■ 育成の問題???今の五輪代表世代がJリーグに入団してきた頃から、オールマイティな選手が増えてきたという印象がある。10年前であればトップ下限定でしかプレー出来そうもなかった攻撃的MFの王様タイプの選手が、中盤であればどんなポジションもこなせる柔軟性も備えるようになってきた。
いい意味でいうと融通がきいて監督から見ると使いやすい選手ということになるが、悪い言い方をすると器用貧乏であって、そつなく、いろいろなポジションをこなすことが出来る点に逆に物足りなさを感じてしまうのも事実である。ただ、「王様タイプの選手といえども守備的な能力を備えていなければ世界の舞台で活躍することは難しい」という日本サッカー協会の根本の考えも理解できるものであり、事実、一定の成果は出ている。
育成分野に関しては正解が無いため、若年層の段階でいろいろなポジションをこなせるようにトレーニングすることも悪くはない。ただ、攻撃的なポジションでプレーする若手選手には、こじんまりした選手にはならずに、しっかりとした武器(アピールポイント)をもって、新しい風を巻き起こして欲しいという思いは依然として強いものがある。
■ ポスト黄金世代これまでの日本サッカーの歴史を振り返って、もっともタレントの集まったのが、79年組である。ユース年代から世界大会で輝かしい成績(ドイツW杯を除く)を残してきた彼らの世代も、しかしながら間もなく30歳を迎える。
あまりにも偉大な結果を残したからこそではあるが、(そしてサッカー界に限らずどの分野にも言われていることではあるが)、「若手が育ってきていない。」というフレーズが聞かれるようになってきている。
ただ、そう悲観する必要はない。確かに、現段階ではネームバリューにおいて、黄金世代に匹敵する人材を並べ挙げるのは難しいが、それでも、各クラブの、そして日本サッカーの未来を託すことのできる可能性をもったタレントは、続々と生まれてきている。
その筆頭はC大阪のMF香川真司(MF/172cm/19歳)。カナダで行われたワールドユースに飛び級で出場し、北京五輪代表チームにも選ばれている。高校2年生の時にC大阪とプロ契約を結ぶと、18歳でポジションを獲得した。ロンドン五輪の出場資格を持つユース世代であり、この世代では群を抜く実績を残している。
今シーズンもC大阪の中心選手としてプレー。ここまで全試合でスタメンフル出場を果たしている。リーグ戦では徹底マークもあって、思うような成果は残してはいないが、チーム内での地位はゆるぎない。
■ FC東京から続々と生まれる逸材そのMF香川と同じ1989年生まれの選手で、まず名前が挙げられるのは、FC東京のMF大竹洋平(MF/165cm/18歳)。ルーキーイヤーにもかかわらず、ここまでのリーグ戦5試合中2試合に先発出場。同じポジションを争っていたMF石川直宏の怪我という要素もあったが、他のライバルを押しのけてがっちりと城福監督の信頼を勝ち取っている。
小柄ではあるが、特に左足のキックの精度は素晴らしく、チームでもほとんどのプレイスキックを任されていて、第3節の京都戦ではCKからプロ初アシスト。キープ力も高く、今までのFC東京にはいなかったゲームメイクも出来るアタッカーである。
FC東京のユース(FC東京U-18)は、歴史のあるチームではないが、すでにMF馬場優太、MF梶山陽平、FW李忠成といった選手を輩出しており、優秀なアタッカーが生まれる土壌をもつといえる。
■ 東京Vの新しい希望そのMF大竹と同学年で、J1では大竹に負けず劣らずの活躍を見せているのが、東京VのFW河野広貴(FW/165cm/18歳)。川崎Fとの開幕戦でJ1デビューを果たすと、その試合でいきなり日本代表のMF中村憲剛を手玉に取る圧巻のプレーで、全国に大きなアピールをした。
当初はスーパーサブ的な扱いであったが、4節の磐田戦でスタメン出場を果たすと、5節の神戸戦では得意の左足で貴重な決勝ゴールをマークし、チームに今シーズン初勝利をプレゼントした。プレーに波はあるが、切れ味鋭いドリブルと左足のキックは、それだけで見る価値がある。
FWフッキの加入が吉と出るか、凶と出るかはまだ分からないが、FWフッキにマークが集中すればするほど、FW河野にとっては仕事のやりやすい環境が整うかもしれない。ドリブラーとして大きく育ってほしい。
■ 万能のサイドアタッカーもう少し上の世代になると、攻撃的なポジションの起用ではなく左サイドバックを任されることも多いが、京都サンガのDF渡邉大剛(DF/171cm/23歳)のセンスも光る。柔らかさが際立つ独特のドリブルで相手DFを手玉にとり、チームのサイドアタックを活性化させる。第2節の大宮戦では決勝ゴール、第3節のFC東京戦でも同点のミドルを決めるなど、サイドバックながらすでに2得点をマークしている。
守備では不安な部分もあるが、両サイドを難なくこなす柔軟性は大きなアピールポイントで、課題といえるクロスボールの精度も向上しつつある。京都にとっては攻撃の切り札的存在であり、その期待に応えるだけのプレーを見せている。現在のJ1の中では、もっとも過小評価されている選手の一人といえる。
■ J1での活躍が光るスター候補MF香川らと同じく、ロンドン五輪参加資格を持つ選手として、注目を集めるのが大分のMF金崎夢生(MF/180cm/19歳)。ここまでのリーグ戦で5試合で3ゴールをマークし、決定力の高さを見せつけている。MF家長の怪我で回ってきたトップ下というポジションではあるが、ウェズレイと高松というJ屈指の2トップの下で、得点センスをアピールしている。
その大分トリニータと並んで、才能の宝庫といえるコンサドーレ札幌ではMF西大伍(MF/175cm/20歳)が3節の柏戦で決勝ゴールをマークし、チームの6年ぶりのJ1勝利の立役者となった。同じく攻撃的MFの岡本賢明(MF/170cm/20歳)も5試合連続でリーグ戦に出場し、チームにとって欠かせない存在になりつつある。
そして、忘れてはならないのが名古屋のMF小川佳純(MF/173cm/23歳)。ピクシーの元、チームの主役となったMF小川は大卒2年目。思い切りのいいプレーは、新生グランパスの象徴であり、すでに1ゴール2アシストと結果も残している。
これ以外を見ても、新潟の小暮郁哉(MF/177cm/18歳)、柏のFW大津祐樹(FW/180cm/18歳)といった選手が、ルーキーイヤーから出場機会をつかんでいる。
■ 生まれつつある才能若い選手が面白いのは、たった1試合や2試合でも、見違えるような成長を見せることである。したがって、出来上がった選手の活躍よりも、若い選手の活躍にどうしても目が行きがちなのは仕方が無い。もちろん、彼らがこのまま順調に成長を続けるとは思わないが、少し目を離していると、才能が生まれつつあることを感じずに、見逃してしまう危険性もある。
残念ながら、日本サッカー協会や現日本代表にまつわるニュースを聞いていると暗い気持ちになってしまうが、アンテナさえ張り巡らせていれば、幸いなことに、そこら中に明るい話題も落ちている。
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