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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 06 2013

中町信『三幕の殺意』(創元推理文庫)

 中町信の『三幕の殺意』を読む。2008年に刊行された著者の遺作となる作品だが、もとは1968年に発表された中編「湖畔に死す」を長篇化したものだ。
 実はさらにこの前に短編バージョンがあるのやらないのやらという話が解説に載っていたりするので、興味ある方はぜひ現物で。

 それはともかく中身である。
 昭和四十年の十二月初旬。景勝の地として知られる尾瀬沼の湖畔に立つ朝日小屋。夏は登山客で賑わうこの山荘も、冬のいまは人気も少ない。その朝日小屋に今年初めての雪が降り積もった夜、離れに暮らす日田原聖太が殺害された。
 天候の悪化により孤立した山荘の状況から、容疑者は山荘に泊まった者、もしくはそこで働く者に限られている。宿泊客の一人、津村刑事を中心に、お互いのアリバイを検証してゆくが、なんとその日の宿泊客はいずれもが日田原に恨みを持つ者ばかりであった……。

 三幕の殺意

 いわゆる「嵐の山荘」テーマである。読者への挑戦も挿入されたり、帯には「最後の三行に潜む衝撃」などとやらかしているので、本格探偵小説として著者、編集者ともに相当ハードルを上げている感じだが、これは少々無理をしすぎている。オーソドックスな本格ミステリとして楽しむことはできたものの、そこまでの傑作ではないだろう。なんせ著者自身ももとの中編を「出来の悪い」とまで書いているぐらいなのである(もちろん謙遜はかなり入っているだろうが)。

 特に「最後の三行に潜む衝撃」は、メインのキャッチとして謳うのはいかがなものか。確かにオチそのものは皮肉が効いていて面白いのだけれど、これは他の中町作品にある物語世界をひっくり返すタイプのものではなく、あくまでプラスアルファの遊びである。メインの仕掛けとはまったく関係ないオチをウリにされてもなぁ。
 「嵐の山荘」ものとしてみた場合でも、緊迫感が少々足りないのは残念。殺人犯と同じ宿にいて逃げ場がない、という状況ながら、登場人物たちはそこそこのんびりムードである。サスペンスをもう少し高めるとか、あるいは逆にブラックユーモアを押し出すとか、もうすこし雰囲気作りにはこだわってもよかったのではないか。宿泊客と被害者の遺恨をカットバック的に見せる序盤などはなかなか盛り上がるだけに、よけい惜しまれる。

 そういったマイナス要素を除くと、本格としては比較的まとまりのある作品である。上に書いたが序盤のムードは悪くないし、刑事を中心にアリバイをコツコツと検証してゆく展開なども手堅い。小物の使い方、例えばストーブへの疑問を足がかりにしてロジックを組み立てていく手際もこなれている。
 ただ、これらはストレートに面白さに直結するところではないだけに、どうしても印象としては損をしてしまうだろう。無茶を承知で書けば、ラストの三行を活かしたかったのであれば、構成をすべてその人物中心で組んだ方がよかったのではないだろうか。


ジェームズ・フローリー『新・刑事コロンボ/幻の娼婦』

 DVDで『新・刑事コロンボ/幻の娼婦』を観る。通算四十八作目、新シリーズとしては三作目にあたる。監督はジェームズ・フローリー。

 こんな話。セックスクリニックを運営する心理学者のジョーン・アレンビー博士は著書がベストセラーとなるなど時の人として活躍していた。しかし、マネージャーを務める愛人のデヴィッドがアシスタントと浮気している現場を目撃し、しかも自分を笑いものにしていることを知るに及び、デヴィッドの殺害を決意する。
 ジョーンは友人が主催するコンサートに出かけ、まずはアリバイを作った。そして化粧室で高級娼婦”リサ”に変装するとデヴィッドを診療所に誘い、銃で殺害したのだ。
 捜査を開始したコロンボは、関係者の証言から幻の高級娼婦”リサ”の存在を知るが……。

 新・刑事コロンボ/幻の娼婦

 シリーズ中でも屈指の異色作。まあ、コロンボがセックス絡みの事件を扱うから異色なのであって、ミステリドラマとしてはいたって普通だったりするのだが、インパクトは相当強い。
 ビジュアル的には全然おとなしいものなのだが、なんせ犯人の仕事や生活そのものがセックスに直結するような設定。コロンボシリーズは中学生ぐらいでもファンがいるだろうから、家族揃って観ていたりした人たちは相当気まずかったんじゃないかな(笑)。

