Posted in 11 2006
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リンダ・キルト『怖るべき天才児』(三修社)
風邪の症状がやや落ち着いてきた。
読了本はリンダ・キルトの『怖るべき天才児』。ちょうどその月のミステリマガジンに書評が載っており、まずまず褒めていたので安心したのだが、実は最初は著者についての予備知識がまったくない状態で購入したのだ。というのも購入動機が、カバー絵と挿絵をミヒャエル・ゾーヴァが描いていたからである。
さて肝心の内容はというと、嘘をつくと口からガマガエルをはき出す少女、とてつもなく普通すぎる男の子、軽くていつも浮かばないように気をつけている少年などなど、ちょっと普通でない人生を送った子供たちをテーマにした連作短編集であった。
大人に対する著者の眼はなかなか皮肉に満ちている。狙わんとしているところはわかるし、設定がとにかく破天荒で面白そうなのだが、実際に読んでみるともうひとつ笑えない。ブラックユーモアとも何か違うし、もちろん純粋なコメディとも違うし、強いて言えば寓話に近いか。語り口もそれほどユーモラスでもなし、なんだか作者の底意地の悪さを感じるのは気のせいだろうか? ミステリマガジンの書評ほどには面白く感じられず残念。
読了本はリンダ・キルトの『怖るべき天才児』。ちょうどその月のミステリマガジンに書評が載っており、まずまず褒めていたので安心したのだが、実は最初は著者についての予備知識がまったくない状態で購入したのだ。というのも購入動機が、カバー絵と挿絵をミヒャエル・ゾーヴァが描いていたからである。
さて肝心の内容はというと、嘘をつくと口からガマガエルをはき出す少女、とてつもなく普通すぎる男の子、軽くていつも浮かばないように気をつけている少年などなど、ちょっと普通でない人生を送った子供たちをテーマにした連作短編集であった。
大人に対する著者の眼はなかなか皮肉に満ちている。狙わんとしているところはわかるし、設定がとにかく破天荒で面白そうなのだが、実際に読んでみるともうひとつ笑えない。ブラックユーモアとも何か違うし、もちろん純粋なコメディとも違うし、強いて言えば寓話に近いか。語り口もそれほどユーモラスでもなし、なんだか作者の底意地の悪さを感じるのは気のせいだろうか? ミステリマガジンの書評ほどには面白く感じられず残念。
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大下宇陀児『宙に浮く首』(春陽文庫)
昨日に続いて大下宇陀児から『宙に浮く首』。実は昔読んだ覚えがかすかにあるのだが、なんとも不確かな記憶しかなく、とりあえず初読のつもりで。
本書は「宙に浮く首」「たそがれの怪人」「画家の娘」の三作を収録した短編集なのだが、これは凄い。正直言って、どの作品も人に勧められたものではなく、よくこういうものばかり集めて文庫化したものだと逆に感心するほどである。
ただ、表題作の「宙に浮く首」だけは、機会があったら話の種に読んでみてもらいたい。ディクスン・カーにも通ずるかのような驚愕のネタが使われており、思わず腰が砕けることは間違いない。ただ、タイトルからしても本作は最初の20ページで終わらせてもよかったろう。中盤以降もそれなりに面白い仕掛けはあるのだが、構成に難があり、もうひとつ盛り上がらないのが残念。
「たそがれの怪人」は通俗もの。数年ぶりに外国から帰ってきた青年は哀れにも失明しており、性格も人が変わったようになってしまった。だが実は、青年は失明などしていないのではないか、という疑惑から物語が展開する。この疑惑っぷりがものすごく、他にも突っ込みどころ満載である。
「画家の娘」はいったい何がやりたかったのか。主人公は列車から飛び降りた女性を助け出すが、実は彼女は父親から狙われており……というお話。出だしはロマンチックで、ちょっとウールリッチ風ではあるが、それだけ。ラストの急転直下ぶりはもう完全にダメダメである。
なお、昨日読んだ『奇蹟の扉』もそうだが、本書『宙に浮く首』も好評絶版中である。ただし、比較的ネットオークションや古書店でも見かけるし、値段もそれほどではない。興味のある方は探してみてください。ただし『宙に浮く首』に1000円も出しちゃだめよ。
本書は「宙に浮く首」「たそがれの怪人」「画家の娘」の三作を収録した短編集なのだが、これは凄い。正直言って、どの作品も人に勧められたものではなく、よくこういうものばかり集めて文庫化したものだと逆に感心するほどである。
ただ、表題作の「宙に浮く首」だけは、機会があったら話の種に読んでみてもらいたい。ディクスン・カーにも通ずるかのような驚愕のネタが使われており、思わず腰が砕けることは間違いない。ただ、タイトルからしても本作は最初の20ページで終わらせてもよかったろう。中盤以降もそれなりに面白い仕掛けはあるのだが、構成に難があり、もうひとつ盛り上がらないのが残念。
「たそがれの怪人」は通俗もの。数年ぶりに外国から帰ってきた青年は哀れにも失明しており、性格も人が変わったようになってしまった。だが実は、青年は失明などしていないのではないか、という疑惑から物語が展開する。この疑惑っぷりがものすごく、他にも突っ込みどころ満載である。
「画家の娘」はいったい何がやりたかったのか。主人公は列車から飛び降りた女性を助け出すが、実は彼女は父親から狙われており……というお話。出だしはロマンチックで、ちょっとウールリッチ風ではあるが、それだけ。ラストの急転直下ぶりはもう完全にダメダメである。
なお、昨日読んだ『奇蹟の扉』もそうだが、本書『宙に浮く首』も好評絶版中である。ただし、比較的ネットオークションや古書店でも見かけるし、値段もそれほどではない。興味のある方は探してみてください。ただし『宙に浮く首』に1000円も出しちゃだめよ。
