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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 12 2002

山前 譲/編『本格一筋六十年想い出の鮎川哲也』(東京創元社)

 レンタルで『スパイダーマン』視聴。あのサム・ライミ監督が屈折したヒーローをどう料理するのか興味があったが、けっこう丁寧に作っており、なかなか楽しめる。ただし、ヒロインがイマイチで辛い。いや、演技力とかではなくて、たんにビジュアル面なんですが(笑)。

 本日、そして今年最後の読了本は、鮎川哲也追悼記念出版となる山前譲氏編集の『本格一筋六十年想い出の鮎川哲也』。もしかしたらこの一年をしみじみと振り返るのに最も相応しい本かも。
 本書は鮎川氏と親交のあった方々による追悼文集だが、少し装幀が同人誌っぽいというか自費出版っぽいというか。時間がなかったせいか定価を抑えたかったのかは知らんが、もうちょっと高級感があってもよいのに、ちょっと拍子抜け。肝心の中身は予想以上でも以下でもなく、文字通りの追悼文集で、様々な人の文章を通じて鮎川哲也の人となりがぼんやり浮かび上がってくる。けっこう読み応えあり。

 なお、今年の読了本は百六十六冊に終わる。もう少し読みたかったが、今の自由にできる時間を考えるとこんなものか。このうえホームページ運営とかやりだすと、ますます本を読む時間が減るだろうと思うとちょっと腰が引けますな。皆さん、立派なもんです。


社員旅行

 26、27日と札幌へ社員旅行。東京もいい加減寒いと思っていたが、さすが札幌はレベルが違う。ホントに寒い。ハッキリ言ってなめてました。すいません、札幌市民の方々。
 夜はカニを食ったり、二次会では総勢三十人で大カラオケ大会に繰り出したり、ラーメンを食った後、氷点下の中を歩いてホテルまで帰ったりと、それなりに楽しむ。帰りの日は今年いちばんの大雪とかで飛行機が心配だったが、なんとか一時間遅れ程度ですみ、無事帰京。さすがに本は読めませんでした。

スチュアート・ウッズ『不完全な他人』(角川文庫)

 仕事が修羅場モードに突入して、金曜日は徹夜、土曜もそのまま午前様まで仕事となる。その間隙をぬってスチュアート・ウッズの『不完全な他人』を読了。

 ニューヨーク行きの機内でたまたま隣り合わせた二人の男。二人にはどちらも経済的な事情などで妻がジャマな存在になっていた。酒を飲みながら話すうち、機内の映画でヒッチコックの『見知らぬ乗客』が流れる。どちらからともなく二人は妻の交換殺人を持ちかけていた……。

 『不完全な他人』は最近のウッズに顕著な、ベストセラー狙い、映画化狙いの作品。相も変わらずテンポもいいし、語り口も巧い。巻き込まれ型ミステリの主人公にしては珍しく、初めから地位もお金もあって大変優雅な生活が語られるが、それほどイヤミったらしくないのはウッズの筆力の為せる技という感じだ。

 しかし、出だし快調なれども中盤からはご都合主義のオンパレード。ストーリーの核になる部分を強烈な偶然に頼っているのはかなりいただけないし、主人公のやることなすことも上手くいきすぎである。
 しかもいったんは妻殺しを依頼した主人公。のちにそれで後悔することにはなるのだが、これが薄っぺらく感じてしようがない。犯人の行動もいまひとつ説得力に欠けるうえ、攻めもぬるい。これでサイコ・サスペンスと言われてもなぁ。

 本作は最近のウッズのなかでも最低の部類に入ることは間違いない。ほんとにウッズはダメになってしまったのか、ちと心配である。
 ネットで調べると、『警察署長』や『風に乗って』『草の根』などリー一族を主役にしたシリーズの最新作も本国では出版されているらしいので(といってももう2年前らしい)、とにかくそちらを早く読んでみたい。でも翻訳は出るんかいな?