 ただ、そんな特殊設定より、むしろイライラしたのは変に演出過剰なところである。とりわけコミカルに見せる部分は新シリーズの大きな特徴でもあるわけだが、個人的にはやり過ぎ感が強くて好きではない。
 例えば大騒ぎでゴミ箱からタグを探しだすシーン、クリニックで次から次へとコロンボに相談者が現れるシーン、チューバを演奏するシーンで噴水がいっしょに踊るように吹き上がるシーン、婦人警官の芝居のシーンなどなど。『汚れた超能力』や『狂ったシナリオ』でも書いたが、制作側はよかれと思ってやっているのだろうが、やはりこれは逆効果ではないかな。

 というわけでミステリドラマとしてどうこうより、本筋以外のところで納得いかない作品ではある。ミステリ的には割と普通で、リボンやコートのタグを使った伏線など、巧い部分もあるのだが。

 最後に蛇の足。本作の犯人は娼婦に変装することで誰も気付かないぐらいの美人になるという設定なのだが、これがどうにもイマイチ(笑)。トリックに通じる重要な部分でもあるし、なにより皆が注目する美人という設定なのに、これは無理があるよなぁ。


パトリック・クェンティン『人形パズル』(創元推理文庫)

 パトリック・クェンティンの『人形パズル』を読む。ピーター・ダルースものにしてパズルシリーズの第三作である。

 演劇プロデューサーのピーター・ダルースも戦時のいまでは海軍中尉。愛しの妻アイリスとも離ればなれの生活を送っていたが、ようやく休暇を取得し、久々の逢瀬となった。ところが宿はとれない、制服は盗まれる、挙げ句の果てにはアイリスの従姉妹が殺害され、容疑はなんとピーターに。私立探偵のコンビと協力し、真相を探るべく行動を起こすが……。

 人形パズル

 もともと我が国ではサスペンス小説の書き手として紹介されることが多かったパトリック・クェンティン。だが、ここ数年で初期のパズルシリーズが新訳で刊行されるに至り、本格ミステリーの作家として見直されるようになったのは皆様ご存じのとおり。そして本作『人形パズル』発売でようやく全パズルシリーズがお手軽に読めるようになったのだが、あらためて見てみると、本格の体で書かれたパズルシリーズも実はけっこう異色作揃いということがわかる。
 なんといっても特徴的なのは、ダルースが主役ではあるが、イコール探偵役ではないということ。もちろん探偵役の場合もあるのだが、ワトソン役や容疑者、ときには被害者みたいな位置づけもあったりと非常に多彩である。同時期に書かれたクイーンらをはじめとする本格の書き手とは、そういう意味で一線を画しており、シリーズものでありながらストーリーや設定はとにかくバラエティに富んでいる。

 さて、本作も本格ミステリというよりは、巻き込まれ型のサスペンス小説というほうが適切だろう。1940〜50年代に流行っていたハリウッドのサスペンス映画、早い話がヒッチコック映画を彷彿とさせるようなハラハラドキドキをこじゃれた感じで見せる、楽しいサスペンス映画のイメージである。
 殺人事件に巻き込まれて、妻のアイリスと共に右往左往する姿はありがちといえばありがちな演出だが、ここに師匠役の私立探偵を絡め、物語を要所要所で締めつつもテンポよく興味をつないでいく手際は実に見事。舞台をサーカスに移す後半はいっそう快調で、まったく退屈しない。
 ただ、そういったハラハラドキドキの流れで見せる小説のため、これまで紹介された作品に比べると、謎解きや意外性に欠ける感は否めない。ラストでどんでん返しはあるものの、まあ、これはマニア相手だと想定の範囲内だろう。

 そんなわけでまずまず面白くは読めたが、傑作というにはちょいと厳しい。あ、もちろんクェンティンやダルースのファンなら必読である。


中町信『空白の殺意』(創元推理文庫)

 中町信の『空白の殺意』を読む。1980年に刊行された『高校野球殺人事件』を改題したもので、著者の五作目の長篇である。

 友人の高校教師、角田絵里子を訪ねた宝積寺恵子は、彼女の死体を発見する。自殺と判断されたが、問題は自殺の動機だった。残された遺書には二日前に起こったある殺人事件との関連が記されていたのだ。それは絵里子の勤める高校の女生徒が薬殺された事件であった。そして時を同じくして行方が知れなくなる野球部の監督。捜査が進むうち、甲子園をめざす高校野球界のどす黒い裏側が明らかになり……。

