■ J2の開幕戦J2の開幕戦。1年でJ2降格となった徳島ヴォルティスと昨シーズンは19位に終わった愛媛FCの「四国ダービー」が鳴門・大塚スポーツパークポカリスエットスタジアムで開催された。四国ダービーの通算成績は徳島が11勝7敗4分けと勝ち越しているが、2012年に小林監督が徳島の監督に就任してから徳島が4連勝しており、小林監督はダービーを得意としている。今オフの愛媛FCは粉飾決算の問題で注目を集めた。
ホームの徳島は「4-2-2-2」。GK長谷川徹。DF広瀬、青山隼、石井秀、内田裕。MF濱田、斉藤大、廣瀬智、大崎。FWキム・ジョンミン、津田。徳島はオフの補強が大成功したが、大宮から加入のFW長谷川悠は怪我のため欠場で、2011年以来の復帰となるFW佐藤晃は怪我の影響でベンチスタートとなった。右SBにはDF広瀬、左SBにはDF内田裕が起用されたので、19歳コンビがスタメンに抜擢された。
対するアウェイの愛媛FCは「3-4-2-1」。GK児玉。DF村上佑、江口、浦田。MF岡崎建、藤田息、藤、三原、西田、河原。FW瀬沼。J1の清水から加入した大型ストライカーのFW瀬沼が1トップに入って、昨シーズンはリーグ11位タイとなる13ゴールを挙げたMF河原と10ゴールを挙げたMF西田がシャドーの位置に入る。3バックの中央には本来はボランチの選手である大卒2年目のDF江口が大抜擢された。
■ 四国ダービーはスコアレスドロー試合の序盤は互角の展開となる。ホームの徳島は前半27分にMF廣瀬智のスルーパスからFW津田が裏に抜け出すと、懸命にスライディングをしてクリアを試みた愛媛FCのDF江口のパスがゴール方向に飛んでしまう。オウンゴールになりそうな軌道だったが、ゴールマウスを大きく飛び出していたGK児玉が手を使って阻止。エリア外だったので当然のことながらハンドを取られたが、退場処分とはならなかった。
ここでは愛媛FCが主審の誤ったジャッジによって命拾いした。0対0で迎えた後半はアウェイの愛媛FCが一方的に攻め込む展開となる。ほとんど攻撃の形を作れない徳島に対して、愛媛FCはFW瀬沼やMF河原らを中心に再三に渡って決定機を作る。入ってもおかしくない場面が何度もあったが、最後の砦となった徳島のキーパーのGK長谷川徹の好セーブもあって先制ゴールを奪うことはできない。
結局、徳島の放ったシュートは5本で、愛媛FCは10本。決定機の数でも愛媛FCが相手を大きく上回ったが、0対0の引き分けに終わった。試合終了後のあいさつの場面では愛媛FCの選手はサポーターから大きな拍手を受けたが、徳島の選手は大ブーイングを浴びていた。結果は引き分けだったが、内容的には愛媛FCが相手を完全に上回っており、愛媛FCにとっては手ごたえを感じることのできる開幕戦となった。
■ 不甲斐ない試合となった開幕戦初のJ1昇格を果たした徳島は2014年は3勝26敗5分けという成績に終わった。J1の厳しい洗礼を受けたが、結局、ホームでは0勝13敗4分けという成績だった。年間を通してホームでは1つも勝つことが出来なかったので、サポーターにとっては辛いシーズンになったが、オフの補強には成功した。「今年こそは・・・。」と期待していたサポーターは多かったと思うが、不甲斐ない試合となった。
前半の中盤あたりまでは形を作れていた。J1のG大阪から加入した左SBのDF内田裕が得意の左足でクロスを上げるシーンが何度かあって、左サイドからの攻撃で決定機が生まれそうな雰囲気もあったが、前半の中盤以降は劣勢の展開となった。相手を無失点に抑えて勝ち点「1」を確保することができたが、最大のライバルである愛媛FCにホームでこれだけ攻め込まれるというのは「問題あり」と言わざる得ない。
期待を集めていたFW佐藤晃はベンチスタートで、FW長谷川悠は怪我で欠場となった。FW津田とFWキム・ジョンミンの2トップとなったので、注目のツインタワーのお披露目とはならなかった。ツインタワーが今シーズンの徳島の最大のストロングポイントと言えるので、この点は考慮する必要があるが、「相手に攻め込まれて何度も波状攻撃を食らう展開」というのは昨シーズンのJ1でよく見られた光景である。
徳島にとってはかなり物足りない開幕戦となったが、右SBのDF広瀬と左SBのDF内田裕という2人のアンダー世代の日本代表は今シーズンの徳島の注目ポイントの1つとなる。ともに攻撃力を高く評価されているプロ2年目の選手で、今シーズンの活躍次第では五輪代表に抜擢されてもおかしくない。特に五輪代表の左SBはかなり手薄なので、本格派の左SBであるDF内田裕にかかる期待は非常に大きい。