ニコラス・ブレイク『秘められた傷』(ハヤカワミステリ)

 会社の大掃除&仕事納め。世間様よりちょっと早いのは、なんと明日から会社の慰安旅行で木・金と札幌に行くからである。

 読了本はニコラス・ブレイク最後の長編にあたる『秘められた傷』。
 時は第二次世界大戦の直前。駆け出し作家のドミニック・エアはアイルランドを旅行中、ひょんなことから、シャーロッツ・タウンという小さな町に住むことになる。家を提供してくれたのは、先の大戦での英雄だが、今は身を持ち崩している牧場主フラリー。しかし、エアはフラリーの妻、ハリーから誘惑されて肉体関係をもってしまい、ついには何者かから身の危険を伴う警告まで受けとる羽目に陥る。結局、エアはハリーと別れる決意をするが、それを伝えた翌日、彼女は全裸にナイフを刺されて死んでいるのが発見される……。

 これはいい。本格ミステリとして傑作かといえばちょっと躊躇うが、犯罪小説としては非常に読み応えがあって、個人的には文句なしに◎をあげたい。
 そもそも管理人が初めてブレイクを読んだのはハヤカワ文庫の『野獣死すべし』なのだが、そのときの感動は今でも覚えている。ミステリとしても素晴らしかったが、息子を殺された父親の復讐劇にあたる第一部の迫力がとにかく印象的だったのだ。その感動はそれまでのミステリではあまり味わえなかった種類のものであり、青二才なりに探偵小説の可能性というものに目覚めた作品でもあった。
 ところがその後もいくつかブレイクの作品は読んできたが、『野獣死すべし』ほどの満足感を得ることは結局できなかった。シリーズ探偵のナイジェル・ウィリアムスにももうひとつ魅力を感じるほどではなく、こんなものなのかと長年遠ざかっていたのだ。

 しかし、本作は違った。
 まず面白いのは本格探偵小説ながら探偵役の一人称を用いていること。普通、探偵役の一人称といえばハードボイルドと相場が決まっているが、ブレイクがあえて本作でこれを使っているのは、叙述トリックのためとかではない。おそらくは純粋に主人公エアの心理や考え方をよりヴィヴィッドに表現したかったからに他ならないと思うのだ。
 また、アイルランドの田舎町や人間関係も、エアというフィルターを通すことによって、かえって生き生きと語ることに成功している。例えばハリーとフラリーの危ういバランスの上に成り立っている夫婦関係。例えば一見ざっくばらんに見えて実は閉鎖的な田舎町。見所は多い。

 翻訳で読んでいるのでハッキリしたことは言えないが、ブレイクの文章はきめ細やかで、確かな描写力を持っている(と思う)。考えてみればニコラス・ブレイクは元々、詩人なのである。その感性、描写力が安いはずもないのだ。
 そして、その芳醇な文体で語られるエピソードの積み重ねのなか、徐々に高まってくる独特の緊張感がまたよい。事件の幕が開く(つまり殺人ですね)のは決して早い段階ではないのに、ミステリを読んでいるという感覚はしっかりと漂わせている。主人公が作家ということもあるし、私小説として考える手もあるだろうが、個人的にはブレイク流の犯罪小説として捉えたいところだ。
 本格探偵作家たるブレイクだが、もしかするとウールリッチのようなサスペンスを書かせてみても大傑作を書いたのではないだろうか。そんな気がする。


『ア・ラ・カルト』

 仕事は忙しいものの、これだけは見逃せない。先だって解散した遊機械/全自動シアターの元メンバー、白井晃、高泉淳子、蔭山泰による年末恒例の舞台『ア・ラ・カルト』。あるフランスレストランを舞台に、ショートコントと歌で構成された楽しいお芝居なのだ。今年で14回目を迎えた『ア・ラ・カルト』だが、ほとんどのコントは毎年の続き物になっていて、少しずつ話が進展しているのがミソ。とにかく面白くて、笑い通しの二時間半。仕事のうさもこれで晴れるというもんだ。