 空白の殺意

 悪くない。手堅くまとまった上質の本格ミステリである。
 著者自身のあとがきによると、本作はディクスン・カーの『皇帝のかぎ煙草入れ』に触発されて書いた作品だという。確かに心理的トリックという点で著者がめざすところは理解できる。『模倣の殺意』のような大仕掛けはないにせよ、細かなトリックを二重三重に重ね、読者を巧く誤誘導しているのだ。冒頭から注意していれば気付く部分もあるのだが、叙述トリックの名手らしく、この手の仕掛けはやはり巧妙である。
 『模倣〜』や『天啓〜』ほどのインパクトはないにせよ、本格としてのエッセンスはむしろこちらが上だ。

 本筋に関わる話ではないが、作中で繰り広げられる推理合戦がことのほか多いのもポイント。新たな手がかりが浮上してくるたびにロジックをこねくり回すのは、本格ミステリでは特に珍しい話ではないが、中町信がやるとそれ自体に裏がありそうな気がするのである。
 描写のひとつひとつが読者に怪しまれてしまうのは、叙述トリックの名手という著者の宿命であろう。それをまたいかなる手で切り返すのか、中町信を読むときの楽しみといえば楽しみなのだが、それに終始してしまう読み方は、実はあまり好みではない。本作でいえば著者が好きな野球を舞台にし、けっこう軽くないテーマを扱っている。それがただの道具立てとして読まれてしまうのは少しもったいない。
 もちろん、いろいろな読み方があっていいし、読者の自由ではあるのだが。


ジェームズ・フローリー『新・刑事コロンボ/狂ったシナリオ』

 いやあ、今日は暑かった。久々に青空が見えたので、ここぞとばかりに洗濯や掃除に集中すると、あっという間に汗が噴き出してくる。ひと仕事終えた後はたまらずシャワーを浴びて、昼間からDVD&ビール。ああ、久々にゆっくりした休日。

 DVDはデアゴスティーニで刊行が始まった新・刑事コロンボから一本。ジェームズ・フローリー監督による新シリーズの二作目となる『新・刑事コロンボ/狂ったシナリオ』である。

 本作の犯人を務めるはスティーヴン・スピルバーグを彷彿とさせる若きSFX映画監督、アレックス・ブレイディ。天才と呼ばれ、二十代の若さで財も名声も獲得したアレックスだったが、突然幼なじみのレニーが訪ねてきたことで彼の転落劇が始まる。
 レニーの目的は復讐だった。かつてレニーの妹はアレックスがアマチュア時代に撮った映画に出演していた。だが妹はその撮影に向かう途中でバイクで事故死。だが、真実は撮影中の事故であり、映画会社にスカウトされていたアレックスは彼女が撮影現場に現れなかったと証言し、見殺しにしていたのだ。
 撮影現場にいた友人からその証拠フィルムを手に入れ、初めて事実を知ったたレニー。彼はアレックスに詰め寄るが、逆にアレックスの策にはまり、映画スタジオで感電死させられてしまう……。

 新・刑事コロンボ/狂ったシナリオ

 犯人アレックス役のフィッシャー・スティーヴンスがよい。熱病に浮かされたように語る映像論のシーン、喜怒哀楽の変化が激しいところなど、高慢ながらも繊細な若き天才映画監督を好演している。
 これにコロンボが大人の余裕というか、ねちっこく絡んでくることで、二人のタイプの違いがくっきりと浮かび上がる。考えると旧シリーズでのコロンボはまだまだ若くて(当たり前だけど)、犯人がコロンボより年上のパターンが多かったような。だからこそラストがより痛快になるのだが、新シリーズでは逆にコロンボの方が年長さんであることがほとんど。だから、あまりコロンボがやりすぎると、少々犯人がかわいそうに思えることもしばしばである。それはそれで面白いのだが、やはりドラマの設定としては旧シリーズのコロンボが好みだ。

 本作はミステリとしてもしっかりしている。計画的な殺人ではないだけにアレックスのミスがけっこう響き、そこをコロンボが崩していく部分は見応えがある。クリームソーダの飲み残しからコロンボが推理するシーンなどは、ホームズばりでなかなかお見事。靴のかかとやチケットなどの使い方も巧い。

 難をいえばラストのシーン。コロンボが犯人に仕掛ける逆トリックは伏線もほとんど張っておらず、アンフェアなこと夥しい。
 また、それを芝居として見せる演出があまりに「らしくなく」て、セルフパロディに陥っているのも残念。コロンボが芝居っけたっぷりに種明かしを見せるのは別に珍しくもなく、確かにそれが魅力のひとつではある。ただし、それらはあくまで「芝居っけ」であるから楽しいのであって、本当に芝居をしてしまってはリアリティの欠片もなくなってしまう。なぜ刑事が犯人を捕まえるためにここまで演出しなければならないのか。
 そういえば新シリーズ一作目の『汚れた超能力』でもこうしたやりすぎの部分があった。新シリーズの目指すハデハデな演出が仇となっているのだろうが、こういうのは加減が難しいんだろうな。


