■ 数字で楽しむ スポーツ新聞には、プロ野球に関して、いろいろな数字が書かれている。打率、ホームラン数、打点数、防御率、勝利数、セーブ数といったポピュラーなものだけでなく、得点圏打率、出塁率、奪三振率などもあるし、最近では、OPS、QS、WHIPといった数字も広まってきている。
一方で、サッカーの世界では、数字でプレーヤーを評価することは少ない。得点数、アシスト数などの他に、最近のユーロ2012の試合では、パス成功率、パス本数、走行距離なども、試合中に表示されていて、Jリーグでも、横浜FCなどは、チームの走行距離をホームページで公表するようになったが、まだまだ、一般的ではない。
もちろん、数字の取り扱いには、注意すべきであるが、いろいろな数字を見ると、クラブや選手の新しい一面を感じることもできるし、サッカーの楽しみ方も広がっていくだろう。日本には、野球の文化が根付いていて、数字に興味を持っている人は多いと思われるので、今後、サッカー界でも、「数字で楽しむような文化」が発展していくことを期待したいところである。
■ Chance Building Point そんな中で、「
Football LAB」さんは、各クラブのサポーターなどに、新しいサッカーの楽しみ方を提供するために、独自にデータを集めて、公表している。
彼らが、主眼を置いているのは、「シュート機会への貢献」というもので、「選手(またはチーム)が試合を通じてどれだけチャンス機会を構築することができたか」を独自のロジックにより数値化して、CBP(Chance Building Point)という数字で、選手を評価している。
・Football LABとは? →
http://www.football-lab.jp/pages/about/ ・CBPとは? →
http://www.football-lab.jp/pages/cb_point/ ■ パスCBPとは? くわしい説明は、リンク先に書かれているので省略するが、今回は、パスCBP、クロスCBP、ドリブルCBPに着目して、選手が数字でどのように評価されているのか、確認してみたいと思う。まず、最初に「パス」に関するCBPであるが、説明を読むと、
・パスを通すのが難しいエリアで、シュートにつながる可能性のあるパスを通せば高いパスCBPが付与される。
・1本のパスごとにポイントが定められる。
・パス1本1本に対してポイントを付与していき、合算した数値がチーム(または選手)のポイントとなる。
ということで、平たくと言うと、「いいところに、チャンスにつながりそうなパスを出せれば、評価する。」ということで、ホームページ上で、パスCBPが高い選手のランキングが1位から50位まで公表されている。
※ 各項目の全ランキング(1位から50位まで)は、以下のリンク先から確認できます。
→ http://www.football-lab.jp/summary/player_ranking/j1/?year=2012
■ パスCBPのランキング ここで、1位から20位までを抜き出してみると、以下のようになる。これを見ると、MF中村憲(川崎F)、MF遠藤(G大阪)、MF中村俊(横浜FM)、MF小笠原(鹿島)という日本代表でも活躍してきたゲームメーカーがトップ10に名を連ねていることが、注目される。いずれも、30歳を超えて、衰えも指摘されるようになってきたが、パスCBPは、まだまだトップレベルの選手であることを示している。
また、3位にMF清武(C大阪)が入っているのも、面白いところである。今シーズンのMF清武は、好調とはいえないが、数字で見ると、いいパスを供給していることが分かる。MF清武のような若い選手は、どうしても、期待値が高くなってしまうので、それまでと同じレベルのプレーをしていても、物足りなく感じるものであるが、パスCBPを見ると、トップレベルの数字を残している。
他には、4位にMF阿部(浦和)が入っているのが目立つ。各項目は50位まで発表されていて、パスCBPに関しては、FC東京(6名)、C大阪(5名)、広島(5名)、浦和(5名)の選手が多くランクインしているが、どちらかというと、守備的な仕事を担っているMF阿部が「4位」というのは、立派である。パスCBPの場合、前述のとおり、難しいエリアでパスを通した方が、高く評価されるので、ビルドアップのときに、最終ラインに入る事の多いMF阿部は不利になるが、見事である。