 東京の弥生美術館で行われている「江戸川乱歩の少年探偵団展」が本日で終了。ああ、完全に忘れていた。大ショック。

香山滋『海鰻荘奇談』(講談社大衆文学館)

 本日も香山滋。現代教養文庫版を読み終えたので、手近にあった講談社の大衆文学館シリーズから『海鰻荘奇談』を引っ張り出す。ところが現代教養文庫版とかなりの重複があり、ここ数日で読んだものは飛ばしていったため、アッという間に読み終えてしまう。収録作は以下のとおり。

「オラン・ペンデクの復讐」
「海鰻荘奇談」
「怪異馬霊教」
「白蛾」
「ソロモンの桃」
「蜥蜴の島」
「エル・ドラドオ」
「金鶏」
「月ぞ悪魔」

 管理人はたまたま現代教養文庫版で読んだばかりなのであれだけど、このラインナップは充実の一語。現代教養文庫版からさらに精選したという趣で、むちゃくちゃ粒ぞろいである。重複する作品については、現代教養文庫版の方の感想を見てもらうとして、ここではだぶっていない作品だけ感想をアップしよう。
 「蜥蜴の島」は大トカゲに育てられた女を愛してしまったレスビアンの女性が、彼女を愛するあまりにトカゲと同一化しようとする幻想譚。いったいどうしたらこんな設定と展開を思いつくのか。これだけでも強烈だが、著者はそれを耽美という衣にくるんで提供する。その味わいがまさに絶品。
 「エル・ドラドオ」は探検家、人見十吉のシリーズデビュー作。「毎度毎度事件の渦中にに入り込みすぎるのが個人的に好みではない」と12月13日の日記に書いたが、どうやらデビュー作から既にそのパターンは完成されていたようである。軟体人類の描写がえぐく、気持ち悪いが気持ちよい。
 「金鶏」は「妖蝶記」と同様、人獣交婚を扱った一作。シンプルだが「妖蝶記」ほどの力強さはなく、ややあっさりめ。この一冊のなかでは最も物足りなさが残る。


香山滋『妖蝶記』(現代教養文庫)

 現代教養文庫版の「香山滋傑作選」三冊目、『妖蝶記』が本日の読了本である。まずは収録作から。

「海鰻荘奇談」
「妖蝶記」
「月ぞ悪魔」
「北京原人」
「キキモラ」
「ガブラ」

 相変わらずの古生物学的趣味爆発のラインナップ。なんとも魅力的な響きのタイトルが並ぶ。やはり三一書房の全集が買えない人は、この現代教養文庫だけでもそろえておいた方がよいだろう。こちらもそれなりの古書価格だが、まあ、全集をそろえることを思えば安いものである。

 「海鰻荘奇談」はプールいっぱいのウツボを飼う屋敷で起こった殺人事件。犯行手段が独創的っていうか、こんな話、まともな推理作家に書けるはずもない(笑)。幻想的な舞台設定がなんともいえない味の傑作。ただし、第二部は後年に付け足されたもので、どちらかというと蛇足っぽい。

 「妖蝶記」。蝶女と主人公の恋愛&対決が怪しげかつ美しく語られる。「妖蝶記」や「海鰻荘奇談」もそうだが、香山作品の登場人物たちはおしなべてその執着心の凄まじさが大きな魅力である。マッド・サイエンティストはもちろんマッド・ワイフとかマッド・シスターとかマッド・バタフライとか。それが物語に異様な緊張感を生むのだ。

 「月ぞ悪魔」も恋愛要素が入るが、ヒロインは腹話術を至高の芸にまで高めた女性という奇妙な設定がそそる。最後に暴かれるヒロインの秘密は、この手の話が好きな人なら予想がつくだろうが、初めから知っていたとしてもその味わいを損なうことはないはず。極上のホラー小説である。好み。

