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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


マット・クエリ&ハリソン・クエリ『幽囚の地』(ハヤカワミステリ)

 マット・クエリ&ハリソン・クエリの『幽囚の地』を読む。本邦初紹介の作家で、ポケミスには珍しいホラーサスペンスとのこと。「ホラー」とはいえなんせポケミスの一冊なので、ミステリ的な味付けなり仕掛け予想していたら、これがなんと普通にホラーで驚いてしまった(笑)。

 まずはストーリー。アイダホ州の田舎に家と牧場を買ったハリーとサーシャのブレイクモア夫妻。近隣にはダンとルーシーの老夫婦が住むぐらいで、都会の喧騒とは縁のない、素晴らしい暮らしが待っているはずだった。
 ところが程なくしてその期待は外れることになる。発端はしてダンが家を訪れて、ある忠告をしたことだった。この地には精霊が棲んでおり、季節ごとに異なる方法で住人を悩ませるというのだ。しかし、それを防ぐ方法があり、そのルールを守れば安全に過ごせるという。
 ハリーとサーシャは俄かには信じられなかったが、それを守って春をやり過ごす。だが、ハリーは精霊の存在や精霊の言いなりになることに反発し、ルールから徐々にはみ出しそうになるのだが……。

 幽囚の地
▲マット・クエリ&ハリソン・クエリ『幽囚の地』(ハヤカワミステリ)【amazon

 上でも書いたようにこれは普通にホラー小説である。まあホラー小説も別に嫌いではないし、今年読んだ中でも『奇妙な絵』や『生贄の門』といった作品は、ホラーとしてもミステリとしても光るところがある佳作だった。本作もわざわざポケミスから出るぐらいだから、当然ながらその方向での期待をしていたのだが、ううむ、ミステリ要素はほとんどなくてちょっと拍子抜けであった。

 ミソとなるのは精霊を撃退するためのルールが定められていることだろう。特別に難しいことではないのだが、それは非常に不快な経験を強いる。果たして精神的に耐えられるのか、というところが問題となるのだ。作者もその点に注力しており、各季節ごとの精霊との遭遇シーンは非常に詳細に描かれ、とりわけ心理描写の力の入り方はアッパレ。
 ただ、シーンごとの描写は読ませても、どうも全体的な設定、精霊とのルールなどが今ひとつ説得力に欠けるというか、作者が面白がっているほど楽しめない。ルールの裏どりだったり根拠が弱く、エンタメとしては腹に落ちる感じがないのである。
 それは決着の付け方にも表れており、もう少し作中での理屈づけが必要ではないか。本作は作者の定めたルールの上で成立しているので、ここを疎かにしてはカタルシスは得られない。

 なお、作者は弁護士のマットと脚本家のハリソンによる兄弟コンビらしい。仕事柄ハリソンがメインかと思っていたら、実は本作の元になった小説をマットがネット上に公開しており、それを脚本家のハリソンが小説として整えたらしい。この辺りにも本作の弱さの理由がありそうだ。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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