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角田喜久雄『高木家の惨劇』(春陽文庫)
角田喜久雄の『高木家の惨劇』読了。実はこれで二度目の読了になるのだが(ちなみに初読は創元推理文庫版『大下宇陀児・角田喜久雄集』)、以前にも増して傑作の感を強くした。まずはストーリーから。
喫茶店で飲物に蜘蛛が入っていると騒ぎ出した青年がいた。あまりの度を越した口調に、呆気にとられる周りの客たち。だが隣の席に座っていた男だけは、青年が自ら蜘蛛を飲物に入れるところを目撃していたのだった。青年はいったい何の目的で、そんなことをしたのか?
同じころ、有数の資産家、高木家の当主、孝平が自宅のベッドで射殺されるという事件が起こり、捜査一課の加賀美が犯人究明に乗り出す。容疑者は家族や関係者ごく少数の人間に絞られるが、誰もが強い動機をもっており、全員が怪しいという状況だった。だが同時に、彼ら全員には確固としたアリバイも存在していた……。
本作は角田喜久雄の代表作であると同時に、戦後の本格探偵小説復興の一翼を担った作品でもある。だがその割には知名度が低く、同時代の『本陣殺人事件』『不連続殺人事件』などに比べてあまり語られることは少ない。考えられる要因としては、メインの密室トリックが弱いこと、そして舞台設定やストーリーが地味なことか。
しかし、本作の見所はもちろんそんなところにあるのではない。例えば密室トリックは弱いものの、その裏に隠された本当の作者の狙いは今読んでもアッと言わされるものだ。また、ストーリーは地味ながら語り口が非常に巧い。シムノンのメグレ警視ものを彷彿とさせる加賀美の捜査の過程も、派手ではないが決して退屈することがない。とりわけ絞りに絞った容疑者たちと探偵役の加賀美警視のさまざまな対決シーンは、戦前から伝奇小説でならした作者ならではのものだろう。
本作は短いページ数のなかに、数々の旨味がギュッと圧縮した傑作であり、魅力ある探偵小説なのだ。おすすめ。
喫茶店で飲物に蜘蛛が入っていると騒ぎ出した青年がいた。あまりの度を越した口調に、呆気にとられる周りの客たち。だが隣の席に座っていた男だけは、青年が自ら蜘蛛を飲物に入れるところを目撃していたのだった。青年はいったい何の目的で、そんなことをしたのか?
同じころ、有数の資産家、高木家の当主、孝平が自宅のベッドで射殺されるという事件が起こり、捜査一課の加賀美が犯人究明に乗り出す。容疑者は家族や関係者ごく少数の人間に絞られるが、誰もが強い動機をもっており、全員が怪しいという状況だった。だが同時に、彼ら全員には確固としたアリバイも存在していた……。
本作は角田喜久雄の代表作であると同時に、戦後の本格探偵小説復興の一翼を担った作品でもある。だがその割には知名度が低く、同時代の『本陣殺人事件』『不連続殺人事件』などに比べてあまり語られることは少ない。考えられる要因としては、メインの密室トリックが弱いこと、そして舞台設定やストーリーが地味なことか。
しかし、本作の見所はもちろんそんなところにあるのではない。例えば密室トリックは弱いものの、その裏に隠された本当の作者の狙いは今読んでもアッと言わされるものだ。また、ストーリーは地味ながら語り口が非常に巧い。シムノンのメグレ警視ものを彷彿とさせる加賀美の捜査の過程も、派手ではないが決して退屈することがない。とりわけ絞りに絞った容疑者たちと探偵役の加賀美警視のさまざまな対決シーンは、戦前から伝奇小説でならした作者ならではのものだろう。
本作は短いページ数のなかに、数々の旨味がギュッと圧縮した傑作であり、魅力ある探偵小説なのだ。おすすめ。
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