 「北京原人」はあまりピンとこなかった作品。秘境冒険もの、もしくはスパイものの範疇に入るのだろうか。タイトルどおりの話を期待するとちょっと裏切られる。

 「キキモラ」は珍しくオチを効かせた作品。キキモラという女中志願の少女が、発狂した主人と、それを介護する妻の家に現れる。実はキキモラは幸福な人々が住む家を訪れ、その家を不幸にするという妖精なのだ。果たして主人公夫妻の運命は……というお話で、構成や展開もうまく、私が香山傑作選を編むとしたら絶対に入れたい一作である。

 「ガブラ」は、核実験によって生まれたガブラというジンベイザメの化け物を登場させて、かなりストレートに文明批判をぶち上げている一作。こう書くと、香山の代表作『ゴジラ』がすぐに連想されるが、本文中でもゴジラの話がちらりと触れられていて楽しい。ちなみにこれは著者の遺作になる。


香山滋『オラン・ペンデクの復讐』(現代教養文庫)

 中毒性が高いと先日の日記に書いたとおり、本日の読了本も香山滋。お次は同じく現代教養文庫から『オラン・ペンデクの復讐』。
 香山滋は探偵作家として紹介されることも多いが、しかしながらその作品は圧倒的にSF・幻想系である。また、古生物学に強い興味をもっていたこともあって、数々の不可思議な生き物が登場する作品も多く、映画『ゴジラ』の原作者であることは有名な話だ。本日読んだ『オラン・ペンデクの復讐』には、そんな香山の古生物学的興味が凝縮された作品が採られている。

「オラン・ペンデクの復讐」
「オラン・ペンデク後日譚」
「オラン・ペンデク射殺事件」
「美しき山猫」
「心臓花」
「蜥蜴夫人」
「処女水」
「ネンゴ・ネンゴ」
「天牛」

 「オラン・ペンデクの復讐」は戦後の探偵雑誌「宝石」の懸賞募集で当選した著者のデビュー作。スマトラで発見されたというオラン・ペンデクという新人類の真偽、その報告会での学者の突然死が一気に読者を引き込むが、ちょっと強引すぎる気も。しかし、香山滋のやりたかったことはこのデビュー作ですでに十分顕れている。

 「オラン・ペンデク後日譚」は上の続編で、夫に父を殺された妻の冒険談が柱。また、「オラン・ペンデク射殺事件」は安住の地を求めるオラン・ペンデクたちに一応の決着を見せている。この三作をまとめて読んだのは初めてだが、けっこうスタイルを変えていることに気づく。しかし、ともにメッセージ性の強い作品であることに変わりはなく、解説にもあるように反文明、原始思慕の精神は著者にとって不変のものなのだ。

 「美しき山猫」「心臓花」はどちらも冒険家人見十吉シリーズの一作。幾多の不思議な経験を積んでいる人見十吉なのに、毎度毎度事件の渦中に入り込みすぎるのが個人的にはあまりいただけない。もっと語り部としての存在に徹した方が効果的だと思うのだが。もっともそういう整合性みたいなものをこのシリーズに求めるのは野暮な話ではある。実際「美しき山猫」のギラギラしたヒロインは大変魅力的で、お話そのものは大変好み。

 「蜥蜴夫人」は残念ながら本物のトカゲ女が出てくるわけではない(笑)。あくまでトカゲの持つイメージを備えた女性の話。しかし、蜥蜴夫人ばかりか登場人物全員が巻き込まれる愛憎のドラマは凄まじいの一言。

 「処女水」は「怪異馬霊教」と同じような構造で、序盤の本格風味が後半でいつのまにか香山ワールドに取って代わられているという、これまた大好きな作品。こんな謎解きありか、と怒る人は香山滋を楽しむ資格はない。