他には、MF梶山(FC東京)が6位で、MF高橋(FC東京)が7位と、FC東京のコンビがトップ10に入っていること、最終ラインの選手では、DF闘莉王(名古屋)とDF森脇(広島)とDF千葉(広島)とDF槙野(浦和)がランクインしていること、U-23日本代表のMF扇原(C大阪)が18位に入っている点が注目に値する。MF扇原は効果的な縦パスが持ち味であるが、今シーズンは、C大阪では調子が上がっていない。しかしながら、パスCBPで見ると、悪くない数字を残している。
表1 パスCBPのランキング (1位から20位まで)
| ポジション | 選手名 | 所属 | パスCBP |
1 | MF | 中村憲剛 | 川崎F | 37.96 |
2 | MF | 遠藤保仁 | G大阪 | 34.19 |
3 | MF | 清武弘嗣 | C大阪 | 30.22 |
4 | MF | 阿部勇樹 | 浦和 | 30.15 |
5 | MF | 青山敏弘 | 広島 | 27.39 |
6 | MF | 梶山陽平 | FC東京 | 24.93 |
7 | MF | 高橋秀人 | FC東京 | 24.72 |
8 | MF | 中村俊輔 | 横浜FM | 24.30 |
9 | MF | 藤本淳吾 | 名古屋 | 24.13 |
10 | MF | 小笠原満男 | 鹿島 | 23.48 |
11 | MF | 遠藤康 | 鹿島 | 23.37 |
12 | MF | 高萩洋次郎 | 広島 | 22.89 |
13 | DF | 田中マルクス闘莉王 | 名古屋 | 22.68 |
14 | MF | 柏木陽介 | 浦和 | 22.67 |
15 | DF | 森脇良太 | 広島 | 21.99 |
16 | MF | カルリーニョス | 大宮 | 21.37 |
17 | MF | レアンドロ・ドミンゲス | 柏 | 21.27 |
18 | DF | 扇原貴宏 | C大阪 | 21.18 |
19 | DF | 千葉和彦 | 広島 | 21.05 |
20 | DF | 槙野智章 | 浦和 | 20.90 |
■ クロスCBP 次は、クロスCBPを見ていく。クロスの定義として、
・到達地点がペナルティエリア内、もしくはペナルティエリアを通過したものに限り、主にシュートを狙う意図のある選手に対して出したパス。
・グラウンドの3分の1を越えたペナルティエリア両脇の延長線の外から出したパス、もしくは、ペナルティエリア内でもゴールエリアの縦のラインより外側から出したパス。
・セットプレーを除く。
の3点が挙げられている。ここでも、1位から20位までを抜き出してみると、以下のようになって、MFミキッチ(広島)の数字が飛び抜けていることが分かる。MFミキッチの場合は、サイドバックではなくて、ウイングバックなので、若干のアドバンテージはあるが、2位のDF酒本の倍近くで、20位のMF梅崎の約5倍の数字を残している。ありえないほどの突出度のように思う。
2位に入っているのは、DF酒本(C大阪)で、こちらも「11.02」なので、相当な数字である。MFミキッチが「21.18」なので、1位との差は大きいが、3位のDF田中隼(名古屋)でも「8.15」なので、DF酒本もクロスCBPに関しては、優秀であることが分かる。上位の顔ぶれは、概ね妥当だと思うが、DF田中隼の3位というのは、予想よりも上で、逆サイドのDF阿部(名古屋)は、「3.35」で36位なので、左右で大きな差が生じている。
他に気になるのは、「6.38」で8位に入っているMF山田(磐田)で、9位のDF駒野(磐田)よりも上になっている。ランクインしている選手のほとんどは、サイドバックか、サイドアタッカーであるが、MF山田は、サイドに張って縦に突破するプレーが主になる選手ではない。そう考えると、8位というのは、非常に価値があるように思う。また、「5.83」で11位に入っているMF野沢(神戸)も、なかなかの数字である。前述のように、クロスの定義からセットプレーは除いているので、セットプレー以外でも、チームのサイド攻撃に寄与できていることが分かる。