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大下宇陀児『奇蹟の扉』(春陽文庫)
ここ二、三日、喉が痛むなと思っていたら、わずか半日ほどで一気に声が出なくなってしまう。もう全然ダメ。ひそひそ声以外では話せなくなり、会社では何を話していても、「良からぬことを企んでいるように見えます」とか「カラオケの行き過ぎです」とかあらぬ疑惑をかけられる。ただの風邪だって。まあ、数年に一回のペースでこういうことが起こるので、あまり心配はしていないものの、ただ仕事にはむちゃくちゃ不便である。
大下宇陀児の『奇蹟の扉』を読む。
画家、江崎良造は酒場で知り合った女、久美子の美しさに惹かれ、モデルに使っていた。次第にその妖しい魅力の虜になった良造は、遂に我慢できなくなり、彼女に求婚する。だが、久美子にはいくつもの暗い過去があった。その過去に怯え、結婚を拒否する久美子だったが、結局は良造の熱意にほだされて江崎家へ嫁ぐことになる。しかし、この結婚は二人のみならず周囲の人間をも悲劇へと巻き込んでゆくのだった……。
大下宇陀児の作風といえば、当初は通俗スリラー的なものが多かったが、次第に人間の愛憎劇をテーマにしたものを多く書くようになり、後には社会派の元祖と言われるまでになった、というのが一般的な認識である。本書はそんな大下宇陀児の比較的初期の長篇であり、基本的には男女の愛憎劇を描いたものである。勢い余って、中心人物たちの造形を作りすぎたきらいはあるが、それはこの際大した問題ではない。本書の大きなポイントは、珍しく著者が本格探偵小説の形式に挑んでいるところなのだ。
特に医者の新一(これがまた嫌な性格の奴で……)を中心にして進められる推理シーンの数々は、いやがうえでも本書が探偵小説であることを思い出させる。ただ惜しむらくは解き明かされるべき謎の核心や、構成の弱さ。この辺りがもう少ししっかりして、トリックなり、意外性を備えていれば、佳作と呼べるほどの評価を得ていたかもしれない。とはいえ古き良き時代の探偵小説の香りは非常に芳醇な作品である。おすすめできるほどではないが、個人的には好きな作品だ。
大下宇陀児の『奇蹟の扉』を読む。
画家、江崎良造は酒場で知り合った女、久美子の美しさに惹かれ、モデルに使っていた。次第にその妖しい魅力の虜になった良造は、遂に我慢できなくなり、彼女に求婚する。だが、久美子にはいくつもの暗い過去があった。その過去に怯え、結婚を拒否する久美子だったが、結局は良造の熱意にほだされて江崎家へ嫁ぐことになる。しかし、この結婚は二人のみならず周囲の人間をも悲劇へと巻き込んでゆくのだった……。
大下宇陀児の作風といえば、当初は通俗スリラー的なものが多かったが、次第に人間の愛憎劇をテーマにしたものを多く書くようになり、後には社会派の元祖と言われるまでになった、というのが一般的な認識である。本書はそんな大下宇陀児の比較的初期の長篇であり、基本的には男女の愛憎劇を描いたものである。勢い余って、中心人物たちの造形を作りすぎたきらいはあるが、それはこの際大した問題ではない。本書の大きなポイントは、珍しく著者が本格探偵小説の形式に挑んでいるところなのだ。
特に医者の新一(これがまた嫌な性格の奴で……)を中心にして進められる推理シーンの数々は、いやがうえでも本書が探偵小説であることを思い出させる。ただ惜しむらくは解き明かされるべき謎の核心や、構成の弱さ。この辺りがもう少ししっかりして、トリックなり、意外性を備えていれば、佳作と呼べるほどの評価を得ていたかもしれない。とはいえ古き良き時代の探偵小説の香りは非常に芳醇な作品である。おすすめできるほどではないが、個人的には好きな作品だ。
嫁さんの誕生日。昼間は買い物につきあい、夜はフランス懐石料理を食べにいく。フルコースにプラスして何品かつくようなメニューで、フランス料理とは思えぬボリューム。しかも美味。グラス・シャンパンで乾杯したあと、ロゼと赤を2本も空けてしまう。た、体重が……。
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H・C・ベイリー『フォーチュン氏を呼べ』(論創海外ミステリ)
どうもバタバタしていて落ち着かん。水曜はやたらと忙しくて遂に朝帰りとなるし、おかげで勤労感謝の日はほぼ寝て過ごす羽目になってしまった。この日記にももう少し身辺雑記をメモ程度に残しておきたいのだが(これはあくまで自分のため)、仕事以外あまり大した出来事がないのが困ったものだ。たまにあっても、日中にあったことを書こうとするとなぜかネタを忘れてしまうし。
そんなこんなで本日も読書感想。
読了本はH・C・ベイリーの『フォーチュン氏を呼べ』。
フォーチュン氏ものはホームズのライバルたちの中でも、比較的特徴が薄く、目立たない存在である。思考機会や隅の老人、ソーンダイク博士などのアクの強いキャラクターに比べれば、どうしても地味な印象を受けてしまうのは致し方あるまい。私も二十年以上前に『フォーチュン氏の事件簿』(創元推理文庫)を読んだものの、どういう探偵だったのかほとんど印象に残っていない。
ただ、リアルタイムではフォーチュン氏ものはかなり人気があったようだ。今回の読書で少しその良さがわかった気がする。
まず、物語性とトリック・ロジックの部分がほどよいバランスで両立していること。次にフォーチュン氏のキャラクターが、際だった個性に欠ける代わりに、嫌みのない万人に愛される人柄になっていること。そして、自ら法の執行者たる役目をまま負っている場合があること。最後のポイントがけっこうミソで、毒の少ないこの物語群において、絶対的な正義を追求する姿勢はかなり特徴的だ。これがこの短編集だけのものか、あるいはシリーズ全編を通した特徴なのかはわからないが、少なくとも本書を読む限りでは、なかなか興味深いところだった。話によっては、それが終盤のどんでん返しにつながるケースも多く、少なくとも半数の作品ではそれが成功していると思う。
