■ 予想を上回る快進撃シーズン前の予想では、サガン鳥栖を「12位」と予想している。評価が低めになった理由として、「爆発力に欠ける点」を挙げており、「守備は安定しているが、3位以内に食い込むのは難しいのではないか。」と結論付けている。
また、オフの選手補強については、開幕直前に、J1、J2の全38チームを、「S+」→「S-」→「A+」→「A-」→「B+」→「B-」→「C+」→「C-」→「D+」→「D-」→「E+」→「E-」の「12段階」で評価しているが、「C+」としている。『悪くはない。』という締めで、可もなく、不可もなくという評価だった。よって、ここまで成績を伸ばしてくるとは、予想できなかった。
サガン鳥栖 評価 C+
→ レンタル移籍だったFWハーフナー、MF島田に加えて、MF高橋、MF高地、MF武岡、DF柳沢、DF渡邉らレギュラークラスのほとんどが流出した昨オフと比べると平穏なオフになっている。何と言っても、13ゴールを挙げたエースFW豊田が残留したことが大きく、FW豊田が退団していれば一大事だったので、何よりも大きなことである。
長年、ディフェンスラインを支えてきたDF飯尾が横浜FCに移籍したことでDFラインの層の薄さは不安であるが、中盤はMF米田(徳島)、MF永田(湘南)、MF岡本(広島)、MF國吉(甲府)を加えて確実に戦力はアップしている。前チームでは出場機会に恵まれなかった選手ばかりであるが能力は高く、使い方次第で立派な戦力になるだろう。
一方、FW豊田が軸となるフォワードは、そのパートナーとしてFW早坂、FW池田、FW野田らが争う形であるが、中盤の人材が豊富なことを考えると、FW豊田の1トップということも考えられる。即戦力でチームの中核におさまるような補強はなかったが、特徴を持った選手を加入させており、悪くはない補強であるといえる。
【J2】 各クラブの補強診断 (下) (2011/3/1)
躍進した理由については、いくつか挙げられる。J2は、残り6試合となったが、果たして、無事にJ1昇格を果たせるだろうか・・・。
(理由1) MF岡本知剛の加入 → もっとも大きかったのは、サンフレッチェ広島からボランチのMF岡本を獲得したことである。MF岡本は、U-17の日本代表では、MF柿谷、MF水沼、MF山田直らとともにチームの中心を担った選手で、将来を嘱望されていたが、広島では、3年間で4試合に出場しただけ。伸び悩み気味だったが、鳥栖でレギュラーポジションを獲得し、快進撃を支えている。
まず、MF岡本が入ったことで、ボール回しが安定し、攻撃が多彩になった。プレッシャーをかけられても慌てることがなく、縦へ「楔のパス」を出すこともできるし、ドリブルで持って運ぶこともできる。そのため、攻撃のとき、簡単に相手にボールを渡すシーンがなくなって、守備陣の負担も低減した。
MF岡本が加入したことは、MF藤田にも好影響を与えた。MF岡本は、179センチとボランチとしては「サイズ」があって、守備もできるので、より攻撃に専念できるようになった。ボール回しのときに、マークが分散したことも「好影響」を及ぼし、相手から受けるプレッシャーが少なくなって、楽にプレーできるようになった。
2010年の鳥栖は、怪我人が多く出たこともあって、中盤が「やや脆弱」で、ルーキーだったMF藤田に能力以上のものを課すことになったので、あまり良くない結果に終わったが、MF藤田がMF岡本とボランチを組むようになって、力を発揮するようになった。
(理由2) 主要メンバーの残留 → MF岡本が加入したことは大きかったが、それ以外のメンバーは大きく変わっていない。シーズン前の予想を見直してみて、『見落としていたな・・・。』と感じるのは、「主力の流出がほとんどなかった点」である。2008年のオフはFW藤田祥が移籍し、2009年のオフはFWハーフナー・マイク、MF島田、MF高橋、MF高地、MF武岡、DF渡邉、DF柳沢らが抜けているが、2010年のオフは、DF飯尾、DF日高、MF衛藤、FW萬代といった準主力級の選手が退団しただけで、鳥栖のようなクラブには珍しく「主要メンバー」が変わらなかった。
2009年のオフに、岸野さんに根こそぎ奪われてしまったので、「他クラブに目を付けられるようなタレントが少なかった。」という理由もあるが、これが幸いし、チームを大きく変えずに済んだ。J2では、「J1から降格したクラブ」も、「J1昇格に失敗したクラブ」も、「中位以下に低迷したクラブ」も、選手の入れ替えが激しいことが普通なので、同じようなメンバーで2年目を迎えることができた点が、他クラブにはない「アドバンテージ」となった。実質的な監督も、ユン・ジョンファン監督で代わっておらず、シーズンの序盤から、落ち着いて戦うことができた点は大きかった。