 「ネンゴ・ネンゴ」は珍しく庶民的ヒューマニズムでラストを締めくくった作品。といってもそれに至るまでの過程はミステリー風味、伝奇的風味が錯綜して、小粒ながら捨てがたい作品。

 「天牛」は本編も悪くないのだが、巻末の中島河太郎の解説が笑える。中島先生の解説って基本的には温厚なのだが、この言い方はひどくないか(笑)。


香山滋『ソロモンの桃』(現代教養文庫)

 先日読んだ城昌幸に触発されて、無性に古典が読みたくなる。しかも本格ではなく、めいっぱい幻想的なもの。というわけで香山滋『ソロモンの桃』に手を出す。現代教養文庫版の「香山滋傑作選」の一冊で、収録作と感想は以下のとおり。

「ソロモンの桃」
「怪異馬霊教」
「白蛾」
「殺意」
「蝋燭売り」

 「ソロモンの桃」は香山滋初の長編(といってもかなり短いが)。探偵小説でもなんでもなく、H・R・ハガードをより蠱惑的にしたようなお話。秘境冒険ものでありながら幻想小説にもなっており、語り口の古めかしさというか、はったりの効いた文章がまたそそられる。ただし、冒険味の方が勝ちすぎているきらいはあり、個人的にはやや好みから外れる。

 「怪異馬霊教」は過去何度読んだことやら。前半は横溝正史ばりのおどろおどろしい本格探偵小説的展開を見せていながら、後半では一気に強烈な幻想的世界へとなだれ込む。この不可思議な落差が心地よい。初めて読んだのは二十年ぐらい前だったと思うが、当時は激しくショックを受けた作品。大好きです。

 「白蛾」は透明人間やら木乃伊やら原人やらが激しく登場する、胡散臭さ爆発のスパイ小説? もうむちゃくちゃ。でも面白い。各章の終わりには、タイトルにもある白蛾が何かを暗示・象徴するかのように毎回現れるが、はっきり言ってまったく意味不明。いったい何の象徴なんでしょうか?

 「殺意」は香山滋にしてはわりと地味。といっても冒頭から三ページ目にして、もうかなりとんでもないことにはなってますが(笑)。ちょっと乱歩っぽい。

 「蝋燭売り」は、「笑うセールスマン」みたいな話といえばわかりやすいか。ただし藤子不二雄よりはさらに意地の悪い展開と結末を用意しており、後味は苦い。

 初期の傑作を集めたものなので、アンソロジーなどに収録されたものが多く、ほとんどが既読。だがあらためて読むとやはり香山滋という作家の個性に驚かされる。おそらくまったく免疫がない人が読むとトンデモ本と思われそうな作品揃いだが、この魅力は他の作家で代用が効かないため、ずるずる香山ワールドの虜になってしまうのである。タイプは違うが山田風太郎なども同じく代用が効かない作家の一人で、こういうオリジナリティの強い作家はほんと中毒性も高いから怖ろしい。


城昌幸『のすたるじあ』(牧神社)

 思い出したように、城昌幸。本日は『のすたるじあ』を読了。
 小説というよりは散文という方が相応しい内容の作品が多く、詩人、城左門としての一面をかいま見ることができる素晴らしい掌編集である。
 この本が刊行されたのは昭和五十一年九月のことだが、同年二月には『城左門全詩集』も刊行しており、そして『のすたるじあ』を世に送り出してから、わずか二ヶ月後、城昌幸はこの世を去った。タイトルが『のすたるじあ』というのもまるで何かの暗示のようだ。正直、読了後は胸がいっぱいになってしまい、この本の感想を語る気にすらなれない。それほどまでに美しい作品集である。
 たまにこういう本に出会えるから読書は止められないんだよなぁ。


別冊宝島編集部/編『このミステリーがすごい!2003年版』(宝島社)