なお、今回読んだ短編集は、日本独自で組んだ傑作集ではなく、フォーチュン氏初登場の「大公殿下の紅茶」を含む第一短編集をまるまる訳したものだ。あえてそうしたからには、今後も順番に訳していく予定があるからだろうか? 個人的にはぜひとも続刊を希望。
最後に収録作。
The Archduke's Tea「大公殿下の紅茶」
The Sleeping Companion「付き人は眠っていた」
The Nice Girl「気立てのいい娘」
The Efficient Assassin「ある賭け」
The Hottentot Venus「ホッテントット・ヴィーナス」
The Business Minister「几帳面な殺人」
そんなこんなで本日も読書感想。
読了本はH・C・ベイリーの『フォーチュン氏を呼べ』。
フォーチュン氏ものはホームズのライバルたちの中でも、比較的特徴が薄く、目立たない存在である。思考機会や隅の老人、ソーンダイク博士などのアクの強いキャラクターに比べれば、どうしても地味な印象を受けてしまうのは致し方あるまい。私も二十年以上前に『フォーチュン氏の事件簿』(創元推理文庫)を読んだものの、どういう探偵だったのかほとんど印象に残っていない。
ただ、リアルタイムではフォーチュン氏ものはかなり人気があったようだ。今回の読書で少しその良さがわかった気がする。
まず、物語性とトリック・ロジックの部分がほどよいバランスで両立していること。次にフォーチュン氏のキャラクターが、際だった個性に欠ける代わりに、嫌みのない万人に愛される人柄になっていること。そして、自ら法の執行者たる役目をまま負っている場合があること。最後のポイントがけっこうミソで、毒の少ないこの物語群において、絶対的な正義を追求する姿勢はかなり特徴的だ。これがこの短編集だけのものか、あるいはシリーズ全編を通した特徴なのかはわからないが、少なくとも本書を読む限りでは、なかなか興味深いところだった。話によっては、それが終盤のどんでん返しにつながるケースも多く、少なくとも半数の作品ではそれが成功していると思う。
なお、今回読んだ短編集は、日本独自で組んだ傑作集ではなく、フォーチュン氏初登場の「大公殿下の紅茶」を含む第一短編集をまるまる訳したものだ。あえてそうしたからには、今後も順番に訳していく予定があるからだろうか? 個人的にはぜひとも続刊を希望。
最後に収録作。
The Archduke's Tea「大公殿下の紅茶」
The Sleeping Companion「付き人は眠っていた」
The Nice Girl「気立てのいい娘」
The Efficient Assassin「ある賭け」
The Hottentot Venus「ホッテントット・ヴィーナス」
The Business Minister「几帳面な殺人」
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黒岩涙香『黒岩涙香探偵小説選I』(論創ミステリ叢書)
論創ミステリ叢書から『黒岩涙香探偵小説選I』を読了。涙香の唯一の短編集である『涙香集』を丸ごと収録し、それに日本で初めて書かれた創作探偵小説(たぶん)として知られる「無惨」を加えたものだ。収録作は以下のとおり。
「無惨」
『涙香集』
「金剛石の指環」
「恐ろしき五分間」
「婚姻」
「紳士三人」
「電気」
「生命保険」
「探偵」
「広告」
黒岩涙香といえば言うまでもない日本探偵小説の父なわけだが、世界探偵小説の父、ポーに比べると現代ではまったく読まれなくなった作家である。今では流行らない翻案というスタイル、読みにくい文語体など、原因はいろいろあるだろうが、仮にも一世を風靡した大衆作家、そして何より日本の探偵小説史に偉大なる1ページを記した人の作品が、人気がないとはいえ、今の時代ほとんんど読めないというのはいかがなものか。それだけに近年に出たちくま文庫の作品集、そして論創社から出た本書はなかなか貴重な仕事であろう(あと現役本では創元推理文庫の『日本探偵小説全集1 黒岩涙香 小酒井不木 甲賀三郎 集』ぐらいか?)。
「無惨」は著者の作品の中でも論理を前面に押し出した本格風の探偵小説で、当時はあまり評判がよろしくなかったらしい。だが編者も書いているように、この時代に本格(らしきもの)を書いたという事実だけでも素晴らしいではないか。なんせ書かれたのが1889年。ほぼホームズと同時期だ。そして何より本作が重要なのは、テーマが「捜査の方法」にあること。決して人情話や事件の煽情性などではないのである。二人の刑事による新旧の捜査対決は今読んでも普通に面白く、やはりマニアなら一度は読んでおきたい作品だ。
だが残念ながら、その他の作品はそこまでミステリ色は強くない。短い小咄的なものがほとんどであり、唯一の例外は「生命保険」。これはゴシック・サスペンス風でミステリ的風味が強く、そこそこ楽しく読めた。だが、やはり涙香の神髄を味わおうと思ったら、本当は長篇なのだろうな。
ちなみに論創ミステリ叢書の判型や造本は決して嫌いじゃないのだが、持ち歩くにはどうしても躊躇してしまう。論創ミステリ叢書も論創海外ミステリも全部買っているのだが、通勤のお伴は海外ものばかりで、論創ミステリ叢書はほとんど積ん読状態である。そろそろ読み倒していかなければ。
「無惨」
『涙香集』
「金剛石の指環」
「恐ろしき五分間」
「婚姻」
「紳士三人」
「電気」
「生命保険」
「探偵」
「広告」