モーリス・ルブラン『ルパン、最後の恋』(ハヤカワミステリ)

 モーリス・ルブランの『ルパン、最後の恋』を読む。ルブランの遺族が封印していた幻の未発表作ということで、まさかこの年になってアルセーヌ・ルパンものの新作を読めるとは思わなかった。
 もちろん封印されていたのにはわけがあって、つまりはルブランが執筆中に亡くなったため、推敲が完全ではなかったことから世に送る水準ではないと遺族が判断したせいらしい。その後、遺族も代が変わり、ルブランの孫娘がたまたまその原稿を発見。ルブランの死後七十年というタイミングもあって、出版社がルパンものの復刻本を企画中だったこと、また、フランスでの著作権が切れる時期ということもあって、出版に踏み切ったのだという。

 こんな話。シルヌ大公が自殺を遂げ、一人娘のコラは深い悲しみに沈んでいた。そんな彼女に残された遺書には、驚くべき事実が記されていた。彼女をとりまく四人の紳士のなかには、かのアルセーヌ・ルパンがいる。何かの折には彼を信頼し頼るようにというのだ。やがて、コラは大公の実の娘ではなく、英国王室の血を引く身分であることが明らかになると、彼女の身辺には陰謀の陰がちらつきはじめ……。

 ルパン、最後の恋

 ミステリや冒険小説として傑作かと訊かれれば、やはり厳しいと言わざるをえない。描写や説明が完全でないというか、ここはもう少し膨らませたかったのではないかなぁと思わせる場面も多く、基本的には粗っぽい段階の小説である。コラを取り巻く四銃士の描写も一部を除けば物足りないし、またプロローグの活かし方、中盤以降の展開もあっさりしたものだ。

 とはいえ一度はルパンにはまった者が読む分には、十分楽しい一冊であることも確か。
 ルパンの生き方や晩年に向けての夢がガッツリ語られているし、ルパン版少年探偵団の活躍もこれまた楽しい。全般に描写が弱い本作のなかにあって、少年少女の部分だけは活きいきとしてひときわ輝いてみえる。
 そういった子供たちや明るい未来社会への希望を膨らませつつ、ハッピーエンドを迎える本作は、考えればシリーズ最終作として実にふさわしい内容と言えるのかもしれない。

 ちなみに本書は宝塚で舞台化されることもあって、早々に文庫化されている。まあ、それはいいのだが、なんと併録の短編が異なっている。
 まず、ポケミス版は『アルセーヌ・ルパンの逮捕』の初出版。創元の『怪盗紳士リュパン』などに収録されているものと比べると、それこそルブランの推敲癖がよくわかるはずだ。
 一方の文庫版はこれに加えて、バーネットものの短篇「壊れた橋」も収録されている。これはなぜか英米版のみに収録されている作品だそうで、フランス版をもとにした新潮文庫の『バーネット探偵社』では未収録とのこと。ううむ、商売がうまいのう(苦笑)。


カール・フロイント『ミイラ再生』

 『世界怪獣映画入門!』を読んだ影響でもないが、クラシックな特撮映画を観たくなってDVDで『ミイラ再生』を視聴。1932年公開、カール・フロイント監督作品。『魔人ドラキュラ』や『フランケンシュタイン』でひと山当てたユニバーサル映画が、これまたフランケンシュタインを演じて人気怪奇スターとなったボリス・カーロフを主役に起用した怪奇映画である。

 こんな話。舞台は1921年のエジプト。遺跡を調査するする大英博物館の一行は、あるとき古代の高僧イムホテップのミイラを発掘する。しかし、同時に見つかった禁断の箱を空けたことで封印が解かれ、ミイラが復活し、行方をくらませてしまう。
 それから十年。エジプトで遺跡発掘を続ける大英博物館の調査団の前に、謎のエジプト人が現れた。調査団が男の話す情報のままに発掘を行うと、そこから新たな女王の墓が見つかるが……。