 『このミステリーがすごい!2003年版』を本屋で見つける。おお、もうそんな季節なのだなと、とりあえず購入してさくさくっと目を通す。
 といっても国内編は予想どおりベストテン中一冊も読んでいないので、感想も何もない(笑)。で、海外編だが、うん、こちらは三分の二ほど読んでいるし、他のもほとんど購入済みだ。<買ってるだけで安心しているヤツ

 さて、肝心の一位は……なんと、バッタですか? 確かに悪くはないが、今年のベスト1と言えるような作品かなぁ?
 しかし、それをいったら他の作品もトップにもってくるにはちと弱い。まあ、ミステリのランキングなんて結局は遊びだから、それほど目くじら立てる必要もないんだけど。
 ただ、この遊びの結果によって仕事を左右される人は大変だわな。さすがに「このミス」の影響力は大きいだろうし。
 ちなみに私が「このミス」を買う理由は、「私のベスト6」と題された各コメントを読みたいから。ランキングは気にならないが、自分と好みの似ている評論家さんや書評家さんのコメントは一応読んでおきたい。自分が見落としていた作品を、これで拾うことも多いし。


ビル・S・バリンジャー『煙の中の肖像』(小学館)

 ようやく読書ペースが復活しつつある。本日の読了本はビル・S・バリンジャー作『煙の中の肖像』。なぜか時を同じくして、創元推理文庫でも『煙で描いた肖像画』という邦題で刊行されたため、内容よりそういう面で話題になった作品。
 単なる偶然なのかどうかわからんが、折からの古典復刻ブームのため、自ずと紹介される作品もバッティングする可能性はあるわけで、版元はこのような事態を避けるためにも早めに告知するべきではないだろうか。営業的なこともあるから極端に早く告知するのが難しいことは百も承知だが、訳者をはじめとした関係者の努力が、結果として(もちろん売上のことです)残らないのは大変残念。そして結果が残らなければ、こういう企画も立ち消えになるわけで、結局はそういうものを読みたい読者が貧乏くじを引くわけである。
 今回の場合、どの程度の比率で小学館版と創元推理文庫版の売り上げが分かれたかは知るよしもないが、当然の話、一冊だけしか刊行されない方が良い結果になったのは言うまでもない。創元はもちろんだが、小学館も最近はがんばっているので、できれば関係者が情報交換などしつつ、うまく共存してほしいところだ。

 さて、肝心の本の内容だが、こんな話である。
 さえない人生を送ってきた主人公のダニー・エイプリルだが、今ではなんとかシカゴで未収金取り立て業を営んでいる。そんなある日、前経営者の資料から謎の美女、クラッシーの写真を見たダニーは、あっという間に心を奪われてしまう。なんとか彼女に会いたい。そう決意したダニーはクラッシーの調査を始めるが、次第に彼女が目的のためなら手段を選ばない悪女だということが判明してゆく……。

 いわゆる悪女ものだが、悪女その人はなかなか姿を現さず、ダニーの調査によって徐々にその姿を浮き彫りにする手法をとる。別段珍しくもない手だが、要はその密度。本作ではいかんせんキャラクターが弱く、サスペンスを極限まで盛り上げるところまではいっていない。
 まずクラッシーの存在感がいまひとつ。結局は彼女がいかに男を吸収してのし上がるかがすべてと言っても過言ではないのに、どうにもスケールが小さく、計画性はそこそこあるのに行き当たりばったりで生きている感が強い。一方、追う側のダニーにしてもわりと真っ当なのがいただけない。せめてストーカー的な部分を強く出すか、もしくは逆にもっと純情な男にして、クラッシーに食い尽くされるところまでもっていけばよいのにと思う。
 ついでに言えば構成も甘い。クラッシーの登場はもっと引っ張った方がサスペンスは盛り上がると思うし、ラストも唐突すぎて、しかも詰めが甘い。結局、役者が弱いので、ラストのカタストロフィまでパンチ不足になるのだろう。期待したわりには拍子抜けの一冊だった。