黒岩涙香といえば言うまでもない日本探偵小説の父なわけだが、世界探偵小説の父、ポーに比べると現代ではまったく読まれなくなった作家である。今では流行らない翻案というスタイル、読みにくい文語体など、原因はいろいろあるだろうが、仮にも一世を風靡した大衆作家、そして何より日本の探偵小説史に偉大なる1ページを記した人の作品が、人気がないとはいえ、今の時代ほとんんど読めないというのはいかがなものか。それだけに近年に出たちくま文庫の作品集、そして論創社から出た本書はなかなか貴重な仕事であろう(あと現役本では創元推理文庫の『日本探偵小説全集1 黒岩涙香 小酒井不木 甲賀三郎 集』ぐらいか?)。
「無惨」は著者の作品の中でも論理を前面に押し出した本格風の探偵小説で、当時はあまり評判がよろしくなかったらしい。だが編者も書いているように、この時代に本格(らしきもの)を書いたという事実だけでも素晴らしいではないか。なんせ書かれたのが1889年。ほぼホームズと同時期だ。そして何より本作が重要なのは、テーマが「捜査の方法」にあること。決して人情話や事件の煽情性などではないのである。二人の刑事による新旧の捜査対決は今読んでも普通に面白く、やはりマニアなら一度は読んでおきたい作品だ。
だが残念ながら、その他の作品はそこまでミステリ色は強くない。短い小咄的なものがほとんどであり、唯一の例外は「生命保険」。これはゴシック・サスペンス風でミステリ的風味が強く、そこそこ楽しく読めた。だが、やはり涙香の神髄を味わおうと思ったら、本当は長篇なのだろうな。
ちなみに論創ミステリ叢書の判型や造本は決して嫌いじゃないのだが、持ち歩くにはどうしても躊躇してしまう。論創ミステリ叢書も論創海外ミステリも全部買っているのだが、通勤のお伴は海外ものばかりで、論創ミステリ叢書はほとんど積ん読状態である。そろそろ読み倒していかなければ。
家から数キロのところに、武蔵村山ダイヤモンドシティという郊外型ショッピング・モールが昨日オープンした。何でも都内最大級という規模で、駐車場だけでも4千台収容可能というのだから、そのでかさはすさまじいかぎり。
で、本日、さっそくでかけてみたわけだが、おそらく道路は大混雑すると予想し、家を9時に出る。もちろんこの時間帯なら問題なく到着。買い物や食事などを済ませて午後1時過ぎには帰宅の途につく。案の定、帰りには反対車線が凄まじいばかりの渋滞。当分は土日の度にこの状態なのだろうが、近隣住民にとっては買い物が便利になる反面、この渋滞には複雑な思いだろうなぁ。
途中、ブックオフに寄るも出物無し。谷崎潤一郎の『犯罪小説集』(集英社文庫)のみ購入。
で、本日、さっそくでかけてみたわけだが、おそらく道路は大混雑すると予想し、家を9時に出る。もちろんこの時間帯なら問題なく到着。買い物や食事などを済ませて午後1時過ぎには帰宅の途につく。案の定、帰りには反対車線が凄まじいばかりの渋滞。当分は土日の度にこの状態なのだろうが、近隣住民にとっては買い物が便利になる反面、この渋滞には複雑な思いだろうなぁ。
途中、ブックオフに寄るも出物無し。谷崎潤一郎の『犯罪小説集』(集英社文庫)のみ購入。
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ジョン・エヴァンズ『悪魔の栄光』(論創海外ミステリ)
最近あちらこちらのミステリ系HPで長崎出版のことが話題になっている。あまり耳にしたことのない版元だが、なんとクラシックミステリに名乗りを上げたというではないか。叢書名はGem Collectionというらしく、第一弾はマイケル・イネスの『証拠は語る』。いやはやただでさえ購入&読書のペースが追いつかないのに、さらに追い打ちをかけられる感じだ。とりあえずは買うしかないのだが、このムーヴメントは果たしてどこまで続くのか。
で、そんなムーヴメントの牽引役としてこの一年を引っ張ってきた感のある論創社から、本日の読了本。ジョン・エヴァンズの『悪魔の栄光』である。
このシリーズも当初のアトランダムな性格が薄れて本格がメインになりつつあるが、本書は珍しく正統派ハードボイルド。しかも長らく翻訳が待たれていた最後の「栄光シリーズ」なのだ。
思えばポケミス、河出で同シリーズを読んだのはもう十年以上も前になるが、当時から、なぜシリーズ二作目にあたる本書だけが未訳だったのかが疑問だった。もしかすると極端に出来が悪いか、よほど日本人向けのネタではないか、このどちらかだと思っていたのだが、いや、まったくの杞憂であった。逆になぜ本書が未訳だったのか不思議なほどの出来である。
私立探偵ポール・パインはマクナマス司教から人捜しを依頼される。数日前、司教の前に現れたワーツと名乗る男が、なんとキリストの直筆だという古文書を売りにきたのだという。しかし、その日、古文書を持っていなかったワーツは、翌日出直すといいながらもぷっつり消息を絶つ。パインはワーツの宿泊するホテルを探し当てるが、そこで何と死体を発見してしまった……。
上でも書いたが、実にオーソドックスなハードボイルド。主人公のイキの良さ、テンポのよいストーリー、怪しい美女やギャングたちと、お膳立てはばっちり。だが類型的と侮るなかれ。本書はそういったハードボイルドにありがちなキーワードを踏襲しているわけではなく、反対に先駆けとなった側なのだ。ハメットから大きく広がることになったハードボイルドというジャンルを真面目に受けとめ、大人の読み物として熟成させた、そんなイメージ。確かに気軽に消費されるだけの物語ではあるが、それを職人的にきっちりとこなしたのがエヴァンスなのではないかと思う。意外な犯人、どんでん返し、関係者を集めての大団円といい、本格好きもニヤリとする佳作である。