 ミイラ再生

 ドラキュラやフランケンシュタインほどではないにせよ、ぼろぼろの包帯を全身に巻いたミイラ男はやはり怪奇映画ではお馴染みのモンスター。本作はそんなミイラ男映画の元祖である。
 ただし、本作ではまだそんなモンスター然としたミイラ男は登場しない。ボリス・カーロフ演じる高僧イムホテップは登場時こそそんなスタイルだが、以後は普通の人間の姿に蘇生している。物静かでミステリアスな役柄を雰囲気たっぷりに演じるカロフはさすがだが、やはりホラーとしてのパンチには欠けてしまう。
 だが、何より残念なのは設定の甘さだろう。イムホテップは魔術を駆使するのだが、これが遠隔からでさえ人を操ったり、人を死に至らしめることまでできるというイージーさ。要は策を弄することなく何でも可能なわけで、わざわざ人間と対峙する意味がまったくないのである。娯楽映画ゆえ御都合主義はかなりの部分までぬるく見ているのだが、いやあ、ここまでぬるくてはさすがにだめだ。
 ボリス・カーロフの演技とミイラ男映画の元祖という歴史的価値ぐらいしか見るべきところはなく、今回は期待外れであった。


岸川靖+STUDIO28/編著『世界怪獣映画入門!』(洋泉社MOOK)

 別冊映画秘宝からまたまた気になる一冊が出ていたので購入&読了。ものは『世界怪獣映画入門!』。タイトルどおり、古今東西の怪獣映画についていろいろなアプローチで解説を試みた本である。
 怪獣映画そのものがマイナージャンルではあるけれど、それでもゴジラ映画の関連本などは意外に多い。ところが、こと海外の怪獣映画を解説した本となると、これはさすがに珍しい。

 世界怪獣映画入門

 目玉は一応、先日亡くなったばかりのレイ・ハリーハウゼンへの蔵出しインタビュー。あとはこの夏に公開される期待の特撮映画『パシフィック・リム』の紹介。他にもイタリアやイギリスなどの怪獣映画事情、その他もろもろ盛りだくさん。
 資料性はそれほど高くないが、そもそも入門書という位置づけなので気になるレベルではない。まあ、怪獣映画のコラムをドカッとまとめて読めること自体がそうそうないので、普通に楽しめる。マニアはともかく、管理人的にはほどよい感じの一冊でありました。


中町信『天啓の殺意』(創元推理文庫)

 先日読んだ『模倣の殺意』がよかったのでそのまま『天啓の殺意』にとりかかる。著者の第六長篇で原題は『散歩する死者』。

 推理小説誌の編集者、花積明日子のもとへリレー小説の企画が持ち込まれた。持ち込み主は作家の柳生照彦。彼が書いた問題篇をタレント作家の尾道由起子に読んでもらって解決篇を書いてもらい、そののち自分の解決篇を載せるというもので、作家同士の知恵比べをしようというのだ。ところが問題篇までは順調に進んでいたが、解決篇を書くと残して温泉へ出かけた柳生が行方をくらませてしまう……。

 今回も感想はネタバレ警報ありの方向で。一応、ネタバレしないよう気をつけて書くつもりではあるが、作品の性格上、可能性は否定できないゆえ。

 天啓の殺意

 本作では、作中に真相へのヒントが二つ隠されていて、これがなかなか厄介。ひとつは注意深く読んでいればもしかしたら気付くかもしれないというレベルで、しかもそこから意味を読み解くのが困難。あくまで遊びの範囲ではあるが、この手のアイディアを他の作家の本で読んだことがあるので、気付けなかったことがけっこう悔しい(苦笑)。
 問題はもうひとつのヒントである。こちらはヒントというにはあまりに露骨。これも遊び心ゆえだとは思うが、勇み足にすぎ、このヒントのため、比較的はやい段階で犯人の目安がついてしまったのが残念だ。とはいえ、当たりをつけて読んでも、なかなか尻尾をつかませないのが著者の巧いところではある。

 全体的にはやや技巧に走りすぎた嫌いはある。いや、この作品はそもそも技巧がすべてでしょというなかれ(笑)。技術的には『模倣の殺意』を上回っていると思うのだが、やられたという爽快感は逆に『模倣の殺意』が上。これは終盤のたたみかけや展開が裏目に出ているというかやりすぎというか、小説としての構造がサプライズの衝撃を逆に弱めている。
 また、かなり根本的な部分でそんなに都合よく事が運ぶのかという、御都合主義に頼るところがあるのは厳しい。

 ううむ、なんだか欠点ばかり挙げてしまったが、もちろん決してつまらないわけではない。『模倣の殺意』よりは落ちるけれど十分に楽しめるし、何より、よくぞここまでバリエーションを考えたものだと感心する。
 叙述トリックは「小説」ならではのサプライズが魅力なのだが、その反面、小説が提供すべき本来の楽しみの多くを犠牲にするという欠点も併せ持つ。そのハードルに挑んだ著者の意気をこそ買いたい。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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