 なお、本書と比較するに持ってこいの作品は、何といってもアンドリュー・ガーヴの『ヒルダよ眠れ』だろう。バリンジャーがそれを意識したのかどうか気になるところだが、なんと発表年はどちらも1950年。執筆期間などを考慮するとおそらく偶然なのだろうが、どうもこの作品は、そういう不運が延々ついてまわっているようで、つくづくついてない作品である。


ジェフリー・ディーヴァー『死の教訓(下)』(講談社文庫)

 疲れ切った頭には拷問に等しかった『死の教訓』上巻。しかし、さすがはディーヴァー。下巻はかなり盛り返した。
 と言っても、この程度じゃ人に勧めるところまではいかない。
 第一、本書が書かれたのは、『眠れぬイヴのために』の前なのだ。一般にディーヴァーの出世作は『眠れぬイヴのために』とされており、続く『監禁』『静寂の叫び』などで大化けし、『ボーンコレクター』で遂に人気実力ともメジャー級になったと言われている。結局、本書は最初期の『汚れた街のシンデレラ』『死を誘うロケ地』ほどひどくはないが、『眠れぬイヴのために』には及ばない、といった程度の作品なのだ。

 とある田舎町のニューレバノンで女子大生の死体が発見された。死姦の跡や、犯行が半月の夜に行われたらしいことなどことから、保安官やマスコミはカルトがらみの猟奇犯罪として事件を扱う。そんな動きに納得しないのが捜査主任のビル・コードだった。ビルは捜査の基本に忠実に、一歩一歩、犯人を追いつめようとする。しかし、そんなビルのもとへ、犯人とおぼしき者から脅迫のメッセージが届けられ、家族に姿なき魔の手が忍び寄る。

 設定は悪くない。確かに最近の作品ほどのド派手な要素はないが、田舎町のごく普通の家庭が抱える様々な悩みや問題がうまく事件と絡み合い、考えさせる力を持っている。
 例えば主人公ビルの家族の問題(これがまたてんこ盛り)はもちろんだが、保安官、捜査官、大学警備主任、大学関係者、被害者の家族など、彼らはそれぞれがそれぞれの困難に直面している。自分一人ではどうにもならない悩みも多く、それが葛藤を生み、対立を生み出してゆく。このあたりをしつこく描写してゆくところは、逆に最近の作品にはない部分で、なかなか読ませる。
 ただし、前半(上巻)は、いろいろな登場人物に含みを持たせすぎようとして、少々、いや、かなり煩わしい。おまけにすぐに場面を切り替えるので、展開がごちゃごちゃしすぎて読みにくいったらないのである。

 面白くなってくるのは上巻も終わりに近づいてから。さまざまな伏線が一本にまとまりを見せ、数々の怪しい人物たちが、本来の役目をまっとうしてゆく。ここまできてようやく後年のディーヴァーを彷彿とさせる、という表現に相応しくなる。ただ、前半の失点を取り返すところまではいかず、結局は並レベルの作品と言うことになるだろう。それを承知で読むのなら、そこそこは楽しめるはずだ。

ジェフリー・ディーヴァー『死の教訓(上)』(講談社文庫)

 恐ろしいことに先週の日曜から三日間連続貫徹で仕事をこなす。自分の丈夫さに我ながら感心。でもそのうち死ぬな、これは。

 ほとんど読書の時間をとれず、先週からずっと引きずっていたジェフリー・ディーヴァーの『死の教訓』上巻を、仕事帰りの電車でやっと読了。実は仕事で修羅場になるのはわかっていたので、さくさく読めるものがいいだろうと、選んだディーヴァーだった。
 しかし、コレが大誤算。カットバックが多すぎて、誰が誰やら何が何やらまったく頭に入ってこないのである。こちらの理解力・思考力が極度に減退していることも大きいが、これは普通の状態で読んでも、絶対読みにくいと思うが。下巻はどうなることやら。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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