをファンタジーとして捉えぬまま、馬鹿正直に怪獣映画をやりすぎると三作目の『ガメラ3 邪神覚醒』のようなことになってしまうのだが、それはまた別の機会に。


謹賀新年&50万HIT

 新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

 おめでたいついでに書いておきますと、訪問カウンターが500,000ヒットを記録しました。元旦に達成、と言いたいところですが、逆算するとどうやら大晦日には達していたようですっかり見逃しておりました。例によって管理人自ら50,000ヒットぐらいはしていると思いますが(笑)、それでもこんな辺境のブログが多くの方々に見ていただいたことは望外の喜びです。本当にありがとうございます。
 今後とも『探偵小説三昧』ご贔屓のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。


 元旦は例年変わらずおせちと雑煮とお酒で一日中ゴロゴロしていましたが、初詣にも行ってきました。お酒が入っているので遠出はできず、近所の小さな神社で適当に済ませただけですが。本格的始動は明日から。
 ところで年末年始は家にいる時間も増えて、テレビも見る機会も普段より多くなるわけですが、あれですね、なんでこんなに長時間の番組ばかりなんでしょうか? 五時間とかざらですもんね。
 いろいろ関係者の理由や思惑はあるのでしょうが、なんでもかんでも詰め込んでひとつの番組にしてしまうと、何をやっているのかよくわからないし、逆にボリューム過多で敬遠したくなります。中にはボクシングの世界戦とかそれなりに見たい番組もあるのですが。
 そんなわけで、早々に映画鑑賞に切り替える元旦ではございました。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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