(理由3) 2年目のMF早坂良太のレベルアップ → MF早坂は、J2の中では、屈指のオールラウンダーである。フォワードも、サイドハーフも、トップ下も、ボランチもこなす選手で、やろうと思えば、サイドバックもできるだろうし、チームがどうしようもない状況に陥ったときは、センターバックとしても問題なくプレーできそうなくらい、多彩な能力を持っている。
そのMF早坂が、2年目でレベルアップしたも大きかった。JFLのHONDA FCから加入し、1年目だった2010年シーズンも、能力の片鱗を見せていたが、何でもできるが故に「便利屋的な立場」となって、迷いながらプレーすることがあったが、今シーズンは、開幕から「ゴールに直結するプレー」が増えて、ここまで31試合で9ゴール。FW豊田に次ぐ「第2の得点源」となった。FW豊田に続く存在を探していた鳥栖にとって、MF早坂がゴール数を伸ばしたことは大きかった。
ちょっと、気になるのは、無敗記録中はあまりゴールに絡めておらず、開幕当初よりもパフォーマンスが落ちているところである。負担のかかるポジションで、守備のときも「大きな役割」を担っているので、仕方がないところもあるが、MF早坂の状態がもっと上がってくると、ラストスパートをかけるとき、大きな力になるはずである。昇格に向けて、終盤戦のキーマンの一人と言える。
(理由4) 武器となったセットプレー → FW豊田、MF早坂、MFキム・ビョンスク、DF呂成海、DF木谷と、鳥栖は背の高い選手を多く抱えており、「セットプレー」が得点源となった。大一番となった7節の千葉戦でも、フリーキックからFW豊田が決勝のヘディングシュートを決めているが、大事なところで、セットプレーからゴールを奪えるようになったことも、勝ち点を確実に伸ばしている要因である。
意図的かどうかは分からないが、高さのある選手が揃っている。180センチを超える選手が、スタメンの中に7人もいるが、それ以外でも、MF岡本が179センチで、MF池田が178センチも低くない。さらに、DF丹羽も176センチで、MF藤田も175センチなので、11人全員が175センチをオーバーしている。ここまで、高さのある選手が揃っているチームは、J2の中では少ないので、セットプレーは強力である。
ボールを供給するのは、ほとんどの場合、MF藤田であるが、「キックの精度」が高いこともちろん、ロングスローでも、千葉のDFミリガンに負けないほどの「スピード」と「距離」の出るボールを投げることができるので、相手からすると、本当に厄介である。その結果として、大量得点で勝つ試合が増えており、得失点差「+30」は、FC東京に次いでリーグ2位。札幌が「+11」、徳島が「+14」、千葉が「+8」なので、ライバルを圧倒している。連戦になっても、その間に「楽な試合」が挟まると、体力も、気力も、温存することができるので、戦いやすくなるが、鳥栖は、ところどころで、「楽勝」の試合があるので、「すり減り」の度合いが少なくすんだ。
(理由5) ライバル達の低迷 → 最後に、外的な要因もある。今シーズンのJ2は、FC東京が「頭3つ」ほど抜け出していて、千葉、京都、横浜FC、湘南、東京V、栃木SC、徳島といったクラブが「昇格レース」に参加してくると考えられていた。しかしながら、京都、横浜FC、東京VといったJ1経験のあるクラブが、そろって、開幕から低迷し、湘南もシーズン序盤で息切れして、中位に沈んでいる。「力がある」と思われたチームが、序盤戦で昇格レースから外れていったのは、ラッキーだった。
結局、夏場になると、FC東京、札幌、千葉、徳島、鳥栖、栃木SCの6チームの争いとなったが、6チームの中で、J1昇格経験があるのは、FC東京と札幌だけ。鳥栖も、昇格経験の無いクラブであるが、徳島も、栃木SCも同じであり、千葉も、昨シーズンはJ1昇格に失敗しているクラブである。
2006年シーズン以後、鳥栖は、ほぼ毎年、終盤戦まで昇格レースに加わっており、「昇格レースに参加した経験」でいうと、札幌とも大差はない。近年、仙台や、C大阪や、京都といったクラブが、J2の昇格争いの常連となっていたが、それらのチームと比べると、ライバルも「経験」は持っていない。よって、鳥栖にとって、「昇格経験が無い」ということも、大きなマイナスになっていない。
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