他には、「4.48」でFW大迫(鹿島)が18位に入っている。今シーズンは、2トップの一角でプレーすることが多いが、純粋なフォワードの選手ではリーグトップで、クロスで貢献している。高さのある選手なので、サイドに流れてクロスを上げるプレーよりも、中央でゴールを狙うプレーを増やしてほしい気もするが、器用な選手であることを、クロスCBPは示している。
表2 クロスCBPのランキング (1位から20位まで)
| ポジション | 選手名 | 所属 | クロスCBP |
1 | MF | ミキッチ | 広島 | 21.18 |
2 | MF | 酒本憲幸 | C大阪 | 11.02 |
3 | DF | 田中隼磨 | 名古屋 | 8.15 |
4 | DF | 藤春廣輝 | G大阪 | 7.92 |
5 | DF | 酒井宏樹 | 柏 | 7.72 |
6 | DF | 下平匠 | 大宮 | 7.01 |
7 | MF | 太田吉彰 | 仙台 | 6.85 |
8 | MF | 山田大記 | 磐田 | 6.38 |
9 | DF | 駒野友一 | 磐田 | 6.05 |
10 | DF | 平川忠亮 | 浦和 | 5.97 |
11 | MF | 野沢拓也 | 神戸 | 5.83 |
12 | DF | 村上佑介 | 新潟 | 5.51 |
13 | FW | 齋藤学 | 横浜FM | 5.28 |
14 | MF | 山岸智 | 広島 | 5.06 |
15 | MF | 水沼宏太 | 鳥栖 | 4.95 |
16 | FW | 小野裕二 | 横浜FM | 4.67 |
17 | DF | 小林祐三 | 横浜FM | 4.63 |
18 | FW | 大迫勇也 | 鹿島 | 4.48 |
19 | DF | 新井場徹 | 鹿島 | 4.42 |
20 | MF | 梅崎司 | 浦和 | 4.42 |
■ ドリブルCBP 次は、ドリブルCBPを見ていく。こちらも、1位から20位まで抜き出してみた。ドリブルCBPが高い選手は、「相手にとって危険なエリアでドリブルで仕掛けることができる。」ということの証と言えるが、トップはMFキム・ボギョン(C大阪)で、「12.10」となっている。また、2位に入っているのは、MFミキッチ(広島)で、クロスCBPが1位で、ドリブルCBPが2位ということで、極めて優秀なチャンスメーカーであることが、CBPからもよく分かる。
トップ20に入っている選手は、ドリブルで打開できる選手ばかりであるが、意外に感じるのは、FW大迫(鹿島)で、「6.41」で5位に入っている。彼は、クロスCBPでも18位に入っているが、チャンスメーカーとしては、リーグでも有数の存在になっていることが分かる。なお、クロスCBPとドリブルCBPの両部門でトップ20に入っているのは、MFミキッチ(広島)、FW大迫(鹿島)、MF山田(磐田)、FW小野(横浜FM)、MF梅崎(浦和)、MF齋藤学(横浜FM)の6人だけである。
また、MF遠藤(鹿島)が「4.32」で16位に入っているが、彼はパスCBPでも11位に入っている。ドリブルCBPとパスCBPの両部門でトップ20に入っているのは、MF遠藤(鹿島)とMFレアンドロ・ドミンゲス(柏)の二人だけである。ドリブルでも仕掛けられて、パスも出せるとなると、相手チームにとっては脅威である。
表3 ドリブルCBPのランキング (1位から20位まで)
| ポジション | 選手名 | 所属 | ドリブルCBP |
1 | MF | キム・ボギョン | C大阪 | 12.10 |
2 | MF | ミキッチ | 広島 | 10.13 |
3 | MF | 梅崎司 | 浦和 | 9.71 |
4 | MF | チョ・ヨンチョル | 大宮 | 7.42 |
5 | FW | 大迫勇也 | 鹿島 | 6.41 |
6 | FW | ブルーノ・ロペス | 新潟 | 6.29 |
7 | MF | 山田大記 | 磐田 | 5.63 |
8 | FW | 齋藤学 | 横浜FM | 5.50 |