で、そんなムーヴメントの牽引役としてこの一年を引っ張ってきた感のある論創社から、本日の読了本。ジョン・エヴァンズの『悪魔の栄光』である。
このシリーズも当初のアトランダムな性格が薄れて本格がメインになりつつあるが、本書は珍しく正統派ハードボイルド。しかも長らく翻訳が待たれていた最後の「栄光シリーズ」なのだ。
思えばポケミス、河出で同シリーズを読んだのはもう十年以上も前になるが、当時から、なぜシリーズ二作目にあたる本書だけが未訳だったのかが疑問だった。もしかすると極端に出来が悪いか、よほど日本人向けのネタではないか、このどちらかだと思っていたのだが、いや、まったくの杞憂であった。逆になぜ本書が未訳だったのか不思議なほどの出来である。
私立探偵ポール・パインはマクナマス司教から人捜しを依頼される。数日前、司教の前に現れたワーツと名乗る男が、なんとキリストの直筆だという古文書を売りにきたのだという。しかし、その日、古文書を持っていなかったワーツは、翌日出直すといいながらもぷっつり消息を絶つ。パインはワーツの宿泊するホテルを探し当てるが、そこで何と死体を発見してしまった……。
上でも書いたが、実にオーソドックスなハードボイルド。主人公のイキの良さ、テンポのよいストーリー、怪しい美女やギャングたちと、お膳立てはばっちり。だが類型的と侮るなかれ。本書はそういったハードボイルドにありがちなキーワードを踏襲しているわけではなく、反対に先駆けとなった側なのだ。ハメットから大きく広がることになったハードボイルドというジャンルを真面目に受けとめ、大人の読み物として熟成させた、そんなイメージ。確かに気軽に消費されるだけの物語ではあるが、それを職人的にきっちりとこなしたのがエヴァンスなのではないかと思う。意外な犯人、どんでん返し、関係者を集めての大団円といい、本格好きもニヤリとする佳作である。
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橘外男『怪奇探偵小説名作選5 橘外男集 逗子物語』(ちくま文庫)
『怪奇探偵小説名作選5 橘外男集 逗子物語』読了。収録作品は以下のとおりで、上の五作が海外を舞台にした実話風の作品、下の五作が日本の怪談ものという構成。橘外男という作家の傾向がある程度つかめる仕組みとなっている。
「令嬢エミーラの日記」
「聖コルソ島復讐奇譚」
「マトモッソ渓谷」
「怪人シプリアノ」
「女豹の博士」
「逗子物語」
「蒲団」
「生不動」
「幽魂賦」
「棺前結婚」
さて、個人的には橘外男の作品集を読むのはこれが初めてである。無論アンソロジーではいくつかの作品を読んだことはあるが、その数少ない読書体験から受けた印象は、奔放な想像力とエネルギッシュな語り口で、海外の奇妙な話をぐいぐい読ませる、というイメージ。まあ、よく著者紹介に書いてあるとおりの印象である(笑)。
で本書を読んでの感想だが、一面ではそのイメージはまったく変わらなかった。ノリ重視というか、くどいばかりのフレーズがこれでもかこれでもかと出てくる。繰り広げられる話の内容も、その語り口に負けず劣らず濃い。本能の赴くまま、といったら大げさかもしれないが、少なくとも面白いホラ話を聞かせてやろう、という著者の熱は十分すぎるぐらい感じることができた。「令嬢エミーラの日記」や「聖コルソ島復讐奇譚」あたりはその代表格であり、大仰なれど古き良き時代を感じさせて決して嫌いではない。
一方、日本を舞台にしたものは、著者の別の顔である。著者のこの手のものは「逗子物語」以外おそらく読んだことがなかったので余計新鮮に思えたのだが、もうとにかくストレートな怪談ものなのである。しかも海外物とは一転して実にしみじみと語られるその幻想の世界。この作者はこういうタイプの物語もたくさん書いていたのだという驚きに加え、このレベルの高さは何事なのだという二重の驚き。あらためて読んだ「逗子物語」、そして「蒲団」の凄さはちょっと比べる作品が思い浮かばないほどだ。
というわけで本書で橘外男の凄さを再認識した次第。ワンダーランドや現代教養文庫もそのうち読んでみたい。
「令嬢エミーラの日記」
「聖コルソ島復讐奇譚」
「マトモッソ渓谷」
「怪人シプリアノ」
「女豹の博士」
「逗子物語」
「蒲団」
「生不動」
「幽魂賦」
「棺前結婚」
さて、個人的には橘外男の作品集を読むのはこれが初めてである。無論アンソロジーではいくつかの作品を読んだことはあるが、その数少ない読書体験から受けた印象は、奔放な想像力とエネルギッシュな語り口で、海外の奇妙な話をぐいぐい読ませる、というイメージ。まあ、よく著者紹介に書いてあるとおりの印象である(笑)。
で本書を読んでの感想だが、一面ではそのイメージはまったく変わらなかった。ノリ重視というか、くどいばかりのフレーズがこれでもかこれでもかと出てくる。繰り広げられる話の内容も、その語り口に負けず劣らず濃い。本能の赴くまま、といったら大げさかもしれないが、少なくとも面白いホラ話を聞かせてやろう、という著者の熱は十分すぎるぐらい感じることができた。「令嬢エミーラの日記」や「聖コルソ島復讐奇譚」あたりはその代表格であり、大仰なれど古き良き時代を感じさせて決して嫌いではない。
一方、日本を舞台にしたものは、著者の別の顔である。著者のこの手のものは「逗子物語」以外おそらく読んだことがなかったので余計新鮮に思えたのだが、もうとにかくストレートな怪談ものなのである。しかも海外物とは一転して実にしみじみと語られるその幻想の世界。この作者はこういうタイプの物語もたくさん書いていたのだという驚きに加え、このレベルの高さは何事なのだという二重の驚き。あらためて読んだ「逗子物語」、そして「蒲団」の凄さはちょっと比べる作品が思い浮かばないほどだ。
というわけで本書で橘外男の凄さを再認識した次第。ワンダーランドや現代教養文庫もそのうち読んでみたい。