■ 新戦力のボランチコンビが活躍一方の愛媛FCは1月中旬に発覚した粉飾決算の問題で揺れているが、トレーニングマッチの結果がすこぶる良かった。開幕に向けていい準備ができていることがある程度は想像できたが、トレーニングマッチでJリーグのクラブを相手に結果が出ていたことも納得のパフォーマンスを開幕戦から見せたと言える。5度ほどあった決定機を生かせずにドローに終わったが、可能性を感じさせる開幕戦になった。
得点源であるMF河原とMF西田の2人がチームに残留するなど愛媛FCとしては選手の入れ替えの少ないオフとなった。レギュラーのほとんどが入れ替わった昨オフと比べるとはるかにマシと言えたが、攻撃の要だったMF堀米が甲府に戻って、ボランチのMF渡邊一が岡山に引き抜かれた。「この2人の穴をどう埋めるのか?」が最大の注目ポイントと言えたが、新加入のボランチコンビは非常に良かった。
清水から期限付きのMF藤田息は主に守備面で目立った。運動量が多くて、アプローチの速さが大いに目立った。攻撃に移ったときも積極的にボールに絡もうとしていたので、出来としては非常に良かった。また、G大阪から期限付きのMF岡崎建は前半のプレーが特に印象的だった。テクニックで相手をかわしてから次のプレーに移ることができるので、MF岡崎建のところからチャンスが拡大するシーンが多かった。
その一方で、清水から加入した期待の大型ストライカーのFW瀬沼の出来はあまり良くなかった。ギアチェンジして持ち前のスピードを見せるシーンはいくつかあったが、動きにメリハリが無かったので味方選手から思うようなパスが出てこなかった。「パスの引き出し方」が非常に悪かったと言える。ボールのおさまる選手で、シュート技術も高い選手であるが、この日は本来のプレーからは程遠かった。
■ 3バックの中央に入ったDF江口直生新エース候補のFW瀬沼の動きが今一つだったことが愛媛FCが攻め込みながらもゴールを奪えなかった一因と言えるが、この試合で一番目立ったのは3バックの中央で起用された22歳のDF江口だった。大阪産業大学から愛媛FCに入団してプロ2年目。昨シーズンは主にボランチの位置で起用されたが、キャンプ期間中に3バックの中央にコンバートされて、新しいポジションで開幕スタメンを勝ち取った。
身長は170センチなのでCBとしては小柄である。高さ勝負に持ち込まれるとかなり苦しくなるが、とにかく目立ったのはフィード力の高さである。左右に展開する右足のミドルパスの精度の高さはあり得ないレベルで、ボールを受けてから左右に展開するまでのスピード感もある。ホームの徳島が劣勢の展開になった主要因がDF江口を止め切れなかったことであり、自由に後方からゲームメークをされてしまった。
どう考えてもCBタイプとは言えない選手を最終ラインの中央で起用した木山監督のアイディアと度胸には感服するが、こういった起用法を見せるチームは最近はほとんどない。ちょっと古い話になるが、この日のDF江口のプレーを観て思い出したのは西ドイツ代表(あるいはドイツ代表)で活躍した往年の名選手のDFトーンである。3度もW杯に出場しているDFトーンのプレースタイルとイメージが重なった。
DFトーンも170センチなので、身長は全く同じである。最近はドイツでもこういうタイプの選手は全く見なくなったが、20年ほど前までは「リベロ」と呼ばれるポジションが用意されて、ゲームメーカータイプの選手をこの位置で起用するケースが多かった。言うまでもなく、その代表例と言えるのは5度もW杯に出場しているDFマテウスであるが、この日のDF江口のプレーにはちょっとした懐かしさを感じた。
当時とはオフサイドの解釈も異なる。「リベロ」という言葉自体が死語になりつつあるが、DF江口がこのポジションで活躍できればちょっとした革命を起こすことができる。この日は自らボールを持って持ち上がるシーンは少なかったが、慣れてくるとそういうプレーも頻繁に見られるようになるはず。面白い試みであり、面白いチャレンジと言えるので、愛媛FCのDF江口の今後のプレーには大いに注目したいと思う。
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