9 | FW | ウイルソン | 仙台 | 5.47 |
10 | FW | 前田俊介 | 札幌 | 5.25 |
11 | MF | ドゥトラ | 鹿島 | 5.19 |
12 | MF | レアンドロ・ドミンゲス | 柏 | 4.88 |
13 | FW | 小野裕二 | 横浜FM | 4.76 |
14 | MF | 関口訓充 | 仙台 | 4.69 |
15 | FW | レナト | 川崎F | 4.54 |
16 | MF | 遠藤康 | 鹿島 | 4.32 |
17 | FW | 大前元紀 | 清水 | 4.00 |
18 | MF | 松浦拓弥 | 磐田 | 3.95 |
19 | FW | 高木俊幸 | 清水 | 3.92 |
20 | FW | ラファエル | 大宮 | 3.87 |
■ 3部門全てでトップ50に入っているのは? 最後に、パスCBPとクロスCBPとドリブルCBPの3部門すべてで、トップ50までに入っている選手を探して見ると、MFキム・ボギョン(C大阪)、DF酒本(C大阪)、MF中村俊(横浜FM)、MF中村憲(川崎F)、FWラファエル(大宮)、MF山田(磐田)、MFレアンドロ・ドミンゲス(柏)の7人だけとなった。
MFキム・ボギョン(C大阪)、MF中村俊(横浜FM)、MF中村憲(川崎F)、FWラファエル(大宮)、MFレアンドロ・ドミンゲス(柏)の5人が全ての項目でランクインしていることに対しては、大きな驚きはないが、MF山田(磐田)とDF酒本(C大阪)については、やや意外に感じた。
MF山田は、プロ2年目のシーズンを迎えているが、着実に成長していて、リーグでも有数のアタッカーになったことが、CBPでも証明されている。また、DF酒本は、いつの間にか、リーグでもトップレベルのサイドアタッカーとなった。セレッソ大阪のサポーターの「シャケのドイツ行きあるで。」という言葉が、近い将来、現実になるかも・・・。
表4 3部門ともトップ50位以内の選手
| 選手名 | 所属 | パスCBP | クロスCBP | ドリブルCBP |
MF | キム・ボギョン | C大阪 | 20.09 | 22位 | 3.21 | 42位 | 12.1 | 1位 |
MF | 酒本憲幸 | C大阪 | 17.16 | 47位 | 11.02 | 2位 | 2.15 | 50位 |
MF | 中村俊輔 | 横浜FM | 24.3 | 8位 | 3.89 | 29位 | 3.66 | 24位 |
MF | 中村憲剛 | 川崎F | 37.96 | 1位 | 2.86 | 49位 | 2.25 | 48位 |
FW | ラファエル | 大宮 | 18.33 | 33位 | 3.49 | 34位 | 3.87 | 20位 |
MF | 山田大記 | 磐田 | 18.88 | 26位 | 6.38 | 8位 | 5.63 | 7位 |
MF | レアンドロ・ドミンゲス | 柏 | 21.27 | 17位 | 4.27 | 21位 | 4.88 | 12位 |
備考
※ 各項目の全ランキング(1位から50位まで)は、以下のリンク先から確認できます。
→ http://www.football-lab.jp/summary/player_ranking/j1/?year=2012
※ 次回は、「J2編」で、J2の選手のCBPを見ていきたいと思います。
※ 数値は、6/22(金)時点のものです。
※ なお、ブログなどで、このデータを用いるためには、Football LABさんに承諾を得る必要がありますので、データの取り扱いには注意してください。
関連エントリー 2007/09/08
本当に「決定力不足」なのか? 2007/09/15
「個の力」というフレーズにだまされるな!!! 2010/01/19
「Jリーグ史上最強のチームはどこか?」を考える。 2011/02/19
両利きのサッカー選手などなど 2011/08/24
Jリーガーと兄弟構成に関して 2012/02/16
【J1】 セットプレーからのゴールが多かったチームは? 2012/02/17
【J1】 各クラブのゴールパターンの雑感
- 関連記事
-