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ジェフリー・ディーヴァー『獣たちの庭園』(文春文庫)
ジェフリー・ディーヴァーの『獣たちの庭園』を読む。ナチス政権下のドイツを舞台にした歴史ものノン・シリーズ作品である。
主人公はアメリカで殺し屋を営む男、ポール・シューマン。罠にはめられ、ついに御用となった彼に持ちかけられた交換条件は、なんとドイツの政府高官暗殺という任務だった。ときあたかもオリンピックに沸くドイツ。選手団を取材するジャーナリストとしてドイツに潜入したポールだが、現地の工作員と接触する間もなく、危機に陥ってしまう……。
ううむ、ディーヴァーの歴史もの、しかもナチスものというわけで、それなりに期待したのだがちょっと落ちる。決して面白くないとはいわないが、いつものディーヴァーのレベルではない。
たとえばストーリー展開が少々もたつき気味。ほんの数日の話なのに、物語をけっこう多角的に展開しているため、肝心のサスペンスが弱い。持ち味のどんでん返しやアクションもそれなりに盛り沢山だが、ご都合主義がかなり見られるのもいただけない。
また、キャラクター造形も弱い。主人公として、殺し屋ポールと、ドイツの刑事コールの二人を設け、追う側と追われる側を対比したのは悪くない。だがそれならそれで押し通してほしいところなのに、それ以外にも印象的な配役を設けようとしたのか、どうにも焦点が定まらない。ポールにいたっては冷酷な殺し屋というキャラクターのはずなのに、物語後半では正義感が強くて女性に弱いという、いかにもありがちなヒーローに変化する始末。
まあ、どの点をとっても決定的にまずいわけではないが、人におすすめするほどでもなく、今回は平均点といったところか。ナチス政権下を舞台にした物語なら、フィリップ・カーのグンター三部作の方が断然おすすめである。
主人公はアメリカで殺し屋を営む男、ポール・シューマン。罠にはめられ、ついに御用となった彼に持ちかけられた交換条件は、なんとドイツの政府高官暗殺という任務だった。ときあたかもオリンピックに沸くドイツ。選手団を取材するジャーナリストとしてドイツに潜入したポールだが、現地の工作員と接触する間もなく、危機に陥ってしまう……。
ううむ、ディーヴァーの歴史もの、しかもナチスものというわけで、それなりに期待したのだがちょっと落ちる。決して面白くないとはいわないが、いつものディーヴァーのレベルではない。
たとえばストーリー展開が少々もたつき気味。ほんの数日の話なのに、物語をけっこう多角的に展開しているため、肝心のサスペンスが弱い。持ち味のどんでん返しやアクションもそれなりに盛り沢山だが、ご都合主義がかなり見られるのもいただけない。
また、キャラクター造形も弱い。主人公として、殺し屋ポールと、ドイツの刑事コールの二人を設け、追う側と追われる側を対比したのは悪くない。だがそれならそれで押し通してほしいところなのに、それ以外にも印象的な配役を設けようとしたのか、どうにも焦点が定まらない。ポールにいたっては冷酷な殺し屋というキャラクターのはずなのに、物語後半では正義感が強くて女性に弱いという、いかにもありがちなヒーローに変化する始末。
まあ、どの点をとっても決定的にまずいわけではないが、人におすすめするほどでもなく、今回は平均点といったところか。ナチス政権下を舞台にした物語なら、フィリップ・カーのグンター三部作の方が断然おすすめである。
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『刑事コロンボ/死の方程式』
昨日のPS3発売についてはいろいろと騒動があったようだ。事前に十分予想できることなのだから、関係者はもう少しなんとかできなかったものか。前日から並ぶことが別に褒められる行為とはいえないが、それでも朝のどさくさで列の最後尾に回されるとは販売体制がむちゃくちゃである。メーカーの方にも出荷数の準備不足など非はあるわけだが、こんな騒動は定期的にあるわけだから、いい加減学習してほしいものである。業界全体が活気づくいい機会なのに、水をかけるような真似はぜひ自粛したいものだ。
『刑事コロンボ/死の方程式』を観る。第1シーズンで急遽作られた作品のためやや粗っぽいものの、見所は多く好きな作品である。コロンボものには珍しく、犯人像が幼稚なタイプであり(でも天才的頭脳の持ち主)、それをロディ・マクドウォール(『猿の惑星』でコーネリアスを演じた人)が見事に演じており、そこが一番の魅力か。ラストシーンのロープウェイで繰り広げられるコロンボの罠も見事である。
『刑事コロンボ/死の方程式』を観る。第1シーズンで急遽作られた作品のためやや粗っぽいものの、見所は多く好きな作品である。コロンボものには珍しく、犯人像が幼稚なタイプであり(でも天才的頭脳の持ち主)、それをロディ・マクドウォール(『猿の惑星』でコーネリアスを演じた人)が見事に演じており、そこが一番の魅力か。ラストシーンのロープウェイで繰り広げられるコロンボの罠も見事である。
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鮎川哲也『白馬館九号室』(出版芸術社)
鮎川哲也の『白馬館九号室』を読む。出版芸術社から出ている「鮎川哲也コレクション挑戦篇」の第二巻である。収録作は以下のとおり。
「白馬館九号室」
「ふり向かぬ冴子」
「花と星」
「貨客船殺人事件」
「尾行」
「茜荘事件」
「悪魔の灰」
「おかめ・ひょっとこ・般若の面」
全体としては第一巻の『山荘の死』に比べると分は悪いが、テレビの推理番組『私だけが知っている』の脚本を小説化したものがいくつか収められているのが目玉で、趣向としてはなかなか楽しい。なかでも「おかめ・ひょっとこ・般若の面」はお見事。そのほかではアンソロジーなどでも採られることがある「悪魔の灰」がやはりうまい。
なお、本書は謎解きゲーム形式に特化した作品集のため、読み物としてのコクは極めて薄い。あくまで著者の一発芸を楽しむためのものなので、初めて鮎川哲也を読もうという人にはおすすめできないので念のため。
「白馬館九号室」
「ふり向かぬ冴子」
「花と星」
「貨客船殺人事件」
「尾行」
「茜荘事件」
「悪魔の灰」
「おかめ・ひょっとこ・般若の面」
全体としては第一巻の『山荘の死』に比べると分は悪いが、テレビの推理番組『私だけが知っている』の脚本を小説化したものがいくつか収められているのが目玉で、趣向としてはなかなか楽しい。なかでも「おかめ・ひょっとこ・般若の面」はお見事。そのほかではアンソロジーなどでも採られることがある「悪魔の灰」がやはりうまい。
なお、本書は謎解きゲーム形式に特化した作品集のため、読み物としてのコクは極めて薄い。あくまで著者の一発芸を楽しむためのものなので、初めて鮎川哲也を読もうという人にはおすすめできないので念のため。
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A・フィールディング『停まった足音』(論創海外ミステリ)
本日の読了本はA・フィールディング『停まった足音』。かつてヴァン・ダインが英国ミステリ・ベスト11に選び、日本では幾度となく刊行予定がなされながら、結局現在に至るまで翻訳されることの無かった幻の名作である。論創社は本当によくやっている、うん。
屋敷の一室で、イスに腰掛けたまま死んでいるタンジ夫人が発見された。傍らには拳銃が転がり、弾丸は心臓を貫いていた。争った形跡がないことなどから、警察は当初、事故か自殺と考えていたが、関係者の行動に不審な点が見られたことから、ロンドン警視庁のポインター警部が事件に乗り出すこととなった。
黄金時代の作品らしい、極めてオーソドックスな作りの本格探偵小説。確かにヴァン・ダインが好みそうな緻密な構成で、犯人の意外性も十分である。
特に面白く感じたのは、捜査の中心となる警視庁のポインター警部、地元警察のハヴィランド署長、新聞記者ウィルモットの三人のやりとり。普通ならこの組み合わせだと、名探偵役は一般人の記者がやりそうなところだが、(クイーンやファイロ・ヴァンスの役どころですな)著者はそれを警察側の人間すなわちポインター警部に割り振っている。保険会社からの依頼もあって強固に自殺説を主張するウィルモットに対し、ポインター警部がどのようにそれを反駁していくか、肝はほぼその点にあるといってよい。
だが、逆にそのせいで物語全体の半分以上が推理や議論に費やされ、どうしても地味な印象は抱かざるを得ない。加えて探偵役のポインター警部ももうひとつ華に欠けるのが残念だ。終盤の大きな動きはなかなかスリリングだし、サプライズも十分なので、そこまでを退屈させずに読ませる工夫があればよかったのにと思う。惜しい。
屋敷の一室で、イスに腰掛けたまま死んでいるタンジ夫人が発見された。傍らには拳銃が転がり、弾丸は心臓を貫いていた。争った形跡がないことなどから、警察は当初、事故か自殺と考えていたが、関係者の行動に不審な点が見られたことから、ロンドン警視庁のポインター警部が事件に乗り出すこととなった。
黄金時代の作品らしい、極めてオーソドックスな作りの本格探偵小説。確かにヴァン・ダインが好みそうな緻密な構成で、犯人の意外性も十分である。
特に面白く感じたのは、捜査の中心となる警視庁のポインター警部、地元警察のハヴィランド署長、新聞記者ウィルモットの三人のやりとり。普通ならこの組み合わせだと、名探偵役は一般人の記者がやりそうなところだが、(クイーンやファイロ・ヴァンスの役どころですな)著者はそれを警察側の人間すなわちポインター警部に割り振っている。保険会社からの依頼もあって強固に自殺説を主張するウィルモットに対し、ポインター警部がどのようにそれを反駁していくか、肝はほぼその点にあるといってよい。
だが、逆にそのせいで物語全体の半分以上が推理や議論に費やされ、どうしても地味な印象は抱かざるを得ない。加えて探偵役のポインター警部ももうひとつ華に欠けるのが残念だ。終盤の大きな動きはなかなかスリリングだし、サプライズも十分なので、そこまでを退屈させずに読ませる工夫があればよかったのにと思う。惜しい。
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ポール・ギャリコ『ほんものの魔法使』(ちくま文庫)
昼はインボイスSEIBUドームへ「スーパードッグカーニバル」を見物しにいく。知り合いが出店しているので陣中見舞いもかねて。
帰宅後はDVDで『スクール・オブ・ロック』視聴。ロック版『スイング・ガールズ』とでもいうような内容だが、こちらの方が音楽に対する情熱がストレートに出ていてより楽しめる。まあ、完全にジャック・ブラックのための映画ではあるが、子供たちも良い味だしているので、意外とファミリーで楽しむのも悪くない。ロック好きにはもちろん。
読了本はポール・ギャリコの『ほんものの魔法使』。
世界中の魔術師が集う街に本物の魔法使いがやってきた。生活権を脅かされるのではと慌てふためく魔術師たちのてんやわんやと、本当に大事な事が何かを知る少女の物語。
奇術師の世界という、なかなか変わった世界を設定しつつも、実はそれが現実社会の鏡であり、主人公の魔法使いや少女を通して真に大事なことを訴えるという手法は、ややベタながらも相変わらず見事。魔法使いのキャラクターがやや見えにくいのが難点で、ラストにもう一度彼の見せ場があっても良かったかな、とは思う。
帰宅後はDVDで『スクール・オブ・ロック』視聴。ロック版『スイング・ガールズ』とでもいうような内容だが、こちらの方が音楽に対する情熱がストレートに出ていてより楽しめる。まあ、完全にジャック・ブラックのための映画ではあるが、子供たちも良い味だしているので、意外とファミリーで楽しむのも悪くない。ロック好きにはもちろん。
読了本はポール・ギャリコの『ほんものの魔法使』。
世界中の魔術師が集う街に本物の魔法使いがやってきた。生活権を脅かされるのではと慌てふためく魔術師たちのてんやわんやと、本当に大事な事が何かを知る少女の物語。
奇術師の世界という、なかなか変わった世界を設定しつつも、実はそれが現実社会の鏡であり、主人公の魔法使いや少女を通して真に大事なことを訴えるという手法は、ややベタながらも相変わらず見事。魔法使いのキャラクターがやや見えにくいのが難点で、ラストにもう一度彼の見せ場があっても良かったかな、とは思う。
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千葉俊二/編『谷崎潤一郎文学案内』(中公文庫)
御岳山まで紅葉を見にドライブ。
車でケーブルカーの滝本駅まで行き、御岳山駅で降りたあとは、山頂付近の武蔵御嶽神社まで30分ほどの歩きとなる。時間は手頃だが、なんせ勾配が急なので、正直、かなりいい運動になる。肝心の紅葉は、山頂付近は色づき始めていたものの、残念ながら全体的にはまだ少し早かったようだ。休憩所で温かいそばをいただき、ぐるっと巡る頃にはもう日も傾き始める。途中でブックオフなどに寄り道しながら帰宅。
中公文庫から出た千葉俊二/編『谷崎潤一郎文学案内』をぱらぱらと読む。
年譜に全集目録、評伝、代表作のダイジェスト、著名人らによるエッセイなど、薄い文庫の割にはなかなか具だくさんなガイドブックである。
ただ、谷崎初心者向けの本なのだから、谷崎作品の俯瞰図的な読書ガイドがあってもよかったのではないか。また、最近流行のダイジェストなどはなくてもよいから、もう少しコラムや作品論を多くしてほしかったところだ。
車でケーブルカーの滝本駅まで行き、御岳山駅で降りたあとは、山頂付近の武蔵御嶽神社まで30分ほどの歩きとなる。時間は手頃だが、なんせ勾配が急なので、正直、かなりいい運動になる。肝心の紅葉は、山頂付近は色づき始めていたものの、残念ながら全体的にはまだ少し早かったようだ。休憩所で温かいそばをいただき、ぐるっと巡る頃にはもう日も傾き始める。途中でブックオフなどに寄り道しながら帰宅。
中公文庫から出た千葉俊二/編『谷崎潤一郎文学案内』をぱらぱらと読む。
年譜に全集目録、評伝、代表作のダイジェスト、著名人らによるエッセイなど、薄い文庫の割にはなかなか具だくさんなガイドブックである。
ただ、谷崎初心者向けの本なのだから、谷崎作品の俯瞰図的な読書ガイドがあってもよかったのではないか。また、最近流行のダイジェストなどはなくてもよいから、もう少しコラムや作品論を多くしてほしかったところだ。
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ジュリアン・シモンズ『自分を殺した男』(論創海外ミステリ)
ジュリアン・シモンズの『自分を殺した男』を読む。
レクトレクス電気商会を経営するアーサー・ブランジョンは、家で妻の尻にしかれ、仕事もパッとしない惨めな男。かたや結婚アシスタント社を経営するイースンビー・メロン少佐は、仕事もまずまず順調で、妻からも愛される幸せな毎日を送っている。何から何まで正反対の二人だが、アーサーはとうとう妻を殺そうと決心する。犯人をイースンビー・メロン少佐に仕立てて……。
一種の倒叙ミステリだが、謎の要素はあまり重要視されず、主人公の犯行前後の心理の移り変わりに主眼が置かれている。著者のシモンズが主張していた犯罪小説論はエンターテインメントとしての虚構を評価しないものであったため、本格派の愛好者からはすこぶる評判が悪かったわけだが、本作はそういう本格擁護派への回答といった趣がある。
ここが大事なことだが、本書のネタをそのまま本格の謎解き小説に仕上げても、けっこういいレベルの作品ができあがったはずだ。それを倒叙という形でネタを先にばらし、あくまで主人公が転落し、壊れてゆく姿をメインテーマとするところにシモンズの自負があるような気がする(本当にあったかどうかは知らぬが)。実際、本作の主人公の心理や行動の描き方は絶妙であり、ブラックユーモアの効いた優れた犯罪小説に仕上がっている。
レクトレクス電気商会を経営するアーサー・ブランジョンは、家で妻の尻にしかれ、仕事もパッとしない惨めな男。かたや結婚アシスタント社を経営するイースンビー・メロン少佐は、仕事もまずまず順調で、妻からも愛される幸せな毎日を送っている。何から何まで正反対の二人だが、アーサーはとうとう妻を殺そうと決心する。犯人をイースンビー・メロン少佐に仕立てて……。
一種の倒叙ミステリだが、謎の要素はあまり重要視されず、主人公の犯行前後の心理の移り変わりに主眼が置かれている。著者のシモンズが主張していた犯罪小説論はエンターテインメントとしての虚構を評価しないものであったため、本格派の愛好者からはすこぶる評判が悪かったわけだが、本作はそういう本格擁護派への回答といった趣がある。
ここが大事なことだが、本書のネタをそのまま本格の謎解き小説に仕上げても、けっこういいレベルの作品ができあがったはずだ。それを倒叙という形でネタを先にばらし、あくまで主人公が転落し、壊れてゆく姿をメインテーマとするところにシモンズの自負があるような気がする(本当にあったかどうかは知らぬが)。実際、本作の主人公の心理や行動の描き方は絶妙であり、ブラックユーモアの効いた優れた犯罪小説に仕上がっている。